【完結】深窓の公爵令息は溺愛される~何故か周囲にエロが溢れてる~

芯夜

文字の大きさ
1 / 12
本編

1 エディフィールという少年

しおりを挟む
あぁ、今日も身体が怠い。

手足が冷たい。

気持ち悪い。

これは物心ついた時からだ。

虚弱すぎる体質。

薬を飲んでも改善しない体調。

動くこともままならない苦痛。

先日、齢3歳となったばかりのエディフィール・バンホーテンは、その小さな身体で絶えることのない苦痛に耐えていた。

(大丈夫、大丈夫。しんどいけど、死ぬわけじゃない。)

きっと自分が年齢通りの人生経験しかなければ、既に生きる気力を手放していたかもしれない。

でも幸いというべきか。不幸というべきか。
エディフィールには所謂前世の記憶とやらがあった。

特に裕福でも貧乏でもなく。頭がいい訳でも容姿が良いわけでも無かった。
それでも身体は健康で、大地を駆ける足を持っていた。

それは大人になって、社会人になって。
とあるブラック企業に勤めたことで体調を崩し。結局は帰らぬ人となってしまったのだが。

健康だった記憶があれば、今の状況は精神的に辛いと思われるだろう。

だが、エディフィールの場合は違った。

この身体は辛いが、体調が良い日だってたまにある。

食事を部屋で摂るので一人ぼっちの食事は寂しいが、自分を愛してくれる両親が居る。

お仕事だからだとは分かっていても、甲斐甲斐しくエディフィールをお世話してくれる使用人達もいる。

両親からの愛情が注がれず。小さな頃から菓子パンやコンビニ弁当で飢えを満たしていたころに比べたら、その環境は天と地ほどの差がある。

前世は過労だか心臓発作だかで死ぬ時には、誰も悲しんでくれる人は居ないなと思った。

特に親しい友人はおらず、友人と言えば本名も知らない趣味関係で繋がりが少しあるだけ。
両親が悲しんでくれるなんて、淡い期待すら抱けないくらい疎遠な関係。

——いや。歳の離れた弟だけは悲しんでくれたかもしれない。
弟は兄が両親に毛嫌いされているなんてことは知らず、無邪気に懐いてくれていたから。

まぁ、そもそも両親から愛情を貰うのが無理な話だったと、戸籍謄本を見て知ったのだ。
両親とも、弟とも血の繋がりが無かったのだから。
厳密には父親の妹の子供だったらしいので、僅かには繋がってたらしいけど。

そんなどうでもいい過去の話は置いておいて。
今は死んでしまったら両親が悲しんでしまうだろうなって思う。

なんせ周りをしっかり認識できるようになってから今まで。
沢山のお医者さんが来てくれた。

よく創作物に出てくる魔法がある世界らしく、高名な治療師と呼ばれる人達も入れ替わり立ち替わり呼んでくれた。

きっと沢山お金がかかったと思うのに、なかなか原因の特定までは至らず。
ずっと対症療法で症状を軽くしてもらっていた。

エディフィールは重たい瞼を上げて、薄明りのついた室内を見渡す。

エディフィールの部屋は一人暮らししていた時のワンルームよりも。もっと広かった実家のLDKよりも広い。

ベッドだってあり得ないくらいふかふかだし、天蓋付きのベッドだ。

部屋のそこかしこにある調度品やチェストが、高級感を漂わせている。

とてもお金持ちの家に生まれたようだった。

だからこそ。エディフィールは今も、こうして生きながらえることが出来ているのかもしれないと思うくらいには。

コンコンと控えめなノック音がして、視線を向けた先で両開きの扉が開く。

カーテンの隙間から漏れる月明かりが、まだ夜中だと言っている。

こんな時間に誰だろう?と首を傾げながら入ってきた人物を見ると、真夜中の訪問者は母親であるユリア・バンホーテンと主治医であるウィドニクスだった。

ユリアは1ヶ月程前に、エディフィールの弟を産んだばかりだ。

赤ん坊は夜中でもお乳をあげないといけないから、弟の部屋と間違えたのだろうかと思う。

でも弟の部屋は、療養中のエディフィールに負担がかからないように少し離れた部屋のはずだ。
間違うはずがない。

それになんでウィドニクスと一緒に?と首を傾げたままでいると、ベッドサイドに寄ってきたユリアと目が合った。

「あぁ、エディ。起こしちゃったかしら?」

エディフィールを覗き込むユリアは既に寝間着に着替えていて、上からガウンを羽織っていた。
銀糸のような髪の毛がサラリと落ちてくる。

優しい笑みを湛えた水色の瞳を見ながら、エディフィールはふるふると首を横に振る。

「そう。でも寝れてないのも問題ね。寝る前のお薬を増やしてもらった方が良いかもしれないわね。」

そう言いながら、優しく頭を撫でてくれる。

視界の端に、自分自身の母親と同じ銀髪が紛れ込んでくる。

「でも丁度良かったわ。」

気付けばウィドニクスもベッドサイドに立っていた。

何が丁度良かったのだろうか。

そう思っている間に、ユリアが寝間着に手をかけた。

(は?母様!?)

訳が分からずあっけに取られている間に、子供を産んで更に豊かさを増した双丘がぼろんと零れ落ちる。
元からうらやまけしからんほどのボリュームがあったのだ。母親のモノとは言え、成人男性だった精神のせいか視線が向かうのは止められない。

(ワンチャン隣が父様だったら分かります!でも!子供の前で不貞は止めてください!!)

エディフィールの心の叫びが届くはずもなく。
目の前のユリアはにっこりと笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

処理中です...