お腐れ令嬢は最推し殿下愛されルートを発掘するようです~皆様、私ではなくて最推し殿下を溺愛してください~

風和ふわ

文字の大きさ
12 / 36
第2章 クリス・サン・エーデルシュタイン編

第8話:私の使命②

しおりを挟む
 推しが走っている。画面の向こうではなく、目の前で。
 推しが汗を流しながら、動いている。息をしている。生きている。
 オタクにとってはLIVE2Ⅾ技術やVR技術を駆使して人類が追い求め続けた理想郷。もう死んでもいい。そう思うオタクだっているはずだ。

 ──しかしそれは自分も一緒に走っている場合は別である。

「ディア! ペースが遅れているぞ! 足をしっかり上げろ!」
「ぜぇ、はぁ……。ぜ、前世でも今世でも、長距離なんて大嫌いなのにぃ!!」

 喉には既に血の味が滲んでいる。足が上がらない。
 リオンから「走れ」と言い渡されてから二十分が経過している。既にディアの頭はくらくらだった。リオンの催促の声が先ほどから止まない。

(っていうかやけにリオンが楽しそうな様子はなんなの!? その魔王のような表情から、今にも鞭を取り出して、私のお尻を叩いてきそうなんだけど!? そういうリオンのS要素いらないからぁ──!! 私じゃなくてクリス様に発揮してよ!!)

 ……と、そこで運動不足のディアの身体は悲鳴を上げ──ついに、限界を迎える。

「ほべっ」

 奇声を漏らし、ディアの身体は地面に倒れてしまった。それはもう、令嬢とは思えないほど無様に。

「ディア!」

 リオンが慌てて駆け寄ってくる。クリスとリオンが顔を覗き込んでいるのがうっすら見えた。

「ディア、大丈夫かい? ひとまず休もう」
「ほら、ディア。水を飲め。少し虐めすぎた。すまない」
「あ、ありがとうございます。クリス様、お兄様……」

 水を飲みながら、ディアはようやく一息ついた。しかし頭は回らない。今にも朝食を吐き出しそうだった。
 最悪の気分だ。ぼんやりとした頭の中でディアは小言を漏らす。

(私、どうしてこんなことをしているのかしら。そうだ、リオンから魔法を学ぶためだったわ。でも、そもそもどうして魔法を教わらないといけないの? こんなにきついこと、しなくていいじゃない……。この間だってガッツでなんとかなったし、こんなことしなくても大丈夫なのに……)

 あまりの息苦しさにディアの思考は自分の都合のいい方へと流れようとしていた。

 ──しかし、その時。

 息が止まった。
 自分への戒めなのか、ディアの脳裏に鮮麗な前世の記憶が過ったからだ。

 それはクリスを始めとする攻略対象キャラ達の「死亡スチル」。

 このスチルによって、ほとんどの「黎明のリュミエール」のファンは涙を流し、発狂したことだろう。バッドエンドの最期に一瞬だけ見える、キャラの白い肌に、血に染まった身体……思い出すだけで背筋が凍る。

(そうだ、そうだった……! 私の馬鹿! 私はこんな運動不足ごときで立ち止まっちゃいけないんだ。だって、主人公がいないこの世界で、彼らを救う知識を持っているのは私だけ! 私が絶対に守らないと! 前世の私はどんなに辛いことがあっても、「黎明のリュミエール」に救われてきた。今度は私がキャラクター達を、推し達を助けるんだ!)

 ディアは勢いよく自分の両頬を打った。辺りにパァンッと皮膚が弾ける音が響く。
 そしてそんな彼女の奇行に驚いているリオンとクリスを見上げ、ディアは微笑んだ。

「情けないところを見せてしまい、大変申し訳ございません。私は大丈夫ですので、もう少し稽古を続けてもいいですか?」
「え、ディア? 君はもう十分走ったよ。稽古はまた明日にしよう」
「いいえ、まだです! もう少しだけ! せめてあと百歩だけでも走らせてください!」
「あ、おい! ディア!?」

 リオンの制止の声を聞かず、ディアは走っていく。その足は先ほどとは違い、強い足取りだった。

「運動不足なんかに負けるものですか! 私は絶対に守護魔法を極めて、推しを守ってみせるんだからぁ――! ふぁい、おー!」

 そうだ、走れ。
 ここは自分の怠けが推しの生死に直結する世界なのだ。
 怠けている時間などない。

 ディアはその言葉を自分に言い聞かせ、走りぬいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい

椰子ふみの
恋愛
 ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。  ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!  そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。  ゲームの強制力?  何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。

わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。 王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。 数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。 記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。 リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが…… ◆表紙はGirly Drop様からお借りしました ◇小説家になろうにも掲載しています

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢に転生したけど、知らぬ間にバッドエンド回避してました

神村結美
恋愛
クローデット・アルトー公爵令嬢は、お菓子が大好きで、他の令嬢達のように宝石やドレスに興味はない。 5歳の第一王子の婚約者選定のお茶会に参加した時も目的は王子ではなく、お菓子だった。そんな彼女は肌荒れや体型から人々に醜いと思われていた。 お茶会後に、第一王子の婚約者が侯爵令嬢が決まり、クローデットは幼馴染のエルネスト・ジュリオ公爵子息との婚約が決まる。 その後、クローデットは体調を崩して寝込み、目覚めた時には前世の記憶を思い出し、前世でハマった乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生している事に気づく。 でも、クローデットは第一王子の婚約者ではない。 すでにゲームの設定とは違う状況である。それならゲームの事は気にしなくても大丈夫……? 悪役令嬢が気付かない内にバッドエンドを回避していたお話しです。 ※溺れるような描写がありますので、苦手な方はご注意ください。 ※少し設定が緩いところがあるかもしれません。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処理中です...