[+18]僕ら二度目のはじめまして 番外編

葉影

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113話:久遠の悩み⑨

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 顎の筋肉が疲れた。耳の下あたりの頬が、軋むように痛む。けれど、久遠の頭は一織の手中にあって、久遠も一織に歯を立てたくないので必死に口が閉じないように努める。

「んっ……はぁ、ずっと、がまんしてたのに……なんで煽るのかな」

「んぐ、ん!んんっ……」

 跪く久遠の口に、立っている彼が剛直を突き立て、腰を動かしている。しばらくこうしている。情けない声が響いて恥ずかしいけれど、彼の方からも時折漏れる声が嬉しい。

 ぐちゅ、ぐぼ、と卑猥な水音が響くたび、お腹の奥がきゅんきゅんと震える。いつもは久遠を気持ちよくしてくれる彼が、自分の快感のために久遠の口内を蹂躙しているのだ。一織の、私利私欲のための腰の動きは、久遠の快楽にもなっていた。だって、今久遠が一織の役に立っているということだから。

「はぁ……もう知らないからね……久遠が止まんないでって、んっ……言ったんだからね……」

「んっ、ン」

 部屋が暗くてよかった。涙が流れている自分の顔は、見るに耐えなかったはずだ。

 ただ、流れる涙は生理的なもので、嫌悪感や恐怖は少しもなかった。――気持ちいい、嬉しい、気持ちいい。ただそれだけ。不思議と、息苦しささえ悦びになっていた。

 だって、彼がこんな姿を見せてくれるのはきっと久遠にだけだから。紳士的で麗しく、部下から憧れられる若きリーダーで、社内にファンもいる神永一織。何より、世界中の優しさを詰め込んだみたいな態度で久遠に接してくれる彼が、今、そんな姿を脱ぎ捨てて剥き出しの欲望を久遠に曝してくれている。興奮と優越感と愛情が綯い交ぜになって、恍惚としていた。

「そんな小さい口で頑張って……可愛いなぁ、っはぁ、どうしよう、どうしてやろう本当に……」

 彼の逞しい太腿を支えにしているけれど、彼の脚も自分の手も汗ばんでいて滑りそうになる。

「あ俯かないで、ちゃんと目見て。そうそう……。可愛いね、苦しい……?」

 そう聞きながらも腰を止めない一織は、さっきよりピストンが早くなっている。もうそろそろ、限界が近いのかもしれない。

「苦しいかもしれないけど、耐えてね、ごめんね」

 ぐぽっ、じゅぶっ、と自分から発せられているとは思えない、呻きと水音が混ざったような音が室内に響く。

「久遠、久遠……」

 うわ言のように自分の名前を呼んでくれる彼が愛おしい。早く欲しいと、そう思った。
 口の中を熱杭で埋められるだけじゃ、まだ足りない。隙間なく埋めてくれているし、喉の奥にも当たっているけれど、それでも足りないのだ。熱い欲を全部吐き出してほしかった。私にだけ。

「ああ出る……ごめんね、奥に出すね」

「ぐっ、ん、ンン」

「可愛い……本当に可愛い……俺だけだからね、俺以外ダメだからね……」

「んっ、うう、んぶっ、ぐ」

「くっ……はぁ、はぁ、あ出る、出すよ?久遠の小さい口に出していい?……ああっ」

 彼は果てる時、一層強く腰骨を押し付けて、久遠の最奥に吐精した。

 喉の奥が一気に熱くなる。初めての感覚がした。

 口淫をしたのが今日が初めてだから、口に出されるのも初めてだ。行為の最後、膣内で果てる時は、ゴム越しなので液体の勢いを感じたことはなかった。
 けれど今、彼の脈動が、せいの種が、久遠の喉に直撃している。

 びゅーっと長い射精が終わったあともまだ、びゅく、びゅく、と名残惜しそうに吐き出してくる。奥に出されたので、味は分からないまま飲み込んだ。ただ熱い塊が、食道を通ってお腹の中へ落ちていく。

 どんどん満たされていった。お腹に溜まっていくにつれて、久遠の心が満たされていく。口の中で、彼の血管が生々しくドクドクと主張するたび、一織のことが愛おしくなる。

 一織の腰に久遠の頭を押し付けていた一織の手の力が、やっと緩んだ。優しい力で少しずつ頭を遠ざけてくれて、口の中から彼のものが抜けていく。

「ぷはっ……ごほっ、こほっ!」

 一気に吸い込みすぎた空気のせいで噎せると、「大丈夫!?」という心配の声が飛んできた。熱を放ったことで、いつもの彼らしさを取り戻したみたいだ。

 彼を心配させたくなくて、口を抑えて何度か咳をする。肩をさすってくれている彼の手が優しい。嬉しい。大好きという気持ちしか湧いてこない。

「一織くん、気持ちよかった……?」

 見上げた先の一織の顔は、泣いているのかと思うほど心配そうに歪んでいた。それでも美しい彼はすごい。

 咳き込んでしまったのが失敗だった。ただ彼には、気持ちよくなってほしかったのに。

「ごめん、気持ちよかった……」

 申し訳なさそうにする一織が面白くて、久遠はつい笑ってしまった。けれど、自分の顔は今醜いに違いないことを思い出し、さっと前髪に触れた。彼から自分の顔が見えないように右手で隠しつつ、左手で一織の体を伝って彼の隣に腰を下ろした。そして、一織の首に手を回して抱きつく。抱きしめてしまえば、一織から久遠の顔は見えないから。

「気持ちよくなってくれたんだ……よかった。嬉しい」

 途中から、テクニックがどうもこうもなくなってしまった。彼が動くままに、久遠はただ口を閉じないように気をつけていただけで、なにもしてあげられなかった。だから、彼が達してくれて本当に嬉しかった。久遠でも、彼を気持ちよくすることはできるのだ。これで、これまでの低い期待値を覆せるだろうか。

「ごめん俺……途中から訳わかんなくなって……ごめんね」

「どうして謝るの?そんな、悲しい声やめて……?」

 腕を伸ばして、一織の頭を撫でてみる。

「だって、ずっと……」

「ずっと……?」

「ずっと、……我慢してたのに……」

 ――我慢?

 一織の表情を確かめようと、久遠が少し体を離した。けれど、顔をちゃんと見ることができる前に、今度は一織からぎゅっと抱きしめられてしまう。

 強い力で抱き戻されたことに驚きながら、首筋の方へ顔を寄せた。汗をかいていて、いつもより彼の匂いを濃く感じる。
 
「我慢ってなんのこと……?なんでそんなのするの?」

「久遠。……俺の質問にまだ答えてないよね」

 汗ばんだ彼の方が、少しだけ上下している。まだ落ち着かない鼓動も、素肌同士が触れているところから伝わってくる。

「どうしてこんなことできるのかって質問。……なんでやり方知ってるの?」
 
 一織はそう言いながら、久遠の両肩に触れた。そのまま二の腕にスライドさせると、そっと久遠を引き剥がす。

 今一織に聞かれたことを頭の中で再生し、久遠は「あ」と声を漏らす。

「やけに上手だったんだけど……」

 もうさすがに、酔いは覚めていた。アルコールが抜けてしまっていて悲しい。もっと残ってくれていたら、シラフでこんな話しなくても済んだのに。

 さっき久遠は、口でさせてくれないなら霧島と話した内容を話さない、と言って脅した覚えがある。つまり、もうさせてもらったので、とうとう明かさなければいけないということだ。

「霧島がどうこうって言ったよね?あれ、なに?」

 顔を覗き込まれそうになって、久遠はまた前髪を触った。一織のカラダにこちらから触らせてもらえないことに悩んで、酔って一織の元同期に泣きつき、親切なアドバイスをもらっただなんて言いにくい。

 とりあえず、床に落ちていたブランケットを手繰り寄せた。真っ暗とは言え、裸のまま話し合うのは恥ずかしい。ブランケットを胸元から下を隠すように持ちつつ、どう答えたらいいのかを考える。

「久遠、どうして俺の目見てくれないの?」

「え、いや……」

「久遠、俺さ。久遠がその……浮気した、とか、そんなこと疑ってないよ。久遠はそんなことしない。だけど……あそこであいつの名前出されたらさ……こっちも、混乱する、っていうか」

 彼はそう言ってから、「だからってあんなにしたらだめだけど」と自責を付け足す。

 え、浮気?

「ち、違います!違う、霧島さんは関係なくて。いやっ関係ない、はないけど、それは失礼だけどでもっ、でも違くて、」

「久遠、久遠、落ち着いて?落ち着いて話してくれれば、いいからさ」

 お互いに焦ってしまっている。久遠はブランケットをぎゅっと握りしめ、一度深呼吸してみた。まだ、どう話したら引かれないかという話の整理はついていないけれど、早く説明しないといけない。

「あの……怒らないで、聞いてほしいんだけど……」
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