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第四章 王立学院中等部三年生
272 記憶の欠片④
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Side:アシェル14歳 秋
午後の勉強は主にサーニャが教師役となって、まずは文字を覚えることから始まった。
これに関してはローマ字読みで、文字もアルファベットを少し装飾したような形だったのですぐに覚えることが出来た。
平民が学校に行くことはほぼないが、生活に必要なため親が教えたりするので、識字率は割と高いらしい。
それからヒューナイト王国の地図が出てきて、地方名と今いる王都の場所。今度は綺麗な円形の城壁に囲まれているらしい王都の地図。
地方も王都内も綺麗にエリア分けされていて、作り物の図面のように感じた。
本当にこんな風に真っ直ぐなのか、地図上は便宜的にそう描かれているのか見てみたいと思ってしまったくらいだ。
続いて分厚い貴族名鑑なるものが目の前に置かれ、各地方の名前についている王族と公爵家、辺境伯爵家について説明を受ける。
最低限当主と家紋、王立学院に通っていたりアシェルが面識のある高位貴族は知っていたほうが良いという配慮だ。
それぞれの家の子供達が、まさかのほぼ同学年で幼馴染。もしくは生徒会役員として面識のある人たちだったことが分かる。
というよりも、生徒会役員になれるのがそもそも高位貴族なので、必然と顔見知りになる確率が高いらしい。
もちろん学院に通っている高位貴族でも、アシェルと面識のない人間もいた。
そこから生徒会が普段どんなことをしているのか、王立学院ではどんな授業があって、アシェルが何を選択しているのか。
そういった身近なことを教えてくれる。それはアークエイドとイザベルが担当だった。
メアリーからお茶会に呼ばれることは無く、お茶の時間には気遣わずゆっくり過ごしてというメッセージカードと共に、一口大のチョコレートがいくつも入った箱が持ってこられた。
そもそもメアリーと食事以外で同席することはまずないらしく、心配だけれど今は普段やっていたことをなぞって、少しでも記憶を取り戻すべきだとの配慮ではないかということらしい。
本来の貴族令嬢は、このタイミングで母親や兄弟とお茶会するんだとか。
なんというか、兄妹とは親密そうだが、母親は義理とはいえ両親との関係は少し希薄だと感じた。
それとも、義理の母親とはこういうものなのだろうか。アシェルには普通の家庭が分からないので、正解が分からない。
そのタイミングで実技を兼ねたお茶会の時間になり、ついでに食事のマナーについても口頭説明を受けた。
この辺りは特殊なことは無さそうで、お茶会は客人を招く場合は作法や流行があるが、家族でする分には使用人達が用意するので基本的に気にしなくて良いと。
さらには普段からアシェルは流行には疎いので、その辺りはイザベルに任せてくれと言われた。アシェルも薫と一緒で、流行り廃りに興味がないらしい。
一服した後は授業のノートや教科書と共に復習。というか、アシェルは覚え直し。
詳しく掘り下げるには時間が足りないので、教科書とノートを読んで照らし合わせるだけの作業をした。
そうやっていると意外と授業風景が思い出されるもので、忘れたことを覚え直すというか、思い出しながら学習するのも楽しいと感じた。
普段なら興味のない学業は、二度目をするのが苦痛だった。何故周りの人間が、一度習ったことを覚えていないのかよく分からなかったからこそだったのかと、今この状況だからこそ思う。
そんな感じでとにかく知識を詰め込みまくった午後が終わり、夕飯を家族で摂り、今日はどんなことをしていたのかを家族に報告する。ある程度思い出したことについても概要だけを伝えた。
少しでも進展があることを、家族は口々に喜んでくれる。温かい食事の時間だった。
夕食の後は部屋で食後の一服をし、そのあと入浴した。
どうやら貴族というものは、折を見て紅茶や果実水を口にするようである。
お風呂にはイザベルがついてきて、全身を洗われて湯船に入れられ、果実水と一緒にしばらく放置され。
茹蛸になりそうだと思っているとイザベルが戻ってきて、浴室にあるマッサージベッドでオイルマッサージを受ける。
身体を洗うのは自分でという攻防戦は、既に昨夜やってアシェルは敗北していた。
きっと口喧嘩でイザベルに勝てることはないんじゃないだろうか。
少し恥ずかしいが、イザベルにしてもらう洗髪は頭皮マッサージもしてくれて物凄く気持ち良いし、湯船から上がった後のマッサージも極上だった。
物凄く申し訳ないと思ったのだが、貴族令嬢はお世話をされることが仕事です、とイザベルに言い切られてしまう。
それはイザベルもでは?と思うのだが、公爵令嬢と伯爵令嬢、しかもメイドを同列にしないで欲しいとも言われた。
使用人にかけるお金も、身の回りの品にかける金額も品質も全然違う上に、周囲がその令嬢に求めるレベルも変わるのだからと。
お風呂上りも大人しくスキンケアをされ、髪を乾かしてもらい、長い時間をかけて寝支度が終わる。
イザベルが一人で全てをやってしまうので、お任せしているアシェルは楽だが、イザベルは大変ではないかと思って様子を伺った。
そこには果実水を給仕し終えて壁際に戻っているが、普段から毎日でもやりたいフルコースのお手入れをやりきったことに満足と達成感を抱いているイザベルが立っていた。
嬉しそう、楽しそうということだけ感じ、アシェルはメイドさんって大変だけど仕事の成果が目に見えるから良いなとも思った。
薫がやっていた書類仕事はやってもやっても新しいものが増え、中には他の人がやった仕事のやり直しもあった。
元となる資料の数字が間違っていることも多く、気付けば修正を任され更に仕事が増える。
そもそも、薫の眼から見たら本当に必要なのか分からないような書類も沢山あった。
あの時の薫は、薫のような人間をようやく雇ってくれた会社だったので、何一つ文句も言わず。転職すら考えずに、薄給でやりがいもないのに働いていた。
でも今、全く違う人生を歩んで。色が溢れている世界を見て。
薫が色のない世界に居たのは、薫自身のせいでもあったのかもしれないと思った。
働き出してお金があったのだから、何か自分がやりたいこと、興味を持てるものを探せばよかったのだ。
それが趣味でも仕事でも、咲と健斗が傍に居なくても色に溢れた世界を見ることが出来たかもしれない。
アシェルは家系的にも医師家系で、薬草園を周ることで沢山の記憶の欠片を手に入れた。
それはそれだけアシェル自身が興味を持って覚えていたものだということで。
興味のあること、楽しいことが在るからこそ、アシェルはこんなにも色に溢れた世界で過ごすことが出来るのだと思う。
生まれ変わったのだという自覚と思い出と、薫自身の意識とが喧嘩をしている気がする。
他人とは違う生活と環境だったが、薫の人生は幸せだったと。今でもそう思っている。
でも、もし少しでも。
ほんの少しでも今のアシェルが置かれている環境を傍で見ていたら。
薫は自分の人生を幸せだったと思うことが出来たのだろうかと。
(咲と健斗に会いたい……声だけでも聴きたい……。ねぇ、私はどうしたらいいの……。二人なら、きっと私のこの思いを理解してくれる。家族として楽しく一緒に過ごして、ちゃんと薫は幸せだったでしょって言ってくれる。)
そしてきっと、今の薫が置かれた状況を羨ましがってくれるのだ。
咲だったら変わってって言うかもしれない。
あぁでもそれだと、健斗との結婚生活が送れなくなるのか。
咲だったら異世界転生や転移をできる機会と、健斗と家庭を持つことと。
選べと言われたらどちらを選ぶのだろうか。
咲のことだから、健斗も一緒に連れて行けと神様を怒鳴りつけそうだ。
知らず知らずにソファに体操座りになり、柔らかい生地のネグリジェごとぎゅっと自分の身体を抱きしめていた。
考えても仕方のないことから逃れる様に、咲と健斗だったらどうするかと思いをはせる。
ぼーっとローテーブルに焦点の合わない視線を送るアシェルを見て、イザベルは声をかけるべきか迷っていた。
涙は流さなかったが、何かを考えている様子から少し悲しそうになり、今の体勢になったと思ったら、表情も感情も抜け落ちたようになってしまったアシェル。
以前の。
アシェルが薫の記憶を思い出す前に時折感じた、アシェルがどこか違うところに行ってしまうような。イザベルの目の前から消えてしまいそうな不安が鎌首をもたげる。
今イザベルが声を掛けたら、いつものアシェルのように何事も無かったかのような笑顔が返ってくるのだろうか。
それとも今考えていることを口にしてくれるだろうか。
もしくは一人きりではない時に弱い姿を見せてしまったと、自己嫌悪に浸らせてしまうだろうか。そして余計に気を張った生活をするのだろうか。
悩んだ末に、イザベルは侍女として。
主の様子は見守りつつも、空気で居ることに徹した。
どう考えても三番目になりそうな気がしたからだ。
アシェルは自分の弱いところを他人に見せるのを嫌う。
どれだけハードなレッスンを受けても、身体に傷を作っても、恐らく熱がでたようであっても。笑って大丈夫だというのだ。
イザベルが不安を抱いたままアシェルを見守っていると、コンコンと扉を叩く音がした。
廊下からサーニャがアークエイドの来訪を告げる。
「アシェル様、お入り頂いて宜しいですか?」
ぱっと姿勢を正したアシェルに、イザベルがお伺いを立ててくる。
「えぇ、大丈夫よ。今日もアークはお泊りなのね。」
別に裸でも何でもないのだし、ノックして普通に入ってきてもらって構わないのだが、どうも部屋の主の許可がいるらしい。
薫には大部屋で暮らしていたか一人暮らしの記憶しかないので、自室への来訪者へ許可を出すのも不思議な感じだなと思ってしまった。
それでも確かに必要な事だなとも。
イザベルがアシェルの、薫らしいが入浴前と変わらない様子に安堵したことには気付かず。
アシェルは寝支度を終えたアークエイドと、そのお世話に回っていたらしいサーニャを部屋に招き入れた。
招き入れたと言っても、ドアの開閉や給仕はイザベルが全てやったので、アシェルは許可を出していらっしゃいと言っただけである。
「悪いが、今日も世話になる。」
「一緒のお布団に寝るだけで、お世話をしてるのはベルたちだから。私は何もしてないわ。」
「だが、部屋の主はアシェだろ?明日はどうする?何かしたいこととか、気になることはあるか??」
当たり前のようにアシェルにピッタリと寄り添って座ったアークエイドと言葉を交わす。
「やりたいこと……。王都の中を、歩いてみたい。馬車じゃなくて、自分の足で。きっと……記憶が全部戻ったら、新鮮さが無くなってしまうと思うから。今だからこそ感じることを、感じてみたい。」
断片的な記憶を思い出しても、まだその欠片たちは繋がり切っていない。
もしかしたら何か欠片が見つかるかもしれない。
見つからないかもしれない。
でもそんなこと関係なく。
日本ではない異世界に居るのだという実感が、もっと欲しかった。
二人ならどう感じるかなと考えながら、異世界の空気を楽しんでみたいと思った。
そして土産話にするのだ。
この世界で死んで、魂が咲と健斗と同じ場所に行けるのか分からないが。
もし会えたら、アシェルという新しい人生を。不思議な経験と日常を。薫がこんなに喋るなんて珍しいと二人が口にするまで、たっぷりと話して聞かせるのだ。
そう目的を持って歩き回れば、きっとアシェルには見慣れた景色だったとしても。
どうでも良いこととして記憶に残っていたとしても、楽しめるだろうと思うから。
「市井を歩くなら、メイディー卿の許可が要るな。サーニャ、メイディー卿が起きているか。確認を取ってもらえるか?」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」
アークエイドの言葉でサーニャが出て行き、アシェルは我儘を言ってしまっただろうかと表情を曇らせた。
貴族令嬢とは、気ままに街歩きをすることも叶わないらしい。
「アシェ、どうした?さすがに今からメイディー卿に会うのは嫌か??アシェの父親だが、今のアシェからしたら——。」
「違うの。お父様のことは、ちゃんと父親だって認識してる。いつもベビーベッドを覗きに来てくれてたから。そのことは覚えてるから。」
「じゃあどうして不安そうな顔をした?」
何故アシェルが不安だと分かったのかと思いつつ、些細な変化であっただろう表情の変化に気付いたアークエイドに答えを返す。
「我儘を、言ってしまったかと思って。街歩きに親の許可が要るって知らなかったから。」
「我儘でもなんでもない、気にするな。アシェが普段からメイディー卿の許可を得て出かけてるわけじゃない。特殊な事情がある時は別だろうがな。今はその特別な事情だから、念のためメイディー卿に許可を取るだけだ。記憶喪失の娘が、覚えていない街中に出掛けようとしている。親として知らないと、不安になってしまうだろ?」
「あ……そうね。必要だわ。」
「不自由なのは今だけだ。記憶が戻ったら、メイディー卿への報告や許可を得るかどうかはアシェの思う様にしたらいい。今は俺やイザベルがフォローして、何が必要か伝える。だから迷惑だとか我儘だとか考えず、まずはアシェが何をしたいか、何を考えてるかを教えて欲しい。」
「分かった。そうね、私じゃ判断できないこともあると思うから。お願いするわ。なるべく言葉にする。」
こくっとアシェルが頷けば、アークエイドは安堵したのか柔らかく微笑んだ。
とても珍しい分かりやすい笑顔だなと思っていると、サーニャが戻ってきてアベルの元へ案内してくれるという。
履き慣れないスリッパを引っかけ、そのまま扉に向かったアシェルの肩が両方とも掴まれた。
「アシェル様。一つお聞きしたいのですが。そのまま何処にいくおつもりですか?」
「まさかとは思うが、ネグリジェ一枚で廊下に出るつもりじゃないよな?」
イザベルとアークエイドの、ちょっぴり怒りを含んだような声に、何か叱られるようなことをしただろうかと首を傾げる。
「だめ、なの?風邪を引くほど寒く無いし。髪の毛もしっかり乾いてるよ?」
「そんなことは関係ありません。本来ならお着替えしていただくところですが、着替えないとしても最低限ガウンを羽織って、しっかりと前を閉めてから部屋を出てくださいませ。あくまでもお邸ではですからね。寮では廊下に出る時には、寝間着ででたりしないでくださいませ。」
言いながら着せられた丈の長いガウンを着こんで、しっかりと前を閉じる。
部屋は空調が整っているので過ごしやすいが、ガウン一枚羽織るだけで少し暑いと感じる。
「外じゃなくて家の中なのに?それに、お父様に。家族に会いに行くだけよ。」
「家族であっても、普通は寝間着で親兄弟に会うことは無い。異性なら特にだ。今日のように必要な時は、着替えてから会うか。もしくはイザベルの言う様に、しっかりとガウンを着てからだ。」
「別に閨事の相手に——ならないのに?」
ほんの少し言い淀んでしまったが、普通は娘や姉妹を性的な対象にはしないはずだと。
そんな人たちばかりではないはずだと思い、言葉を言い切った。
絶対にないとは言い切れないが、濁して根掘り葉掘り聞かれる方が心配されそうだし厄介そうだと思ったからだ。
「そういう問題じゃないんだ。淑女として恥じらいや慎みを持ってくれ……。」
家族の前に寝間着で出ることの何が問題なのだろうかと思うが、二人の反応からするに問題があるらしい。
「そう。こちらの人は寝間着で人に会うのは恥ずかしいのね。スウェットでコンビニなんて、きっとあり得ないわね。」
「それは?」
「スウェットっていうのは、寝間着みたいな部屋着みたいなもの。コンビニは24時間やってる商店。って言えば分かるかしら?大体どこにでもあるから、ちょっとお菓子欲しいなとか。飲み物欲しいなとかで、夜中にお買い物に出ることがあるの。職場の人が、お風呂上がりで濡れたままの髪の毛の人を見たことがあるとも言ってたわ。私は仕事帰りに寄っていたから、したことないけど。」
アシェルが説明すると、明らかに二人の表情が曇った。
「アシェル様……そもそも夜間出歩くことは好ましくありません。それに夜間に開いている商店もございませんし。ですが、アシェル様とリリアーデ様の抵抗のなさが、ようやく理解できた気がします。そういう風土でお育ちになったのですね。こちらでは、まず夜間に出かけようとはなりませんから。」
「寝間着じゃなく、部屋着で外出もあり得ないからな。外出の時は行き先に合わせて服装も変わる。まぁそこについては、イザベルが居れば合わせてくれるはずだ。」
はぁと盛大なため息を吐いた二人に連れられて、先導するサーニャの後ろを歩いていく。
ちなみにその光景をサーニャはにこにこと見守っているだけで、良いとも悪いとも口を挟むことは無かった。
——サーニャにとっては、アシェルが小さい頃から何度も繰り返した押し問答の一つにすぎず。ようやくそう思っていた理由が聞けて満足だった。
午後の勉強は主にサーニャが教師役となって、まずは文字を覚えることから始まった。
これに関してはローマ字読みで、文字もアルファベットを少し装飾したような形だったのですぐに覚えることが出来た。
平民が学校に行くことはほぼないが、生活に必要なため親が教えたりするので、識字率は割と高いらしい。
それからヒューナイト王国の地図が出てきて、地方名と今いる王都の場所。今度は綺麗な円形の城壁に囲まれているらしい王都の地図。
地方も王都内も綺麗にエリア分けされていて、作り物の図面のように感じた。
本当にこんな風に真っ直ぐなのか、地図上は便宜的にそう描かれているのか見てみたいと思ってしまったくらいだ。
続いて分厚い貴族名鑑なるものが目の前に置かれ、各地方の名前についている王族と公爵家、辺境伯爵家について説明を受ける。
最低限当主と家紋、王立学院に通っていたりアシェルが面識のある高位貴族は知っていたほうが良いという配慮だ。
それぞれの家の子供達が、まさかのほぼ同学年で幼馴染。もしくは生徒会役員として面識のある人たちだったことが分かる。
というよりも、生徒会役員になれるのがそもそも高位貴族なので、必然と顔見知りになる確率が高いらしい。
もちろん学院に通っている高位貴族でも、アシェルと面識のない人間もいた。
そこから生徒会が普段どんなことをしているのか、王立学院ではどんな授業があって、アシェルが何を選択しているのか。
そういった身近なことを教えてくれる。それはアークエイドとイザベルが担当だった。
メアリーからお茶会に呼ばれることは無く、お茶の時間には気遣わずゆっくり過ごしてというメッセージカードと共に、一口大のチョコレートがいくつも入った箱が持ってこられた。
そもそもメアリーと食事以外で同席することはまずないらしく、心配だけれど今は普段やっていたことをなぞって、少しでも記憶を取り戻すべきだとの配慮ではないかということらしい。
本来の貴族令嬢は、このタイミングで母親や兄弟とお茶会するんだとか。
なんというか、兄妹とは親密そうだが、母親は義理とはいえ両親との関係は少し希薄だと感じた。
それとも、義理の母親とはこういうものなのだろうか。アシェルには普通の家庭が分からないので、正解が分からない。
そのタイミングで実技を兼ねたお茶会の時間になり、ついでに食事のマナーについても口頭説明を受けた。
この辺りは特殊なことは無さそうで、お茶会は客人を招く場合は作法や流行があるが、家族でする分には使用人達が用意するので基本的に気にしなくて良いと。
さらには普段からアシェルは流行には疎いので、その辺りはイザベルに任せてくれと言われた。アシェルも薫と一緒で、流行り廃りに興味がないらしい。
一服した後は授業のノートや教科書と共に復習。というか、アシェルは覚え直し。
詳しく掘り下げるには時間が足りないので、教科書とノートを読んで照らし合わせるだけの作業をした。
そうやっていると意外と授業風景が思い出されるもので、忘れたことを覚え直すというか、思い出しながら学習するのも楽しいと感じた。
普段なら興味のない学業は、二度目をするのが苦痛だった。何故周りの人間が、一度習ったことを覚えていないのかよく分からなかったからこそだったのかと、今この状況だからこそ思う。
そんな感じでとにかく知識を詰め込みまくった午後が終わり、夕飯を家族で摂り、今日はどんなことをしていたのかを家族に報告する。ある程度思い出したことについても概要だけを伝えた。
少しでも進展があることを、家族は口々に喜んでくれる。温かい食事の時間だった。
夕食の後は部屋で食後の一服をし、そのあと入浴した。
どうやら貴族というものは、折を見て紅茶や果実水を口にするようである。
お風呂にはイザベルがついてきて、全身を洗われて湯船に入れられ、果実水と一緒にしばらく放置され。
茹蛸になりそうだと思っているとイザベルが戻ってきて、浴室にあるマッサージベッドでオイルマッサージを受ける。
身体を洗うのは自分でという攻防戦は、既に昨夜やってアシェルは敗北していた。
きっと口喧嘩でイザベルに勝てることはないんじゃないだろうか。
少し恥ずかしいが、イザベルにしてもらう洗髪は頭皮マッサージもしてくれて物凄く気持ち良いし、湯船から上がった後のマッサージも極上だった。
物凄く申し訳ないと思ったのだが、貴族令嬢はお世話をされることが仕事です、とイザベルに言い切られてしまう。
それはイザベルもでは?と思うのだが、公爵令嬢と伯爵令嬢、しかもメイドを同列にしないで欲しいとも言われた。
使用人にかけるお金も、身の回りの品にかける金額も品質も全然違う上に、周囲がその令嬢に求めるレベルも変わるのだからと。
お風呂上りも大人しくスキンケアをされ、髪を乾かしてもらい、長い時間をかけて寝支度が終わる。
イザベルが一人で全てをやってしまうので、お任せしているアシェルは楽だが、イザベルは大変ではないかと思って様子を伺った。
そこには果実水を給仕し終えて壁際に戻っているが、普段から毎日でもやりたいフルコースのお手入れをやりきったことに満足と達成感を抱いているイザベルが立っていた。
嬉しそう、楽しそうということだけ感じ、アシェルはメイドさんって大変だけど仕事の成果が目に見えるから良いなとも思った。
薫がやっていた書類仕事はやってもやっても新しいものが増え、中には他の人がやった仕事のやり直しもあった。
元となる資料の数字が間違っていることも多く、気付けば修正を任され更に仕事が増える。
そもそも、薫の眼から見たら本当に必要なのか分からないような書類も沢山あった。
あの時の薫は、薫のような人間をようやく雇ってくれた会社だったので、何一つ文句も言わず。転職すら考えずに、薄給でやりがいもないのに働いていた。
でも今、全く違う人生を歩んで。色が溢れている世界を見て。
薫が色のない世界に居たのは、薫自身のせいでもあったのかもしれないと思った。
働き出してお金があったのだから、何か自分がやりたいこと、興味を持てるものを探せばよかったのだ。
それが趣味でも仕事でも、咲と健斗が傍に居なくても色に溢れた世界を見ることが出来たかもしれない。
アシェルは家系的にも医師家系で、薬草園を周ることで沢山の記憶の欠片を手に入れた。
それはそれだけアシェル自身が興味を持って覚えていたものだということで。
興味のあること、楽しいことが在るからこそ、アシェルはこんなにも色に溢れた世界で過ごすことが出来るのだと思う。
生まれ変わったのだという自覚と思い出と、薫自身の意識とが喧嘩をしている気がする。
他人とは違う生活と環境だったが、薫の人生は幸せだったと。今でもそう思っている。
でも、もし少しでも。
ほんの少しでも今のアシェルが置かれている環境を傍で見ていたら。
薫は自分の人生を幸せだったと思うことが出来たのだろうかと。
(咲と健斗に会いたい……声だけでも聴きたい……。ねぇ、私はどうしたらいいの……。二人なら、きっと私のこの思いを理解してくれる。家族として楽しく一緒に過ごして、ちゃんと薫は幸せだったでしょって言ってくれる。)
そしてきっと、今の薫が置かれた状況を羨ましがってくれるのだ。
咲だったら変わってって言うかもしれない。
あぁでもそれだと、健斗との結婚生活が送れなくなるのか。
咲だったら異世界転生や転移をできる機会と、健斗と家庭を持つことと。
選べと言われたらどちらを選ぶのだろうか。
咲のことだから、健斗も一緒に連れて行けと神様を怒鳴りつけそうだ。
知らず知らずにソファに体操座りになり、柔らかい生地のネグリジェごとぎゅっと自分の身体を抱きしめていた。
考えても仕方のないことから逃れる様に、咲と健斗だったらどうするかと思いをはせる。
ぼーっとローテーブルに焦点の合わない視線を送るアシェルを見て、イザベルは声をかけるべきか迷っていた。
涙は流さなかったが、何かを考えている様子から少し悲しそうになり、今の体勢になったと思ったら、表情も感情も抜け落ちたようになってしまったアシェル。
以前の。
アシェルが薫の記憶を思い出す前に時折感じた、アシェルがどこか違うところに行ってしまうような。イザベルの目の前から消えてしまいそうな不安が鎌首をもたげる。
今イザベルが声を掛けたら、いつものアシェルのように何事も無かったかのような笑顔が返ってくるのだろうか。
それとも今考えていることを口にしてくれるだろうか。
もしくは一人きりではない時に弱い姿を見せてしまったと、自己嫌悪に浸らせてしまうだろうか。そして余計に気を張った生活をするのだろうか。
悩んだ末に、イザベルは侍女として。
主の様子は見守りつつも、空気で居ることに徹した。
どう考えても三番目になりそうな気がしたからだ。
アシェルは自分の弱いところを他人に見せるのを嫌う。
どれだけハードなレッスンを受けても、身体に傷を作っても、恐らく熱がでたようであっても。笑って大丈夫だというのだ。
イザベルが不安を抱いたままアシェルを見守っていると、コンコンと扉を叩く音がした。
廊下からサーニャがアークエイドの来訪を告げる。
「アシェル様、お入り頂いて宜しいですか?」
ぱっと姿勢を正したアシェルに、イザベルがお伺いを立ててくる。
「えぇ、大丈夫よ。今日もアークはお泊りなのね。」
別に裸でも何でもないのだし、ノックして普通に入ってきてもらって構わないのだが、どうも部屋の主の許可がいるらしい。
薫には大部屋で暮らしていたか一人暮らしの記憶しかないので、自室への来訪者へ許可を出すのも不思議な感じだなと思ってしまった。
それでも確かに必要な事だなとも。
イザベルがアシェルの、薫らしいが入浴前と変わらない様子に安堵したことには気付かず。
アシェルは寝支度を終えたアークエイドと、そのお世話に回っていたらしいサーニャを部屋に招き入れた。
招き入れたと言っても、ドアの開閉や給仕はイザベルが全てやったので、アシェルは許可を出していらっしゃいと言っただけである。
「悪いが、今日も世話になる。」
「一緒のお布団に寝るだけで、お世話をしてるのはベルたちだから。私は何もしてないわ。」
「だが、部屋の主はアシェだろ?明日はどうする?何かしたいこととか、気になることはあるか??」
当たり前のようにアシェルにピッタリと寄り添って座ったアークエイドと言葉を交わす。
「やりたいこと……。王都の中を、歩いてみたい。馬車じゃなくて、自分の足で。きっと……記憶が全部戻ったら、新鮮さが無くなってしまうと思うから。今だからこそ感じることを、感じてみたい。」
断片的な記憶を思い出しても、まだその欠片たちは繋がり切っていない。
もしかしたら何か欠片が見つかるかもしれない。
見つからないかもしれない。
でもそんなこと関係なく。
日本ではない異世界に居るのだという実感が、もっと欲しかった。
二人ならどう感じるかなと考えながら、異世界の空気を楽しんでみたいと思った。
そして土産話にするのだ。
この世界で死んで、魂が咲と健斗と同じ場所に行けるのか分からないが。
もし会えたら、アシェルという新しい人生を。不思議な経験と日常を。薫がこんなに喋るなんて珍しいと二人が口にするまで、たっぷりと話して聞かせるのだ。
そう目的を持って歩き回れば、きっとアシェルには見慣れた景色だったとしても。
どうでも良いこととして記憶に残っていたとしても、楽しめるだろうと思うから。
「市井を歩くなら、メイディー卿の許可が要るな。サーニャ、メイディー卿が起きているか。確認を取ってもらえるか?」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」
アークエイドの言葉でサーニャが出て行き、アシェルは我儘を言ってしまっただろうかと表情を曇らせた。
貴族令嬢とは、気ままに街歩きをすることも叶わないらしい。
「アシェ、どうした?さすがに今からメイディー卿に会うのは嫌か??アシェの父親だが、今のアシェからしたら——。」
「違うの。お父様のことは、ちゃんと父親だって認識してる。いつもベビーベッドを覗きに来てくれてたから。そのことは覚えてるから。」
「じゃあどうして不安そうな顔をした?」
何故アシェルが不安だと分かったのかと思いつつ、些細な変化であっただろう表情の変化に気付いたアークエイドに答えを返す。
「我儘を、言ってしまったかと思って。街歩きに親の許可が要るって知らなかったから。」
「我儘でもなんでもない、気にするな。アシェが普段からメイディー卿の許可を得て出かけてるわけじゃない。特殊な事情がある時は別だろうがな。今はその特別な事情だから、念のためメイディー卿に許可を取るだけだ。記憶喪失の娘が、覚えていない街中に出掛けようとしている。親として知らないと、不安になってしまうだろ?」
「あ……そうね。必要だわ。」
「不自由なのは今だけだ。記憶が戻ったら、メイディー卿への報告や許可を得るかどうかはアシェの思う様にしたらいい。今は俺やイザベルがフォローして、何が必要か伝える。だから迷惑だとか我儘だとか考えず、まずはアシェが何をしたいか、何を考えてるかを教えて欲しい。」
「分かった。そうね、私じゃ判断できないこともあると思うから。お願いするわ。なるべく言葉にする。」
こくっとアシェルが頷けば、アークエイドは安堵したのか柔らかく微笑んだ。
とても珍しい分かりやすい笑顔だなと思っていると、サーニャが戻ってきてアベルの元へ案内してくれるという。
履き慣れないスリッパを引っかけ、そのまま扉に向かったアシェルの肩が両方とも掴まれた。
「アシェル様。一つお聞きしたいのですが。そのまま何処にいくおつもりですか?」
「まさかとは思うが、ネグリジェ一枚で廊下に出るつもりじゃないよな?」
イザベルとアークエイドの、ちょっぴり怒りを含んだような声に、何か叱られるようなことをしただろうかと首を傾げる。
「だめ、なの?風邪を引くほど寒く無いし。髪の毛もしっかり乾いてるよ?」
「そんなことは関係ありません。本来ならお着替えしていただくところですが、着替えないとしても最低限ガウンを羽織って、しっかりと前を閉めてから部屋を出てくださいませ。あくまでもお邸ではですからね。寮では廊下に出る時には、寝間着ででたりしないでくださいませ。」
言いながら着せられた丈の長いガウンを着こんで、しっかりと前を閉じる。
部屋は空調が整っているので過ごしやすいが、ガウン一枚羽織るだけで少し暑いと感じる。
「外じゃなくて家の中なのに?それに、お父様に。家族に会いに行くだけよ。」
「家族であっても、普通は寝間着で親兄弟に会うことは無い。異性なら特にだ。今日のように必要な時は、着替えてから会うか。もしくはイザベルの言う様に、しっかりとガウンを着てからだ。」
「別に閨事の相手に——ならないのに?」
ほんの少し言い淀んでしまったが、普通は娘や姉妹を性的な対象にはしないはずだと。
そんな人たちばかりではないはずだと思い、言葉を言い切った。
絶対にないとは言い切れないが、濁して根掘り葉掘り聞かれる方が心配されそうだし厄介そうだと思ったからだ。
「そういう問題じゃないんだ。淑女として恥じらいや慎みを持ってくれ……。」
家族の前に寝間着で出ることの何が問題なのだろうかと思うが、二人の反応からするに問題があるらしい。
「そう。こちらの人は寝間着で人に会うのは恥ずかしいのね。スウェットでコンビニなんて、きっとあり得ないわね。」
「それは?」
「スウェットっていうのは、寝間着みたいな部屋着みたいなもの。コンビニは24時間やってる商店。って言えば分かるかしら?大体どこにでもあるから、ちょっとお菓子欲しいなとか。飲み物欲しいなとかで、夜中にお買い物に出ることがあるの。職場の人が、お風呂上がりで濡れたままの髪の毛の人を見たことがあるとも言ってたわ。私は仕事帰りに寄っていたから、したことないけど。」
アシェルが説明すると、明らかに二人の表情が曇った。
「アシェル様……そもそも夜間出歩くことは好ましくありません。それに夜間に開いている商店もございませんし。ですが、アシェル様とリリアーデ様の抵抗のなさが、ようやく理解できた気がします。そういう風土でお育ちになったのですね。こちらでは、まず夜間に出かけようとはなりませんから。」
「寝間着じゃなく、部屋着で外出もあり得ないからな。外出の時は行き先に合わせて服装も変わる。まぁそこについては、イザベルが居れば合わせてくれるはずだ。」
はぁと盛大なため息を吐いた二人に連れられて、先導するサーニャの後ろを歩いていく。
ちなみにその光景をサーニャはにこにこと見守っているだけで、良いとも悪いとも口を挟むことは無かった。
——サーニャにとっては、アシェルが小さい頃から何度も繰り返した押し問答の一つにすぎず。ようやくそう思っていた理由が聞けて満足だった。
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日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。
また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
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