313 / 313
第五章 【アンブロシア】
302 薬草園⑤
しおりを挟む
Side:“古都”映像を見守るアークエイド(15歳)達 冬
“古都”では変わらずアシェルの身体をお世話しながら映像を見る生活が続いており、“アンブロシア”で過ごすアシェルは、ひたすら大きな魔術式と睨めっこする毎日が過ぎている。
一歳の誕生日の後から、日中はアシェル一人で数時間の留守番をしていることが多くなった。
二歳のお披露目パーティーの後からは、日中は一人で過ごすようになった。
咲と健斗は執務が溜まっているらしい。逆に今までよくべったりと過ごせていたものだ。
時折健斗が数日居ないこともあるが、夜勤や遠征だと言っていた。
いつもの独り言ではなく日常会話程度の声量で考察を喋っているのは、恐らく喋る練習も兼ねているのだろう。
幼い拙さは残るものの、喋るのがとても上手になっている。
毎晩咲に、些細な事でも気付いたことや楽しいと感じたことを話しているのも、話術の上達に貢献していそうだ。
意識してのことだろうが、積極的にお喋りしている。
最近の映像はマンネリ化していたが、どうやら今日は薬草園に行くらしい。
といっても、こちらも特別な変化には思えない。
それはアシェルらしい行動をしているからだろう。
パトリシアには新鮮に映るようだが、家族と幼馴染からしてみればいつものアシェルだ。
味見まで開始したので、傍から見ると植木の葉っぱをむしって食べてる危ない子である。
でもそれすらもいつものアシェルと変わりない。
小さくもいつも通りのアシェルが愛しすぎて困る。
不意に男の焦った声が聞こえた。
アシェルの足元に大きな魔法陣が広がるが、それはぼやけていてはっきりと認識することが出来なかった。
「メルティー。そんなにヤバいのを味見したのか?」
アシェルに限ってそれは無いと思うが。
いや、正しくは体質も違うだろうしきちんと口にするものは考えていると思うが、大人達の慌てように少し不安になる。
これくらいじゃ死なないから大丈夫でしょと、猛毒を口にしかねないという不安もあるからだ。
普通は頭がおかしいのではと思うが、これがメイディー直系が口にした言葉だというだけで、全くおかしくはなくなる。
錬金に対するメイディーはそういうものだというのが、ヒューナイト王国の貴族の常識である。
アークエイドが授業の合間に顔を出していたメルティーに問いかけると、メルティーは首を振った。
「なんであんなに慌てていらっしゃるのかサッパリですわ。アシェお義兄様の言う通り、物凄く弱い毒ですもの。あれくらいなら少し気持ち悪いくらいじゃないかしら?毒耐性をつける入門編の薬草ですわ。アークお義兄様なら摂取したことがあるでしょうから、恐らく両手いっぱいに食べないと嘔吐に至らないと思いますわよ?」
「吐くと分かっていて食べたくはないけどな。」
「ふふっ、普通はそうですわね。わたくしでも付き添い無しで味見していい薬草ですわ。アシェお義兄様の心配は要りませんわよ。」
「なら良かった。」
片やデュークは魔法の方が気になっていた。
「術式が見えないってことは、こっちにない魔法だよね。キュアって言ってた?」
「キュアって言ってたわね。物凄く便利な魔法よ。」
「解毒剤の魔法バージョンだと思ってもらったらいいですよぉ。ファンタジーあるあるの、毒の種類に関わらず効果のある魔法ですねぇ。設定にもよりますけど、大抵の毒は解毒できるものだと思いますぅ。」
「もしあれがあれば、三の森のクエストを受けやすくなりそうなんだけど。見えないのが悔やまれるな。」
「こっちをベースにって言ってたけど、レベル制だし、かなり魔法の種類も多いみたいだし。よりゲームに近い感じよね。テレポとか使ってみたいわ。アシェにそういうの無いのって聞いたら、“リリィほど魔力があっても、分子になって消え去る可能性の方が高いんじゃないかな”ですって。イメージに形を与えるのが魔法だけど、あり得ないことを妄想しても不発か、発動しても物凄く魔力を消費してしまうらしいのよ。魔力が持つかは置いといて、成功させようと思ったらって話もしてくれたけど、非現実的だったわ。」
「条件は何だったんですかぁ?」
「えっと……まずは今いる場所と飛びたい場所の強いイメージ。出来たら経度とか緯度みたいな、この世界的な座標が判明すればなおよし。少しでも場所が狂うと、バラバラ殺人事件現場になれば良いほう。身体の一部すら見つからないかもって。あとは自分の身体が分子レベルまで消えて、その分子が目標地点まで移動して、身体を再構築する必要があるらしいわ。頭から足先、内臓から髪の毛の一本一本まで自分の姿を正確に作り上げないと……ってね。」
「わぁ……それは無理ですねぇ。なんていうか、科学的なお話ですぅ……。どこでもドアタイプだと嬉しいんですけどねぇ。」
「わたくし達からしたら魔法って無から有を生み出してるように見えるけど、アシェ曰く、ちゃんと現象としては説明がつくことなんですって。魔力が素材の代わりってところかしら。ストレージだけが謎原理だけれど、それ以外に時空間魔法ってないから無理みたいよ。あとは禁術系も謎原理って言ってたわね。」
「ふむふむ。でも、ヒールはどうなってるんですかぁ?傷が治せるなら骨折も治せそうなのにぃ、骨折は治せませんよねぇ?」
「なんて言ってたかしら?えーっと……傷の場合は血流と魔力の流れを良くして組織の修復を促しているけど、骨の場合、血も魔力も通ってないから治癒促進ができないんですって。骨を作り出せてもくっつけるのが難しいみたい。だから骨折だけは魔法で治せないのよ。出来るのは骨の位置を正しい位置に戻して周囲を治癒させて、回復を促すだけみたいよ。」
「へぇ、ちゃんと理由があったんですねぇ。確かに時空間魔法は——。」
リリアーデとパトリシアが揃うと、当たり前のように話題は移ろっていく。
その中には今回のように勉強になるようなこともちらっとまじることもあるが、基本的には当事者達以外にはどうでもいい雑談ばかりだ。
画面の中ではアシェルがぶつぶつ呟き、メルティーならと言っている。
「アシェお義兄様ったら。わたくしではお義兄様達には敵いませんわ。」
「メル嬢は自己評価が低すぎるんじゃないのか?素直に受け取れば良いと思うよ。」
「お義兄様達はちょっとしたことでも褒めてくださいますの。お義兄様達からの評価はあてになりませんわ。」
「アシェはよくメルティーのことを褒めている。でも褒め過ぎではなく、それが事実だ。俺は……メルティーが5分で解除できるらしい拘束の解除にギブアップした。正直に凄いと思う。ちゃんとメルティーが努力していることを知っていての発言だ。素直に受け取ってやると良い。」
「アークお義兄様まで……。分かりましたわ。あっ、そろそろ次の授業に行かないとだわ。」
メルティーが授業へと戻っていく。
アシェルは薬草園の見学の後、子供部屋に戻ってきたようだ。
研究棟の見学よりもお喋りを優先させたのは珍しいと思うが、とても楽しかったのだろう。
活き活きとした表情で語り始めた。
てっきりいつものようにその日の出来事を喋るだけだろうと思っていたのに、会話の内容は思いもよらない方向に進んでいく。
「思い出せないのは、プロポーズだけだと言っていた……。いや……。だけ、とは言ってないか……?」
付き合い始めたという明確な記憶が残っていないから、アークエイドで充電は、という話はした。
思い出せばアークエイドで充電してくれるとも。
だがそれ以外に何か言ってなかっただろうか。思い返してみてもその話が印象的すぎて、会話の細部が分からない。
「アシェルお嬢様は嘘をつくのが嫌いですから。明言はされていらっしゃらないんじゃないでしょうか。」
サーニャの言う通り。
アシェルが意図して誤魔化していたのだとしたら明言はしていないだろう。
「分かってる。ただ少し……本当のことを言ってくれたらと……。」
「アシェなりにアークを気遣ってたんだろう。」
「あぁ。分かってるんだ。」
アシェルは気遣ってくれたのだろうが、アークエイドはそんなにも頼りなかっただろうかと、そう感じてしまうだけだ。
「懐かしいわ。そうそう。まだみーんなちっちゃくてね。アシェはもう男装してたから、本気で男の子だって思ってたわ。マリクももこもこフワフワだったのよ。」
「ずっと男の子として暮らしてたんですねぇ。」
「あの……アークエイド殿下。皆様で見ていて宜しいのですか?私はお近くで見ていたので、細かい内容までは分からずとも大体存じ上げておりますが……。」
少しアークエイドが沈んだ隙に、映像からはアシェル達が出会った頃から進み、非公式お茶会のエピソードが語られ始めている。
それには当然。
アシェルと二人っきりの時に、アークエイドがアシェルの気を引こうとした内容が含まれるわけで。
「っ、よくないっ。見ないでくれっ。」
「へぇ、アークが慌てるなんて。ますます楽しみね。アシェの惚気なんてなかなか聞けないから、とっても貴重よ。アーク、邪魔したら魔力マシマシで寝かせちゃうからね?」
「お二人の馴れ初め、楽しみですねぇ。」
「アシェは聞けば教えてくれるけど、基本的に聞かないと話さないからな。」
「なんでデュークがそんなことを——。」
「僕は二人の話を横で聞いていただけだからな?」
ある時からアークエイドが横にピッタリ寄り添って座るようになったとか、お昼寝で肩を貸してあげたこと。
それからアシェルの使った言葉を並べながら、どさくさに紛れてアシェルを抱き寄せたこと。リリアーデとのキスについて尋ねたことなど。
ちょっとした出来事から手応えを感じたり感じなかったりのイベントまで、時系列順に説明がなされていく。
しかも咲が適宜アシェルに感想を聞くので、アシェルがその時にどう感じていたのかまで情報が流れてくる。
女ったらしについての話は、わざわざ咲がアシェルに魔法をかけて、アシェルを成長させて実演した。
咲が望めば、それが実現可能である限り、アシェルが全て叶えてしまうのは分かっている。
話の流れとして仕方がなかったのだと思うしかない。
大きなアシェルの姿を見せてくれた褒美だと、無理やり嫉妬心を押し込む。
咲は照れたが、そこに恋慕の情が全く見えないことだけが救いだ。
サーニャは小声の会話以外は大体聞こえていたし、リアルタイムで見守っていた。
分からないのは、二人が散歩に出かけたりして屋外に居た時のことだけである。
小さな王子様がアシェルから片時も離れなかったことを懐かしみながら映像を見ていた。
公開処刑されているアークエイドは、アシェルがどんなことを感じていたのか知れたことを嬉しく思いつつ、アプローチを片っ端から暴露されて顔を真っ赤にしていた。
リリアーデとパトリシアはキャーキャー騒ぎながら、画面の向こうの咲と同じテンションで楽しんでいる。
「僕の言えたことじゃないけど……。アーク、なにしてんのさ。しかも、それであれだったんだろ?」
「……お願いだから言わないでくれ。アシェはドキッとしたとか言ってるけど、基本的にいつもの笑顔で流されてたからな?」
「まぁ今聞いてる限り、そもそも男同士だからあり得ないと思ってたって言ってるしね。……はぁ。なんで女性って、他人の色恋話でこんなに盛り上がれるんだろ。さすがに生々しすぎるんだけど。」
デュークが溜息を吐いているが、アークエイドも同感だ。
パトリシアの話が出てきた時は、咲が「ライバル登場!?」と楽しそうに言っていた。
それを当の本人であるパトリシアが、タイミング的に乙女ゲーのヒロイン出現ですもんねぇと笑い。リリアーデも同意している。
その先のことを知っているからかもしれないが、何故自分の話題まで出されているのに楽しめるのかが分からない。
アシェルが今日の話はこれで終わりと、レストラン【ウォルナット】の出来事を話し始めた。
「っ、これも喋るのか!?……出来たら聞かないでくれ……。無理だとしても、他言しないでくれ。これ自体は終わったことだし、箝口令が敷かれてるんだ。」
「分かったわ、他言無用ねっ。アシェに相手にされてないアークが可哀想だけど、内容的には胸キュンばかりだわ。さいっこう……!」
「咲山六花に薄い本にして欲しいですぅ。ていうか、咲山六花の新作が見たいですぅ。」
「アシェ達を書いたら、とびっきり美青年になるわね。」
「しかも今の話なんて目じゃないくらいえちえちですぅ。」
しっかりアシェルが覚えていたことと、あの時考えていたこと。朦朧とした意識でアークエイドの指を吸っていたことまで暴露されてしまった。
図らずも。媚薬香の影響とは言え、互いに快楽を拾い離れがたかったと思っていたことを知ったのだった。
この日から時折思い出したからと、アークエイドとのエピソードが語られることになるのだが、そのきっかけエピソードとしてミルトン兄弟の話も添えられていた。
どうもそういうきっかけや変化に至る人物の登場は、咲にとって相当興奮するものらしい。
アークエイドのキスはそんなに上手くない。でも恐らく事件のせいで擦りこみなのか気持ち良いと思うようだ。
初心な反応が可愛かったが段々上達してきた。
三人の中なら一番上手いのはシオンだなどと、普段なら絶対聞けない内容まで暴露されることになる。
しれっとリリアーデのキスも上手だったと暴露されていた。
時にはメイディーの誰かや幼馴染達が同席している時に話が始まることもある。
高確率でアルフォードが赤くなったり暴走したりしていたが、“古都”の毎日は平和に過ぎていくのだった。
大きなダメージを受けたのはアークエイドの羞恥心だけである。
“古都”では変わらずアシェルの身体をお世話しながら映像を見る生活が続いており、“アンブロシア”で過ごすアシェルは、ひたすら大きな魔術式と睨めっこする毎日が過ぎている。
一歳の誕生日の後から、日中はアシェル一人で数時間の留守番をしていることが多くなった。
二歳のお披露目パーティーの後からは、日中は一人で過ごすようになった。
咲と健斗は執務が溜まっているらしい。逆に今までよくべったりと過ごせていたものだ。
時折健斗が数日居ないこともあるが、夜勤や遠征だと言っていた。
いつもの独り言ではなく日常会話程度の声量で考察を喋っているのは、恐らく喋る練習も兼ねているのだろう。
幼い拙さは残るものの、喋るのがとても上手になっている。
毎晩咲に、些細な事でも気付いたことや楽しいと感じたことを話しているのも、話術の上達に貢献していそうだ。
意識してのことだろうが、積極的にお喋りしている。
最近の映像はマンネリ化していたが、どうやら今日は薬草園に行くらしい。
といっても、こちらも特別な変化には思えない。
それはアシェルらしい行動をしているからだろう。
パトリシアには新鮮に映るようだが、家族と幼馴染からしてみればいつものアシェルだ。
味見まで開始したので、傍から見ると植木の葉っぱをむしって食べてる危ない子である。
でもそれすらもいつものアシェルと変わりない。
小さくもいつも通りのアシェルが愛しすぎて困る。
不意に男の焦った声が聞こえた。
アシェルの足元に大きな魔法陣が広がるが、それはぼやけていてはっきりと認識することが出来なかった。
「メルティー。そんなにヤバいのを味見したのか?」
アシェルに限ってそれは無いと思うが。
いや、正しくは体質も違うだろうしきちんと口にするものは考えていると思うが、大人達の慌てように少し不安になる。
これくらいじゃ死なないから大丈夫でしょと、猛毒を口にしかねないという不安もあるからだ。
普通は頭がおかしいのではと思うが、これがメイディー直系が口にした言葉だというだけで、全くおかしくはなくなる。
錬金に対するメイディーはそういうものだというのが、ヒューナイト王国の貴族の常識である。
アークエイドが授業の合間に顔を出していたメルティーに問いかけると、メルティーは首を振った。
「なんであんなに慌てていらっしゃるのかサッパリですわ。アシェお義兄様の言う通り、物凄く弱い毒ですもの。あれくらいなら少し気持ち悪いくらいじゃないかしら?毒耐性をつける入門編の薬草ですわ。アークお義兄様なら摂取したことがあるでしょうから、恐らく両手いっぱいに食べないと嘔吐に至らないと思いますわよ?」
「吐くと分かっていて食べたくはないけどな。」
「ふふっ、普通はそうですわね。わたくしでも付き添い無しで味見していい薬草ですわ。アシェお義兄様の心配は要りませんわよ。」
「なら良かった。」
片やデュークは魔法の方が気になっていた。
「術式が見えないってことは、こっちにない魔法だよね。キュアって言ってた?」
「キュアって言ってたわね。物凄く便利な魔法よ。」
「解毒剤の魔法バージョンだと思ってもらったらいいですよぉ。ファンタジーあるあるの、毒の種類に関わらず効果のある魔法ですねぇ。設定にもよりますけど、大抵の毒は解毒できるものだと思いますぅ。」
「もしあれがあれば、三の森のクエストを受けやすくなりそうなんだけど。見えないのが悔やまれるな。」
「こっちをベースにって言ってたけど、レベル制だし、かなり魔法の種類も多いみたいだし。よりゲームに近い感じよね。テレポとか使ってみたいわ。アシェにそういうの無いのって聞いたら、“リリィほど魔力があっても、分子になって消え去る可能性の方が高いんじゃないかな”ですって。イメージに形を与えるのが魔法だけど、あり得ないことを妄想しても不発か、発動しても物凄く魔力を消費してしまうらしいのよ。魔力が持つかは置いといて、成功させようと思ったらって話もしてくれたけど、非現実的だったわ。」
「条件は何だったんですかぁ?」
「えっと……まずは今いる場所と飛びたい場所の強いイメージ。出来たら経度とか緯度みたいな、この世界的な座標が判明すればなおよし。少しでも場所が狂うと、バラバラ殺人事件現場になれば良いほう。身体の一部すら見つからないかもって。あとは自分の身体が分子レベルまで消えて、その分子が目標地点まで移動して、身体を再構築する必要があるらしいわ。頭から足先、内臓から髪の毛の一本一本まで自分の姿を正確に作り上げないと……ってね。」
「わぁ……それは無理ですねぇ。なんていうか、科学的なお話ですぅ……。どこでもドアタイプだと嬉しいんですけどねぇ。」
「わたくし達からしたら魔法って無から有を生み出してるように見えるけど、アシェ曰く、ちゃんと現象としては説明がつくことなんですって。魔力が素材の代わりってところかしら。ストレージだけが謎原理だけれど、それ以外に時空間魔法ってないから無理みたいよ。あとは禁術系も謎原理って言ってたわね。」
「ふむふむ。でも、ヒールはどうなってるんですかぁ?傷が治せるなら骨折も治せそうなのにぃ、骨折は治せませんよねぇ?」
「なんて言ってたかしら?えーっと……傷の場合は血流と魔力の流れを良くして組織の修復を促しているけど、骨の場合、血も魔力も通ってないから治癒促進ができないんですって。骨を作り出せてもくっつけるのが難しいみたい。だから骨折だけは魔法で治せないのよ。出来るのは骨の位置を正しい位置に戻して周囲を治癒させて、回復を促すだけみたいよ。」
「へぇ、ちゃんと理由があったんですねぇ。確かに時空間魔法は——。」
リリアーデとパトリシアが揃うと、当たり前のように話題は移ろっていく。
その中には今回のように勉強になるようなこともちらっとまじることもあるが、基本的には当事者達以外にはどうでもいい雑談ばかりだ。
画面の中ではアシェルがぶつぶつ呟き、メルティーならと言っている。
「アシェお義兄様ったら。わたくしではお義兄様達には敵いませんわ。」
「メル嬢は自己評価が低すぎるんじゃないのか?素直に受け取れば良いと思うよ。」
「お義兄様達はちょっとしたことでも褒めてくださいますの。お義兄様達からの評価はあてになりませんわ。」
「アシェはよくメルティーのことを褒めている。でも褒め過ぎではなく、それが事実だ。俺は……メルティーが5分で解除できるらしい拘束の解除にギブアップした。正直に凄いと思う。ちゃんとメルティーが努力していることを知っていての発言だ。素直に受け取ってやると良い。」
「アークお義兄様まで……。分かりましたわ。あっ、そろそろ次の授業に行かないとだわ。」
メルティーが授業へと戻っていく。
アシェルは薬草園の見学の後、子供部屋に戻ってきたようだ。
研究棟の見学よりもお喋りを優先させたのは珍しいと思うが、とても楽しかったのだろう。
活き活きとした表情で語り始めた。
てっきりいつものようにその日の出来事を喋るだけだろうと思っていたのに、会話の内容は思いもよらない方向に進んでいく。
「思い出せないのは、プロポーズだけだと言っていた……。いや……。だけ、とは言ってないか……?」
付き合い始めたという明確な記憶が残っていないから、アークエイドで充電は、という話はした。
思い出せばアークエイドで充電してくれるとも。
だがそれ以外に何か言ってなかっただろうか。思い返してみてもその話が印象的すぎて、会話の細部が分からない。
「アシェルお嬢様は嘘をつくのが嫌いですから。明言はされていらっしゃらないんじゃないでしょうか。」
サーニャの言う通り。
アシェルが意図して誤魔化していたのだとしたら明言はしていないだろう。
「分かってる。ただ少し……本当のことを言ってくれたらと……。」
「アシェなりにアークを気遣ってたんだろう。」
「あぁ。分かってるんだ。」
アシェルは気遣ってくれたのだろうが、アークエイドはそんなにも頼りなかっただろうかと、そう感じてしまうだけだ。
「懐かしいわ。そうそう。まだみーんなちっちゃくてね。アシェはもう男装してたから、本気で男の子だって思ってたわ。マリクももこもこフワフワだったのよ。」
「ずっと男の子として暮らしてたんですねぇ。」
「あの……アークエイド殿下。皆様で見ていて宜しいのですか?私はお近くで見ていたので、細かい内容までは分からずとも大体存じ上げておりますが……。」
少しアークエイドが沈んだ隙に、映像からはアシェル達が出会った頃から進み、非公式お茶会のエピソードが語られ始めている。
それには当然。
アシェルと二人っきりの時に、アークエイドがアシェルの気を引こうとした内容が含まれるわけで。
「っ、よくないっ。見ないでくれっ。」
「へぇ、アークが慌てるなんて。ますます楽しみね。アシェの惚気なんてなかなか聞けないから、とっても貴重よ。アーク、邪魔したら魔力マシマシで寝かせちゃうからね?」
「お二人の馴れ初め、楽しみですねぇ。」
「アシェは聞けば教えてくれるけど、基本的に聞かないと話さないからな。」
「なんでデュークがそんなことを——。」
「僕は二人の話を横で聞いていただけだからな?」
ある時からアークエイドが横にピッタリ寄り添って座るようになったとか、お昼寝で肩を貸してあげたこと。
それからアシェルの使った言葉を並べながら、どさくさに紛れてアシェルを抱き寄せたこと。リリアーデとのキスについて尋ねたことなど。
ちょっとした出来事から手応えを感じたり感じなかったりのイベントまで、時系列順に説明がなされていく。
しかも咲が適宜アシェルに感想を聞くので、アシェルがその時にどう感じていたのかまで情報が流れてくる。
女ったらしについての話は、わざわざ咲がアシェルに魔法をかけて、アシェルを成長させて実演した。
咲が望めば、それが実現可能である限り、アシェルが全て叶えてしまうのは分かっている。
話の流れとして仕方がなかったのだと思うしかない。
大きなアシェルの姿を見せてくれた褒美だと、無理やり嫉妬心を押し込む。
咲は照れたが、そこに恋慕の情が全く見えないことだけが救いだ。
サーニャは小声の会話以外は大体聞こえていたし、リアルタイムで見守っていた。
分からないのは、二人が散歩に出かけたりして屋外に居た時のことだけである。
小さな王子様がアシェルから片時も離れなかったことを懐かしみながら映像を見ていた。
公開処刑されているアークエイドは、アシェルがどんなことを感じていたのか知れたことを嬉しく思いつつ、アプローチを片っ端から暴露されて顔を真っ赤にしていた。
リリアーデとパトリシアはキャーキャー騒ぎながら、画面の向こうの咲と同じテンションで楽しんでいる。
「僕の言えたことじゃないけど……。アーク、なにしてんのさ。しかも、それであれだったんだろ?」
「……お願いだから言わないでくれ。アシェはドキッとしたとか言ってるけど、基本的にいつもの笑顔で流されてたからな?」
「まぁ今聞いてる限り、そもそも男同士だからあり得ないと思ってたって言ってるしね。……はぁ。なんで女性って、他人の色恋話でこんなに盛り上がれるんだろ。さすがに生々しすぎるんだけど。」
デュークが溜息を吐いているが、アークエイドも同感だ。
パトリシアの話が出てきた時は、咲が「ライバル登場!?」と楽しそうに言っていた。
それを当の本人であるパトリシアが、タイミング的に乙女ゲーのヒロイン出現ですもんねぇと笑い。リリアーデも同意している。
その先のことを知っているからかもしれないが、何故自分の話題まで出されているのに楽しめるのかが分からない。
アシェルが今日の話はこれで終わりと、レストラン【ウォルナット】の出来事を話し始めた。
「っ、これも喋るのか!?……出来たら聞かないでくれ……。無理だとしても、他言しないでくれ。これ自体は終わったことだし、箝口令が敷かれてるんだ。」
「分かったわ、他言無用ねっ。アシェに相手にされてないアークが可哀想だけど、内容的には胸キュンばかりだわ。さいっこう……!」
「咲山六花に薄い本にして欲しいですぅ。ていうか、咲山六花の新作が見たいですぅ。」
「アシェ達を書いたら、とびっきり美青年になるわね。」
「しかも今の話なんて目じゃないくらいえちえちですぅ。」
しっかりアシェルが覚えていたことと、あの時考えていたこと。朦朧とした意識でアークエイドの指を吸っていたことまで暴露されてしまった。
図らずも。媚薬香の影響とは言え、互いに快楽を拾い離れがたかったと思っていたことを知ったのだった。
この日から時折思い出したからと、アークエイドとのエピソードが語られることになるのだが、そのきっかけエピソードとしてミルトン兄弟の話も添えられていた。
どうもそういうきっかけや変化に至る人物の登場は、咲にとって相当興奮するものらしい。
アークエイドのキスはそんなに上手くない。でも恐らく事件のせいで擦りこみなのか気持ち良いと思うようだ。
初心な反応が可愛かったが段々上達してきた。
三人の中なら一番上手いのはシオンだなどと、普段なら絶対聞けない内容まで暴露されることになる。
しれっとリリアーデのキスも上手だったと暴露されていた。
時にはメイディーの誰かや幼馴染達が同席している時に話が始まることもある。
高確率でアルフォードが赤くなったり暴走したりしていたが、“古都”の毎日は平和に過ぎていくのだった。
大きなダメージを受けたのはアークエイドの羞恥心だけである。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(10件)
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。
また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
大金で買われた少女、狂愛の王子の檻で宝石になる ―無自覚な天才調合師は第二王子の婚約者(虫除け)を演じることになりました―
甘塩ます☆
恋愛
「君を金貨三十枚で買ったのは、安すぎたかな」
酒浸りの父と病弱な母に売られた少女・ユナを救ったのは、国中から「放蕩王子」と蔑まれる第二王子・エルフレードだった。
「虫除けの婚約者になってほしい」というエルの言葉を受け、彼の別邸で暮らすことになったユナ。しかし、彼女には無自覚の天才調合師だった。
ユナがその才能を現すたび、エルの瞳は暗く濁り、独占欲を剥き出しにしていく。
「誰にも見せないで。君の価値に、世界が気づいてしまうから」
これは、あまりに純粋な天才少女と、彼女を救うふりをして世界から隠し、自分の檻に閉じ込めようとする「猛禽」な王子の物語。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白くて先が気になり一気に読んでしまいました!寝不足です笑、、、
世界観も構想もすごく考えられていて大好きです!ムーランが出てくるあたりはアシェルに感情移入して苦しかった、、、
これから先アークとアシェルが幸せな結末になるといいなと思いながら読んでいます。
続きがめちゃくちゃ気になるので、早く更新されると嬉しいです!近々でますか❔
作者様の他の作品を読んで待ちたいと思います!
感想ありがとうございます^^
構想は練っているのですが、他キャラとの兼ね合いもあるので本決まりにするか悩んで手付かずでして……確定したらまた投稿します!
少し時間はあくとおもいますが、また読んでいただけると嬉しいです
以前にクリストファーやエラートなんかは、アシェルが男性と二人きり(異性と二人きり)だったり、部屋に招いたり目の前で寝たりは醜聞になると言っていたと思います。
なので貴族の常識として、醜聞になるという認識はあるのですが、身近にメイディーの男がいるほどそこに言及しなくなります。
実際には貶めてやろうと醜聞を広げる人間も居ると思うのですが、その母数がかなり少ないこと(代々王族と親密で、尚且つ社交界に身を置く期間が長いほど、もしくは同じ学生生活を過ごしたことが在る程、メイディーの異質さと大切なモノに対する非情さを理解しています。簡単に言うと、目を付けられたくない。)
歴代のメイディーの男達は異性に甘い言葉や仕草を投げ掛けるのが当たり前で、さらには医師家系という職業柄。二人きりで相談に乗ったり、こっそりと処方を希望する子には出してあげたりと、素地として醜聞になりにくい環境が出来上がってます。(アシェルの場合、取り囲む幼馴染達が高位貴族たちばかりなので、そういう相談が来たことは無いですが。)
話には出てこない超裏設定なので、とても分かりにくいと思いますが。
これがもし最初から女の子としてずっと過ごしていたのであれば、周囲はきっと本人の危険だけでなく、醜聞になることも、それが家族に迷惑をかける可能性も指摘していたと思います。
アシェルがあまりにもメイディー(の男)らしい故に、身近な人物はそこを言及するに至らないのです。
メアリーとの関係については、嫉妬の視線が無ければかなり友好的な関係を築ける未来でした。
全面的に母親として頼るというよりは、メアリーの望む子供らしい子供を演じて(その時はメルティーが仕草や言葉の選び方の参考になります)好かれるようにする。という感じにはなりますが、少なくともここまでのすれ違いもぎこちなさも無かったと思います。
タイトルに惹かれて読み始めたら、時間も忘れて一気に読んでしまいました!
とても面白かったので、お気に入り登録して、更新待ってます!
アークとアシェル、リリィとディュークが大好きです(*^^*)
お気に入り登録ありがとうございます^^
この後の展開でこれをいれたい、、と思うものがあるのですが、展開が自然にならず何度か書き直してまして…
納得できる状態になったら更新になります。
少し時間がかかると思いますが、更新時にはまた読んでいただけると嬉しいです^^