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第一章 非公式お茶会
32 大衆食堂サクラ①
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Side:アシェル11歳 夏
王立病院より2本ほど手前の街路に、その食堂は建っていた。
「アシェが言ってたのってここか?大衆食堂サクラって書いてあるけど。」
「そうそう、ここ。何でも1つ年下の“授け子”がメニューを考えてるらしくって。美味しかったら今度リリィを連れてきたいなって思って。」
どこかの貴族の家に“授け子”が産まれて前世の記憶を活かした食堂をオープンしたと、医療従事者の間で話題になっていたのだ。
本来“授け子”はそう頻繁に神託が下るものではないが、まさかの二年連続だったため、より一層話題になったのだろう。
「なるほどー。サクラって確か植物だよね?エルフェナーレ王国では名所があるらしいねー。」
「とりあえず入ってみよう。」
洋風な街並みに合わせた看板には、さりげなく桜の花びらを模したモチーフが装飾となっている。
カランコロンと音を鳴らしながら、サクラのイメージに合わない両開きの扉を開ける。
店内は一般的なテーブル席と、畳み張りの掘りごたつ式の席に分かれていた。
「「いらっしゃいませっ。」」
和服に割烹着姿の女性店員が出迎えてくれる。
ヒューナイト王国に和服姿の人は滅多にいないので、どこか懐かしくも新鮮な感じだ。
一人は赤みの強いストロベリーブロンドの女性、もう一人は金髪寄りな柔らかいピンク髪の少女だ。
ピンク髪の少女の年の頃はアシェル達とそう変わらないように見えるので、恐らくだがこの子が一つ年下の授け子なのだと思う。
ピンク色の髪は左右で高い位置にお団子になっていて、毛先はツインテールのように自由になっている。
肩につかない程度の長さに整えているので、衛生面と動きやすさを考慮した髪型なのだろう。
ぱっちり二重の瞳ははしばみ色で、光の当たり具合で黄色っぽくも薄茶色っぽくも見える。
「なんか珍しー座席があるねー?」
「掘りごたつの方をご希望ですかぁ?そのまま座れますので、こちらの席へどうぞぉ。」
にこっと営業スマイルで微笑んでくれた小柄な少女が、掘りごたつの席に案内してくれる。
ゆっくり間延びしたような喋り方をする少女だ。
冒険者向けの食堂や酒場は、きっぷのいい女性がウエイトレスをしていることが多いので珍しい。
夕方の、まだ少し夕食には早い時間だが、店内はそこそこ賑わっていた。
卓上にあるメニューを手に取ると、噂に聞いていた通り、和食をメインにしているようだ。
「エルフェナーレから調味料仕入れてるのかなー。味噌とか醤油を使った料理がいっぱいだねー。」
「マリクはなんで、他国のことにそんな詳しいんだ?」
メニューを見ながら感想を述べるマリクにエラートが突っ込む。
「失礼なー。俺、これでも商業ギルド長の息子だよー?」
ふふん、と胸を張るマリクの説明にアークエイドが補足する。
「テイル家といえば、代々商業ギルド長になることが多いな。定期的にビースノート帝国から嫁を貰うのもあるが、他国との関わりに積極的な一族だ。商業ギルドは他国との貿易も積極的に行っている。」
「なるほど。マリクはちゃんと勉強してるんだね、えらいね。」
マリクの頭を撫でてやると嬉しそうにふさふさの尻尾が揺れた。
メニューは定食と一品、デザート、ドリンクに分かれている。
メニューの解説文と普段見ないメニューに、皆でワイワイ言いながら注文するものを決めた。
「ご注文はお決まりになりましたかぁ?」
席に案内してくれた少女が注文を取りに来てくれた。
「生姜焼き定食一つ。サイコロステーキ定食一つ。サバの味噌煮定食一つ。塩麹の唐揚げ盛り合わせ一つ。お漬物の盛り合わせ一つ。出汁巻き卵の大根おろし添え一つ。茶碗蒸し二つ。揚げ出し豆腐一つ。ご飯の小一つ。納豆一つ。生卵一つ。以上で。ドリンクはどれかオススメはあるかな?僕達まだ未成年なんだけど。」
少女が一つ一つ頷いてくれるのに合わせて、アシェルが注文を伝える。
メニュー的にビールや日本酒が合うかもしれないが、残念ながらアシェル達は未成年なのでお店のオススメを聞くことにした。
先に注文を復唱して確認した少女は、メニューのドリンクページを開きながら説明をしてくれる。
「おにぃさんがたはまだ成人されてないんですねぇ。でしたらぁ、こちらがノンアルコールのページになりますぅ。甘いものがお好きでしたらぁ、果実と牛乳を合わせたものがぁ。さっぱり目でしたらぁ、果実水やフレッシュジュースがぁ。お茶系でしたらぁ、緑茶をはじめごぼう茶やイチョウ茶などの健康茶を取りそろえておりますぅ。」
ぺらぺらとメニューを開きながら説明され、せっかくなのでお茶系を四種類貰うことにした。
「じゃあ。ジャスミン茶、どくだみ茶、玄米茶、ほうじ茶を一つずつお願いできるかな。」
「かしこまりましたぁ。ご注文ありがとうございますぅ。」
ペコリと頭を下げた少女は厨房の方へ下がっていった。
すぐに戻ってきて、お通しの小鉢の冷ややっことお茶を持ってきてくれる。お茶はポットサービスになっていた。
「お茶は二杯分くらい入ってますがぁ、ずっとお茶っ葉をいれたままだと渋くなりますのでぇ、適度なところで取り出しておいてくださいねぇ。少し渋くなりますけどぉ、お湯の追加はいつでもしますのでお申し付けくださいませぇ。」
可愛らしい微笑みを浮かべた少女は他のテーブルへと歩いていく。
今日の戦果についてお喋りしていると続々と食事が運ばれてきた。
割と沢山頼んだ上にお茶もポットサービスで場所をとるのだが、テーブルは座る人数に対してゆったりとしていたため、問題なく全て並べることができた。
アシェルの前にはご飯と納豆と生卵と醤油が置かれる。
エラートの前にはサイコロステーキ定食。ステーキのソースはオニオン醤油ソースだ。
マリクの前にはサバの味噌煮定食。
アークエイドの前には生姜焼き定食が置かれた。
いただきます、という号令をかけ、アシェルは遠慮なく隣の席のアークエイドの定食から少しずつ摘まんでいく。
「ん、いいよ。」
ゴーサインを出すと、アークエイドは食事に手を付け始めた。
お箸を使うのはアシェルとマリク。エラートとアークエイドは器用にナイフとフォークで食べ進めていく。
茶碗蒸しは好むかどうかわからないので二人で一つだが、アシェルは好きだ。
プルンと揺れる薄黄色の茶碗蒸しを口に含み舌鼓を打つ。
「んー出汁が効いてて美味しい。アークも食べて。」
しっかりと優しい出汁の味が口の中に広がり、その美味しさを共有したくてスプーンですくった茶碗蒸しを隣に差し出した。
「……。」
「どうぞ。」
「……もらう。」
ほんのり耳を赤く染めたアークエイドが茶碗蒸しを口に入れたのを見て、感想を求める。
「どう?アークはこの味好き??」
ヒューナイト王国では香辛料やハーブがメインの味付けなので、出汁を利かしている料理は珍しい。
出汁と言えばコンソメのような野菜の旨味というイメージだ。
「ん……うまいと思う。」
「良かった。」
茶碗蒸しを半分食べて器を差し出せば、アークエイドはその器を受け取り続きを食べ始める。
向かいに座る二人も仲良く半分こしていた。
納豆の匂いは嫌がられるかと思ったが、意外とすんなり受け入れられた。
納豆玉子ご飯は、それぞれ一口ずつ食べ一巡して戻ってきた。
「美味しいけどねばねばー。」
「独特だな。でも美味い。」
「糸を引くのが食べにくいが、美味しいとは思う。」
「美味しかったのなら良かったよ。納豆ってすごく好き嫌いの分かれる食材らしいから。」
アシェルはかなり久しぶりの納豆ご飯にご満悦だ。
安くて栄養価の高い納豆は、前世ではかなりお世話になった食材だと言える。
結構な量を注文したのだが、朝の目玉トーストを食べたっきりお昼は食べていなかったので、どんどん料理は胃袋に消えていった。
どの味付けも懐かしさと美味しさで思いの他箸がすすみ、お腹いっぱいだ。
来年には王立学院に入学することになるので、その前の秋の非公式お茶会のあたりで絶対にリリアーデを連れてこようと思いながら、残りの一品料理に手を付ける幼馴染達を見ながらお茶をすする。
お茶も皆で少しずつ較べ飲みして、それぞれ好みのものを選んだ。
アシェルはジャスミン茶、アークエイドがどくだみ茶、マリクが玄米茶、エラートがほうじ茶だ。
のんびり食べている間に陽が落ちてきて、もう夕飯時だ。
入った時にはまばらに埋まっていた席も、今は満員状態でがやがやと賑わっている。
時折どこそこのエリアの魔物が、などと聞こえてくるので、やはり冒険者が多いのだろう。
そんな風に考えていると、急に「きゃっ!」という小さな叫び声が聞こえた。
と同時にガシャーンとグラスの割れる音と、木皿の転がる音がする。
音のした方を見るとピンク髪の少女が床に転んでいる。
そのすぐそばのテーブルの男たちはにやにやしているし、一人の男がゆっくりと何事もなかったかのように足を引っ込めたのを見逃さなかった。
(わざと引っかけられた?)
「おいおい、お嬢ちゃん、なにしてくれてんだぁ?水がかかっちまっただろうが!」
四人組の男たちのうち、足を出していた男の向かい側の、一番強面な男が強い口調で少女を責めた。
「あ、足をひっかけ——。」
「あぁ、なんだと!?」
「ひっ。」
震えながらも出した少女のかぼそい声は、強い威圧を含む声にその先を紡げなくなる。
しんと静まり返る中、男たちの「どう責任取ってもらおうか。」「身体で払えや。」という、恐喝が耳に入ってくる。
見たところ怪我をした様子はなく、ただズボンの裾に水がかかっただけなのにだ。
(どこにでもいるんだな、こういうチンピラって。)
「ねぇ、トラブルに首突っ込んだら怒る?」
女性を食い物にしたような発言と、わざと少女を転ばせたことに苛立ちが隠せず、冷めた声で幼馴染達に確認をとる。
静まり返った店内にはその声がよく響いたが、アシェルは気にしなかった。
わざと聞こえるように言ったのだから。
「あぁん!?」と男たちの怒気が飛んでくる。
「いいんじゃないか。」
「怒らねぇよ。」
「むしろさんせーみたいな?」
「アーク。あの子を僕らのテーブルまで避難させて、怪我がないか診てあげて。」
その言葉を言いながらアシェル達は立ち上がり、すぐそこの件のテーブルまで移動した。
「わざと足を引っかけられて転ばせられたのに、しょうもないいちゃもんつけられて。頭の悪い男どもに絡まれるなんて可哀想だね。」
すっと少女と男たちの間に立ったアシェルが、馬鹿にしたように大袈裟にため息をついてみせれば、分かりやすく男達は挑発に乗ってくれる。
「あぁ、なんだとてめぇ!証拠もねぇのに何言ってやがる!」
「だって見てたから。そこのヤツが足引っかけたところ。」
本当は決定的瞬間は見ていないが、はったりをかければ狼狽える男達。
図星で狼狽えるくらいなら、こんな小芝居しなければいいのにと思ってしまう。
「図星?モテない男はこんなことでしか女性をお誘いできないなんて、残念だね。」
口元だけでクスクス笑ってみせれば、青筋を浮かべた男達が四人とも立ち上がった。
「ガキども、さっきから言わせておけばっ!俺達が誰だか分かってるんだろうな?」
勝ち誇ったような男に、黙っていたマリクが首を傾げて見せる。
ちなみにアークエイドはすでに、少女をテーブルまで避難させていた。
「えー知らないよー?なに、この人たちゆーめーなの?」
「知らねぇよ。」
そこに短く相槌を打つエラート。
当然アシェルもアークエイドも知らない人達だ。
より一層鼻息を荒くする男達が我慢の限界を迎えたのか、大声で怒鳴りつけられる。
「表出ろや!なよっちいガキなんか一瞬で叩きのめしてやるよっ。」
流石に店内で暴れないだけの分別はあったようだが、一触即発といった雰囲気に店内がピリピリしている。
店内で殴り掛かってくるのであれば、魔法で拘束して放り出そうかと思っていた。
男たちの三人が外へ出て、一人はアシェル達を連れて行くと言わんばかりに「早く出ろや!」と急き立ててくる。
「誰が行く?」
「はーい。」
「グローブは?」
「……持ってない。」
「却下。『攻撃力向上』。『防御力向上』。いってらっしゃい。」
「結局俺かよー。言い出しっぺはついてこねぇのかよ。」
「過剰戦力になるでしょ。観戦はしてあげるから。」
元気よく手を挙げたマリクの参戦を却下して、不要とは思いつつもエラートにバフをかける。
アシェルの返答にまぁなーと答えたエラートは、残っていた男を無視してさっさと外へ出ていく。
「はぁ、お前ら馬鹿にしてんのか!?」
残った男が喚くが、どう見ても小物だ。
「あ、僕らも外には出るから、ちょっと待ってね。」
割烹着の女性——この食堂の女将さんの前まで行き、優しい声と笑顔を心掛けて首から外した冒険者証を渡す。
「食い逃げにならないように、こちら、お預けしておきますね。片付いたらまた戻ってきますので。」
「え、えぇ、はい?」
戸惑う女将さんの手にぎゅっとタグを押し付けて、アークエイドと少女の元へ行く。
「大丈夫そう?」
「怪我はないようだ。」
端的に答えたアークエイドの言葉に頷いて、少女に手を差し伸べる。
「お嬢さん。怖いと思うんだけど、一緒に結末を見届けにいこう?大丈夫、君は僕が守るから。」
戸惑ったまま差し出された手を取り、アークエイド、マリクと共に店の前へ出る。
残っていた男も悪態をつきながら店の外へ出た。
王立病院より2本ほど手前の街路に、その食堂は建っていた。
「アシェが言ってたのってここか?大衆食堂サクラって書いてあるけど。」
「そうそう、ここ。何でも1つ年下の“授け子”がメニューを考えてるらしくって。美味しかったら今度リリィを連れてきたいなって思って。」
どこかの貴族の家に“授け子”が産まれて前世の記憶を活かした食堂をオープンしたと、医療従事者の間で話題になっていたのだ。
本来“授け子”はそう頻繁に神託が下るものではないが、まさかの二年連続だったため、より一層話題になったのだろう。
「なるほどー。サクラって確か植物だよね?エルフェナーレ王国では名所があるらしいねー。」
「とりあえず入ってみよう。」
洋風な街並みに合わせた看板には、さりげなく桜の花びらを模したモチーフが装飾となっている。
カランコロンと音を鳴らしながら、サクラのイメージに合わない両開きの扉を開ける。
店内は一般的なテーブル席と、畳み張りの掘りごたつ式の席に分かれていた。
「「いらっしゃいませっ。」」
和服に割烹着姿の女性店員が出迎えてくれる。
ヒューナイト王国に和服姿の人は滅多にいないので、どこか懐かしくも新鮮な感じだ。
一人は赤みの強いストロベリーブロンドの女性、もう一人は金髪寄りな柔らかいピンク髪の少女だ。
ピンク髪の少女の年の頃はアシェル達とそう変わらないように見えるので、恐らくだがこの子が一つ年下の授け子なのだと思う。
ピンク色の髪は左右で高い位置にお団子になっていて、毛先はツインテールのように自由になっている。
肩につかない程度の長さに整えているので、衛生面と動きやすさを考慮した髪型なのだろう。
ぱっちり二重の瞳ははしばみ色で、光の当たり具合で黄色っぽくも薄茶色っぽくも見える。
「なんか珍しー座席があるねー?」
「掘りごたつの方をご希望ですかぁ?そのまま座れますので、こちらの席へどうぞぉ。」
にこっと営業スマイルで微笑んでくれた小柄な少女が、掘りごたつの席に案内してくれる。
ゆっくり間延びしたような喋り方をする少女だ。
冒険者向けの食堂や酒場は、きっぷのいい女性がウエイトレスをしていることが多いので珍しい。
夕方の、まだ少し夕食には早い時間だが、店内はそこそこ賑わっていた。
卓上にあるメニューを手に取ると、噂に聞いていた通り、和食をメインにしているようだ。
「エルフェナーレから調味料仕入れてるのかなー。味噌とか醤油を使った料理がいっぱいだねー。」
「マリクはなんで、他国のことにそんな詳しいんだ?」
メニューを見ながら感想を述べるマリクにエラートが突っ込む。
「失礼なー。俺、これでも商業ギルド長の息子だよー?」
ふふん、と胸を張るマリクの説明にアークエイドが補足する。
「テイル家といえば、代々商業ギルド長になることが多いな。定期的にビースノート帝国から嫁を貰うのもあるが、他国との関わりに積極的な一族だ。商業ギルドは他国との貿易も積極的に行っている。」
「なるほど。マリクはちゃんと勉強してるんだね、えらいね。」
マリクの頭を撫でてやると嬉しそうにふさふさの尻尾が揺れた。
メニューは定食と一品、デザート、ドリンクに分かれている。
メニューの解説文と普段見ないメニューに、皆でワイワイ言いながら注文するものを決めた。
「ご注文はお決まりになりましたかぁ?」
席に案内してくれた少女が注文を取りに来てくれた。
「生姜焼き定食一つ。サイコロステーキ定食一つ。サバの味噌煮定食一つ。塩麹の唐揚げ盛り合わせ一つ。お漬物の盛り合わせ一つ。出汁巻き卵の大根おろし添え一つ。茶碗蒸し二つ。揚げ出し豆腐一つ。ご飯の小一つ。納豆一つ。生卵一つ。以上で。ドリンクはどれかオススメはあるかな?僕達まだ未成年なんだけど。」
少女が一つ一つ頷いてくれるのに合わせて、アシェルが注文を伝える。
メニュー的にビールや日本酒が合うかもしれないが、残念ながらアシェル達は未成年なのでお店のオススメを聞くことにした。
先に注文を復唱して確認した少女は、メニューのドリンクページを開きながら説明をしてくれる。
「おにぃさんがたはまだ成人されてないんですねぇ。でしたらぁ、こちらがノンアルコールのページになりますぅ。甘いものがお好きでしたらぁ、果実と牛乳を合わせたものがぁ。さっぱり目でしたらぁ、果実水やフレッシュジュースがぁ。お茶系でしたらぁ、緑茶をはじめごぼう茶やイチョウ茶などの健康茶を取りそろえておりますぅ。」
ぺらぺらとメニューを開きながら説明され、せっかくなのでお茶系を四種類貰うことにした。
「じゃあ。ジャスミン茶、どくだみ茶、玄米茶、ほうじ茶を一つずつお願いできるかな。」
「かしこまりましたぁ。ご注文ありがとうございますぅ。」
ペコリと頭を下げた少女は厨房の方へ下がっていった。
すぐに戻ってきて、お通しの小鉢の冷ややっことお茶を持ってきてくれる。お茶はポットサービスになっていた。
「お茶は二杯分くらい入ってますがぁ、ずっとお茶っ葉をいれたままだと渋くなりますのでぇ、適度なところで取り出しておいてくださいねぇ。少し渋くなりますけどぉ、お湯の追加はいつでもしますのでお申し付けくださいませぇ。」
可愛らしい微笑みを浮かべた少女は他のテーブルへと歩いていく。
今日の戦果についてお喋りしていると続々と食事が運ばれてきた。
割と沢山頼んだ上にお茶もポットサービスで場所をとるのだが、テーブルは座る人数に対してゆったりとしていたため、問題なく全て並べることができた。
アシェルの前にはご飯と納豆と生卵と醤油が置かれる。
エラートの前にはサイコロステーキ定食。ステーキのソースはオニオン醤油ソースだ。
マリクの前にはサバの味噌煮定食。
アークエイドの前には生姜焼き定食が置かれた。
いただきます、という号令をかけ、アシェルは遠慮なく隣の席のアークエイドの定食から少しずつ摘まんでいく。
「ん、いいよ。」
ゴーサインを出すと、アークエイドは食事に手を付け始めた。
お箸を使うのはアシェルとマリク。エラートとアークエイドは器用にナイフとフォークで食べ進めていく。
茶碗蒸しは好むかどうかわからないので二人で一つだが、アシェルは好きだ。
プルンと揺れる薄黄色の茶碗蒸しを口に含み舌鼓を打つ。
「んー出汁が効いてて美味しい。アークも食べて。」
しっかりと優しい出汁の味が口の中に広がり、その美味しさを共有したくてスプーンですくった茶碗蒸しを隣に差し出した。
「……。」
「どうぞ。」
「……もらう。」
ほんのり耳を赤く染めたアークエイドが茶碗蒸しを口に入れたのを見て、感想を求める。
「どう?アークはこの味好き??」
ヒューナイト王国では香辛料やハーブがメインの味付けなので、出汁を利かしている料理は珍しい。
出汁と言えばコンソメのような野菜の旨味というイメージだ。
「ん……うまいと思う。」
「良かった。」
茶碗蒸しを半分食べて器を差し出せば、アークエイドはその器を受け取り続きを食べ始める。
向かいに座る二人も仲良く半分こしていた。
納豆の匂いは嫌がられるかと思ったが、意外とすんなり受け入れられた。
納豆玉子ご飯は、それぞれ一口ずつ食べ一巡して戻ってきた。
「美味しいけどねばねばー。」
「独特だな。でも美味い。」
「糸を引くのが食べにくいが、美味しいとは思う。」
「美味しかったのなら良かったよ。納豆ってすごく好き嫌いの分かれる食材らしいから。」
アシェルはかなり久しぶりの納豆ご飯にご満悦だ。
安くて栄養価の高い納豆は、前世ではかなりお世話になった食材だと言える。
結構な量を注文したのだが、朝の目玉トーストを食べたっきりお昼は食べていなかったので、どんどん料理は胃袋に消えていった。
どの味付けも懐かしさと美味しさで思いの他箸がすすみ、お腹いっぱいだ。
来年には王立学院に入学することになるので、その前の秋の非公式お茶会のあたりで絶対にリリアーデを連れてこようと思いながら、残りの一品料理に手を付ける幼馴染達を見ながらお茶をすする。
お茶も皆で少しずつ較べ飲みして、それぞれ好みのものを選んだ。
アシェルはジャスミン茶、アークエイドがどくだみ茶、マリクが玄米茶、エラートがほうじ茶だ。
のんびり食べている間に陽が落ちてきて、もう夕飯時だ。
入った時にはまばらに埋まっていた席も、今は満員状態でがやがやと賑わっている。
時折どこそこのエリアの魔物が、などと聞こえてくるので、やはり冒険者が多いのだろう。
そんな風に考えていると、急に「きゃっ!」という小さな叫び声が聞こえた。
と同時にガシャーンとグラスの割れる音と、木皿の転がる音がする。
音のした方を見るとピンク髪の少女が床に転んでいる。
そのすぐそばのテーブルの男たちはにやにやしているし、一人の男がゆっくりと何事もなかったかのように足を引っ込めたのを見逃さなかった。
(わざと引っかけられた?)
「おいおい、お嬢ちゃん、なにしてくれてんだぁ?水がかかっちまっただろうが!」
四人組の男たちのうち、足を出していた男の向かい側の、一番強面な男が強い口調で少女を責めた。
「あ、足をひっかけ——。」
「あぁ、なんだと!?」
「ひっ。」
震えながらも出した少女のかぼそい声は、強い威圧を含む声にその先を紡げなくなる。
しんと静まり返る中、男たちの「どう責任取ってもらおうか。」「身体で払えや。」という、恐喝が耳に入ってくる。
見たところ怪我をした様子はなく、ただズボンの裾に水がかかっただけなのにだ。
(どこにでもいるんだな、こういうチンピラって。)
「ねぇ、トラブルに首突っ込んだら怒る?」
女性を食い物にしたような発言と、わざと少女を転ばせたことに苛立ちが隠せず、冷めた声で幼馴染達に確認をとる。
静まり返った店内にはその声がよく響いたが、アシェルは気にしなかった。
わざと聞こえるように言ったのだから。
「あぁん!?」と男たちの怒気が飛んでくる。
「いいんじゃないか。」
「怒らねぇよ。」
「むしろさんせーみたいな?」
「アーク。あの子を僕らのテーブルまで避難させて、怪我がないか診てあげて。」
その言葉を言いながらアシェル達は立ち上がり、すぐそこの件のテーブルまで移動した。
「わざと足を引っかけられて転ばせられたのに、しょうもないいちゃもんつけられて。頭の悪い男どもに絡まれるなんて可哀想だね。」
すっと少女と男たちの間に立ったアシェルが、馬鹿にしたように大袈裟にため息をついてみせれば、分かりやすく男達は挑発に乗ってくれる。
「あぁ、なんだとてめぇ!証拠もねぇのに何言ってやがる!」
「だって見てたから。そこのヤツが足引っかけたところ。」
本当は決定的瞬間は見ていないが、はったりをかければ狼狽える男達。
図星で狼狽えるくらいなら、こんな小芝居しなければいいのにと思ってしまう。
「図星?モテない男はこんなことでしか女性をお誘いできないなんて、残念だね。」
口元だけでクスクス笑ってみせれば、青筋を浮かべた男達が四人とも立ち上がった。
「ガキども、さっきから言わせておけばっ!俺達が誰だか分かってるんだろうな?」
勝ち誇ったような男に、黙っていたマリクが首を傾げて見せる。
ちなみにアークエイドはすでに、少女をテーブルまで避難させていた。
「えー知らないよー?なに、この人たちゆーめーなの?」
「知らねぇよ。」
そこに短く相槌を打つエラート。
当然アシェルもアークエイドも知らない人達だ。
より一層鼻息を荒くする男達が我慢の限界を迎えたのか、大声で怒鳴りつけられる。
「表出ろや!なよっちいガキなんか一瞬で叩きのめしてやるよっ。」
流石に店内で暴れないだけの分別はあったようだが、一触即発といった雰囲気に店内がピリピリしている。
店内で殴り掛かってくるのであれば、魔法で拘束して放り出そうかと思っていた。
男たちの三人が外へ出て、一人はアシェル達を連れて行くと言わんばかりに「早く出ろや!」と急き立ててくる。
「誰が行く?」
「はーい。」
「グローブは?」
「……持ってない。」
「却下。『攻撃力向上』。『防御力向上』。いってらっしゃい。」
「結局俺かよー。言い出しっぺはついてこねぇのかよ。」
「過剰戦力になるでしょ。観戦はしてあげるから。」
元気よく手を挙げたマリクの参戦を却下して、不要とは思いつつもエラートにバフをかける。
アシェルの返答にまぁなーと答えたエラートは、残っていた男を無視してさっさと外へ出ていく。
「はぁ、お前ら馬鹿にしてんのか!?」
残った男が喚くが、どう見ても小物だ。
「あ、僕らも外には出るから、ちょっと待ってね。」
割烹着の女性——この食堂の女将さんの前まで行き、優しい声と笑顔を心掛けて首から外した冒険者証を渡す。
「食い逃げにならないように、こちら、お預けしておきますね。片付いたらまた戻ってきますので。」
「え、えぇ、はい?」
戸惑う女将さんの手にぎゅっとタグを押し付けて、アークエイドと少女の元へ行く。
「大丈夫そう?」
「怪我はないようだ。」
端的に答えたアークエイドの言葉に頷いて、少女に手を差し伸べる。
「お嬢さん。怖いと思うんだけど、一緒に結末を見届けにいこう?大丈夫、君は僕が守るから。」
戸惑ったまま差し出された手を取り、アークエイド、マリクと共に店の前へ出る。
残っていた男も悪態をつきながら店の外へ出た。
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