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第2章 クリス・サン・エーデルシュタイン編
第8話:私の使命②
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推しが走っている。画面の向こうではなく、目の前で。
推しが汗を流しながら、動いている。息をしている。生きている。
オタクにとってはLIVE2Ⅾ技術やVR技術を駆使して人類が追い求め続けた理想郷。もう死んでもいい。そう思うオタクだっているはずだ。
──しかしそれは自分も一緒に走っている場合は別である。
「ディア! ペースが遅れているぞ! 足をしっかり上げろ!」
「ぜぇ、はぁ……。ぜ、前世でも今世でも、長距離なんて大嫌いなのにぃ!!」
喉には既に血の味が滲んでいる。足が上がらない。
リオンから「走れ」と言い渡されてから二十分が経過している。既にディアの頭はくらくらだった。リオンの催促の声が先ほどから止まない。
(っていうかやけにリオンが楽しそうな様子はなんなの!? その魔王のような表情から、今にも鞭を取り出して、私のお尻を叩いてきそうなんだけど!? そういうリオンのS要素いらないからぁ──!! 私じゃなくてクリス様に発揮してよ!!)
……と、そこで運動不足のディアの身体は悲鳴を上げ──ついに、限界を迎える。
「ほべっ」
奇声を漏らし、ディアの身体は地面に倒れてしまった。それはもう、令嬢とは思えないほど無様に。
「ディア!」
リオンが慌てて駆け寄ってくる。クリスとリオンが顔を覗き込んでいるのがうっすら見えた。
「ディア、大丈夫かい? ひとまず休もう」
「ほら、ディア。水を飲め。少し虐めすぎた。すまない」
「あ、ありがとうございます。クリス様、お兄様……」
水を飲みながら、ディアはようやく一息ついた。しかし頭は回らない。今にも朝食を吐き出しそうだった。
最悪の気分だ。ぼんやりとした頭の中でディアは小言を漏らす。
(私、どうしてこんなことをしているのかしら。そうだ、リオンから魔法を学ぶためだったわ。でも、そもそもどうして魔法を教わらないといけないの? こんなにきついこと、しなくていいじゃない……。この間だってガッツでなんとかなったし、こんなことしなくても大丈夫なのに……)
あまりの息苦しさにディアの思考は自分の都合のいい方へと流れようとしていた。
──しかし、その時。
息が止まった。
自分への戒めなのか、ディアの脳裏に鮮麗な前世の記憶が過ったからだ。
それはクリスを始めとする攻略対象キャラ達の「死亡スチル」。
このスチルによって、ほとんどの「黎明のリュミエール」のファンは涙を流し、発狂したことだろう。バッドエンドの最期に一瞬だけ見える、キャラの白い肌に、血に染まった身体……思い出すだけで背筋が凍る。
(そうだ、そうだった……! 私の馬鹿! 私はこんな運動不足ごときで立ち止まっちゃいけないんだ。だって、主人公がいないこの世界で、彼らを救う知識を持っているのは私だけ! 私が絶対に守らないと! 前世の私はどんなに辛いことがあっても、「黎明のリュミエール」に救われてきた。今度は私がキャラクター達を、推し達を助けるんだ!)
ディアは勢いよく自分の両頬を打った。辺りにパァンッと皮膚が弾ける音が響く。
そしてそんな彼女の奇行に驚いているリオンとクリスを見上げ、ディアは微笑んだ。
「情けないところを見せてしまい、大変申し訳ございません。私は大丈夫ですので、もう少し稽古を続けてもいいですか?」
「え、ディア? 君はもう十分走ったよ。稽古はまた明日にしよう」
「いいえ、まだです! もう少しだけ! せめてあと百歩だけでも走らせてください!」
「あ、おい! ディア!?」
リオンの制止の声を聞かず、ディアは走っていく。その足は先ほどとは違い、強い足取りだった。
「運動不足なんかに負けるものですか! 私は絶対に守護魔法を極めて、推しを守ってみせるんだからぁ――! ふぁい、おー!」
そうだ、走れ。
ここは自分の怠けが推しの生死に直結する世界なのだ。
怠けている時間などない。
ディアはその言葉を自分に言い聞かせ、走りぬいた。
推しが汗を流しながら、動いている。息をしている。生きている。
オタクにとってはLIVE2Ⅾ技術やVR技術を駆使して人類が追い求め続けた理想郷。もう死んでもいい。そう思うオタクだっているはずだ。
──しかしそれは自分も一緒に走っている場合は別である。
「ディア! ペースが遅れているぞ! 足をしっかり上げろ!」
「ぜぇ、はぁ……。ぜ、前世でも今世でも、長距離なんて大嫌いなのにぃ!!」
喉には既に血の味が滲んでいる。足が上がらない。
リオンから「走れ」と言い渡されてから二十分が経過している。既にディアの頭はくらくらだった。リオンの催促の声が先ほどから止まない。
(っていうかやけにリオンが楽しそうな様子はなんなの!? その魔王のような表情から、今にも鞭を取り出して、私のお尻を叩いてきそうなんだけど!? そういうリオンのS要素いらないからぁ──!! 私じゃなくてクリス様に発揮してよ!!)
……と、そこで運動不足のディアの身体は悲鳴を上げ──ついに、限界を迎える。
「ほべっ」
奇声を漏らし、ディアの身体は地面に倒れてしまった。それはもう、令嬢とは思えないほど無様に。
「ディア!」
リオンが慌てて駆け寄ってくる。クリスとリオンが顔を覗き込んでいるのがうっすら見えた。
「ディア、大丈夫かい? ひとまず休もう」
「ほら、ディア。水を飲め。少し虐めすぎた。すまない」
「あ、ありがとうございます。クリス様、お兄様……」
水を飲みながら、ディアはようやく一息ついた。しかし頭は回らない。今にも朝食を吐き出しそうだった。
最悪の気分だ。ぼんやりとした頭の中でディアは小言を漏らす。
(私、どうしてこんなことをしているのかしら。そうだ、リオンから魔法を学ぶためだったわ。でも、そもそもどうして魔法を教わらないといけないの? こんなにきついこと、しなくていいじゃない……。この間だってガッツでなんとかなったし、こんなことしなくても大丈夫なのに……)
あまりの息苦しさにディアの思考は自分の都合のいい方へと流れようとしていた。
──しかし、その時。
息が止まった。
自分への戒めなのか、ディアの脳裏に鮮麗な前世の記憶が過ったからだ。
それはクリスを始めとする攻略対象キャラ達の「死亡スチル」。
このスチルによって、ほとんどの「黎明のリュミエール」のファンは涙を流し、発狂したことだろう。バッドエンドの最期に一瞬だけ見える、キャラの白い肌に、血に染まった身体……思い出すだけで背筋が凍る。
(そうだ、そうだった……! 私の馬鹿! 私はこんな運動不足ごときで立ち止まっちゃいけないんだ。だって、主人公がいないこの世界で、彼らを救う知識を持っているのは私だけ! 私が絶対に守らないと! 前世の私はどんなに辛いことがあっても、「黎明のリュミエール」に救われてきた。今度は私がキャラクター達を、推し達を助けるんだ!)
ディアは勢いよく自分の両頬を打った。辺りにパァンッと皮膚が弾ける音が響く。
そしてそんな彼女の奇行に驚いているリオンとクリスを見上げ、ディアは微笑んだ。
「情けないところを見せてしまい、大変申し訳ございません。私は大丈夫ですので、もう少し稽古を続けてもいいですか?」
「え、ディア? 君はもう十分走ったよ。稽古はまた明日にしよう」
「いいえ、まだです! もう少しだけ! せめてあと百歩だけでも走らせてください!」
「あ、おい! ディア!?」
リオンの制止の声を聞かず、ディアは走っていく。その足は先ほどとは違い、強い足取りだった。
「運動不足なんかに負けるものですか! 私は絶対に守護魔法を極めて、推しを守ってみせるんだからぁ――! ふぁい、おー!」
そうだ、走れ。
ここは自分の怠けが推しの生死に直結する世界なのだ。
怠けている時間などない。
ディアはその言葉を自分に言い聞かせ、走りぬいた。
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