氷の王子様と微笑みの男装令嬢

芯夜

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第一章 非公式お茶会

23 非公式お茶会フルメンバー①

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Side:アシェル10歳 秋



先月、冒険者からの指導が終わった。

ただ敵を倒すだけではなく、フィールドの歩き方や、道の覚え方や目印の付け方。魔物たちの痕跡の探し方まで丁寧に教えてもらった。
瘴気が満ちた場所には時々空間の捻じれなどの影響があり、地形が急に変わってしまっていたりということもあるらしい。森の中に崖があるとか、滝つぼから先に川がないのに水が溢れないとか。
そういった謎空間が少なからずあるので、注意するようにとのことだった。

野営についてもポイントの探し方や、後始末の仕方。あとは、地面ではなく木に登っての夜の超え方まで。
薬草採取ついでに近くの小枝を拾っておくといいよといわれたので、皆ストレージにぽいぽい放り込んでいる。

食料にできる魔物についても教えてもらえた。
家畜化されている種類の魔物はもちろんだが、案外動物型の魔物であれば食用になる場合が多いらしい。
但し。瘴気を含んでいるので、必ず念入りにクリーンをかけてから調理することと念を押された。魔法が使えないのなら食べないようにと。
ストレージで食料を持ち込んで、基本的には現地調達で手持ちの食材と組み合わせてというのが理想に思う。
幸いアシェル達は皆魔力持ちなので、仮に遭難しても食料で困ることはなさそうだ。

そんな冒険者としての知識と体験を積み重ねた半年が過ぎていくのはあっという間だった。
王都組4人の仲も連携も良くなったと思う。



10月頭の今日は、年に一度フルメンバーが揃う非公式お茶会の日である。
皆11歳になっているか、11歳を目前に控えている。

王都組に加え、サマンサ親子の双子ノアールとエトワール、フィアフィー親子の双子リリアーデとデュークの辺境組がやってくる。

フィアフィー親子の双子は三年間欠席だったので、フルメンバーが揃うのは本当に久しぶりだ。

「皆、久しぶりね。流石に三年も会ってないとおっきくなったわね。」

「誰かさんのせいで三年も参加できなかったからね。加護がこんなに大変なんて、思ってなかったよ。」

元気なリリアーデと、呆れたように言うデュークも身長が伸びていた。
リリアーデは少し体つきが女性らしくなってきているし、デュークの体つきもしっかりしてきている。

「僕達も一年ごとに会うから、皆おっきくなったなって思ってたけど。幼少期の三年って大きいよね。」

「俺達もしょっちゅう会えたら良かったんだけどな。」

そういうノアールとエトワールも伸長が伸びて、身体つきも男の子らしくなってきている。
出会ったときは背が低い方だったので大きくなっても低めかな、なんて思っていたのだが、恐らく今は男子平均くらいはあるのではないだろうか。

二人の違いは、どちらかというとエトワールの方が筋肉の付きが良いように思える。
これは性格の差からでてくるものだろう。

「久しぶりだな。デューク、リリィ、婚約おめでとう。」

ふわっと微かな笑みを浮かべたアークエイドが祝辞を述べる。
周りもそれにあわせて口々にお祝いを述べた。

「もう、皆からお祝いは手紙でもらってるからっ。改めて言われると照れちゃうわ。」

「ありがとう。ここでは問題ないけど、今後学院に行くことになったら、リリィが変な男に騙されないか心配だったから……。加護とは言え、相手が僕で良かったと思ってるよ。」

顔を真っ赤にして両手で覆ってしまったリリアーデに対して、にこっと笑いながら祝いを受け取るデューク。
“授け子”であるリリアーデの方が精神年齢は高いはずなのに、デュークのほうが落ち着いて見えるから不思議だ。

「ところで、そちらの少女は?」

デュークに言われたのは、今日も午前中だけ参加予定のメルティーだ。

「あぁ、紹介するよ。こちら僕の義妹のメルティーだよ。お昼までの間だけ、一緒にお茶してるんだ。仕分けも手伝ってもらってるんだよ。」

「なるほど、義妹さんか。よろしくメルティー嬢。僕はデュークだ。」

「デューク義兄様ね、覚えましたわ。少しの時間ですがよろしくお願いします。」

「にい……さま?」

内容についていけずにぽかんとしたデュークは、かなり珍しいかもしれない。

「あぁ、メルは皆のことを義兄様呼びするから。」

アシェルが苦笑して返す。

「僕も最初はびっくりしたよ。ノア義兄様って……なんせ弟からも、お兄ちゃんって呼んで貰ったことないから。」

「ノアとは双子だから呼び捨てだもんな。俺もびっくりしたけど、トワ義兄様は良い響きだと思う。」

ノアールとエトワールも驚いてはいたけど、どちらかというと喜んでいる雰囲気だったと思う。

そう、今横で目を輝かせているリリアーデみたいに。
この会話で恥ずかしさはどこかへふっとんだようだ。

「メルティーちゃん!わたくしリリアーデといいますの。リリィお姉ちゃんって呼んで貰える……?」

「リリィお義姉様ですね。よろしくお願いします。」

「きゃー可愛い!ねぇアシェ、メルティーちゃん領地に連れて帰っていいかしら?」

「駄目に決まってるだろ。っていうか、今は弟も妹もわんさかいるんだから、これ以上増やそうとするな。使用人たちが困る。」

メルティーに抱き着いたリリアーデをべりっと引き剥がし、メルティーはデュークの手からアシェルの手へ受け渡される。
子宝に恵まれず“授け子”のリリアーデと双子のデュークを授かったはずなのだが、シルコット家は現在子宝に恵まれ7人兄妹になっているはずだ。

まわってきたメルティーをぎゅっと抱き締めながら、リリアーデに忠告をしておく。

「愛でるのは構わないけど、連れて帰られるのは許せないからね?僕もだけど、多分お兄様達が黙ってないからね?」

「う……。」

「アシェも大概メルティーのこと溺愛してるけど、お兄さん達はそれ以上って聞いたから。気を付けたほうがいいと思うぞ。」

そう追い打ちをかけるのはエラート。
情報のソースは、時折お茶会に参加している第一王女アビゲイルの話だ。

「ねーそろそろ仕訳け始めないと、おやつ食べださないよー?アシェ、今日の分だしてー。」

のんびり会話を聞いていたマリクは、空腹に負けたようでいつもの差し入れを要求してくる。

アシェルは『ストレージ』からいつものバスケットを取り出した。
今日はいつも以上にてんこ盛りだ。

「はい。いつもより多いから分けるの、大変だと思うけど。」

「……差し入れってこんなに多かったか?」

「わたくしも、もっと少ない記憶しか……。」

男女の双子が久しぶりに見る差し入れの山に驚く中、どんどんテーブルの上で仕分けされていく。

「今日は皆揃うから特別多い気がするね。普段見ないご令嬢達もいたし……ちょっと揉め事になりそうでひやひやしたよ。」

年に一度の貴族総出の夜会があるのだ。
この夜会は社交界シーズンの終わりを告げるものでもあり、貴族は全員参加するように促されているので、王都はかなり賑わう。

非公式お茶会のメンバーが揃うということは、貴族子女も当然多く集まりやすくなるわけで、もう長らくこの非公式お茶会も行っている。
となると、噂が噂を呼んで。この離宮へとつながる回廊にはカラフルなご令嬢方が、溢れんばかりに押しかけていたのだ。

「でもいつもどーり、揉め事にはなってないんでしょー?」

仕分けしながらマリクが聞いてくる。

「うん、そもそも毎年ウォレン侯爵令嬢達に、この差し入れをする時のマナーと注意点はきっちり伝えておいたからね。ちゃんと手順を噂として回しておいてもらうようにも。まずはそれを出来ている子の差し入れだけ入れてもらって、出来てない子はその場でどうにかできた子のモノだけ頂いてきたよ。他のご令嬢から預かった物を持ってきてる子も多かったみたい。皆ルールを守ってるから、守ってない子のを特例では受け取れないからごめんね、って謝っておいたから。次は是非受け取らせてねって。」

「アシェは相変わらずたらしだな。」

「ルールを行使しながら、ご令嬢を悲しませるだけじゃなく、次への希望を植え付けてきたと……。」

「ちょっと、エトもアークも人聞きの悪いこと言わないでよ。」

「はいはい。いいからカード書き写すのを手伝え。多すぎて終わらない。」

王都組のいつも通りのやりとりに笑いが起きながら、なんとか全ての差し入れの仕分けが終わった。





円卓に全員座ったあと、アシェルはメルティーを呼んだ。

「メル、こっちにおいで。」

「やっぱりわたくしは、今日も膝の上ですの?」

「そりゃあ、ここがメルの特等席だもの。」

不服そうなメルティーは、それでも大人しくアシェルに横抱きに抱えられる。

にこにこ笑顔なアシェルは一袋ずつ中身を無作為に食べて毒見しながら、円卓の中央にカードと袋を置き、複製されたカードを回すといういつもの動作を繰り返していく。

「それに、そろそろいらっしゃるはずだから。」

その言葉にがたっと椅子を揺らして反応したのはノアール。

「あぁ、それで最初はノア義兄様の隣に座れって言ったんですのね?」

「そういうこと。」

なるほど、と瞳を輝かせたメルティーに頷き。よくできました、と頭を撫でてあげる。

「アシェ……。」

恨みがましくノアールから非難の声が飛んでくるが、アシェルは気にしない。

「僕としては、早くアビー様とくっつくなりくっつかないなり決めてほしいんだけど。ノアも満更じゃないんでしょ?」

「それは……でも……。」

「まぁ納得できるまで悩めばいいけど、アビー様とアル兄様が学院卒業するまでにちゃんと決めてね。アビー様のお相手、うちの兄なんだから。」

「うぅ……。」

そう。もうすぐこの非公式お茶会に、アビゲイル第一王女が参加しに来るはずである。

7歳のときの非公式お茶会に顔を出したアビゲイルは、ノアールに一目惚れ。

それから毎年、必ず年に一度のこの日には顔を出してノアールに猛アプローチしていくのだ。
聞くところによると、普段は手紙も沢山届くらしい。

というだけなら、アシェルも頑張れの一言で済むのである。大変だなぁで。

問題は、アビゲイルが王立学院卒業までに恋愛結婚しなかった場合には政略結婚となることが決まっている。
その相手というのがメイディー公爵家次男。つまりアルフォードなのだ。

どちらに転んでも問題ないのだが、せっかくアビゲイルが好きな人を見つけたのだ。
政略結婚より恋愛結婚を推したいし、ノアールの迷いが好き嫌いとは別のところで迷っているようだし。それならば早くくっついてアルフォードを自由の身に、と考えてしまう。

アルフォード本人は結婚願望がないらしく、女性避けになるアビゲイルの婚約者候補筆頭という肩書が楽らしいのだが。アルフォードもアビゲイルもお互いを幼馴染の良き友人、とも言っていたので、遠慮なくアビゲイルを幸せにしてあげてほしい。

「皆様、ごきげんよう。」

そうこうしてると、予想通り。アビゲイルがやってきた。

サロンの入り口で綺麗なカーテシーをしたあと、すたすたと一つだけ開いた席であるノアールの隣に座る。

「ノアール様、お久しぶりです。王都までの旅、お疲れさまでした。」

「アビゲイル様、お久しぶりです。ありがとうございます。」

アビゲイルは頬を染めて恋する乙女な顔を前面に出して、真っすぐにノアールを見つめている。
その視線を貰うノアールはいつまで経っても慣れないらしく、おろおろしながらもしっかり返事はしている。

多分ここから他愛のない雑談——主にアビゲイルが話しかけて、ノアールがそれに返事することになるのだろう。

いつものことなので誰も助け船をだすことなく、二人だけの世界にしてあげるのだ。
変に口を挟んで馬に蹴られたくはない。



アシェルが円卓に置いたお菓子からどんどん無くなっていく。

毒見ついでに甘いか甘さ控えめか、苦味があるか。ものによっては酒精を感じるかなどもコメントするようにしているので、皆それぞれ好みのものを口に入れていく。

円卓への提供途中に、メルティーが好きそうだなと思ったものは少し欠片を食べ、残りはメルティーの口に放り込んでいく。
これも男女の双子からみたら初めての光景だろうが、つっこまれることはなかった。

「んーさすがに数が多いと、毒見だけでお腹いっぱいになっちゃうね。」

「悪いな。」

「ううん、変に他の人に倒れられるよりましだから。まぁ、満遍なく楽しめてるから大丈夫だよ。」

今回出す予定のバスケットを見ると、あと数袋だ。
皆宛てのものは出し終えたし、残りのカードはアークエイド宛てばかり。
比較的甘そうな見た目のものが置かれている。

「まぁ、アークが後からでも食べなさそうな物ばかりだから、出しちゃうよ。」

そういって新しい袋を開けて、取り出した焼き菓子をかじった。
びっくりするくらいブランデーが効いている。
アイシングがかかっていて甘そうだと思ったのに見た目詐欺だ。

「あぁ、これは子供テーブルには置けないくらい酒精が強い。メル、大人テーブルに持って行ってくれる?」

「分かりましたわ。」

こんな感じで、たまに子供が食べるには不向きなものも混じっている。
そういう場合、大人テーブルにお裾分けするのだ。

さっと大人テーブルにお菓子を置いたメルティーは、膝の上に帰ってきた。

「誰からだ?」

「宛名は……カロリーナ・スイート。……ウェンディー地方の伯爵家の娘だね。まだ成人してないはずだし、特産品をたっぷり入れて作りましたってところじゃないかな。ウェンディー地方は水が綺麗だから、酒造りも盛んでしょ。」

「あぁ、たしかに。」

更に二つの袋をあけ、残り一つになった。

最後の一つも袋をあけ、無作為に選んだ一つを口に放り込む。

「……。」

(これって香りつけのハーブ?いや……でも。)

いつもより時間をかけ、違和感の正体を探ろうとしていると、アークエイドが心配そうに声をかけてきた。

「何か入ってるのか?」

「んぐ……んと、入っていると言えば入ってるんだけど。このお菓子、ハーブみたいなのが入ってるみたいで。それがちょっと気になって。」

「くく、何が入ってるのかが解らないから味わってたのか。」

毒見で味わうことがないので、珍しいものを見たとアークエイドが笑う。

「そうなんだけど、そうじゃなくて。」

なんと説明したものかと考えていると、アークエイドが首を傾げる。

「とりあえずコレは皆には出せない。が食べる分には問題ないけど、皆が食べたらどんな作用が出るかわからないから。」

「そうか。……これは誰からだ?」

「ミリアリア・ウォレン侯爵令嬢……いつも朝の差し入れの時に、ご令嬢達をまとめてくれていた子だね。今は王立学院にいるはずだから、誰かが預かってきてるやつかな。甘い香りのハーブだから、もしかしたらそれで入れているだけ、かも。」

気付けば雑談は止み、場はシーンと静まり返っている。

「ごめんね、よく分からないんだよ。特に身体に異変があるわけじゃないから、入っていても微量だろうし。……ただ、の魔力が反応してるから、薬剤判定はされているんだと思う。身体に悪いものかもしれないから出せない、っていうだけだよ。今度ウォレン嬢に会ったときに、それとなく何が入ってたのか聞いてみるね。」

「そうか。それは今回破棄しておこう。それと、一人称がになっている。仕事じゃないんだ。」

「うん、ごめんね。微妙な雰囲気にしちゃって。」

「構わない。」

問題ないことがわかったからか、また徐々に賑やかになっていく。

「アシェ義兄様、本当に大丈夫ですの?眉間に皺が寄ってますわ。」

言うが早いか、メルティーの指で眉間をぐりぐりされる。

「え……あぁ。別に大丈夫だよ。ただ、さっき何が入ってたのかが気になってね。ナッツに隠れて分かりにくかったけど、絶対一度は口にしたことあると思うんだよね。ってことは、同じものか似た品種が庭にあると思うんだ。」

「それが何かわからなくて悩んでいたんですのね。お身体に障りがないようで良かったですわ。」

「心配してくれてありがとう、メル。」

膝の上のメルティーを抱き締めて頬擦りする。

「もう……。それより大丈夫そうでしたら、わたくしもお菓子を食べたいわ。」

「あぁ、ごめんね。どれがいい?」

メルティーが手に取ったお菓子の欠片を食べ、残りを渡す。

誰からともなくでた「過保護だね。」という言葉を聞き流しながら、可愛い義妹に餌付けを続けたのであった。

昼食までは魔物退治の話題で盛り上がった。

辺境組の二組の双子の話は、スケールが大きくてとてもわくわくする冒険譚だった。
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