エールインフィニティ 夢戦録《ユメノクロニクル》

プロローグ

夢の始まり

「来るならこい！　夢を破壊してやる！」  

　私の叫びが、虚ろな夢世界に響いた。  
　ここは私と彼女しかいない。  
　決して退けない、決して負けられない戦い。  

「ふふ……無粋ね。本当に壊せるの？　カナ……。あたしが、あなたの夢を終わらせてあげる」  

　冷たく甘い声が心臓を締めつける。  
　その瞳に映るのは、かつての友ではなく──敵。  
　互いの声だけが交錯し、夢の境界を軋ませていく。  
　……その時の私は、まだ結末を知らなかった。

  ＊

「お嬢様、起きてくださいませ！」

　メイド長・マツリの声が耳に届き、私ははっと目を開けた。
　がばりと飛び起きると、長い髪がばさりと肩に落ちた。  
　慌てて撫でつけてみたが、寝癖がひどい。  

「なかなか降りていらっしゃらないので様子を見に来たのですが、まさか寝ていらしたとは」  

　マツリの冷静な声に、私は顔を赤らめた。  
　急いで鏡に向かい、白いリボンで青い髪をひとまとめにし、ポニーテールに整える。 
 
（ふぅ、これで、ようやく人前に出られる姿になったな）

　机の上の時計に目をやると、針は無情にも八時を回ろうとしていた。  

「……嘘だろ、もうこんな時間！？」  

　完全に、遅刻だ。
　ベッドの上には、汗に濡れたままの青い鍵が転がっていた。