黄金の魔族姫

風和ふわ

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第一章 エレナの才能開花編

15:才能の開花


「──はっ!」

 エレナは目を覚ました。やけに柔らかい感触が、エレナの後頭部を支えている。そしてエレナの眼前にはたわわに実った二つの果実が……。

「おぉ、エレナ! 目が覚めたようだな」
「むむっ……!」

 その果実らがエレナの顔面に落ちてきた。エレナは窒息死する前に急いでそこから離れる。どうやらドリアードが気を失ったエレナに膝枕をしてくれたらしい。エレナの身体には既に痛みはなかった。ルーとドラゴンがエレナを心配そうに見つめている。

「私、一体どうなって……魔法を使おうと思ったら、突然全身に痛みが走って、気を失って……」
「新しい魔力回路が本格的に開いた証拠だろうよ。光魔法を初めて使った時は痛くなかったのか?」
「た、確かに痛かったかも。でも今回ほど痛くはなかったです。せいぜい、ペンの先で皮膚を突き刺したくらいの痛みだったのに……」
「それほど膨大な魔力が宿っているということだ。大丈夫か? 水を飲むか?」

 ドリアードがエレナに水の入った小さな桶を渡した。エレナはその水面を数秒見つめ、ぐっと一気に飲み干す。そうして立ち上がり、ドラゴンの頭部を撫でた。

「驚かせてしまってごめんね。もう大丈夫だよ。すぐに治してあげるから」
「ぎゃう……」
「エレナ、休憩してもよいのだぞ?」
「いいえ。もうすぐ日が暮れます。お城に帰らないとパパが心配してしまうだろうし……それに、この子はずっと痛みを我慢しているだろうから」

 エレナは息を整える。目を瞑って、体内の魔力の流れに集中した。確かに、先程までとは何かが違う。興奮に似た感情が今のエレナを急かしているのは否めない。またこの力を試してみたいという好奇心も彼女の脳内で踊っていた。

(──もう私は、ただ周りに流されるだけの白髪の聖女じゃない。ちゃんと自分の意思で、これからパパと、魔族達彼らと歩んでいきたい。その為には誰かを癒すことが出来るこの力がきっと必要になるはずだ。だから──)

「──癒せヒームっ!!」
「っ!」

 掲げた手の平に熱が集まる。そうしてそこからドラゴンの傷へ熱量エネルギーが移動していくのが明確に感じられた。エレナは足を踏ん張る。確かにこの治癒魔法はごっそりとエレナの気力を吸い取っていく。

「……っ、……、う、ぁ、す、すごっ……」
「集中を乱すな。いいぞ、その調子だ」

 ドリアードがエレナの身体を支えながら、激励を送った。そうでもしてもらわねば、意識がまたもや飛んでいきそうだった。エレナは次第に汗を掻き始める。全速力で長距離を走っているかのような息苦しさも襲い始めてきた。

「は、ひゅー……は、はぁ、はぁ、ひっ」

(息が、しづらい……辛い、これが、治癒魔法……もう、やめたい……頭が真っ白だ……っ)

 だんだんとドリアードの言葉も認識できなくなってくる。ドラゴンがぐぐぐっと硬直し、エレナの魔力を必死に受け止めていた。その様子を見たエレナはさらにドラゴンの傷へ意識を集中させる。ここで、やめるわけにはいかない。完全に、彼が癒えるまでは……!

 ……。
 ……。
 ……。

 時間が経ち、ドリアードが固唾を飲み込んだ。ルーもエレナへ向かって吠えている。するとエレナは──


 ──倒れた。


 あっさりと、倒れた。ドリアードが慌ててエレナを支えなおす。汗だくのエレナは手の痺れを感じながらも──

「──ぎゃあああああーう!!」

 ドラゴンが鳴く。周りの木々が揺れる。森全体がエレナの姿を称えているかのようにエレナは感じた。
 
 ドラゴンの傷が、跡形もなく治っていたのだ。

「エレナ! やったな!」
「きゅ! きゅきゅきゅーう!」
「う、うん……私、やったんだ!」

 これは、たかが三十分の出来事だ。……でも。それでも。この時の三十分を、エレナは一生忘れないと思った。
 ドラゴンが翼を広げ、大空を舞う。その風圧を顔で受け止めて、エレナは晴れ晴れしい気持ちでいっぱいだった。この雲一つない空のように。

「ははは。エレナ見よ! ドラゴンのやつ、あんなにはしゃいでおるぞ!」
「うん! よかった……本当によかった……。ねぇ、ドリアード様」
「ん?」
「この力をさ、もっともっと極めることが出来たら……もう私の“代わり”なんて現れないかな」
「!」

 エレナの視界が歪む。湖色の美しい子ドラゴンが舞う姿をもっとはっきり見たいというのに、涙が邪魔をした。

 ──『これからはエレナの代わりに、このレイナがデウス様の寵愛を受ける! 皆も突然のことで混乱するだろうが、僕はデウス様の御意思を尊重し、レイナをスぺランサ王国の未来の王妃にしようと思う!』
 ──『ウィン様と神様の寵愛をもらっちゃって、ごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!』

(悔しかったんだ。本当に、悔しかったんだ……っ。自分の代わりがいるなんて……自分自身を見てもらえていなかったなんて……っ)

 ドリアードは黙って震えるエレナの上半身を抱きしめる。エレナはその温かさにポカンとしてしまった。そして、次のドリアードの一言にさらに泣きじゃくってしまうことになる。

「──あぁ、エレナは本当によくやったよ。この森の大妖精であるドリアードが認めてやるさ。其方の代わりなんて誰も務まるはずがない。ドラゴンに怯えずに向き合い、異常とも言える苦痛に耐え、その傷を見事癒してみせた者が他にいるまいよ。……そのうえ、この短時間で我に気に入られ、我のになった者も、な」
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