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本編
1 エディフィールという少年
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あぁ、今日も身体が怠い。
手足が冷たい。
気持ち悪い。
これは物心ついた時からだ。
虚弱すぎる体質。
薬を飲んでも改善しない体調。
動くこともままならない苦痛。
先日、齢3歳となったばかりのエディフィール・バンホーテンは、その小さな身体で絶えることのない苦痛に耐えていた。
(大丈夫、大丈夫。しんどいけど、死ぬわけじゃない。)
きっと自分が年齢通りの人生経験しかなければ、既に生きる気力を手放していたかもしれない。
でも幸いというべきか。不幸というべきか。
エディフィールには所謂前世の記憶とやらがあった。
特に裕福でも貧乏でもなく。頭がいい訳でも容姿が良いわけでも無かった。
それでも身体は健康で、大地を駆ける足を持っていた。
それは大人になって、社会人になって。
とあるブラック企業に勤めたことで体調を崩し。結局は帰らぬ人となってしまったのだが。
健康だった記憶があれば、今の状況は精神的に辛いと思われるだろう。
だが、エディフィールの場合は違った。
この身体は辛いが、体調が良い日だってたまにある。
食事を部屋で摂るので一人ぼっちの食事は寂しいが、自分を愛してくれる両親が居る。
お仕事だからだとは分かっていても、甲斐甲斐しくエディフィールをお世話してくれる使用人達もいる。
両親からの愛情が注がれず。小さな頃から菓子パンやコンビニ弁当で飢えを満たしていたころに比べたら、その環境は天と地ほどの差がある。
前世は過労だか心臓発作だかで死ぬ時には、誰も悲しんでくれる人は居ないなと思った。
特に親しい友人はおらず、友人と言えば本名も知らない趣味関係で繋がりが少しあるだけ。
両親が悲しんでくれるなんて、淡い期待すら抱けないくらい疎遠な関係。
——いや。歳の離れた弟だけは悲しんでくれたかもしれない。
弟は兄が両親に毛嫌いされているなんてことは知らず、無邪気に懐いてくれていたから。
まぁ、そもそも両親から愛情を貰うのが無理な話だったと、戸籍謄本を見て知ったのだ。
両親とも、弟とも血の繋がりが無かったのだから。
厳密には父親の妹の子供だったらしいので、僅かには繋がってたらしいけど。
そんなどうでもいい過去の話は置いておいて。
今は死んでしまったら両親が悲しんでしまうだろうなって思う。
なんせ周りをしっかり認識できるようになってから今まで。
沢山のお医者さんが来てくれた。
よく創作物に出てくる魔法がある世界らしく、高名な治療師と呼ばれる人達も入れ替わり立ち替わり呼んでくれた。
きっと沢山お金がかかったと思うのに、なかなか原因の特定までは至らず。
ずっと対症療法で症状を軽くしてもらっていた。
エディフィールは重たい瞼を上げて、薄明りのついた室内を見渡す。
エディフィールの部屋は一人暮らししていた時のワンルームよりも。もっと広かった実家のLDKよりも広い。
ベッドだってあり得ないくらいふかふかだし、天蓋付きのベッドだ。
部屋のそこかしこにある調度品やチェストが、高級感を漂わせている。
とてもお金持ちの家に生まれたようだった。
だからこそ。エディフィールは今も、こうして生きながらえることが出来ているのかもしれないと思うくらいには。
コンコンと控えめなノック音がして、視線を向けた先で両開きの扉が開く。
カーテンの隙間から漏れる月明かりが、まだ夜中だと言っている。
こんな時間に誰だろう?と首を傾げながら入ってきた人物を見ると、真夜中の訪問者は母親であるユリア・バンホーテンと主治医であるウィドニクスだった。
ユリアは1ヶ月程前に、エディフィールの弟を産んだばかりだ。
赤ん坊は夜中でもお乳をあげないといけないから、弟の部屋と間違えたのだろうかと思う。
でも弟の部屋は、療養中のエディフィールに負担がかからないように少し離れた部屋のはずだ。
間違うはずがない。
それになんでウィドニクスと一緒に?と首を傾げたままでいると、ベッドサイドに寄ってきたユリアと目が合った。
「あぁ、エディ。起こしちゃったかしら?」
エディフィールを覗き込むユリアは既に寝間着に着替えていて、上からガウンを羽織っていた。
銀糸のような髪の毛がサラリと落ちてくる。
優しい笑みを湛えた水色の瞳を見ながら、エディフィールはふるふると首を横に振る。
「そう。でも寝れてないのも問題ね。寝る前のお薬を増やしてもらった方が良いかもしれないわね。」
そう言いながら、優しく頭を撫でてくれる。
視界の端に、自分自身の母親と同じ銀髪が紛れ込んでくる。
「でも丁度良かったわ。」
気付けばウィドニクスもベッドサイドに立っていた。
何が丁度良かったのだろうか。
そう思っている間に、ユリアが寝間着に手をかけた。
(は?母様!?)
訳が分からずあっけに取られている間に、子供を産んで更に豊かさを増した双丘がぼろんと零れ落ちる。
元からうらやまけしからんほどのボリュームがあったのだ。母親のモノとは言え、成人男性だった精神のせいか視線が向かうのは止められない。
(ワンチャン隣が父様だったら分かります!でも!子供の前で不貞は止めてください!!)
エディフィールの心の叫びが届くはずもなく。
目の前のユリアはにっこりと笑みを浮かべた。
手足が冷たい。
気持ち悪い。
これは物心ついた時からだ。
虚弱すぎる体質。
薬を飲んでも改善しない体調。
動くこともままならない苦痛。
先日、齢3歳となったばかりのエディフィール・バンホーテンは、その小さな身体で絶えることのない苦痛に耐えていた。
(大丈夫、大丈夫。しんどいけど、死ぬわけじゃない。)
きっと自分が年齢通りの人生経験しかなければ、既に生きる気力を手放していたかもしれない。
でも幸いというべきか。不幸というべきか。
エディフィールには所謂前世の記憶とやらがあった。
特に裕福でも貧乏でもなく。頭がいい訳でも容姿が良いわけでも無かった。
それでも身体は健康で、大地を駆ける足を持っていた。
それは大人になって、社会人になって。
とあるブラック企業に勤めたことで体調を崩し。結局は帰らぬ人となってしまったのだが。
健康だった記憶があれば、今の状況は精神的に辛いと思われるだろう。
だが、エディフィールの場合は違った。
この身体は辛いが、体調が良い日だってたまにある。
食事を部屋で摂るので一人ぼっちの食事は寂しいが、自分を愛してくれる両親が居る。
お仕事だからだとは分かっていても、甲斐甲斐しくエディフィールをお世話してくれる使用人達もいる。
両親からの愛情が注がれず。小さな頃から菓子パンやコンビニ弁当で飢えを満たしていたころに比べたら、その環境は天と地ほどの差がある。
前世は過労だか心臓発作だかで死ぬ時には、誰も悲しんでくれる人は居ないなと思った。
特に親しい友人はおらず、友人と言えば本名も知らない趣味関係で繋がりが少しあるだけ。
両親が悲しんでくれるなんて、淡い期待すら抱けないくらい疎遠な関係。
——いや。歳の離れた弟だけは悲しんでくれたかもしれない。
弟は兄が両親に毛嫌いされているなんてことは知らず、無邪気に懐いてくれていたから。
まぁ、そもそも両親から愛情を貰うのが無理な話だったと、戸籍謄本を見て知ったのだ。
両親とも、弟とも血の繋がりが無かったのだから。
厳密には父親の妹の子供だったらしいので、僅かには繋がってたらしいけど。
そんなどうでもいい過去の話は置いておいて。
今は死んでしまったら両親が悲しんでしまうだろうなって思う。
なんせ周りをしっかり認識できるようになってから今まで。
沢山のお医者さんが来てくれた。
よく創作物に出てくる魔法がある世界らしく、高名な治療師と呼ばれる人達も入れ替わり立ち替わり呼んでくれた。
きっと沢山お金がかかったと思うのに、なかなか原因の特定までは至らず。
ずっと対症療法で症状を軽くしてもらっていた。
エディフィールは重たい瞼を上げて、薄明りのついた室内を見渡す。
エディフィールの部屋は一人暮らししていた時のワンルームよりも。もっと広かった実家のLDKよりも広い。
ベッドだってあり得ないくらいふかふかだし、天蓋付きのベッドだ。
部屋のそこかしこにある調度品やチェストが、高級感を漂わせている。
とてもお金持ちの家に生まれたようだった。
だからこそ。エディフィールは今も、こうして生きながらえることが出来ているのかもしれないと思うくらいには。
コンコンと控えめなノック音がして、視線を向けた先で両開きの扉が開く。
カーテンの隙間から漏れる月明かりが、まだ夜中だと言っている。
こんな時間に誰だろう?と首を傾げながら入ってきた人物を見ると、真夜中の訪問者は母親であるユリア・バンホーテンと主治医であるウィドニクスだった。
ユリアは1ヶ月程前に、エディフィールの弟を産んだばかりだ。
赤ん坊は夜中でもお乳をあげないといけないから、弟の部屋と間違えたのだろうかと思う。
でも弟の部屋は、療養中のエディフィールに負担がかからないように少し離れた部屋のはずだ。
間違うはずがない。
それになんでウィドニクスと一緒に?と首を傾げたままでいると、ベッドサイドに寄ってきたユリアと目が合った。
「あぁ、エディ。起こしちゃったかしら?」
エディフィールを覗き込むユリアは既に寝間着に着替えていて、上からガウンを羽織っていた。
銀糸のような髪の毛がサラリと落ちてくる。
優しい笑みを湛えた水色の瞳を見ながら、エディフィールはふるふると首を横に振る。
「そう。でも寝れてないのも問題ね。寝る前のお薬を増やしてもらった方が良いかもしれないわね。」
そう言いながら、優しく頭を撫でてくれる。
視界の端に、自分自身の母親と同じ銀髪が紛れ込んでくる。
「でも丁度良かったわ。」
気付けばウィドニクスもベッドサイドに立っていた。
何が丁度良かったのだろうか。
そう思っている間に、ユリアが寝間着に手をかけた。
(は?母様!?)
訳が分からずあっけに取られている間に、子供を産んで更に豊かさを増した双丘がぼろんと零れ落ちる。
元からうらやまけしからんほどのボリュームがあったのだ。母親のモノとは言え、成人男性だった精神のせいか視線が向かうのは止められない。
(ワンチャン隣が父様だったら分かります!でも!子供の前で不貞は止めてください!!)
エディフィールの心の叫びが届くはずもなく。
目の前のユリアはにっこりと笑みを浮かべた。
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