【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~

葉影

文字の大きさ
97 / 104
第二章

97話:帰宅後のベッド②

「あいつのことも俺、無理だよ。久遠の元同期」

 そう言われて一瞬なんのことだか分からなかったが、あの人懐こい笑顔が頭をよぎる。

「……あ、凌也のこと? 彼はめちゃくちゃただの同期だけど……」

 久遠が答えると、神永は深い溜息をついた。胸板が膨らんでしぼんだので、久遠の頭も少しだけ上下した。

「これだから久遠は心配なんだよ。好意寄せられても気づかないでしょ、あなた」 

 珍しく非難を向けられて戸惑った。

 そう言われてしまうと、自分のその傾向に心当たりがないわけでもないので困る。高校の時に神永から思いを告げられた時だって、大学の時に友人だと思っていた人に告白された時だって、久遠としては青天の霹靂だった。

「ん……でも、凌也は本当に……」 

「めっちゃマウント取られてたけどね俺。久遠は気づかなかったの?」

 マウント?想像もつかない単語に、久遠の思考が追いつかない。

「な、いつ……?」 

「ずっとだよ。あのレセプションパーティの時とか」

 神永は、久遠の肩を抱く腕に少しだけ力を込めた。

「本当に分かんないの?もう細かいことはいいけどさ……ずっと俺に久遠との仲見せつけようとしてたじゃん」 

「違いますよ、絶対考えすぎです。彼はただ……」 

「絶対考えすぎじゃないです」

 言い切った彼の声は不機嫌そうだった。一方、久遠に触れる手は甘い。久遠の手に手を重ねたかと思うと、指の間の隙間を埋めるように絡めてくる。

 そして、彼は自分の唇を指差した。一瞬何かと思ったが、それがたった今の敬語使用の罰のサインだと気づき、はっとして久遠から口付けする。離れる唇を追うように、今度は、神永から触れるだけのキスをされる。

 そして彼は、久遠の肩を掴んで言った。

「あのドレス、もう着ないで」

 薄暗い部屋で、唯一灯っている間接照明の光。それが、彼の瞳の中で煌めいている。

「え?」

 突然の禁止令に、久遠は目を丸くした。パーティの日に着ていた、お気に入りのワンピースを思い出す。

「あれ……変だった?ごめんなさい、一緒に行くチーム長の恥にはならないようにとは思って、選んだんだけど……」

 パーティーの礼節の知識不足で、場違いな服を着ていただろうか。周りを見る限りそこまで浮いていた覚えはないけれど、彼にここまで否定的に言われるのは珍しい。少しだけ――いや、内心かなりショックを受ける。

「違う。可愛すぎるからでしょ」 

 真っ直ぐな、溜息の混じったような告白。

 可愛いという言葉は、見当違いの不安で無防備になっていた久遠の心に、何の前触れもなく真っ直ぐ突き刺さった。

「そんなふうに思ってくれてたの?」

 あの日の待ち合わせで、パーティー仕様でセットしてきた彼の姿を一目見た時。タクシーの車窓から受ける夜の光で彩られる彼の横顔を見た時。煌びやかな会場の中でも一際目立ってしまう立ち姿を見た時。――あの麗しさにときめいているのは、こちらだけだと思っていたのに。

「うん。可愛いって、言わないのも大変なんだなって思ったよその時」

 照れもせずにそう言うので、こっちが照れてしまう。相変わらず彼に翻弄されてばかりなのが悔しくて、「一織くんってば、また」と言いながら、神永の腕を軽く叩いた。

「あ、冗談じゃないよ。本気だよ」

 案外真面目な顔で言われてしまい、神永の腕を叩いていた久遠の手が行き場を失くす。

「久遠は自覚がないから、ナンパもされるし……本当に危なっかしい子だね」

「ナン……あ、確かに声をかけられたことはあったかも」 

 待ち合わせのカフェで、大学生に声を掛けられて困っていたところを、チーム長が救済してくれたのだった。

「あったかも、じゃないよ。あーもうそうだ、合コンの日に着てたやつも……」

 1つ思い出すと、芋づる式に他のエピソードも思い出されるみたいだ。話題が、あの最悪な合コンの日へと移る。さっきまで眠気に襲われていた久遠の意識は、この時点ですっかり明瞭になってきていた。

 合コンの日の服――普段は着ないような露出のあるデザインを、彼に見られたことが今になってとても恥ずかしい。それに、今その姿を思い出しされていると思うと余計に羞恥を感じ、弁明したくなる想いに駆られる。

「あ、あれは私の服じゃないんです!そうだ、返さないと……。あれ、ありすさんが貸してくれたものなんです。普段は着ないです、ああいうのは」

「合コンで?モテるための服?」

「モテ……そう、うーん」

 たしかにありすはそういう名目であの服を貸してくれていたけれど、神永の手前、容易に肯定するべきじゃない。

 歯切れの悪い久遠の応答に、神永が喉の奥で小さく唸った。久遠の体までその振動が低く響く。

「……あ、ねえ、極めつけはあれだよ」

 神永が思い出したように久遠の耳元に顔を寄せた。静かな怒りも込もったような声で、それが久遠の耳朶を揺らした時、お腹の奥の方に勝手に力が入った。久遠は無意識に身をよじる。

 “極めつけ”……?
感想 0

あなたにおすすめの小説

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

竜喚び聖女は捨てられた竜騎士を救いたい!

待鳥園子
恋愛
喚んでも来ない竜を一年ほど待ち続けて、それが原因で婚約者にも捨てられた竜騎士ジェイド・ロンバルディ。 そんな彼の竜を喚ぶことが出来れば『竜喚び聖女』を辞めて良いという約束を取り付けたラヴィ二アは、なんとか喚び出すために双方とも服を脱ぎ接触面を増やし、自らの竜喚びの能力を高めたいとジェイドに提案する。 しかし、真面目で堅物な竜騎士ジェイドは、これをすぐには無理と拒否。二人の目的のためにはどうしてもこれが必要だと、聖女を辞めたいラヴィ二アは、なんとか彼を説得しようとするのだが……。 普通の貴族令嬢に戻りたい訳ありセクハラ聖女と真面目堅物な不憫竜騎士の脱ぐか脱がないかのギリギリ攻防戦ラブコメ。

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に

犬上義彦
恋愛
『御更木蒼也(みさらぎそうや)』 三十歳:身長百八十五センチ 御更木グループの御曹司 創薬ベンチャー「ミサラギメディカル」CEO(最高経営責任者) 祖母がスイス人のクオーター 祖父:御更木幸之助:御更木グループの統括者九十歳 『赤倉悠輝(あかくらゆうき)』 三十歳:身長百七十五センチ。 料理動画「即興バズレシピ」の配信者 御更木蒼也の幼なじみで何かと頼りになる良き相棒だが…… 『咲山翠(さきやまみどり)』 二十七歳:身長百六十センチ。 蒼也の許嫁 父:咲山優一郎:国立理化学大学薬学部教授 『須垣陸(すがきりく)』 三十四歳:百億円の資金を動かすネット投資家 ************************** 幼稚園教諭の咲山翠は 御更木グループの御曹司と 幼い頃に知り合い、 彼の祖父に気に入られて許嫁となる だが、大人になった彼は ベンチャー企業の経営で忙しく すれ違いが続いていた ある日、蒼也が迎えに来て、 余命宣告された祖父のために すぐに偽装結婚をしてくれと頼まれる お世話になったおじいさまのためにと了承して 形式的に夫婦になっただけなのに なぜか蒼也の愛は深く甘くなる一方で ところが、蒼也の会社が株取引のトラブルに巻き込まれ、 絶体絶命のピンチに みたいなお話しです

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

咲妃-saki-
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

社長は身代わり婚約者を溺愛する

日下奈緒
恋愛
ある日礼奈は、社長令嬢で友人の芹香から「お見合いを断って欲しい」と頼まれる。 引き受ける礼奈だが、お見合いの相手は、優しくて素敵な人。 そして礼奈は、芹香だと偽りお見合いを受けるのだが……