[+18]僕ら二度目のはじめまして 番外編

葉影

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112話:久遠の悩み⑧

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 キスに集中してほとんど閉じかけていた瞼を、うっすらと開けた。すると、一織と目が合った。また彼は、キスをしながら目を開けていたらしかった。

「久遠?」

 今まで快楽に溶けていた久遠の手が、一織の腹に触れた。そしてそのまま少しずつ、少しずつ降りて、チャックの奥で窮屈そうにしている膨らみにそっと触れる。予期せぬ久遠の動きに、一織は少しだけ目を見開いたけれど、やはり手で制して止めてきた。

「いいよ、自分で脱ぐから」

 一織から優しく拒まれて、久遠は震えていた手を引っ込める。

  ――やっぱり、だめなのかな。

 今日霧島に話した通り、一織は久遠から触れられることに抵抗があるみたいだ。少し寂しい思いが過ぎったけれど、ちょっとだけ安心もした。触れてみたところで、チャックを上手く下げられなかったり、スラックスを下ろせなかったりしたら、どうしていいか分からなくなってしまう。ここは一度一織の言葉に甘え、そのまま自分で脱いでもらう。

 ベルトやスラックスは難しいけれど、柔軟性のある下着なら、力のない久遠でもスムーズに脱がせられるんじゃないだろうか。久遠はそう思い、身を起こした。

 さっき触れることを許してもらえなかったところに、また手を伸ばしてみる。

「ん?久遠……えちょっ……」

 そのまま彼の下着を下ろすと、いつも久遠の身体を貫いているだなんて信じられないほど大きなそれが、ばちんと音を立てそうなほどの勢いで彼の下腹部に沿った。

 普段は、彼のスムーズな段取りに流され、いつの間にか久遠の中に沈んでいる熱杭。これまで、その大きさを感じるのは中の感覚であって、視覚じゃなかった。こうして改めて形を見るのはほとんど初めてで、久遠は思わず唾を飲んだ。先端から、とろりと半透明の液体が零れるところまで見える。

「ちょっ……なに……」

 一織が珍しく焦った声を出した。久遠が、べ、と舌を出して、先端に蓋をするように触れたからだ。
 ベッドの上に四つ這いになると、ちょうどベッドの足元の方で立っている一織のそそり立つものと目線の高さが合った。

 塩気のある汁が、久遠の口の中で唾液と混ざり合うのを感じる。初めての味だった。これが、彼の体液の味。

「ちょっと待ってやめて?そんなことしなくていいよ!」

 一織が久遠の薄い肩を掴む。焦燥が混じった、なんてものではなく、焦燥を前面に出した彼の声。けれど、久遠は負けじと左手でぺニスを包んだ。そして、一度口を離す。――たしか、慌てて食いつくのはダメだとあのサイトに書いてあったはずだ。

 なんとかさっきまで見ていたサイトの知識を思い出そうとする。二度もイカされたばかりの体は、まだ残っているアルコールのせいもあってふわふわしていた。思い出せば思い出そうとするほど思考が混濁していくのは、ついさっきまで見たばかりの夢の内容を手繰り寄せる朝の感覚と似ていた。

 たしか……こうして……。

 久遠は、左手でぺニスを支えたまま、顔を傾け、伸ばした舌を裏側に添わせた。そして、ゆっくりと下から上へ一方向に顔を動かす。……多分これが、裏筋という場所で合っているはず。そんなことを思いながら。
 すると、上から「んっ……」と艶やかな声が聞こえてきた。

 感じてるんだ。そう思うと久遠は嬉しくなって、また頭を働かせる。まずは敏感な所へ行くのではなくて、周辺とか、もどかしいところに行くって書いてあったはず……。

「待ってって!やめて」

 久遠が彼の鼠径部にキスを落としたところで、さっきより強い力で肩を引き剥がされてしまった。恐る恐る顔を上げると、一織が驚いた顔で久遠のことを見下ろしている。

「酔ってるの?だめだよこんなこと」

「どうして……?」

「どうしてって……」

「一織くんは……私に触られたらイヤだ?」

 そう聞きながら、また、左手を彼の鼠径部にそっと置いたけれど、1歩後ろに下がられて避けられてしまった。

「いやいや……ほんとにいいから」

 そういう彼は、辛うじて笑みは絶やしていなかった。けれどその口角は引き攣っていて、怒っているのかもしれない。

 ――だけど、ここまで来ると悔しい。どうして、何もさせてくれないの?いつも一織くんは、私の身体を好き放題触るのに。私だって気持ちいいと思ってもらえるようにしてみたいし、なにもそんな、はなから下手だって決めつけなくてもいいのに。

 嫌だ?と聞いてみて、嫌だ、と返ってきたらさすがに続行できなかったと思う。けれど、彼は嫌とは言わなかった。『いいから』、なんて曖昧な返事をされて、引き下がるなんてもうしたくない。納得できる理由もなしに、勝手に拒まれているのは心地よくない。

 いつもの自分ならここで大人しくするだろう。しかし、今日の久遠はいつもと違った。サイトで少しだけ勉強してみたこと。霧島が親身になってくれたこと。そして、まだ体に残ってくれているアルコール。それらの後押しがあって、いつもよりも強気に、しつこくいられたのだった。

 久遠も床へ降りる。寝室が暗いとは言え、一糸まとわぬ姿で立ち上がるのは抵抗があったので、ブランケットを引っ張り体を隠すようにして立ち上がった。一織に向き合うと、一言呟いた。

「……させてくれないなら、今日私が霧島さんと何話してたか、言わない」

「え?」

 顔を見ることは出来なかったけれど、勇気を出して脅迫めいたことを口にして、一織を押してみる。呆気にとられた一織の体は、いとも簡単にベッドへと腰を落とした。逃がしてしまわないようにと、久遠もすぐに跪き、彼の脚を割るように腕に力を入れた。

「待って本当に……なんでそんな、」

 そそり立つ部分にまた手を添えると、口の中に唾液を溜めた。彼を傷つけてしまわないように必要なことらしかった。たしかに、もしも湿り気のない舌で外核を擦られたら、久遠だって痛みを感じるに違いない。

 さっきは彼からの制止が邪魔をしたから、また改めて裏筋を舐め上げるところから始めた。舌がぬるりと滑らかに這い、自分の唾液が直接的な摩擦を保護する膜のように働いている感覚に安心しながら進める。久遠がこうすることで萎えてしまったらどうしようかという不安も過ぎったけれど、ひとまずその心配はいらないみたいだった。

 ちゅ、ちゅ、と音を立てて、軽く啄むようなキスをしてみる。そうしていると、いつも久遠を気持ちよくしてくれている彼を労うような気持ちになってきた。

 先端の方へ行くと、少し段差のようになっている部分があって、そこから先は女性の花芯のように敏感なところらしい。顔を傾けて段差のところを唇で挟み、舌でちろりと舐めてみた。久遠が片手を置いている彼の太ももが、ぴくりと動いたのが分かった。

「酔いすぎだよ。やめて久遠、こんなことしないで」

 聞こえないフリをして続けた。意地もあったけれど、彼の身体が反応を示すことに久遠自身悦びを覚えていたからだ。次こうしたら、もっと気持ちいいのかな。そのあとはこうするって書いてあったけど、一織くんも感じてくれるかな。

「だめ。離して。聞いてる?久遠」

 一織の声は、聞こえるけれどもう遠い。はやる気持ちのせいで彼に痛みを与えないようにここまでじっくりと進めてきたけれど、ようやくぱくりと口に含んだ。サイトのイラストが示していたよりも大きいそれは、思っていたよりも大きく口を開かないと入らなかった。

 やっぱり、しょっぱい味がした。人間の肉を口に入れるという、不思議な感覚。相手の最も敏感なところを自分の口に入れていて、うまくやれば、よがらせることもできるかもしれない状況。

 口の中で舌を裏筋に添わせながら、顔を前後に動かした。気持ちいいと思ってくれますようにと思いながら。

 しかしその途端、頭に衝撃を感じた。

「やめてってば」

 彼が、両手で久遠の頭を掴んだらしい。その拍子に、ずるりと口が離れた。強制的に止められてしまい、さすがに久遠も止まる。手の甲で口元を拭うと、自分の唾液か彼の体液か分からない汁で唇まで濡れた。

 焦って肩で息をしている彼が、久遠を見下ろしている。ベッドに腰掛けている彼に見下ろされると、床に這いつくばってい自分の体勢が少し恥ずかしくなった。

「痛かった?なんで嫌なの……」
「なんで出来るの?」

 久遠の『なんで』に、一織の『なんで』が重なった。

 一織の表情からは、とうとう、笑みが消えていた。彼が怒っている雰囲気が、また寝室に漂う。

「え?」

「俺教えてないのに」

 彼の透き通ったような声は、ほとんどいつもと変わらない調子だけれど、久遠を責めるような圧が加えられていた。

「なんで出来るの?元カレがやらせた?」

「ちがっ、教えてもらっ……って……」

 思わぬ存在が提示されて、今度は久遠が驚いた声を出した。一度も一織から怒られたことのない久遠は、笑みの消えた一織の表情を見ただけで途中で言葉が詰まってしまう。
 
「だから誰に。元カレ?」

「ちがうそんなっ、そんなことしたことない」

 大学時代に半年間だけお付き合いさせてもらっていた先輩とは性行為をしたのは3回だけだ。とっくに一織とした回数の方が上回っているし、先輩と付き合っていた時も、久遠は相手に任せっきりだった。久遠から触れたいと思ったのは、一織が初めてなのだ。

「元カレって一人だったよね?じゃあこんなことするの、他に誰がいるっけ。……誰が久遠に教えてくれるわけ?」

 もはや怒りを隠そうともしない一織の瞳が、久遠を見据える。

 とんでもない誤解をさせてしまっているみたいだ。実は誰かに直接伝授されたわけではなく、一人で知識だけ勉強したのだ、なんて明かすのはかなり恥ずかしい。けれど、彼の誤解を早く解かなければ、彼が傷ついてしまう。

「違うこれは!これは霧島さ、ん゛っ!!!」

 ――え?

 『霧島さんにサイトを教えてもらって』。そう続けるつもりが、出来なくなった。

 久遠は、一瞬、何が起きたか分からなかった。ただ視界が揺れただけで、状況が把握できなかった。

「ぐっ、んん!」

 一織くん、と呼びかけたくても、出来ない。
 一織によって掴まれた久遠の頭は、思い切り彼の方に寄せられ、喉奥に突き立てられたのだ。口の中が彼の剛直でいっぱいで、言葉なんて成せない。
 
 焦って一織の足の付け根を叩く。

「んーっ!んーっ!」

 けれど、むしろさらに深くまで挿入された。喉の突き当たりだと思っていたところからさらに奥に進められて、密着する彼の肌が久遠の鼻呼吸を止めそうになる。

「本当、煽るの上手いね。話は……っ……あとで聞くね」

 温度をなくしたような彼の声が降ってきて、久遠は彼の顔を見ようとした。けれど、ほとんど真上にある彼の顔は見にくくて、しかも視界も涙で滲んでいるので彼の表情が見えない。

「今はそうしてて。……苦しかったらごめんね」
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