BLゲームの主人公なんだから攻略対象たちと仲良くやっててください

ネギマ

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 主人公は僕と目が合うと、びくっと肩を震わせ緊張したような面持ちになった。どうやら怯えさせてしまったらしい。
 怖がらせたいわけじゃないので、威圧感を与えないよう、彼と目線を合わせるよう地面に膝をつく。
 今の僕は十歳、彼はトマリやレオンと同い年なので七歳になる年だ。
 「ドキフル」では主人公のプロフィールは年齢しか公開されていない。なのでその他の身長や体重といったものは何一つ情報がない。物語が進行する高校生時代でそうなのだから、現在のような幼少期は余計にプロフィール不明だ。
 だから前世含め、僕はここで初めて、主人公としっかり向き合ったわけだけれど……彼は七歳にしては小柄だった。
 確か主人公が育った施設は、良家が寄付をしているもののそこまで経済的な余裕のあるところではなかったはずだ。理由は子どもたちの人数が他の施設に比べて多いとか物価高とかいろいろあったが、一番は施設長が寄付金の半分を横領し懐に入れていたことが原因だったと記憶している。そのため、施設で暮らしている子どもたちはみんな発育が遅く痩せ細っていた、とゲーム内で主人公が語っていた。
 今目の前にいる彼も、引き取られてそんなに時間が経っていないからか肉付きはそこまでよくない。身につけている黒のフォーマルスーツだって、服に着られているように見える。それから、遠くから見ていた時は気付かなかったけれど、彼の男の子にしては長めで少し癖のある焦げ茶色の髪はぱさついていて、決していい状態とは言えなかった。
 ――が、しかし……。
 長い睫毛に縁取られた、少し赤みがかったぱっちりとした瞳。形の良い小さな鼻。そして、緊張で引き結ばれている血色の良い唇と、白い頬は子どもらしくふっくらとしていて、全体的に大人に庇護欲をかき立たせるには十分すぎるかわいらしさを持ち合わせていた。
  ……ゲームで度々あった、主人公は「整っている」というのは、かなり控えめな表現だったらしい。
 今は中性的な見た目だけど、僕にはわかる。前世で有名だった、アイドル並にかっこいい俳優の子役時代が目の前の彼のような雰囲気だった。この子は将来、確実に化けるぞ。

「あ、あの……?」

 そんなか細い声が耳に届き、僕ははっと我に返った。
 目の前の少年が形のいい眉をハの字に下げ、不安気に僕を見つめている。
 突然目の前まで来た見知らぬ年上の男が、不躾にも観察するように自分の顔を眺めてくるのだ。不安、というか正直怖いだろう。
 怖がらせまいと目線を合わせたのに、逆に威圧してしまっては本末転倒だ。
 僕は小さく息を吐き出し、なるべく穏やかに、と心がけ口元に笑みを浮かべた。

「あぁ、突然ごめんね。……きみの名前は?」
「……ルカ、です。一色ルカ」

 そう、そうだ。
 一色ルカ。「ドキフル」主人公のデフォルトネームがそんな名前だった。
 やっぱり目の前の彼は、「ドキフル」の主人公の少年時代だ。
 それを確信したら、なんだか少し感慨深いような、身が引き締まるような、複雑な気持ちになる。
 主人公は悪くないしトマリの自業自得とは言え、主人公とその攻略対象により弟は糾弾され、最終的には僕たちは家族諸共処刑される。
 ゲームのプレイヤーだった頃はなんとなく他人事のように見れていたことも、当事者になってしまった今は悠長に構えていられない。主人公にとって害になる存在だと思われてしまったら、トマリの嫌がらせを止めることができてもなにかの力が働いて、ゲームと同じく一家諸共処刑される未来に行き着いてしまうかもしれない。
 それだけは避けなければ。
 悲惨な最期を迎えないために、自分たちは主人公の敵ではないとアピールするのだ。
 僕はふと視線を落とし、主人公――もといルカの手をとる。
 自分より小さく、少しひんやりしている華奢な手の甲は、トマリが叩いたため若干赤みを帯びている。

「うちの弟がごめんね。痛かっただろう」

 労るようにルカの手の甲を撫でながら改めて彼を見上げると、相変わらず困惑の色を浮かべた瞳で僕をじっと見つめていた。

「あの子は自分勝手なところがあるから……苦労してきただろう。トマリの身内として、僕からも謝罪させてほしい。申し訳なかった」
「い、いえ!そんな……」

 謝罪と共に目を伏せ頭を下げると、ルカは慌ててぶんぶん首を横に振った。

「僕にも、悪いところはありました。僕はいろいろと疎い部分があるから、トマリくんはいつも僕に教えてくれていたんです。『名のある家の一員になったんだから、自覚を持ってもらわないと困る』って」

 たしかに、ルカは孤児院出身だからそもそも僕たちと育ってきた環境が違う。
 でも、裕福な家の養子になった今、過ごしている環境がガラリと変わった。通い始めた学校だって、トマリやレオン、そして僕も通っているいわゆる金持ち学校だ。うちみたいに、世間に名前が浸透している家の子どもたちが多く通っている。
 僕たちはまだ子どもだけど、自分の行動がそのまま家の評判になるから、生活態度には気をつけるよう家族から指導されている子たちは多いと思う。かくいう僕の家もそうだ。一応トマリも、やんわりとだが両親や兄さんから言われている。
 しかしトマリは、正直人に言えるほどの自覚は持てていない。見る人が見れば、ルカへの言動は嫉妬が先行しての嫌味であると察しはつくが……まぁ、ルカは気づいていないようだし、ここは黙っておこう。

「トマリくんが怒るのは当たり前なんです。うまく馴染めず、周りに迷惑をかけてばっかりだから。……でも、レオンくんが、自分のペースでいいて言ってくれて……それに、甘えてしまってたんです。もっとちゃんとしなきゃいけないって、わかっていたのに、僕は……」

 ルカは一度言葉を区切り、じわりと瞳を潤わせる。するとおもむろに顔を上げ、トマリの前まで歩み寄ると勢いよく頭を下げた。

「トマリくん、僕が世間知らずなせいで、嫌な思いをたくさんさせてしまって、ごめんなさい!」
「!」

 頭を下げられた当の本人は、困惑した面持ちでルカの旋毛を眺めていた。全面的に自分に非があると認めているからこそ、ルカの謝罪の意味を掴みかねているようだ。
 しかしそんなトマリの様子も気にせず、顔を上げたルカはぐいぐいトマリとの距離を縮めていく。

「僕、もう甘えない。みんなに迷惑かけないよう、これからもっと頑張る。だから……だからこれからも、僕にいろんなことを教えてください!」

 予想外の頼み事に、トマリだけでなくレオンも目を丸くした。
 ゲームのストーリー上のトマリは、誰がなんと言おうと立派な悪役だった。嫌がらせは一歩間違えば犯罪だったし、彼の口から飛び出る罵詈雑言は、自分が直接言われたわけではないのにちょっと心を抉られる鋭さをはらんでいた。
 今のトマリはまだ子どもで、言葉の鋭さはさほどないだろうけど、このままだと将来は立派な悪役へと成長してしまう。普通の子どもからしたら、トラウマになってしまうレベルのことは口にしているだろう。そしてそれを、ルカは一身に受けていた。
 ……にも関わらず、彼は批判や中傷を、自分への「指南」であると捉えていた。
 さすがは恋愛シミュレーションゲームの主人公と言うべきか。この、打たれ強さというか、鈍感さには舌を巻く。それくらい強靭なメンタルがなければ、自分をいじめてくる悪役を糾弾したり、敵に立ち向かって戦い国を救う、なんてできないもんな。
 お願いします、と更に距離を縮めてくるルカに、トマリはたじたじだ。ちらりと横を見て、視線でレオンに助けを求めている。しかしレオンは微笑むだけで手を貸す様子はなかった。自分の言葉で話をしろ、ということだろう。
 トマリもそれを察したのか、諦めてルカに向き直る。

「僕は、なにも教えてない。ひどい言葉をかけていただけ。……自分勝手に、怒ってた、だけ……」
「たしかに、ちょっとだけ傷つくこともあったけど……でも!トマリくんの言っていたことはなにも間違ってなかった。それに、トマリくんだけだったんだ。みんなが世間知らずな僕に呆れて離れていった中でも、今日までずっと僕にいろんなことを教えてくれたのは」
「だからそれは――」
「怒っていただけだったとしても、僕はそれに、救われたんだ」

 そう力強く言ったルカは、トマリの手をとりぎゅっと握った。

「僕、もう甘ったれは卒業する。誰の目に触れても恥ずかしくない、立派な男になってみせる。だからトマリくん、お願い……!」
「っ……」

 強い意志のこもった大きな瞳が、トマリを真っ直ぐに射抜く。
 トマリははじめ拒否の言葉を発そうとした。しかしその言葉を紡ぐより先に迫り来るルカの整った顔の圧に押され、遂にはばっと顔をそらし「も、もう、わかったよ……!」と降参の声を上げた。

「ほんとう?嘘じゃない?」
「う、嘘じゃないから!これ以上近づくんじゃ――」
「俺も、協力するよ」

 喜びに顔を輝かせながら更に距離を縮めようとしたルカとトマリの間に手が差し込まれる。その手がそのままトマリの体を引き寄せ、レオンの腕の中におさまった。
 二人の距離の近さに、さすがのレオンも嫉妬心が芽生えたようだ。
 攻略対象としてのレオンは、優しくて爽やかな性格だったが、嫉妬深い一面もあった。ゲーム内ではそれが主人公にむけられていたが、先程の態度でレオンの気持ちは未だトマリに向いていることがわかって僕はほっとした。
 ルカは一瞬ぽかんとしていたけれど、すぐに距離を縮めすぎていたことに思い至ったのか慌ててトマリから離れていった。

「ご、ごめん、僕また、無神経に……」
「これから覚えていけばいい。三人で頑張ろうな」
「う、うん……!改めてよろしくね、トマリくん、レオンくん!」

 そう言って拳を握ったルカは、花がほころぶような笑顔を浮かべた。さすがは恋愛ゲームの主人公だ。レオンは問題なさそうだが、これを真正面からくらったらころっと恋に落ちてしまうのも頷ける。
 しかしトマリはそんなルカの笑顔が苦手なのか、少し複雑そうな顔をしてそっぽを向いた。

「し、仕方ないから、協力する。別に、ルカのためじゃないから」
「うん。僕、頑張るね!」

 トマリの口調は相変わらず厳しめではあるが、二人の間にはもう殺伐とした雰囲気はない。
 ……よかった。まだこれからどうなるかはわからないけど、少なくとも和解の一歩は踏み出せたかな。

 その後は特にこれといった揉め事もなく、レオンの生誕パーティーはお開きとなった。
 ホストであったレオンたち家族に見送られながら、僕と兄さんは一足先に我が家の送迎車に乗り込む。それから少し遅れて、トマリがルカと連れ立って門から出てくるのが見えた。
 そしてなにやら言葉を交わしたあと、二人は別れトマリが車の方に駆け寄ってくる。
 運転手が後部座席のドアを開け、車高が少々高めのそれに乗り込むのに苦労しているトマリを見守りながら、僕はふと、車の外に視線を向けた。
 視線の先には、こちらをじっと見つめるルカの姿があった。
 ぱちりと目が合うと、ルカは少し背筋を伸ばし、ぺこりと頭を下げた。
 なにも反応を示さないのもな、と思いルカに手を振れば、顔を上げた彼は目を見開いてその場で固まってしまった。
 あれ、なにか変なことをしてしまっただろうか。
 そう不安になったのも束の間。車のドアが閉められルカの姿が見えなくなる。
 通っている学校は同じだけれど学年は違うし、家も近所なわけではないから、よっぽどのことがなければもう彼と顔を合わせることもないだろう。
 ゲームであった、トマリとレオンたちの関係に亀裂が入るきっかけになった出来事は回避された。しかし、その他にもきっかけはそこら中に散りばめられている。
 本当はそれら全てを潰して回りたい。でも、限界がある。さっきも言ったように、よっぽどのことがなければルカとも顔を合わせることもないから。
 じゃあこれからは、トマリにいつも以上にちゃんとするようにって言い聞かせなきゃ。両親がどうとか、もはや関係ない。やるべきこと、できることをやろう。
 ――死なないために。

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