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第二章 王立学院中等部一年生
93 マリクの発情期①
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Side:アシェル13歳 冬
幼馴染達にアシェルが女であることを伝えたものの、いつもと変わらない日常を送っている。
あの翌日にエラートだけは、頭の中で処理が追い付いていないらしく少し混乱していたようだったが。どうもアシェルが女だった、という事実は封印することにしたようだ。
アシェルとしても変に気を使われるより、男として扱ってもらった方が楽なのでありがたかった。
そんな一月中旬。
いつもと変わらないと思っていたが、そうでもなかったようだ。
「皆おはよー。」
いつもアシェルとアークエイド、イザベルが最初に教室にやってきて、そのあとに他の幼馴染達も登校してくる。
マリクも割と早く来る方なのだが、今日は一番最後だった。
皆が口々に挨拶を返す中、アシェルは違和感を口にした。
「マリク、何に警戒してるの?」
いつもはふんわり垂れているかぶんぶん振られている尻尾はピンと上に上がっているし、三角の耳は落ち着きなくピクピクと動いている。
アシェルが口にしたことで、他の皆も気付いたのだろう。
「ほんとだな。どうしたマリク。」
エラートが心配そうに言った言葉に、マリクの表情がしょんぼりと眉を下げる。
耳や尻尾はそのままで。
「多分、そろそろ発情期なんだと思うんだよねー。あと数日猶予があるかもだし、ないかもしれないー。」
「へぇ、発情期直前に緊張状態になるんだ。マリク、お薬は飲んでないよね。」
「アシェが飲むなって言ったから飲んでないよー。俺、どーしたらいい?」
情けない表情のまま聞いてくるマリク。
対照的にアシェルは、今から指名依頼に取り掛かれることにキラキラと瞳を輝かせていた。
「ベル。今日から籠るから、ご飯よろしくね。前にも言ったけど、寝室の入り口傍に置いてるチェストの上に、手に持って食べやすいご飯置いておいて。あと水差しに水をたっぷりと。錬金に使うから、水道水適当に入れておいてくれたらいいから。あと、幼馴染に限り通して良いし説明を求められたら言っても良いけど、自己責任っていうのだけはしっかり言っておいてね。あ、軽食持ってきた時に、朝だけ日付書いた紙も置いておいてくれる?日にちの感覚無くなりそうだから。よろしくね。」
イザベルに必要な言付けを早口に言いながら、立ち上がったアシェルはマリクを確保する。
「マリクの部屋に寄って、お預かりする挨拶したら僕の部屋に行くから。その緊張状態って、薬が効いてれば起きないの?」
「多分。ある程度なら自分でコントロール出来るって聞いてるー。」
「じゃあ、今日から色々試すからね。」
「アシェル様……お気をつけて。」
心配そうに見送るイザベルに、アシェルはにっこりと笑いかけた。
「気を付けるも何も、今日に向けて準備万端だから大丈夫だよ。じゃ、しばらく授業のノートよろしくね。」
言いたいことだけ言ったアシェルはマリクと一緒に教室を出て行った。
口を挟まなかったアークエイドは、不機嫌さを隠すこともなく小さく溜め息を吐く。
「なぁ、俺の聞き間違いか?発情期って聞こえたような……。」
「まぁ、マリクってハーフだから、獣人のように発情期があってもおかしくないけど。」
「抑制剤飲んでないって言ってなかったか?アシェへの依頼なんだろうけど、大丈夫なのか?」
エラートとノアール、エトワールは、獣人族が発情期に抑制剤を飲んでないことの意味を、正しく理解しているようだった。
対してリリアーデとデュークはきょとんとしている。
「獣人のハーフなんだから、発情期があってもおかしくないでしょう?アシェがどういう依頼を受けてるのか分からないけど、正式にキルル様から依頼を受けてるみたいだし。」
「アシェへの依頼だから薬関係だとは思うが。」
「アシェル様は皆様にお伝えしてもいいとおっしゃいましたが、今、この場で話せる内容ではございません。しばらくしたら、ふらっと登校されるので、出来ればそれまで様子を見て頂いたらいいかと思います。」
イザベルとしては、アシェルの任務の邪魔になりそうなものは極力排除したい。
依頼の成功確認の最終段階で誰か呼び出す必要があるかもしれないが、獣人の発情期の間は出来るだけ人を近づけたくなかった。
「まぁ。イザベルがそう言うなら。」
エラートが答えたところで担任のクライスが教室に入ってきて、ホームルームが始まった。
マリクの部屋で使用人達に挨拶してから、アシェルの自室へと戻ってきた。
「マリク。制服を駄目にしちゃいけないから、一旦全部脱いで、これだけ着てくれる?」
そう言って、マリクの股下まで隠れるほど丈の長いシャツを差し出す。
アシェルにはかなりデカいが、アシェルにも同じサイズものだ。
「わかったー。ごめんね、俺めーわくかけると思うけど。」
「僕は楽しみで仕方ないから良いんだよ。だって、こんなことそうそうないよ?大抵は市販薬で事足りちゃうんだから。あ、脱いだのはテーブルの上に置いておいてね。置いておけばベルが洗濯してくれるから。」
マリクが着替えている隣でアシェルもさっさと制服と肌着を脱ぎ、シャツを頭から被る。
膝丈のワンピースみたいな形で、ボタンをしっかり止めないとはだけそうになるが、これでいい。ずり落ちなければいいだけなのだから。
「アシェも同じの着るのー?」
「うん。首元に布があると邪魔でしょ?」
首を噛まれるのは大前提なので何でもないことのように言いながら、マリクを寝室に案内する。
寝室には少し前から、錬金関連の道具や薬草達を運び込んであった。
ストレージの中の薬草も適切な処理をして、壁一面に並べた整理棚の中に置いてある。
「アシェのきれーな肌を傷つけたくないのになー。寝室の中、色んな匂いがするねー。」
「ふふ、色んな薬草や素材を置いてるからね。マリクの理性が飛ぶ前に発情期の兆候が出て良かったよ。ちょっとだけ躾しようか?」
マリクを寝台に腰掛けさせたアシェルはにこりと微笑んだ。
その手の中には、サイドチェストの上に大量に並べられているマナポーションの一つが握られている。
「躾ー?」
「そう。今からマナポーションを口移しで飲ませて、ついでにキスするから。キスは気持ちいいことだってことだけ覚えて?」
「つまり俺の理性が飛んでも、きもちーことしながら薬飲ませるってことだよねー?」
「そういうこと。」
「いーよー。」
腕を広げて待ち構える腕の中へ入り、マナポーションを半分嚥下して、残りの半分はマリクに口移しで与える。
重ねた唇の隙間に舌を押し込めば、ぎこちないながらも受け入れてくれたので、液体をゆっくり流し込む。
コクコクッとマリクが呑み込んだのを確認してから、舌を絡めていく。
アシェルの背中に回された腕にギュッと力が入った。
舌を絡めるついでに、唾液に魔力を乗せてマリクの身体の中を診ていく。
マナポーションの働きを阻害しないようにマリクの魔力の形を覚える。
もしマリクが発情期で手に負えなくなったら、身体強化だけでも封じるために、この魔力の流れを阻害してやらなくてはいけない。
濃厚なキスをしながら、魔力回路を効率よく塞き止められそうなポイントに目星を付けていく。
十分すぎる程にアシェルの魔力を流したので、マナポーションが効くまで、しばらくマリクは魔法が使えないだろう。
しっかりと下調べをし、マリクの表情も蕩けたのを見て唇を離す。
マリクの舌が名残惜しそうに追いかけてきたので、チュッと啄むキスで終わりを告げた。
「はぁ……はぁ……アシェ、すごいねー。ほんとーに気持ちよかったー。尻尾の付け根のとこ、ゾクゾクってなったもんー。」
可愛い感想を言いながら、アシェルの胸元にぐりぐりと頭を押し付けてくる青灰色の髪を撫でてやる。
いつもはぶんぶんと嬉しそうに揺れる尻尾は、今日はぴんと立ったまま動くつもりはないらしい。
「尻尾の付け根って触っちゃダメなところでしょ?」
初めての非公式お茶会の時に、まだもこもこだった人化のできていないマリクを触らせてもらった事がある。
確かその時に、尻尾の付け根だけは触らないでと言われていたのだ。
「うん。敏感なところだからー。あーでも、はつじょーき中ならアシェは触ってもいーよー?」
「今は?」
「アシェに襲い掛かってもいーなら、触ってもいーけど?」
マリクの言葉を聞いたアシェルは悩む。
つまりは性感帯ということだと思うが、発情期中はもう理性が飛んでいるから触られても気持ちいいだけで関係ないということだろうか。
じゃあ今のように理性がある状態で、その性感帯を刺激したら。ただ欲情するだけなのか、理性まで飛ばしてしまって発情期に入るのか。
「嫌がるかと思ったのに悩むんだねー。アシェの眼が、どーなるか知りたいって言ってるー。」
「だって、普段は触っちゃいけないものへのお触りの許可を貰ったんだよ?やっぱり興味あるじゃない。まぁでも、少し投薬してからかな。ねぇ、マリク。今、身体強化使える?」
「……んーん。使えないねー。アシェがさっき流した魔力が邪魔してくる感じー。」
しょんぼりとした声なのに、耳と尻尾に感情が出てないのは違和感しか感じない。
よしよしと頭を撫でてやりながら、今からの計画を話す。
「今からいくつかの素材を煎じて飲んでもらうね。毎回解毒はするから、しばらく身体強化は使えないと思って?発情期の間も必要なら、もっと徹底的に魔力回路使えなくするつもりだからよろしくね。」
「アシェじゃないんだから、俺じゃこれでも無理だよー。」
「本能で使われたら、僕なんてあっという間に組み敷かれちゃうよ。」
笑いながらマリクの腕の中からするりと抜け出し、壁際からいくつか薬草を持ってくる。
今回の為に用意した、長テーブルの上に置いてある術式を刻んだ大理石に魔力を通す。
その上に薬草の種類の数だけビーカーを置き、水差しから水を注いでいく。
それぞれに薬草を入れて、後は待つだけだ。
「ねーその石板。アシェお手製ー?」
マリクは煎じている薬草よりも魔道具の方が気になるらしい。
「あぁ、これ?うん。この前の魔道コンロの改良版かな。普段はアルコールランプを使うんだけど、今回の依頼は火を使って万が一火事になるといけないからね。この上に乗せたものを加熱できるようにしてあるんだ。仕組み的に金属が必要だから、ビーカーの底は加工してあるよ。」
原理としては、IHクッキングヒーターをイメージして術式を組んでいるので、火が無くても十分な加熱が出来るようになっている。
ミトンを着けて沸騰したものから、横に置いてある冷却装置に並べていく。
冷却装置といっても冷蔵庫の改良版のようなものだ。
水を張った空間を冷やすようにしてあって、その水の中にビーカーを並べていく。
熱量が多ければ氷を足せばいいし、そうでなければこれで常温程度まで下がる予定だ。
本当はサーモグラフィー的なものまで用意したかったのだが、カメラが作れてもそれを処理して出力するものがないので、統合的に無理だと判断した。
どういった仕組みのモノか知っていても細かい造りや原理を知らないので、求める効果を得るためにはじっくり腰を据えて開発する必要があるだろう。
少なくとも一朝一夕に出来る物ではない。
ビーカーを触っても問題ない状態まで冷やしたら取り出す。
そのビーカーの上に目の細かい網を乗せて、おちょこに液体だけを注ぐ。
残った中身はゴミ箱に入れて、ビーカーはあとでクリーンをかけるため洗い物用のカゴの中だ。
「それ飲めばいーの?」
スッとマリクが手を出してくるが、素直に飲ませる気はない。
「お薬飲むときは、毎回口移し。解った?」
「解ったけど、もしかして俺、試されてるー?きもちーことされてるのに、オアズケなんだけどー。」
「どうせ発情期に入ったらずっとやりっぱなしでしょ。一通り試したら尻尾の付け根も触っておきたいし、コレの後なら相手してあげるから。」
一つ目のおちょこの中身を口に含み、マリクにチュッと口付けて先程と同じように飲ませる。
舌を絡めつつ魔力を通して観察だ。
たっぷりと舌を絡めて、きっちり観察と解毒までし終えたアシェルは、マリクの腕の中でメモを魔力で手繰り寄せて所見を書き込む。
マリクの首に抱き着くようにして一心不乱にペンを滑らせるアシェルを、マリクは邪魔にならないように注意しながらギュッと抱きしめた。
「アシェがじょーずすぎて、我慢するのつらいー。」
「……これが……。あ、我慢するの辛いなら、自家発電してもらっていいよ。汚れても気にしなくて良いから。」
メモする手を止めずに、マリクの肩に頭と腕を乗せたまま答える。
「自家発電ってなにー?」
「自慰、オナニー、マスターベーション、手淫。どれか聞き覚えは?」
反応が返ってこないのでマリクの表情を見ると一生懸命考えているようだ。
それは知らないということだろう。
幼馴染達にアシェルが女であることを伝えたものの、いつもと変わらない日常を送っている。
あの翌日にエラートだけは、頭の中で処理が追い付いていないらしく少し混乱していたようだったが。どうもアシェルが女だった、という事実は封印することにしたようだ。
アシェルとしても変に気を使われるより、男として扱ってもらった方が楽なのでありがたかった。
そんな一月中旬。
いつもと変わらないと思っていたが、そうでもなかったようだ。
「皆おはよー。」
いつもアシェルとアークエイド、イザベルが最初に教室にやってきて、そのあとに他の幼馴染達も登校してくる。
マリクも割と早く来る方なのだが、今日は一番最後だった。
皆が口々に挨拶を返す中、アシェルは違和感を口にした。
「マリク、何に警戒してるの?」
いつもはふんわり垂れているかぶんぶん振られている尻尾はピンと上に上がっているし、三角の耳は落ち着きなくピクピクと動いている。
アシェルが口にしたことで、他の皆も気付いたのだろう。
「ほんとだな。どうしたマリク。」
エラートが心配そうに言った言葉に、マリクの表情がしょんぼりと眉を下げる。
耳や尻尾はそのままで。
「多分、そろそろ発情期なんだと思うんだよねー。あと数日猶予があるかもだし、ないかもしれないー。」
「へぇ、発情期直前に緊張状態になるんだ。マリク、お薬は飲んでないよね。」
「アシェが飲むなって言ったから飲んでないよー。俺、どーしたらいい?」
情けない表情のまま聞いてくるマリク。
対照的にアシェルは、今から指名依頼に取り掛かれることにキラキラと瞳を輝かせていた。
「ベル。今日から籠るから、ご飯よろしくね。前にも言ったけど、寝室の入り口傍に置いてるチェストの上に、手に持って食べやすいご飯置いておいて。あと水差しに水をたっぷりと。錬金に使うから、水道水適当に入れておいてくれたらいいから。あと、幼馴染に限り通して良いし説明を求められたら言っても良いけど、自己責任っていうのだけはしっかり言っておいてね。あ、軽食持ってきた時に、朝だけ日付書いた紙も置いておいてくれる?日にちの感覚無くなりそうだから。よろしくね。」
イザベルに必要な言付けを早口に言いながら、立ち上がったアシェルはマリクを確保する。
「マリクの部屋に寄って、お預かりする挨拶したら僕の部屋に行くから。その緊張状態って、薬が効いてれば起きないの?」
「多分。ある程度なら自分でコントロール出来るって聞いてるー。」
「じゃあ、今日から色々試すからね。」
「アシェル様……お気をつけて。」
心配そうに見送るイザベルに、アシェルはにっこりと笑いかけた。
「気を付けるも何も、今日に向けて準備万端だから大丈夫だよ。じゃ、しばらく授業のノートよろしくね。」
言いたいことだけ言ったアシェルはマリクと一緒に教室を出て行った。
口を挟まなかったアークエイドは、不機嫌さを隠すこともなく小さく溜め息を吐く。
「なぁ、俺の聞き間違いか?発情期って聞こえたような……。」
「まぁ、マリクってハーフだから、獣人のように発情期があってもおかしくないけど。」
「抑制剤飲んでないって言ってなかったか?アシェへの依頼なんだろうけど、大丈夫なのか?」
エラートとノアール、エトワールは、獣人族が発情期に抑制剤を飲んでないことの意味を、正しく理解しているようだった。
対してリリアーデとデュークはきょとんとしている。
「獣人のハーフなんだから、発情期があってもおかしくないでしょう?アシェがどういう依頼を受けてるのか分からないけど、正式にキルル様から依頼を受けてるみたいだし。」
「アシェへの依頼だから薬関係だとは思うが。」
「アシェル様は皆様にお伝えしてもいいとおっしゃいましたが、今、この場で話せる内容ではございません。しばらくしたら、ふらっと登校されるので、出来ればそれまで様子を見て頂いたらいいかと思います。」
イザベルとしては、アシェルの任務の邪魔になりそうなものは極力排除したい。
依頼の成功確認の最終段階で誰か呼び出す必要があるかもしれないが、獣人の発情期の間は出来るだけ人を近づけたくなかった。
「まぁ。イザベルがそう言うなら。」
エラートが答えたところで担任のクライスが教室に入ってきて、ホームルームが始まった。
マリクの部屋で使用人達に挨拶してから、アシェルの自室へと戻ってきた。
「マリク。制服を駄目にしちゃいけないから、一旦全部脱いで、これだけ着てくれる?」
そう言って、マリクの股下まで隠れるほど丈の長いシャツを差し出す。
アシェルにはかなりデカいが、アシェルにも同じサイズものだ。
「わかったー。ごめんね、俺めーわくかけると思うけど。」
「僕は楽しみで仕方ないから良いんだよ。だって、こんなことそうそうないよ?大抵は市販薬で事足りちゃうんだから。あ、脱いだのはテーブルの上に置いておいてね。置いておけばベルが洗濯してくれるから。」
マリクが着替えている隣でアシェルもさっさと制服と肌着を脱ぎ、シャツを頭から被る。
膝丈のワンピースみたいな形で、ボタンをしっかり止めないとはだけそうになるが、これでいい。ずり落ちなければいいだけなのだから。
「アシェも同じの着るのー?」
「うん。首元に布があると邪魔でしょ?」
首を噛まれるのは大前提なので何でもないことのように言いながら、マリクを寝室に案内する。
寝室には少し前から、錬金関連の道具や薬草達を運び込んであった。
ストレージの中の薬草も適切な処理をして、壁一面に並べた整理棚の中に置いてある。
「アシェのきれーな肌を傷つけたくないのになー。寝室の中、色んな匂いがするねー。」
「ふふ、色んな薬草や素材を置いてるからね。マリクの理性が飛ぶ前に発情期の兆候が出て良かったよ。ちょっとだけ躾しようか?」
マリクを寝台に腰掛けさせたアシェルはにこりと微笑んだ。
その手の中には、サイドチェストの上に大量に並べられているマナポーションの一つが握られている。
「躾ー?」
「そう。今からマナポーションを口移しで飲ませて、ついでにキスするから。キスは気持ちいいことだってことだけ覚えて?」
「つまり俺の理性が飛んでも、きもちーことしながら薬飲ませるってことだよねー?」
「そういうこと。」
「いーよー。」
腕を広げて待ち構える腕の中へ入り、マナポーションを半分嚥下して、残りの半分はマリクに口移しで与える。
重ねた唇の隙間に舌を押し込めば、ぎこちないながらも受け入れてくれたので、液体をゆっくり流し込む。
コクコクッとマリクが呑み込んだのを確認してから、舌を絡めていく。
アシェルの背中に回された腕にギュッと力が入った。
舌を絡めるついでに、唾液に魔力を乗せてマリクの身体の中を診ていく。
マナポーションの働きを阻害しないようにマリクの魔力の形を覚える。
もしマリクが発情期で手に負えなくなったら、身体強化だけでも封じるために、この魔力の流れを阻害してやらなくてはいけない。
濃厚なキスをしながら、魔力回路を効率よく塞き止められそうなポイントに目星を付けていく。
十分すぎる程にアシェルの魔力を流したので、マナポーションが効くまで、しばらくマリクは魔法が使えないだろう。
しっかりと下調べをし、マリクの表情も蕩けたのを見て唇を離す。
マリクの舌が名残惜しそうに追いかけてきたので、チュッと啄むキスで終わりを告げた。
「はぁ……はぁ……アシェ、すごいねー。ほんとーに気持ちよかったー。尻尾の付け根のとこ、ゾクゾクってなったもんー。」
可愛い感想を言いながら、アシェルの胸元にぐりぐりと頭を押し付けてくる青灰色の髪を撫でてやる。
いつもはぶんぶんと嬉しそうに揺れる尻尾は、今日はぴんと立ったまま動くつもりはないらしい。
「尻尾の付け根って触っちゃダメなところでしょ?」
初めての非公式お茶会の時に、まだもこもこだった人化のできていないマリクを触らせてもらった事がある。
確かその時に、尻尾の付け根だけは触らないでと言われていたのだ。
「うん。敏感なところだからー。あーでも、はつじょーき中ならアシェは触ってもいーよー?」
「今は?」
「アシェに襲い掛かってもいーなら、触ってもいーけど?」
マリクの言葉を聞いたアシェルは悩む。
つまりは性感帯ということだと思うが、発情期中はもう理性が飛んでいるから触られても気持ちいいだけで関係ないということだろうか。
じゃあ今のように理性がある状態で、その性感帯を刺激したら。ただ欲情するだけなのか、理性まで飛ばしてしまって発情期に入るのか。
「嫌がるかと思ったのに悩むんだねー。アシェの眼が、どーなるか知りたいって言ってるー。」
「だって、普段は触っちゃいけないものへのお触りの許可を貰ったんだよ?やっぱり興味あるじゃない。まぁでも、少し投薬してからかな。ねぇ、マリク。今、身体強化使える?」
「……んーん。使えないねー。アシェがさっき流した魔力が邪魔してくる感じー。」
しょんぼりとした声なのに、耳と尻尾に感情が出てないのは違和感しか感じない。
よしよしと頭を撫でてやりながら、今からの計画を話す。
「今からいくつかの素材を煎じて飲んでもらうね。毎回解毒はするから、しばらく身体強化は使えないと思って?発情期の間も必要なら、もっと徹底的に魔力回路使えなくするつもりだからよろしくね。」
「アシェじゃないんだから、俺じゃこれでも無理だよー。」
「本能で使われたら、僕なんてあっという間に組み敷かれちゃうよ。」
笑いながらマリクの腕の中からするりと抜け出し、壁際からいくつか薬草を持ってくる。
今回の為に用意した、長テーブルの上に置いてある術式を刻んだ大理石に魔力を通す。
その上に薬草の種類の数だけビーカーを置き、水差しから水を注いでいく。
それぞれに薬草を入れて、後は待つだけだ。
「ねーその石板。アシェお手製ー?」
マリクは煎じている薬草よりも魔道具の方が気になるらしい。
「あぁ、これ?うん。この前の魔道コンロの改良版かな。普段はアルコールランプを使うんだけど、今回の依頼は火を使って万が一火事になるといけないからね。この上に乗せたものを加熱できるようにしてあるんだ。仕組み的に金属が必要だから、ビーカーの底は加工してあるよ。」
原理としては、IHクッキングヒーターをイメージして術式を組んでいるので、火が無くても十分な加熱が出来るようになっている。
ミトンを着けて沸騰したものから、横に置いてある冷却装置に並べていく。
冷却装置といっても冷蔵庫の改良版のようなものだ。
水を張った空間を冷やすようにしてあって、その水の中にビーカーを並べていく。
熱量が多ければ氷を足せばいいし、そうでなければこれで常温程度まで下がる予定だ。
本当はサーモグラフィー的なものまで用意したかったのだが、カメラが作れてもそれを処理して出力するものがないので、統合的に無理だと判断した。
どういった仕組みのモノか知っていても細かい造りや原理を知らないので、求める効果を得るためにはじっくり腰を据えて開発する必要があるだろう。
少なくとも一朝一夕に出来る物ではない。
ビーカーを触っても問題ない状態まで冷やしたら取り出す。
そのビーカーの上に目の細かい網を乗せて、おちょこに液体だけを注ぐ。
残った中身はゴミ箱に入れて、ビーカーはあとでクリーンをかけるため洗い物用のカゴの中だ。
「それ飲めばいーの?」
スッとマリクが手を出してくるが、素直に飲ませる気はない。
「お薬飲むときは、毎回口移し。解った?」
「解ったけど、もしかして俺、試されてるー?きもちーことされてるのに、オアズケなんだけどー。」
「どうせ発情期に入ったらずっとやりっぱなしでしょ。一通り試したら尻尾の付け根も触っておきたいし、コレの後なら相手してあげるから。」
一つ目のおちょこの中身を口に含み、マリクにチュッと口付けて先程と同じように飲ませる。
舌を絡めつつ魔力を通して観察だ。
たっぷりと舌を絡めて、きっちり観察と解毒までし終えたアシェルは、マリクの腕の中でメモを魔力で手繰り寄せて所見を書き込む。
マリクの首に抱き着くようにして一心不乱にペンを滑らせるアシェルを、マリクは邪魔にならないように注意しながらギュッと抱きしめた。
「アシェがじょーずすぎて、我慢するのつらいー。」
「……これが……。あ、我慢するの辛いなら、自家発電してもらっていいよ。汚れても気にしなくて良いから。」
メモする手を止めずに、マリクの肩に頭と腕を乗せたまま答える。
「自家発電ってなにー?」
「自慰、オナニー、マスターベーション、手淫。どれか聞き覚えは?」
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