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108話:久遠の悩み④
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久遠は電気もつけずにキッチンに立つと、コップに水を注いでゴクゴクと飲んだ。
「ぷは……」
お腹をシンクにつけ、真っ直ぐには立てないほど酔いが回った体を支える。
体に染み入っていく水は、火照った体を少しずつ覚ましてくれる。そのままよろよろとソファに座り込むと、久遠は頭を抱えた。
……話しすぎた。ど迷惑をかけてしまった。
『HALTE』でここまで酔ったのは初めてだ。霧島の前であそこまで話してしまったのも。……いや、考えれば、今日は人生史上最高に酔ったかもしれない。
なんでも快く話を聞いてくれる霧島は、自身の好奇心も後押ししているのだろうが、本当に久遠が話したいことを話させてくれてしまう。けれど、今回の件に関しては霧島に話すべきではなかった。お酒のせいにしていいことではない気がする。自分の中にこの悩みを留めておけなかった自分は、脆弱すぎた。
「ううう……」
霧島の前で悩みを暴露した自分の姿が、霧が晴れていく脳の中でしばしば再現される。思い出したくないのに思い出される。一織とのことについて下手な語りで話す自分と、困ったように笑っている霧島の図が。
家までは、霧島がキッチンカーで送ってくれた。電車で帰ると言ったけれど、背の高い椅子から降りた久遠がよろめいたので、霧島が車に乗せてくれたのだった。
運転席で霧島はしきりに、まだ神永は家にいないかと心配していた。なぜかと聞けば、『こんな酔った久遠俺が連れて帰ったら俺が怒られるから』と
車で送ってくれたということは、彼は今日一滴も飲んでいなかったということだ。『HALTE』でお酒を頂く時、いつも彼も自分のグラスでお酒を飲みながら料理をしているイメージがあったので、完全に油断していた。今日久遠は、シラフの彼にペラペラと性事情を吐露したことになる。
穴があったら入りたい。なんて、悠長なことは言っていられない。自分で穴を掘って、そこへ消えてしまいたい。
トラックの中でも寝てしまいそうだったけれど、これ以上霧島に世話はかけられないという意地でなんとか意識を保っていた。結局、マンションのエントランスから家の玄関までも同行してくれて、鍵を探すところまで助けてもらってしまった。
やはり一織はまだ帰っていなくて、無人の家に辿り着き、今に至る。
霧島に迷惑をかけた記憶が次々と蘇る脳内から逃げたいのと瞼が重すぎるのとで、眉根を寄せたまま、久遠はソファの上で目を瞑ろうとした。
――が、あることを思い出して、バッグの中からスマホを取り出す。
「せっかく、教えてもらったし……」
眠気を振り払うように一度ぎゅっと目を瞑ってから、ぱっと目を開けた。そのまま、誰かに見られたらどうしようなんてありえない不安を抱きながら、検索画面に文字を入力していく。
『主導権奪っちゃえば?』。霧島が言うには、やらせてくれなくてもやってみればいい。なにごとも挑戦、とのことだった。
相談しておいてめんどくさい久遠という女は、『でもでも』と否定した。『やり方が分からない』と。すると、霧島も『俺もそっち側になったことはないから分かんないけどー』と一緒に唸ってくれ、けれどその後、突然『あ、』と閃いたように声を出した。
それで勧めてくれたのが、女性向けの性情報サイトだった。男性の身体よりも性的快感を得るのが難しい女性のために作られたサイトで、ナカで絶頂するための方法などがまとめられているらしい。その中に男性に施すための実践テクニックもあるだろうから、調べてみたら?と霧島は言ってくれた。改めて振り返ると、こんな悩みに真剣に応えてくれる彼は親切すぎる。
久遠が、なんでこんなサイトがあるのを知っているのかを問うと、前に女性客が話していたと答えてくれた。『異性の店員の前でそんな話すかね?と思ってたけど、思わぬところで役に立ちそう』と久遠に笑いかけてくれていた。
自分一人しかいない家の中なのに、そのサイトを見ているのが恥ずかしかった。スクロールしていくと、目的の特集を見つけてしまう。
「……本当にあった」
照れのあまり口元を手で抑えつつ、久遠は文字を読み込んでいった。
久遠は電気もつけずにキッチンに立つと、コップに水を注いでゴクゴクと飲んだ。
「ぷは……」
お腹をシンクにつけ、真っ直ぐには立てないほど酔いが回った体を支える。
体に染み入っていく水は、火照った体を少しずつ覚ましてくれる。そのままよろよろとソファに座り込むと、久遠は頭を抱えた。
……話しすぎた。ど迷惑をかけてしまった。
『HALTE』でここまで酔ったのは初めてだ。霧島の前であそこまで話してしまったのも。……いや、考えれば、今日は人生史上最高に酔ったかもしれない。
なんでも快く話を聞いてくれる霧島は、自身の好奇心も後押ししているのだろうが、本当に久遠が話したいことを話させてくれてしまう。けれど、今回の件に関しては霧島に話すべきではなかった。お酒のせいにしていいことではない気がする。自分の中にこの悩みを留めておけなかった自分は、脆弱すぎた。
「ううう……」
霧島の前で悩みを暴露した自分の姿が、霧が晴れていく脳の中でしばしば再現される。思い出したくないのに思い出される。一織とのことについて下手な語りで話す自分と、困ったように笑っている霧島の図が。
家までは、霧島がキッチンカーで送ってくれた。電車で帰ると言ったけれど、背の高い椅子から降りた久遠がよろめいたので、霧島が車に乗せてくれたのだった。
運転席で霧島はしきりに、まだ神永は家にいないかと心配していた。なぜかと聞けば、『こんな酔った久遠俺が連れて帰ったら俺が怒られるから』と
車で送ってくれたということは、彼は今日一滴も飲んでいなかったということだ。『HALTE』でお酒を頂く時、いつも彼も自分のグラスでお酒を飲みながら料理をしているイメージがあったので、完全に油断していた。今日久遠は、シラフの彼にペラペラと性事情を吐露したことになる。
穴があったら入りたい。なんて、悠長なことは言っていられない。自分で穴を掘って、そこへ消えてしまいたい。
トラックの中でも寝てしまいそうだったけれど、これ以上霧島に世話はかけられないという意地でなんとか意識を保っていた。結局、マンションのエントランスから家の玄関までも同行してくれて、鍵を探すところまで助けてもらってしまった。
やはり一織はまだ帰っていなくて、無人の家に辿り着き、今に至る。
霧島に迷惑をかけた記憶が次々と蘇る脳内から逃げたいのと瞼が重すぎるのとで、眉根を寄せたまま、久遠はソファの上で目を瞑ろうとした。
――が、あることを思い出して、バッグの中からスマホを取り出す。
「せっかく、教えてもらったし……」
眠気を振り払うように一度ぎゅっと目を瞑ってから、ぱっと目を開けた。そのまま、誰かに見られたらどうしようなんてありえない不安を抱きながら、検索画面に文字を入力していく。
『主導権奪っちゃえば?』。霧島が言うには、やらせてくれなくてもやってみればいい。なにごとも挑戦、とのことだった。
相談しておいてめんどくさい久遠という女は、『でもでも』と否定した。『やり方が分からない』と。すると、霧島も『俺もそっち側になったことはないから分かんないけどー』と一緒に唸ってくれ、けれどその後、突然『あ、』と閃いたように声を出した。
それで勧めてくれたのが、女性向けの性情報サイトだった。男性の身体よりも性的快感を得るのが難しい女性のために作られたサイトで、ナカで絶頂するための方法などがまとめられているらしい。その中に男性に施すための実践テクニックもあるだろうから、調べてみたら?と霧島は言ってくれた。改めて振り返ると、こんな悩みに真剣に応えてくれる彼は親切すぎる。
久遠が、なんでこんなサイトがあるのを知っているのかを問うと、前に女性客が話していたと答えてくれた。『異性の店員の前でそんな話すかね?と思ってたけど、思わぬところで役に立ちそう』と久遠に笑いかけてくれていた。
自分一人しかいない家の中なのに、そのサイトを見ているのが恥ずかしかった。スクロールしていくと、目的の特集を見つけてしまう。
「……本当にあった」
照れのあまり口元を手で抑えつつ、久遠は文字を読み込んでいった。
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