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第四章 王立学院中等部三年生
276 はじめてのおつかい③
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Side:アシェル14歳 秋
どうぞと勧められたソファに腰掛け、出された紅茶には口を付けるふりをした。
イザベルから屋台やカフェで購入したものを口にするのは良いが、こういった場所で出された物は失礼にならない程度に口を付けるだけに留めた方が良いと言われたからだ。
余計なものが入っていないとも限らないからと。
貴族って物騒だなと改めて思いながら。
案内してくれた男とトーマたちと一緒に待ち、扉を叩いて入ってきたギルドマスターだという人物を見て驚いた。
「若い……。」
「それは私のことかい?だったら嬉しいね。久しぶりだね、アシェル君。その口ぶりでは久しぶりと言って通じているのか分からないけれど。冒険者ギルドマスター、ユリウス・フレイムという。以後お見知りおきを。」
「あ、アシェル・メイディーです。よろしくお願いします。そういえば……ギルマスは顔見知りって……。生徒会長?」
何処か困った様子だったユリウスの表情が和らいだ。
どうやら正解だったらしい。
貴族名鑑の高位貴族を覚えた時に、元生徒会長だとユリウスのことも説明されていたのだ。
「そうだよ。元、生徒会長だけれどね。」
「その、覚えてなくて。これを。」
ごそごそとまたペンダントを取り出し、一緒にぶら下がっている家紋が付いたプレートを見せた。
「お父様が、コレを見せたら分かるって、言ってました。」
「また珍しいもんだな。ユリウス坊ちゃん、使い方は分かるか?」
「バンはいつまで私のことを子供扱いするつもりだい?アシェル君、少しそのペンダントに触れさせてもらうね。」
最初に案内してくれた男はバンというらしい。
のだが、なんだか違うような気がして違和感が残る。
ユリウスに頷いて見せると、ユリウスの魔力に反応したのだろう。
ユリウスの手元に一枚の封書が落ちてくる。
「メイディー公爵家の家紋……だけじゃないな。」
「どれどれ……あぁそりゃ、メイディーの個人封蝋だ。当主の名前が書いてあるだろ?それだけこの中身が重要だってことだよ。メイディーは滅多に個人封蝋を使わねぇからな。」
「はは……読むのが怖くなるから脅さないで欲しいよ。」
力なく笑ったユリウスは、封を破り手紙に目を通し始めた。
最後まで目を通し、その手紙はバンの手元に渡る。
「それと、これを。納品しに来ました。」
アベルに言われていたおつかいの、何かが入っているケースを『ストレージ』から取り出し、ユリウスの前に置く。
「手紙にも書いてあったよ。中を検めさせてもらうね。」
ケースを開けたユリウスは、手際よく中に納められていた試験管のような瓶を確認していく。
「確かに。今お代を持ってこさせるから、少し待っててね。」
「はい。」
お茶くみをしてくれたギルド職員が、トレイにお金を乗せて持ってきてくれた。
ユリウスはアベルからの手紙に書いてある金額を示してくれながら、お金を渡してくれる。
それを大事にお財布だという革袋の中に仕舞った。
「まーた面倒なことになってんな。ほれ、お前達も気になるだろ。見てみろ。」
バンは金額の照会を終えた手紙を、今度はトーマたちに渡す。
アベルはギルマスに見せろと言っていたのに、こんなに沢山の目に触れさせて良いものかとそわそわしていると、バンが笑った。
「アシェルが心配する必要はねぇぞ。メイディー当主の手紙は、普段のアシェルを知る人間への手紙だ。今は一時的に記憶喪失で、何かをきっかけに思い出すかもしれねぇし思い出さねぇかもしれねえ。だから何か思い出を話すなり経験させるなり、後日手紙をくれって言う内容だよ。【朱の渡り鳥】の連中は、間違いなく冒険者の中でお前さん達と一番仲が良い。他の冒険者を寄せ付けなかった【宵闇のアルカナ】が、幼馴染の【エアリアル】以外で唯一組むパーティーだ。」
そういえば、アシェルのことを知っている人には手紙を見せて良いと言われていた。
アシェルのことを知っているなら問題ないかと、続いて口を開いたユリウスに注意を向ける。
「アシェル君は幼馴染のアークエイド君とエラート君、マリク君とパーティーを組んでいるんだ。それが【宵闇のアルカナ】だよ。といっても、メインは貴族としての生活だから。冒険者ランクはそれほどでもないんだけどね。でも実際の実力は、個人としてもパーティーとしてもかなり高ランクを目指せるパーティーだよ。」
「これが全員王都を拠点とするだけの高位貴族なら、指名依頼しやすいようにランクアップを目指せって言うところだがな。メンバーの一人がお忍びの王族じゃ仕方ねぇ。むしろ、あまりランクアップして目立たねぇ方が良いだろうな。」
「そうだね。冒険者ギルドとしては、是非ランクを上げて欲しいところだけど……。アシェル君にお願いすると、間違いなくアークエイド君が付いてくるからね。」
「アークが?どうして??同じパーティーに所属していて恋人だからって、危険なクエストなら。そしてアークがいなくてもこなせるなら。王族であるアークは付いてこないのが正解でしょう?それにそもそも、王族が冒険者になってもいいのかしら。守られるべき人間を危険に晒してしまうわ。」
アシェルとしては、至極まっとうな意見と疑問を口にしただけだった。
それなのにユリウスもバンも、トーマたちでさえもぽかんと何かに驚いている。
一番早く復帰したのは人生経験の長いバンだった。
「あーアシェル。アークと恋人って言ったか?」
「えぇ?あまり実感はないけれど、そうみたい。ようやく両思いになったって言っていたし、アークと居ると確かに落ち着くの。」
「そうか、今は仕方ねぇからいいが。他じゃソレは口にしない方が良い。普段のアシェルなら好きなだけ惚気りゃいいと思うがな。俺達が聞いたのは王族と公爵令嬢じゃなく、ただの冒険者パーティー内の恋愛話だ。だから、おめでとうとだけ言っておくぞ。」
「実感はないけど、ありがとうございます?」
そういいながらもアシェルは、なんだか分からない居心地の悪さを感じていた。
それもバンの方から感じるのだ。
何も変化はないみたいなのに、何がおかしいのだろうかと。
視線を彷徨わせるが何もおかしなところはない。
「ふむ……何もかも忘れてるって訳じゃなさそうだな。……おい、トーマ。そいつら連れて隣の部屋に入っとけ。流石にうるせぇ。それとガルド、ジン。手合わせの心づもりをしとけ。」
確かに背後では「アシェルが女、本当に女なのか!?あんなに強いのに!?」とか、「記憶が無いだけであれは詐欺じゃないか。驚くほど美人なんだが。」とか。
「アークとアシェルが?イケメン同士で絵になるわね。」「それよりもお二人の子供はハイブリットなのでは!?きっと素晴らしい魔法使いになりますよ!!」とか。
とりあえず思いつくままに好き放題騒いでいた。
大人しくしていたのはトーマ位なものである。
そのトーマに連れられて【朱の渡り鳥】が退室する。
男二人の悲痛な「手合わせはしたくねぇ!」という叫びと共に。
「あーわりぃな。なんでアークがついてくんのか、だったな。」
騒ぎの中で不快感は無くなっていて、気のせいだったのかと疑問に思いながら話を聞く。
「王族ってのはな、執着持った相手への拘りがすげぇっていうか。普通の人間じゃ考えられねぇほど付き纏うんだよ。」
「バン、さすがにそれは言葉が悪いと思うよ?世間的にはおとぎ話みたいな感じで、王族は一目惚れした相手を一生大事にして愛するって言われてるんだけどね。実際は何て言うか、一目ぼれした相手の年齢とか性別とかお構いなしに、とにかく愛を囁くっていうか。婚約者でなかったとしても、好きだってアプローチするし、出来るだけ一緒の時間を過ごそうとするんだよ。だから良くも悪くも王族とずっと一緒に居る人は、その一目惚れ相手じゃないかって邪推されるし、大体当たってるんだよね。それが無くなるのは、きっぱりと振られた時だけだって聞いてるよ。アークエイド君の場合、一緒に生徒会で過ごしていたからね。アシェル君に付きっきりの姿を見て、ほぼ間違いなく相手がアシェル君だろうとは。」
ユリウスの方はかなりオブラートに包んだつもりだろうが、結局言ってることはバンと変わらない。
「ストーカー……?」
「がっはっは、面白れぇな。まぁ、ある意味間違っちゃいねぇな。俺の代には、レディの寝所に押しかけようとした馬鹿もいたからな。相手の方が一枚上手で、毎回叩き出されてたみたいだが。まぁなんちゅうか、血筋特有の性格みたいなもんだ。好きになった相手から片時も離れたくないのさ、王族っちゅうのは。もちろん状況によって我慢することもあるだろうが、アシェルにはこなせるが他では難しいレベルのクエストなら、アークは間違いなく付いてくるぞ。自分の目の届かないところで、好きな奴が危険な目に合うのが嫌なんだろうな。あとは冒険者登録できた理由だったな。……そもそも、お前さんはアークが冒険者になることに反対していなかったと思うぞ。それはエラートとマリクもな。お前さんたちは10歳の登録時から実力だけはあったんだ。経験が少ないだけで。最初のうちはベテラン冒険者が指導についていた。当時、冒険者になるアークのことをどう思ってたか……思い出せないか?俺が話しても良いが、唯の推測でしかないからな。」
「10歳……思い出して、みます。」
そもそもアークエイドは守られるべき存在だと認識していなかったのだろうか。
——いや、それはない。
アークエイドが王族であろうとなかろうと、アシェルにとっては守るべき大切なモノだ。
たまたま王族だったから一番優先しているが、沢山あるアシェルの大切なモノの一つだ。
じゃあどうして冒険者になることに反対しなかったのだろうか。
そもそもどうやって冒険者になったのだろうか。
10歳。
そう、10歳の誕生日を迎えた後でなければ冒険者登録は出来ない。
だから生まれの一番遅いマリクが誕生日を迎えるのを待ったのだ。
アシェルの場合、兄達から猛反対にあう可能性があったので、二人が居ない隙にアベルとメアリーに許可を貰った。
その後危惧した事態は起きなかったが。
アークエイドは皆の前で、王妃のアンジェラに直談判したのだ。
その時に王族であるアークエイドが冒険者になる必要がないと、確かに言われていた。
冒険者には身の危険があるんだぞと。
それを聞いてアシェルは何を思っただろうか。
「アークのことは……ううん。アークのことも、エトもマリクも。何が何でも僕が守るって思ってた。僕なら守れるって。それにアークのことは、エトもマリクも守ってくれるから。冒険しすぎなければ大丈夫だって。でも、でも……あれは何?」
うんうん、そんなところだろうと思ったぜと頷いて同意を示していたバンは、アシェルの口調と空気の変化に気付いた。
先程までバンに答えを返すために、二人の視線は交わっていたはずだった。
そのアシェルの視線は、ここではないどこかを見つめている。
「……だめ……それは許さない……。僕のアークに手を出さないでっ。」
一瞬で膨れ上がった身体が凍えそうなほどの殺気と、アシェルの掌に現れたブロードソード。
「アシェルっ、落ち着けっ!」
「アシェル君!ここには何もいないよ!アークエイド君だっていない。ここは冒険者ギルドだよ!」
「ここには曲者も魔物もいねぇ。敵はどこにもいねぇんだ、落ち着けっ。」
「冒険者、ギルド……。」
すんと。
殺気が消えると同時に、落ちた金属が床の上で音を鳴らした。
アシェルと視線が合うようになったことに、二人は安堵の息を吐く。
「……いない……。」
「何を思い出したのか知らねぇが、記憶に引っ張られすぎんな。あくまでも記憶は記憶。それは過ぎたことで、唯の思い出でしかねぇ。幼少期の記憶しかねぇらしいアシェルとしちゃ気になるんだろうがな。記憶があろうがなかろうが、アシェルはアシェルだ。戸惑うこともあるかもしれねぇが、それは周囲が配慮すりゃ良いだけの話だ。それに何もかも忘れちまってるわけじゃねぇ。さっきお前さんは俺の魔力に反応していた。アシェルは分かってないみたいだったが、身体は覚えてるんだ。無理せず、また訓練しなおしゃいい。」
「ごめんなさい。何故か、ここは森の中だと思ったの。アークのことを守れるって思ってたのに、アークに、見たことないくらい大きな蜂が……。ちがう。ただのハチじゃない。あれはのーとりあすもんすたー?……あぁ、ネームドとか、そういう特殊固体のことね。」
「アシェル君……。それはもう過ぎたことだよ。あの時はアシェル君が大きな傷を負ってしまって、学業に復帰するまでに時間がかかったんだ。アークエイド君はアシェル君が守ってくれたおかげで、傷一つなかったそうだよ。」
「うん、アークは無事だった……良かった。」
ようやくあの時の記憶が綺麗に繋がって、アシェルは緊張を解いた。
床に転がってしまった剣も『ストレージ』に仕舞いこむ。
あのハチ型NMは、しっかりとアシェルの手で倒したのだ。
それにあれはスタンピードの兆候であって、常日頃からNMがその辺りをうろついているわけではない。
思い出の欠片を見る時は、あまり深く思い出しすぎないようにしようと心に留めておく。
覚えているのが当たり前だからこそ、その時の光景も自分の抱いた気持ちも感覚も、思い出そうと思えば鮮明に思い出せるのが当たり前だった。
だからこそ薫は何度もパニックを起こした。連想した嫌な記憶を、その場でもう一度体験しているような気がしていたのだ。
バンの言う通り、記憶に引っ張られ過ぎていたのだろう。
「落ち着いたようで良かったよ。それに、アシェル君ほどじゃないかもしれないけれど、アークエイド君だってちゃんと戦う力を持ってる。メイディーに過保護になるなって言うのは無理な話かもしれないけれど、付きっきりで守らなくてはいけないほど弱くないはずだよ。」
「だな。そうそう酷いことにはならねぇ。気負いすぎんな。……身体を動かせば少しは手助けになるかと思ったが、手合わせはやめとくか?」
バンの申し出に少しだけ悩み。
アシェルとしての記憶を忘れてしまってから、満足に訓練に関わる何もかもを出来ていないことに気付いた。
「お願いします。」
そのキリっと引き締まった表情に、バンとユリウスは笑みを浮かべた。
「よしっ、決まりだな。演習場に行くぞ。」
ギルマスはユリウスだと聞いているのに、バンが取り仕切って演習場へと移動した。
バンの方がギルマスだと言われても違和感がなさそうである。
演習場に着いてまず、武器を選ぶように言われる。
どれも刃を潰してあって、打撲にはなるが切り傷にはならないように配慮されているらしい。
「そういえば……手合わせのルールとか、相手とかは?決まりが……あるのよね?」
ぼんやりと浮かぶ、授業中らしい模擬戦の風景。
「今回魔法は身体強化だけ、獲物の技術だけじゃなく体術も織り込んで良い。首か心臓に寸止めするか、もしくは相手が動けなくなるまで叩きのめせば勝ちだ。相手はさっき会ったガルドとジンの二人だ。」
「同時に二人?」
「あぁ、アシェルなら問題ないと思うぞ。むしろ一対一じゃ、無意識にぶっ飛ばしちまうかもしれねぇからな。」
バンは二人の名誉のためにも、一対一では勝負にならないという言葉は飲み込んだ。
そもそも貴族と平民では、訓練を始めた年齢や内容も違うのだ。魔法を使える人間も限られる。
かと言って身体強化をなしにすると、今度は女性の筋力では、という話になってくるので身体強化だけは許可したのだ。
「分かったわ。」
二人の姿を見て、屈強そうな男性なのに不思議と負けるビジョンは浮かばない。
多分どの武器を選んでも、彼らに負けることは無いだろう。
戦斧は使えなくはないだろうが、アシェルの戦闘スタイルと合わない。
「これにするわ。」
「アシェル君って、槍術の授業を受けていたっけ?イメージにないんだけど……。」
「取ってないわ。しっくりこないから、多分ほとんど使った事も無いと思うの。」
手に取った長槍をブンと振り回す。
全く手に馴染みは無いが、槍の得意な双子が身近に居たのだ。
ノワールはあまり参加しなかったが、エトワールと手合わせをする時に槍の使い方はしっかり身を以って覚えた。年に一度の手合わせで、その対処方法も。
薙ぎ、払い、身体の周囲を回して牽制をかけながら左右の持ち手を変える。石突と穂先の入れ替えも手の中で滑らせたり回転させてみて、問題なく出来ることを確認する。
「うん、これなら高そうなドレスも汚れないわ。この石突で殴れば致命傷にはならない……よね?」
「加減を覚えてないだろうから、頭だけはやめてあげてね。」
苦笑したユリウスに見送られて、演習場でガルドとジンの二人に向かい合う。
先程までの賑やかさは何処にもなく。
二人とも剣を構え、ガルドに至っては盾も構えている。
「あれがアシェルだと分かってても、なんかやりづれぇな。」
「槍か……余計にやりにくいが、そんなこと言ってっと瞬殺されるぞ。」
「分かってるけど、見た目はか弱い女だぞ?流石に抵抗が……。」
ガルドのか弱い女発言に、不意に彼らと出会った時の光景が思い浮かぶ。
「また僕のことか弱い女って言ったね?確かに女ではあるけど……これでも男の子に負けないくらい訓練してるんだよ。そのか弱い女にコテンパンにされないように、頑張って足掻いてよね。僕を楽しませてくれるんでしょう?」
まるで二重人格なのではないかと思うくらいの変わりようと、ガルド達の良く知るアシェルの姿に。
ガルドにあった迷いは綺麗に吹き飛んだ。
どんな見た目で、記憶喪失だというイレギュラーな状態でも、アシェルはアシェルなのだ。
気を抜けばやる気が無いのかと、執拗に痛めつけられるだろう。
「話はついたか?魔法は身体強化のみ、その他は禁止。致命傷になる攻撃は寸止めしろ。はじめっ。」
バンの口上が終わったのに合わせて、アシェルは身を屈めて前に出た。
今はお互いの距離があり、長槍でも届かない。
しっかりとガルドが盾を構えて前に出て、槍の先端を捕らえようとする。
でもアシェルは槍を突き出すのではなく、手の中で滑らせて槍先を短く持ち換えた。
身体を捻ってガルドの側面に槍をあて——ようとして、ジンに防がれる。
本当ならここで捻った重心の移動に合わせて足蹴りを入れるのだが、流石にドレスでは無理だと、剣に弾かれた勢いに乗って二人から距離を取った。
「こんなことなら、トワに槍を習っておけばよかったかな。」
そうぼそりと呟いて、アシェルはまた槍を振るった。
結果、アシェルの圧勝だった。
一度はジンの一閃がアシェルを捕らえかけたが、「ドレスが汚れたらどうしてくれるのさ。」という一言と共に、石突が剣を握る手を穿ち、そのまま力任せに腹に一撃を貰ってダウン。
ガルド一人では手も足も出ず終了である。
そもそも二人で対応したからなんとかアシェルについていけていたが、少し注意を怠るとアシェルの姿がかき消えるのだ。
【朱の渡り鳥】のメンバーで最初から最後までアシェルを見失わなかったのは、弓使いのユウナだけだった。
「勝者、アシェルっ。ほんと、なんでもできちまうな。」
「僕の未熟な槍が通用して良かったよ。でも、いくらおやっさんの勧めでも、ドレスで戦闘はダメだね。このドレス、いくらするんだろって心配しちゃったよ。」
「アシェル、俺のこと……。」
「本当に全部か分からないけど、身体動かしてたら思い出したよ。フレンドリーでグルメな解体場のおやっさんのこと。元ギルマスってこともだけど、未だに貴族籍ってのは詐欺だと思ってるけどね。どっからどう見ても荒っぽくていかついおじさんなんだもん。」
「おじさんって言うんじゃねぇっ。一気に年くった気になるだろうが。だがまぁ、そうか……良かった。やっぱりアシェルは、これくらい軽口叩いてるほうがアシェルらしいな。」
「それ褒めてないでしょ?でもまぁ……心配かけてごめんね。ガルド達もありがとう。わざわざ僕の為に時間を割いてくれて。」
「良いって、気にすんなよ。落ち着いたら、また何か一緒にクエストでもしようぜ。俺達も腕を磨いておくからよ。」
「うん、楽しみにしてるよ。それじゃあ、まだおつかいが残ってるから。」
「気を付けてね。今日は休んでていないけど、マチルダにもアシェル君が来たことを伝えておくよ。」
ユリウスの言葉に少し記憶を辿り。
生徒会副会長でユリウスの婚約者であることを思いだした。
「婚約者のマチルダ先輩にも、また来ますって伝えてください。」
表から出ると目立つだろうからと職員用の裏口から出してもらい、思い出した沢山の記憶と温かい気持ちと一緒に冒険者ギルドを後にした。
今身体を動かした時に、家庭教師に教えて貰っていたことや、大切なモノを自分の手で守りたいと思った大事な心も思い出せたのだ。
その演習場の片隅で、バンがアシェルに思い出してもらえたことが嬉しくて男泣きしていたのは、アシェルの知らないことである。
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Side:アークエイド15歳 秋
アシェルの護衛一行は、通された隣室からアシェルの様子を伺っていた。
この二部屋だけは、片側から中の様子が見られる作りになっているらしい。
「アシェが、恋人だと紹介してくれた。」
「また戻ってるよ。って、僕は何回このやり取りをしたらいいのかな。幼馴染のことながら、なんで王族って一目惚れ相手のことになるとぽんこつになるんだろう。普通、逆じゃないのかな?」
「それってアークだけじゃないんですか?」
「グレイもだね。シルフィード嬢の前ではなんとか取り繕ってるみたいだけど。」
「リリィ、そういうのは本人がいないところじゃ……。」
「もうっ、ちょっと気になっただけよ。詳しく聞いたりしないわ。」
バンとユリウスがアークエイドというよりも、王族を執着がだのしつこいだの言っているのを、公然の事実であるがゆえに誰も否定せず。
アシェルが記憶を思い出すために物思いに耽っていると思ったら、急に殺気が膨れ上がった。
打ち合わせたわけでも無いのに壁際から距離を取った六人は、アッシュ姿のアークエイドを中心に守りを固める。
ペンダントから聞こえる声で、殺気の出所がアシェルであることが分かり、バンとユリウスのお陰ですぐに殺気は消えたので警戒を解いた。
「相変わらずアシェの本気の殺気って、物凄く怖いわね。二回目だからだと思うけど、我ながらよく身体が動いたものだわ。わたくし自身を褒めてやりたいわね。」
「強がりを言っても震えてるぞ。」
「そこは見て見ぬふりしてよね。」
緊張が解け、ガタガタと震え出したリリアーデをデュークが抱きしめる。
今朝はアークエイドも寝惚けていて、無意識のうちにアシェルを抱きしめてしまっていた温もりを思い出し。
その羨ましい光景から視線を逸らした。
それこそ思い出さなくても良いのに、あの悪夢のようなNMとの戦闘を思い出したようだ。
あれに関することを、どこまで思い出したのかは分からない。
だがアシェルは記憶とは、思いだそうと思えば鮮明に思い出せるものだと言っていた。
それこそ授け子が前世を振り返る時のように、その時の光景や感じたことを思い浮かべることが出来ると。
「ねぇ、リリアーデ嬢。授け子っていうのは、アシェル嬢みたいに思い出したいと思ったものを思い出せるんだろう?それには……痛みも伴うものなのかい?」
「アッシュがいうアシェと同じかは分からないけど……。客観的にその場面が見えるって言うのかしら。小さい時はあまりにも綺麗に思い出せるから、混同してちょーっと大変だったけど。今はアシェみたいに記憶に引っ張られて混乱することは無いわ。逆に混乱するぐらい思い出した時って、自分自身が今どうなってるか理解できないのよね。意識があっち側に引っ張られちゃうっていうか。痛かったとか怖かったって思い出だとしたら、その時そうだったって思うだけなのに。そう思うだけの時もあれば、追体験している気分になることもあるわ。一概にこうって答えは出せないの。わたくしとアシェでは見え方が違うかもしれないし。」
「それだけでも十分だよ、ありがとう。」
あの時の苦痛は思い出さないでくれと、心の底から願う。
そしてもう二度と、アシェルに酷い怪我を負わせてなるものかとも。
NMとの戦闘を思い出して、魔法も魔物もない平和な世界から来た薫は、手合わせを断るのではないかと思っていた。
アークエイドだって剣術や体術の訓練は、その痛みに慣れるまで恐怖で苦痛で仕方が無かった。今のアシェルには恐ろしいだろうと。
だが、予想に反して演習場に移動するという。
ギルド職員が来てくれ、先程の殺気に反応して落ち着きのない一階を通り抜けて演習場へと移動する。
チラホラとギャラリーが居る中、場違いな姿のアシェルが選んだのは長槍だった。
「私はアシェル嬢が槍を使う姿を見たことが無いんだけれど……。メイディーの武術の授業は、剣術以外も必修だったりするのかい?」
「物としては教えられるけど、家庭教師に教えて貰うのは剣術ばかりだよ。そもそも学院の授業に槍術があるのだって、一定数水棲の魔物に対応するのに人気があるってだけで。貴族の武術の中では基本的にマイナーだしね。」
誰もがアシェルが槍を持つ姿がしっくりこないが、本人もしっくり来ていないようだ。
だが馴らしをしている姿に迷いはない。
「なんでかしら。今のアシェの動き、見たことがある気がするわ。」
「トワにそっくりだからじゃないかな。お茶会の時、手合わせしてただろ。あの準備運動だよ。」
「あー確かにそうね。って、【朱の渡り鳥】のこと思い出したのかしら?」
「いつものアシェの喋り方だな。」
双子は知らないだろうが、アークエイドはそのエピソードを知っていた。
それがよっぽど腹に据えかねていたのか、ストレス発散と称した強行軍の時もブツブツ言っていたので覚えている。
「あぁ、惜しいわっ。」
「トワなら今ので追撃が入るけど。出来なかったわけじゃなさそうだな。」
「間違いなくワンピースを気にしてるね。出来れば、スカートのままじゃなく運動着に着替えて欲しかったところだけど……。」
アークエイドがチラリと向けた視線に気づいたリリアーデは、観戦を続けながら言葉を返す。
「口がまわるからってアッシュのままそんなこと言われても、わたくしには解説できないからね?そもそも、今のアシェはストレージに授業で使う運動着が入ってるなんて、全く気付いてないと思うわよ。気付いたとしてもあっちの体操服とは全く見た目が違うから、なんかカッコイイ服装が入ってるなーくらいにしか思ってない可能性もあるわ。」
結局危うげなく立ち回っていたアシェルは、本人に傷は付かないだろうがドレスが裂けそうだ、という一閃に対応し、ジンをノックアウトした。
致命傷ではないと思うが、遠慮なく腹部に石突が刺さった二人は、しばらく悶絶していた。
最後まで普段のアシェルらしい口調だったが、ガルドとジンの二人の手当をしなかった辺り、まだ記憶が戻り切っているわけではないらしい。
——ギルド職員が治療にあたるのを分かっていて、お灸を据えていた可能性がないとは言い切れないが。
冒険者ギルドを後にしたアシェルを追って、アークエイド達もその後を追った。
どうぞと勧められたソファに腰掛け、出された紅茶には口を付けるふりをした。
イザベルから屋台やカフェで購入したものを口にするのは良いが、こういった場所で出された物は失礼にならない程度に口を付けるだけに留めた方が良いと言われたからだ。
余計なものが入っていないとも限らないからと。
貴族って物騒だなと改めて思いながら。
案内してくれた男とトーマたちと一緒に待ち、扉を叩いて入ってきたギルドマスターだという人物を見て驚いた。
「若い……。」
「それは私のことかい?だったら嬉しいね。久しぶりだね、アシェル君。その口ぶりでは久しぶりと言って通じているのか分からないけれど。冒険者ギルドマスター、ユリウス・フレイムという。以後お見知りおきを。」
「あ、アシェル・メイディーです。よろしくお願いします。そういえば……ギルマスは顔見知りって……。生徒会長?」
何処か困った様子だったユリウスの表情が和らいだ。
どうやら正解だったらしい。
貴族名鑑の高位貴族を覚えた時に、元生徒会長だとユリウスのことも説明されていたのだ。
「そうだよ。元、生徒会長だけれどね。」
「その、覚えてなくて。これを。」
ごそごそとまたペンダントを取り出し、一緒にぶら下がっている家紋が付いたプレートを見せた。
「お父様が、コレを見せたら分かるって、言ってました。」
「また珍しいもんだな。ユリウス坊ちゃん、使い方は分かるか?」
「バンはいつまで私のことを子供扱いするつもりだい?アシェル君、少しそのペンダントに触れさせてもらうね。」
最初に案内してくれた男はバンというらしい。
のだが、なんだか違うような気がして違和感が残る。
ユリウスに頷いて見せると、ユリウスの魔力に反応したのだろう。
ユリウスの手元に一枚の封書が落ちてくる。
「メイディー公爵家の家紋……だけじゃないな。」
「どれどれ……あぁそりゃ、メイディーの個人封蝋だ。当主の名前が書いてあるだろ?それだけこの中身が重要だってことだよ。メイディーは滅多に個人封蝋を使わねぇからな。」
「はは……読むのが怖くなるから脅さないで欲しいよ。」
力なく笑ったユリウスは、封を破り手紙に目を通し始めた。
最後まで目を通し、その手紙はバンの手元に渡る。
「それと、これを。納品しに来ました。」
アベルに言われていたおつかいの、何かが入っているケースを『ストレージ』から取り出し、ユリウスの前に置く。
「手紙にも書いてあったよ。中を検めさせてもらうね。」
ケースを開けたユリウスは、手際よく中に納められていた試験管のような瓶を確認していく。
「確かに。今お代を持ってこさせるから、少し待っててね。」
「はい。」
お茶くみをしてくれたギルド職員が、トレイにお金を乗せて持ってきてくれた。
ユリウスはアベルからの手紙に書いてある金額を示してくれながら、お金を渡してくれる。
それを大事にお財布だという革袋の中に仕舞った。
「まーた面倒なことになってんな。ほれ、お前達も気になるだろ。見てみろ。」
バンは金額の照会を終えた手紙を、今度はトーマたちに渡す。
アベルはギルマスに見せろと言っていたのに、こんなに沢山の目に触れさせて良いものかとそわそわしていると、バンが笑った。
「アシェルが心配する必要はねぇぞ。メイディー当主の手紙は、普段のアシェルを知る人間への手紙だ。今は一時的に記憶喪失で、何かをきっかけに思い出すかもしれねぇし思い出さねぇかもしれねえ。だから何か思い出を話すなり経験させるなり、後日手紙をくれって言う内容だよ。【朱の渡り鳥】の連中は、間違いなく冒険者の中でお前さん達と一番仲が良い。他の冒険者を寄せ付けなかった【宵闇のアルカナ】が、幼馴染の【エアリアル】以外で唯一組むパーティーだ。」
そういえば、アシェルのことを知っている人には手紙を見せて良いと言われていた。
アシェルのことを知っているなら問題ないかと、続いて口を開いたユリウスに注意を向ける。
「アシェル君は幼馴染のアークエイド君とエラート君、マリク君とパーティーを組んでいるんだ。それが【宵闇のアルカナ】だよ。といっても、メインは貴族としての生活だから。冒険者ランクはそれほどでもないんだけどね。でも実際の実力は、個人としてもパーティーとしてもかなり高ランクを目指せるパーティーだよ。」
「これが全員王都を拠点とするだけの高位貴族なら、指名依頼しやすいようにランクアップを目指せって言うところだがな。メンバーの一人がお忍びの王族じゃ仕方ねぇ。むしろ、あまりランクアップして目立たねぇ方が良いだろうな。」
「そうだね。冒険者ギルドとしては、是非ランクを上げて欲しいところだけど……。アシェル君にお願いすると、間違いなくアークエイド君が付いてくるからね。」
「アークが?どうして??同じパーティーに所属していて恋人だからって、危険なクエストなら。そしてアークがいなくてもこなせるなら。王族であるアークは付いてこないのが正解でしょう?それにそもそも、王族が冒険者になってもいいのかしら。守られるべき人間を危険に晒してしまうわ。」
アシェルとしては、至極まっとうな意見と疑問を口にしただけだった。
それなのにユリウスもバンも、トーマたちでさえもぽかんと何かに驚いている。
一番早く復帰したのは人生経験の長いバンだった。
「あーアシェル。アークと恋人って言ったか?」
「えぇ?あまり実感はないけれど、そうみたい。ようやく両思いになったって言っていたし、アークと居ると確かに落ち着くの。」
「そうか、今は仕方ねぇからいいが。他じゃソレは口にしない方が良い。普段のアシェルなら好きなだけ惚気りゃいいと思うがな。俺達が聞いたのは王族と公爵令嬢じゃなく、ただの冒険者パーティー内の恋愛話だ。だから、おめでとうとだけ言っておくぞ。」
「実感はないけど、ありがとうございます?」
そういいながらもアシェルは、なんだか分からない居心地の悪さを感じていた。
それもバンの方から感じるのだ。
何も変化はないみたいなのに、何がおかしいのだろうかと。
視線を彷徨わせるが何もおかしなところはない。
「ふむ……何もかも忘れてるって訳じゃなさそうだな。……おい、トーマ。そいつら連れて隣の部屋に入っとけ。流石にうるせぇ。それとガルド、ジン。手合わせの心づもりをしとけ。」
確かに背後では「アシェルが女、本当に女なのか!?あんなに強いのに!?」とか、「記憶が無いだけであれは詐欺じゃないか。驚くほど美人なんだが。」とか。
「アークとアシェルが?イケメン同士で絵になるわね。」「それよりもお二人の子供はハイブリットなのでは!?きっと素晴らしい魔法使いになりますよ!!」とか。
とりあえず思いつくままに好き放題騒いでいた。
大人しくしていたのはトーマ位なものである。
そのトーマに連れられて【朱の渡り鳥】が退室する。
男二人の悲痛な「手合わせはしたくねぇ!」という叫びと共に。
「あーわりぃな。なんでアークがついてくんのか、だったな。」
騒ぎの中で不快感は無くなっていて、気のせいだったのかと疑問に思いながら話を聞く。
「王族ってのはな、執着持った相手への拘りがすげぇっていうか。普通の人間じゃ考えられねぇほど付き纏うんだよ。」
「バン、さすがにそれは言葉が悪いと思うよ?世間的にはおとぎ話みたいな感じで、王族は一目惚れした相手を一生大事にして愛するって言われてるんだけどね。実際は何て言うか、一目ぼれした相手の年齢とか性別とかお構いなしに、とにかく愛を囁くっていうか。婚約者でなかったとしても、好きだってアプローチするし、出来るだけ一緒の時間を過ごそうとするんだよ。だから良くも悪くも王族とずっと一緒に居る人は、その一目惚れ相手じゃないかって邪推されるし、大体当たってるんだよね。それが無くなるのは、きっぱりと振られた時だけだって聞いてるよ。アークエイド君の場合、一緒に生徒会で過ごしていたからね。アシェル君に付きっきりの姿を見て、ほぼ間違いなく相手がアシェル君だろうとは。」
ユリウスの方はかなりオブラートに包んだつもりだろうが、結局言ってることはバンと変わらない。
「ストーカー……?」
「がっはっは、面白れぇな。まぁ、ある意味間違っちゃいねぇな。俺の代には、レディの寝所に押しかけようとした馬鹿もいたからな。相手の方が一枚上手で、毎回叩き出されてたみたいだが。まぁなんちゅうか、血筋特有の性格みたいなもんだ。好きになった相手から片時も離れたくないのさ、王族っちゅうのは。もちろん状況によって我慢することもあるだろうが、アシェルにはこなせるが他では難しいレベルのクエストなら、アークは間違いなく付いてくるぞ。自分の目の届かないところで、好きな奴が危険な目に合うのが嫌なんだろうな。あとは冒険者登録できた理由だったな。……そもそも、お前さんはアークが冒険者になることに反対していなかったと思うぞ。それはエラートとマリクもな。お前さんたちは10歳の登録時から実力だけはあったんだ。経験が少ないだけで。最初のうちはベテラン冒険者が指導についていた。当時、冒険者になるアークのことをどう思ってたか……思い出せないか?俺が話しても良いが、唯の推測でしかないからな。」
「10歳……思い出して、みます。」
そもそもアークエイドは守られるべき存在だと認識していなかったのだろうか。
——いや、それはない。
アークエイドが王族であろうとなかろうと、アシェルにとっては守るべき大切なモノだ。
たまたま王族だったから一番優先しているが、沢山あるアシェルの大切なモノの一つだ。
じゃあどうして冒険者になることに反対しなかったのだろうか。
そもそもどうやって冒険者になったのだろうか。
10歳。
そう、10歳の誕生日を迎えた後でなければ冒険者登録は出来ない。
だから生まれの一番遅いマリクが誕生日を迎えるのを待ったのだ。
アシェルの場合、兄達から猛反対にあう可能性があったので、二人が居ない隙にアベルとメアリーに許可を貰った。
その後危惧した事態は起きなかったが。
アークエイドは皆の前で、王妃のアンジェラに直談判したのだ。
その時に王族であるアークエイドが冒険者になる必要がないと、確かに言われていた。
冒険者には身の危険があるんだぞと。
それを聞いてアシェルは何を思っただろうか。
「アークのことは……ううん。アークのことも、エトもマリクも。何が何でも僕が守るって思ってた。僕なら守れるって。それにアークのことは、エトもマリクも守ってくれるから。冒険しすぎなければ大丈夫だって。でも、でも……あれは何?」
うんうん、そんなところだろうと思ったぜと頷いて同意を示していたバンは、アシェルの口調と空気の変化に気付いた。
先程までバンに答えを返すために、二人の視線は交わっていたはずだった。
そのアシェルの視線は、ここではないどこかを見つめている。
「……だめ……それは許さない……。僕のアークに手を出さないでっ。」
一瞬で膨れ上がった身体が凍えそうなほどの殺気と、アシェルの掌に現れたブロードソード。
「アシェルっ、落ち着けっ!」
「アシェル君!ここには何もいないよ!アークエイド君だっていない。ここは冒険者ギルドだよ!」
「ここには曲者も魔物もいねぇ。敵はどこにもいねぇんだ、落ち着けっ。」
「冒険者、ギルド……。」
すんと。
殺気が消えると同時に、落ちた金属が床の上で音を鳴らした。
アシェルと視線が合うようになったことに、二人は安堵の息を吐く。
「……いない……。」
「何を思い出したのか知らねぇが、記憶に引っ張られすぎんな。あくまでも記憶は記憶。それは過ぎたことで、唯の思い出でしかねぇ。幼少期の記憶しかねぇらしいアシェルとしちゃ気になるんだろうがな。記憶があろうがなかろうが、アシェルはアシェルだ。戸惑うこともあるかもしれねぇが、それは周囲が配慮すりゃ良いだけの話だ。それに何もかも忘れちまってるわけじゃねぇ。さっきお前さんは俺の魔力に反応していた。アシェルは分かってないみたいだったが、身体は覚えてるんだ。無理せず、また訓練しなおしゃいい。」
「ごめんなさい。何故か、ここは森の中だと思ったの。アークのことを守れるって思ってたのに、アークに、見たことないくらい大きな蜂が……。ちがう。ただのハチじゃない。あれはのーとりあすもんすたー?……あぁ、ネームドとか、そういう特殊固体のことね。」
「アシェル君……。それはもう過ぎたことだよ。あの時はアシェル君が大きな傷を負ってしまって、学業に復帰するまでに時間がかかったんだ。アークエイド君はアシェル君が守ってくれたおかげで、傷一つなかったそうだよ。」
「うん、アークは無事だった……良かった。」
ようやくあの時の記憶が綺麗に繋がって、アシェルは緊張を解いた。
床に転がってしまった剣も『ストレージ』に仕舞いこむ。
あのハチ型NMは、しっかりとアシェルの手で倒したのだ。
それにあれはスタンピードの兆候であって、常日頃からNMがその辺りをうろついているわけではない。
思い出の欠片を見る時は、あまり深く思い出しすぎないようにしようと心に留めておく。
覚えているのが当たり前だからこそ、その時の光景も自分の抱いた気持ちも感覚も、思い出そうと思えば鮮明に思い出せるのが当たり前だった。
だからこそ薫は何度もパニックを起こした。連想した嫌な記憶を、その場でもう一度体験しているような気がしていたのだ。
バンの言う通り、記憶に引っ張られ過ぎていたのだろう。
「落ち着いたようで良かったよ。それに、アシェル君ほどじゃないかもしれないけれど、アークエイド君だってちゃんと戦う力を持ってる。メイディーに過保護になるなって言うのは無理な話かもしれないけれど、付きっきりで守らなくてはいけないほど弱くないはずだよ。」
「だな。そうそう酷いことにはならねぇ。気負いすぎんな。……身体を動かせば少しは手助けになるかと思ったが、手合わせはやめとくか?」
バンの申し出に少しだけ悩み。
アシェルとしての記憶を忘れてしまってから、満足に訓練に関わる何もかもを出来ていないことに気付いた。
「お願いします。」
そのキリっと引き締まった表情に、バンとユリウスは笑みを浮かべた。
「よしっ、決まりだな。演習場に行くぞ。」
ギルマスはユリウスだと聞いているのに、バンが取り仕切って演習場へと移動した。
バンの方がギルマスだと言われても違和感がなさそうである。
演習場に着いてまず、武器を選ぶように言われる。
どれも刃を潰してあって、打撲にはなるが切り傷にはならないように配慮されているらしい。
「そういえば……手合わせのルールとか、相手とかは?決まりが……あるのよね?」
ぼんやりと浮かぶ、授業中らしい模擬戦の風景。
「今回魔法は身体強化だけ、獲物の技術だけじゃなく体術も織り込んで良い。首か心臓に寸止めするか、もしくは相手が動けなくなるまで叩きのめせば勝ちだ。相手はさっき会ったガルドとジンの二人だ。」
「同時に二人?」
「あぁ、アシェルなら問題ないと思うぞ。むしろ一対一じゃ、無意識にぶっ飛ばしちまうかもしれねぇからな。」
バンは二人の名誉のためにも、一対一では勝負にならないという言葉は飲み込んだ。
そもそも貴族と平民では、訓練を始めた年齢や内容も違うのだ。魔法を使える人間も限られる。
かと言って身体強化をなしにすると、今度は女性の筋力では、という話になってくるので身体強化だけは許可したのだ。
「分かったわ。」
二人の姿を見て、屈強そうな男性なのに不思議と負けるビジョンは浮かばない。
多分どの武器を選んでも、彼らに負けることは無いだろう。
戦斧は使えなくはないだろうが、アシェルの戦闘スタイルと合わない。
「これにするわ。」
「アシェル君って、槍術の授業を受けていたっけ?イメージにないんだけど……。」
「取ってないわ。しっくりこないから、多分ほとんど使った事も無いと思うの。」
手に取った長槍をブンと振り回す。
全く手に馴染みは無いが、槍の得意な双子が身近に居たのだ。
ノワールはあまり参加しなかったが、エトワールと手合わせをする時に槍の使い方はしっかり身を以って覚えた。年に一度の手合わせで、その対処方法も。
薙ぎ、払い、身体の周囲を回して牽制をかけながら左右の持ち手を変える。石突と穂先の入れ替えも手の中で滑らせたり回転させてみて、問題なく出来ることを確認する。
「うん、これなら高そうなドレスも汚れないわ。この石突で殴れば致命傷にはならない……よね?」
「加減を覚えてないだろうから、頭だけはやめてあげてね。」
苦笑したユリウスに見送られて、演習場でガルドとジンの二人に向かい合う。
先程までの賑やかさは何処にもなく。
二人とも剣を構え、ガルドに至っては盾も構えている。
「あれがアシェルだと分かってても、なんかやりづれぇな。」
「槍か……余計にやりにくいが、そんなこと言ってっと瞬殺されるぞ。」
「分かってるけど、見た目はか弱い女だぞ?流石に抵抗が……。」
ガルドのか弱い女発言に、不意に彼らと出会った時の光景が思い浮かぶ。
「また僕のことか弱い女って言ったね?確かに女ではあるけど……これでも男の子に負けないくらい訓練してるんだよ。そのか弱い女にコテンパンにされないように、頑張って足掻いてよね。僕を楽しませてくれるんでしょう?」
まるで二重人格なのではないかと思うくらいの変わりようと、ガルド達の良く知るアシェルの姿に。
ガルドにあった迷いは綺麗に吹き飛んだ。
どんな見た目で、記憶喪失だというイレギュラーな状態でも、アシェルはアシェルなのだ。
気を抜けばやる気が無いのかと、執拗に痛めつけられるだろう。
「話はついたか?魔法は身体強化のみ、その他は禁止。致命傷になる攻撃は寸止めしろ。はじめっ。」
バンの口上が終わったのに合わせて、アシェルは身を屈めて前に出た。
今はお互いの距離があり、長槍でも届かない。
しっかりとガルドが盾を構えて前に出て、槍の先端を捕らえようとする。
でもアシェルは槍を突き出すのではなく、手の中で滑らせて槍先を短く持ち換えた。
身体を捻ってガルドの側面に槍をあて——ようとして、ジンに防がれる。
本当ならここで捻った重心の移動に合わせて足蹴りを入れるのだが、流石にドレスでは無理だと、剣に弾かれた勢いに乗って二人から距離を取った。
「こんなことなら、トワに槍を習っておけばよかったかな。」
そうぼそりと呟いて、アシェルはまた槍を振るった。
結果、アシェルの圧勝だった。
一度はジンの一閃がアシェルを捕らえかけたが、「ドレスが汚れたらどうしてくれるのさ。」という一言と共に、石突が剣を握る手を穿ち、そのまま力任せに腹に一撃を貰ってダウン。
ガルド一人では手も足も出ず終了である。
そもそも二人で対応したからなんとかアシェルについていけていたが、少し注意を怠るとアシェルの姿がかき消えるのだ。
【朱の渡り鳥】のメンバーで最初から最後までアシェルを見失わなかったのは、弓使いのユウナだけだった。
「勝者、アシェルっ。ほんと、なんでもできちまうな。」
「僕の未熟な槍が通用して良かったよ。でも、いくらおやっさんの勧めでも、ドレスで戦闘はダメだね。このドレス、いくらするんだろって心配しちゃったよ。」
「アシェル、俺のこと……。」
「本当に全部か分からないけど、身体動かしてたら思い出したよ。フレンドリーでグルメな解体場のおやっさんのこと。元ギルマスってこともだけど、未だに貴族籍ってのは詐欺だと思ってるけどね。どっからどう見ても荒っぽくていかついおじさんなんだもん。」
「おじさんって言うんじゃねぇっ。一気に年くった気になるだろうが。だがまぁ、そうか……良かった。やっぱりアシェルは、これくらい軽口叩いてるほうがアシェルらしいな。」
「それ褒めてないでしょ?でもまぁ……心配かけてごめんね。ガルド達もありがとう。わざわざ僕の為に時間を割いてくれて。」
「良いって、気にすんなよ。落ち着いたら、また何か一緒にクエストでもしようぜ。俺達も腕を磨いておくからよ。」
「うん、楽しみにしてるよ。それじゃあ、まだおつかいが残ってるから。」
「気を付けてね。今日は休んでていないけど、マチルダにもアシェル君が来たことを伝えておくよ。」
ユリウスの言葉に少し記憶を辿り。
生徒会副会長でユリウスの婚約者であることを思いだした。
「婚約者のマチルダ先輩にも、また来ますって伝えてください。」
表から出ると目立つだろうからと職員用の裏口から出してもらい、思い出した沢山の記憶と温かい気持ちと一緒に冒険者ギルドを後にした。
今身体を動かした時に、家庭教師に教えて貰っていたことや、大切なモノを自分の手で守りたいと思った大事な心も思い出せたのだ。
その演習場の片隅で、バンがアシェルに思い出してもらえたことが嬉しくて男泣きしていたのは、アシェルの知らないことである。
========
Side:アークエイド15歳 秋
アシェルの護衛一行は、通された隣室からアシェルの様子を伺っていた。
この二部屋だけは、片側から中の様子が見られる作りになっているらしい。
「アシェが、恋人だと紹介してくれた。」
「また戻ってるよ。って、僕は何回このやり取りをしたらいいのかな。幼馴染のことながら、なんで王族って一目惚れ相手のことになるとぽんこつになるんだろう。普通、逆じゃないのかな?」
「それってアークだけじゃないんですか?」
「グレイもだね。シルフィード嬢の前ではなんとか取り繕ってるみたいだけど。」
「リリィ、そういうのは本人がいないところじゃ……。」
「もうっ、ちょっと気になっただけよ。詳しく聞いたりしないわ。」
バンとユリウスがアークエイドというよりも、王族を執着がだのしつこいだの言っているのを、公然の事実であるがゆえに誰も否定せず。
アシェルが記憶を思い出すために物思いに耽っていると思ったら、急に殺気が膨れ上がった。
打ち合わせたわけでも無いのに壁際から距離を取った六人は、アッシュ姿のアークエイドを中心に守りを固める。
ペンダントから聞こえる声で、殺気の出所がアシェルであることが分かり、バンとユリウスのお陰ですぐに殺気は消えたので警戒を解いた。
「相変わらずアシェの本気の殺気って、物凄く怖いわね。二回目だからだと思うけど、我ながらよく身体が動いたものだわ。わたくし自身を褒めてやりたいわね。」
「強がりを言っても震えてるぞ。」
「そこは見て見ぬふりしてよね。」
緊張が解け、ガタガタと震え出したリリアーデをデュークが抱きしめる。
今朝はアークエイドも寝惚けていて、無意識のうちにアシェルを抱きしめてしまっていた温もりを思い出し。
その羨ましい光景から視線を逸らした。
それこそ思い出さなくても良いのに、あの悪夢のようなNMとの戦闘を思い出したようだ。
あれに関することを、どこまで思い出したのかは分からない。
だがアシェルは記憶とは、思いだそうと思えば鮮明に思い出せるものだと言っていた。
それこそ授け子が前世を振り返る時のように、その時の光景や感じたことを思い浮かべることが出来ると。
「ねぇ、リリアーデ嬢。授け子っていうのは、アシェル嬢みたいに思い出したいと思ったものを思い出せるんだろう?それには……痛みも伴うものなのかい?」
「アッシュがいうアシェと同じかは分からないけど……。客観的にその場面が見えるって言うのかしら。小さい時はあまりにも綺麗に思い出せるから、混同してちょーっと大変だったけど。今はアシェみたいに記憶に引っ張られて混乱することは無いわ。逆に混乱するぐらい思い出した時って、自分自身が今どうなってるか理解できないのよね。意識があっち側に引っ張られちゃうっていうか。痛かったとか怖かったって思い出だとしたら、その時そうだったって思うだけなのに。そう思うだけの時もあれば、追体験している気分になることもあるわ。一概にこうって答えは出せないの。わたくしとアシェでは見え方が違うかもしれないし。」
「それだけでも十分だよ、ありがとう。」
あの時の苦痛は思い出さないでくれと、心の底から願う。
そしてもう二度と、アシェルに酷い怪我を負わせてなるものかとも。
NMとの戦闘を思い出して、魔法も魔物もない平和な世界から来た薫は、手合わせを断るのではないかと思っていた。
アークエイドだって剣術や体術の訓練は、その痛みに慣れるまで恐怖で苦痛で仕方が無かった。今のアシェルには恐ろしいだろうと。
だが、予想に反して演習場に移動するという。
ギルド職員が来てくれ、先程の殺気に反応して落ち着きのない一階を通り抜けて演習場へと移動する。
チラホラとギャラリーが居る中、場違いな姿のアシェルが選んだのは長槍だった。
「私はアシェル嬢が槍を使う姿を見たことが無いんだけれど……。メイディーの武術の授業は、剣術以外も必修だったりするのかい?」
「物としては教えられるけど、家庭教師に教えて貰うのは剣術ばかりだよ。そもそも学院の授業に槍術があるのだって、一定数水棲の魔物に対応するのに人気があるってだけで。貴族の武術の中では基本的にマイナーだしね。」
誰もがアシェルが槍を持つ姿がしっくりこないが、本人もしっくり来ていないようだ。
だが馴らしをしている姿に迷いはない。
「なんでかしら。今のアシェの動き、見たことがある気がするわ。」
「トワにそっくりだからじゃないかな。お茶会の時、手合わせしてただろ。あの準備運動だよ。」
「あー確かにそうね。って、【朱の渡り鳥】のこと思い出したのかしら?」
「いつものアシェの喋り方だな。」
双子は知らないだろうが、アークエイドはそのエピソードを知っていた。
それがよっぽど腹に据えかねていたのか、ストレス発散と称した強行軍の時もブツブツ言っていたので覚えている。
「あぁ、惜しいわっ。」
「トワなら今ので追撃が入るけど。出来なかったわけじゃなさそうだな。」
「間違いなくワンピースを気にしてるね。出来れば、スカートのままじゃなく運動着に着替えて欲しかったところだけど……。」
アークエイドがチラリと向けた視線に気づいたリリアーデは、観戦を続けながら言葉を返す。
「口がまわるからってアッシュのままそんなこと言われても、わたくしには解説できないからね?そもそも、今のアシェはストレージに授業で使う運動着が入ってるなんて、全く気付いてないと思うわよ。気付いたとしてもあっちの体操服とは全く見た目が違うから、なんかカッコイイ服装が入ってるなーくらいにしか思ってない可能性もあるわ。」
結局危うげなく立ち回っていたアシェルは、本人に傷は付かないだろうがドレスが裂けそうだ、という一閃に対応し、ジンをノックアウトした。
致命傷ではないと思うが、遠慮なく腹部に石突が刺さった二人は、しばらく悶絶していた。
最後まで普段のアシェルらしい口調だったが、ガルドとジンの二人の手当をしなかった辺り、まだ記憶が戻り切っているわけではないらしい。
——ギルド職員が治療にあたるのを分かっていて、お灸を据えていた可能性がないとは言い切れないが。
冒険者ギルドを後にしたアシェルを追って、アークエイド達もその後を追った。
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