眠り姫は子作りしたい

芯夜

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第一章 眠り姫は子作りしたい

12 シスタービオラ

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シャルロッテを案内してくれたシスターは、名前をビオラといった。
くすんだ金髪に金色に近い黄色の瞳をもった25歳の女性だ。シスター服で髪の毛の長さは分からないが、あの場にいたビオラもミルラムの一族だ。
あの場には居なかったが、既に結婚して旦那さんもいるそうだ。

神官長は黄味の強い金髪に金色の瞳で、一番色が強かった。
年が若く見える中ではビオラが飛びぬけて一番良い色を持っている。

教会の敷地内にある孤児院まで渡り廊下を渡り、南西にある部屋に通してもらった。

太陽の光が射しこんで明るく広い部屋で、調度品はどれも華美ではないもののそれなりの品質のものが並んでいる。
天蓋付きの一人で寝るには少し大きな寝台に、衣装用のクローゼットは二つあった。
明らかに夫婦である二人が暮らすために用意されていた部屋だった。

小さな洗面台だが、きちんと水が出る場所も作られている。魔道具の小さな蛇口がついていた。
そしてさらに驚くべきは、こじんまりしているがトイレとお風呂があったことだ。

「こちらは正……いえ、未来を託された子供たちの為に用意していた部屋です。恐らく今代の王族の加護持ちが、後日いらしてどうするか決まると思いますが……。ただのシャルロッテさんとして生きるのであれば、こちらのお部屋をずっと使っていただいても構いません。もちろん、【氷刃】の皆様と話し合って付いていかれる場合や、それ以外でも他に住まわれるのであれば問題ありません。ですがここはシャルロッテさんのお部屋で、実家です。いつでも整えておきますので、いつでも戻れるところと思っていてくださいね。トイレを使用した場合は報告を下さい。お風呂はシャルロッテさんなら自分で準備ができると思いますので、ご自由に使っていいですよ。お世話が必要であれば、私が行いますので。」

結局使うことになったのはこの部屋だけだが、各国の王都にある教会には同じような部屋があるはずである。少し小さくはなるが、夫婦で過ごせる客室も三室ある。
それらの部屋は各種族の趣味に合いそうな調度品が置かれている。

これはどの国の人間が約束の地へ辿り着くか分からなかったからだ。
転移魔法で訪れし者の国に渡ることは分かっていたので、その国まで教会の人間が迎えにくる手筈になっていた。

約束の地で古き財産が目覚めたことを連絡したが、さぞかし落胆したことだろう。
彼らにもミルラムと同じ血の盟約がかかっていた。
連絡が来る前から、待ち望んだ未来を託された子供たちがいないことを知っていたのだから。

案内に付けられたビオラは、言ってしまえばシャルロッテの侍女役としてあてがわれていた。
年齢も性別も。そして加護色の出具合もビオラならば問題ないだろうと決められたのだ。

彼女はその加護の強さから、いずれはミルラムの血筋をまとめる長となる予定だった。今の神官長のように。
だがもうこれからは長は必要ない。
今必要なのは約束の地に関する知識を持ち、未来を託された子供たちのことを理解できる人間だ。

シャルロッテは古の血と権利を主張せず、ただのシャルロッテとして生きたいと言った。
だからこそビオラは全てを手伝うのではなく、必要なら手伝うと言ったのだ。

権利を主張した場合、今から始まるのはみっちりとした常識とマナー講習。そして永い時の中で一人でも生き抜ける知識を学んだはずの女性に、全て他人に任せることを覚えさせる時間だった。

「お風呂!お風呂は熱い沢山のお湯に身体を沈めるのよね?水は冷たくてスッキリすると聞いていたのに、大きな水に入ったらとても冷たくてびっくりしちゃったわ。熱いが強すぎると痛いって聞いたけれど、冷たいも強すぎると痛いのね。一つ賢くなったわ。私はマザーに沢山のことを教えてもらったけれど、体験するのは初めてなの。最初の一回は、色々教えてほしいわ。」

ひくりと、ビオラの笑顔が引きつる。

確かに孤児院のテッサという少年からは、ずぶ濡れになった女性を抱えて戻ってきたと聞いていた。その足が裸足だったことも報告を受けている。
何があったのかと疑問には思うが、大きな水とは湖か川のことだろう。
この寒季真っただ中の水の中に、なぜ人類の宝であるシャルロッテを放り込んだのかと怒りが湧き出てくる。

仮にシャルロッテが興味を引かれたのだとしても、熱いと一緒で口頭で教えてあげれば良かったのではないかと思うのだ。
彼女なら間違いなく身綺麗にする魔法を使えるはずである。

「えぇ、私で良ければ喜んで。ところで……【氷刃】のホームで男の子に出会ったと思うのですが、彼はテッサと言います。テッサからずぶ濡れだったと聞いたのですが、転移前に?それとも転移後に?今は寒季と言って、空気や水が冷たい季節なんです。水浴びにしてはおかしいなと思いまして。」

「ハイデルの門が見える場所に転移したの。大きな水の近くよ。私が毛布を巻いただけの姿で身分証が無いから、人攫いに間違えられる可能性があるって言ってて。おかしくないようにお芝居したの。溺れている私を通りかかったリュクスが助けてくれたっていう筋書きよ。濡れてないとおかしいでしょう?」

確かに濡れていなければおかしいが、湖に飛び込まずとも水魔法を使えばよかったのではと思ってしまう。
湖の温度よりマシなはずだ。

「なるほど、そうだったのですね。その大きな水は湖と言います。流れているものは川。もっと大きく波打っていて、塩辛い水のものが海です。海は大陸の端に行かなくては見れませんけれどね。」

「あれが湖なのね!ふふふ、ビオラも物知りだわ。」

その口ぶりからするに、概念としては知っていてもどんなものかは分かっていなかったのだろう。
コンラッドが子供のようだと言っていた意味が良く理解できる。

「シャルロッテさんほどではありませんよ。今日は一日お部屋でゆっくりしてもらっていいのですが、何かしたいことはありますか?それと明日の買い物で欲しいものがあれば、それも教えていただけたら。」

シャルロッテはうーんと悩んだ。
何をしたいと言われても、約束の地を訪れた強き者たちはここにいない。

「強き者と子作りをしたいのだけれど、【氷刃】の皆には断られたの。反動の相手なら子を成しやすいって聞いてはいるけど、約束の地なら安全だから。反動の相手じゃなくてもと思って聞いたのだけれど、皆ダメなんですって。反動中はここに居てって言われて、四人とも馴染みの女性の方に行っちゃった。今はお金もないし、特に欲しいものはないわ。でもどんな売り物があるのかは見てみたいの。」

女性の目から見ても触ってみたいと思うほどの極上ボディを前にして。しかも子作りの相手を拒んだのかと、ビオラの笑顔には更なる青筋が浮かぶ。
怒りを通り越して殺意が生まれそうだ。

反動の相手が初めて。しかも四人とも相手では難しいかもしれないが、誰か一人くらいシャルロッテの希望を叶えようとはしなかったのだろうか。

一か月以上も魔障の大森林で過ごし、性欲を発散する場所が無かったはずなのに。何が気に入らなかったのかと思う。
転移魔法のことなど知らなかっただろうし、極上ボディを前に悶々としたまま一月かけて戻ってくるつもりだったのだろうか。
出したところでまたすぐ出せるようになるのだから、一発ヤって子種を注いであげれば良かったのだ。

加護持ちの生まれ育った境遇を考えれば分からなくもないが、その孤児院があるではないかと思う。
女と違って男は出せば終わりなので冒険者稼業にも支障は出ない。

産まれた子供がどちらであっても喜んで引き取るが、加護持ちであればより一層嬉しいのは確かだ。
その色が濃ければ濃いほど、まだこの地は神に見放されていないのだと思うことができる。

加護持ちが産まれなくなったら。
そこにはもうヒトが生きることのできない土地が残るのみである。

永き時を待ち続けた彼女たち聖職者は——例えこれが他国だったとしても同じ使命を帯びた一族は——とんでもなく未来を託された子供たち第一主義だった。
どの国の一族も自身は贅沢をせず、自分のお金を来るか分からない未来の為に積み立てていたくらいである。

「そうね……目覚めたばかりで色々見て少し疲れたから寝るわ。ちゃんと眠って、記憶を整理しなくちゃ。ただ……夜ご飯の時には起こしてくれないかしら?私、起こしてもらう直前まで、マザーの中で眠ってたの。お兄ちゃんやお姉ちゃんたちが居なくなって、マザーと私だけになって。眠っていたほうが良いって。……約束の地はもう忘れられていて、誰も来ないかもしれないって思ってたわ。このまま眠ったまま、起きることなく消えてしまうのではないかと怖かったの。今も、マザーが見せてくれている優しい夢かしらと思うけれど、色々なものでそうじゃないのが分かるのが嬉しいわ。あ、忘れられていても仕方が無いと思っていたから、気にしないでちょうだいね?約束の地へは古き時代でも、一握りの人間が到達できるかどうかって聞いてたんだから。」

「お気遣いありがとうございます。ゆっくりとお休みください。シャルロッテさんがもう良いというまでは、朝も起こしに伺いますね。孤児院の造りや子供たちは、少しずつ紹介していきます。一気には覚えられないでしょうから。おやすみなさいませ。」

「えぇ、おやすみなさい。」

そーっと天蓋の布を避けるシャルロッテが微笑ましい。
中をキョロキョロと確認して、マットレスの弾力に驚いて。悩んだ末にそろーっと寝台の中央に横たわった。

顔色が良くなかったのですぐにでも眠れるよう、寝台の足元に掛け布団を纏めていたのだが、それは華麗にスルーされた。
掛け布団をかけてあげ、寝ている間に寒くならないようにこうして使うものだと説明する。
しっかりとシャルロッテが寝入ったのを確認してからビオラは部屋を後にした。

時間が出来たので、今から神官長含め一族の前で報告会を開き、明日の買い物に連れていく人選をしなくてはいけない。
シャルロッテは何も要らないと言っていたが、最低限衣類や身の回りの品を揃える必要がある。お風呂やスキンケアに使うものも必要だろう。

今のシャルロッテは産まれたばかりの赤ちゃんのような、もちもちすべすべで綺麗なお肌だ。
外界の汚れやダメージをしっかりケアして、あの素晴らしい肌を維持し続けなくてはいけない。
あんなにも全身の肌が綺麗な女性は、たとえ貴族だとしてもそうそういないのではないかと思う。子作りの相手である強き者が喜ぶこと間違いなしだ。

自国冒険者のAランクは何パーティーかあるが、シャルロッテの望む強きものかと言われると微妙だ。孤児院出身が多いが、年齢から見ても成人したばかりであるはずのシャルロッテの相手には年が行き過ぎている。
彼らも決して弱くはないが、魔力量も力量も年齢も考えると。国内では【氷刃】の四人が一番だろう。
他国で活動する冒険者も調べるべきだろうか。

その中でも上位魔法に当たる氷の色を纏うリュクスは、四人の中でもずば抜けて魔力が高い。
混ざりっ気のないアイスブルーの髪は貴重なのだ。同じく、雷の色である混じりっ気のない黄色の髪は貴重である。

草魔法はカテゴリ的には特殊な魔法で、上位に緑魔法があるが。こちらも混じりっけのない緑の髪の毛だ。
古き時代ですら限られた人間しか持っていなかった色で、今ではエルフの王族に残るのみとなっている。

ずば抜けているとはいえ、シャルロッテとリュクスの魔力量を比べると天と地ほどの差がある。
だが、これでも魔力が同世代の一族の中では多い方であるビオラも、リュクスと比べるとかなり魔力量に差があった。それくらい髪色や瞳の色に加護色が強く出ているかは重要なのだ。

シャルロッテの言う強き者は、魔力が高く魔物を倒す力を持つ者。
そう正しく理解しているビオラだからこそ、いかにしてあの四人。特にリュクスと交わらせるか策を練るのだった。



昨夜は起こしてもらって自室でパンとスープを口にし、その食事量の少なさに驚かれた。
シャルロッテとしては幼子でも倍以上の量を平らげると聞いて、そちらに驚いたくらいだ。

そもそも食事とは色々な味を楽しむ娯楽であり。
そして平時から微妙に漏れ続ける魔力を補うための魔力補給だ。
魔力を使えば使うほど、食事量や睡眠が必要になってくる。

恐らくだがシャルロッテよりも魔力量の少ない人が多いため、漏れ出る微妙な魔力量は大差なくても、体内で占める割合が違うのではないかと思う。
シャルロッテには誤差であっても、人々は食事で補わなくてはならないほど身体が魔力の補給を欲してるのだろう。

そう推論を立て、一回の食事量を少なくするようにお願いしておく。
余るのは勿体ないし、必要であればお代わりを貰うからと言って納得してもらった。

シャルロッテは昨日と同じ服装と呼べるのか分からない恰好のまま、孤児院の食堂に連れていかれる。

大きく長いテーブルに沢山の椅子が並んでいる。
それが二つあって、これ全部に子供が座ることになるのかと目を丸くした。
それほどまでに、親を亡くす脅威が溢れているのかと。

その食堂には20人近くの子供たちが居た。
ある程度物事を理解できる年齢の子供だけを集めたと事前に聞いている。
そこには色無しもいるが、殆どが色持ちの子供たちだった。

「皆さん、紹介しますね。【氷刃】の皆さんが居ない間お預かりしている、シャルロッテさんです。その後はどうなるか分かりませんが、もしかしたらここで暮らすことになるかもしれませんので、仲良くしてくださいね。」

はーい、と元気な返事が返ってくる。

「人数が多いので、一先ず今日の買い物に連れていく子を紹介しますね。昨日も会ったと思いますが男の子がテッサ。13歳の少年です。【氷刃】の皆さんとも仲が良く、ホームの掃除なども担っています。今後どうするかは分かりませんが、ホームに移り住むことになっても、テッサが教会との連絡役になってくれますよ。」

「昨日と違って顔色が良さそうで良かったぜ。俺がテッサ、よろしくな!」

「えぇ、よろしくね。」

「その隣の12歳の女の子がマリン。街中で旅行者や商人などに声を掛け、希望の物が買えるお店に案内をする仲介屋をしています。リピーターがいるほど人気で、街にある商店の殆どを網羅しています。屋台や食事処などは別の子供が担当していますが、本日は買い物ですのでマリンを連れて行きます。」

「シャルロッテおねーちゃん、よろしくね!ふふふ、こんな美人のお姉さんと歩けるなんて、嬉しいわ。」

「こちらこそ。シャルロッテは長いでしょう?シャルで良いわ。」

「シャルおねーちゃんね!いくつなの?」

濃紺の髪の毛と青い瞳のテッサの隣で、青い髪の毛をおさげにした茶色い瞳のマリンが笑った。

マザーの中ではシャルロッテが一番年下だったので、お姉ちゃんと呼ばれるのはちょっと照れくさい。

「私は成人しているの。18歳よ。」

「じゃあ、シャルちゃんって呼んじゃいや?」

「構わないわ。」

「やったぁ。」

成人してすぐで身体の年齢は止まっている。
マザーがそう言っていたので、間違っていないはずだ。精神的な時間で言うと、それこそよく分からないという答えになってしまう。

年齢を答えると子供たちはワイワイと盛り上がり始める。
その喧騒の中でビオラがこっそり教えてくれた。

「古き時代は18歳が成人ですが、新しき時代は子を増やすために15歳を成人と定めました。今もその名残で、成人と言えば15歳をさします。」

「気を付けるわ。」

パンパンとビオラが手を鳴らすと、先程までの喧騒が嘘のように静まり返る。

「シャルロッテさんと仲良くしたい子は沢山居ると思いますが、一気に押しかけずに少しずつお喋りしに行ってくださいね。では、私達は出かけてきますね。」

いってらっしゃーいと元気な声を受けて、シャルロッテたち四人は孤児院を出る。
教会の前には一台の馬車が止まっていて、シスター服を着たままのビオラがひらりと飛び乗り、御者席に座った。

「ねぇ、ビオラ。これはなぁに?紐で繋がっているのは、魔物ではないの?」

「これは馬車と言います。魔動車とは違い、動力がこちらに繋がれた魔馬となります。魔馬はこういった馬車や荷台を引かせる四足歩行の魔物の別称で、こちらは厳密にはギャロップと呼ばれる魔物の一種です。そうですね……ギャロップやホースが魔馬向きですが、中にはグリフォンやブル、バッファローを使う人もいます。後ろの箱が人の乗る部分ですので、中に座っていてくださいね。テッサ、お手伝いをしてあげてくれるかしら?」

「はいよ。シャルねーちゃん、結構段差高いから注意しろよ。俺の手に体重かけて良いからな。」

一足先に馬車に乗り込んだテッサが手を差し出し、シャルロッテが馬車に乗るのを手助けしてくれた。
テッサはその後にマリンも同じようにして馬車に乗せ、馬車がガタゴトと動き出す。

入口の反対側にはカーテン付きの小窓が付いていて、そこから街の様子を眺めることが出来た。
御者席側にも窓というよりは扉が付いていて、ビオラとも会話できるように今は開いている。こちらは大きく魔馬の走る姿も前方の景色も確認できる。

「やっぱり、色無しがとても多いのね。瞳だけじゃなく、髪まで色無しだなんて。」

しょんぼりと口にしたシャルロッテに、子供二人は驚きの表情を浮かべ、ビオラは視線を前方に残したまま返事を返す。

「色持ちのことを加護持ちと言いますが、色無しの親から加護持ちが産まれると、怖がって捨てられてしまうんです。子供の内は魔力が暴走し、死傷者が出る可能性がありますから。色無しではその対処も、未然に防ぐことも出来ないせいですね。王都や大都市、そこに近い村や町であれば、そういった子供は孤児院に捨てられます。ですが、辺境などは……。とても悲しい現実です。加護持ちは冒険者になることが多く、死亡率があがります。加護持ちの子供も高確率で加護持ちですが、こちらは自身で育てることが多いですね。とはいえ、遠征中は生まれ育った孤児院を託児所代わりにして預けていく人も多いです。もし帰ってこなくても、子供の生活は保証されますから。」

「そう……だから孤児院には、色持ちが沢山居たのね。」

「はい。街中は……他種族の冒険者であれば、国を跨ぐほどの力量があるとしてそこまで顕著ではありませんが。平民の加護持ちたちは忌避されます。差別を受けないようにひっそりと暮らしていることが多いので、余計に目につかないのかもしれませんね。」

「差別?色無しが、色持ちを貶めるの??そんなのおかしいわ。色を持っていようと持っていまいと、どちらも同じヒト。そこに優劣なんて存在せず、一人一人が尊き命であることに変わりはないのだもの。色持ちと色無しでは、得手不得手が違うわ。色無しが居なくなってしまえばヒトは滅び。色持ちが居なくなってしまえば、ヒトが住む場所など無くなってしまうのに……。」

「そうですね。ですから私達聖職者は、加護持ちが孤児院の前に捨てられていることに感謝します。私達の目の届かないところで殺されてしまわなくて良かったと。子供たちに冒険者になるように強要することはありませんが、戦う術は教えます。それが加護持ちでもそうでなくてもです。古き時代を繰り返さないために、それが私達にできることですから。」

「そうね。それはとても大切なことだわ。古き時代はあっという間に魔物たちに蹂躙されてしまったと聞いたわ。街に暮らす色持ち達は戦う術を知らず、色無しも言うまでもないわね。強き者たちはダンジョンにいることが多くて混乱の時には居なかったらしいの。崩壊の時には殆どが戻ってきていたそうだけれど、それでも強き者たちは人々を守り散ったらしいわ。」

「我々にも伝わっております。さぁ、一つ目の目的地が見えてきましたよ。」

そんな会話を聞いていた子供二人は、シャルロッテも教会の関係者だと認識した。
古き時代や新しき時代など、変わった物言いをするのは聖職者の特徴だ。

そして加護持ちである自分たちのことを、尊き命と言ってくれたことが嬉しかった。
何故色無しが居なくなったら人が滅びるのかは分からないが、得意分野が違うだけで優劣のない同じ人。
それは加護持ちは使い捨ての駒扱いされる新しき時代に置いて、なによりも嬉しい言葉だった。



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