2021年9月2日生まれの僕は

十二滝わたる

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2022年春 匍匐前進と前歯と北京冬季オリンピック後の戦争

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 北京冬季オリンピックが終わるのを待つかのように、2月、オリンピックのテレビは戦争のテレビとなる。開放だとか内戦だとか侵略だとか代理戦だとか、民族主義、経済圏域、防衛圏域、色々と見方はあるが、世界のパワーバランスには違いない。

 国益のために争いが始まり、国のためだと若者に人を殺す事を、町を破壊する事を命令する。

 国のために、国益のためにと言うが、誰の国なんだ、誰の利益なんだ。誰による誰のための国なんだ。

 常に大説と小説はぶつかり合う。政治と文学はぶつかり合う。目に見える現実の横の争いの最中に、目に見えぬ縦の争いは提起される。

 3月末、「ドライブ・マイ・カー」がアメリカでアカデミー賞を受賞した。快挙だとジィージが騒いでる。

 同じく3月末、「旅サラダ」の各地からの食の生中継をしていたラッシャー板前が25年の卒業となる。スタジオではなく、毎週のように25年間、現地から中継する労力を想像する。地味な快挙に敬意しながらも、何故か寂しさも感じる。

 この頃から、ジィージの家で時々僕をあやしていた大学生のリ叔父さんをあまり見けけなくなる。どうやら大学を卒業し、隣の街に就職し、ここよりははるかに大きな街に一人で暮らすために引っ越ししたらしい。新しい生活、新しい春だろうな。そして、僕も初めての春を迎えての希望の季節だ。

 春になり、ジィージの家の庭にある白い木蓮の花と淡いピンク色の沈丁花と真っ赤な椿が咲き乱れる頃、僕は布団の段差という偶然も手伝って、いとも簡単に寝返りのハードルを越えていた。

 腹ばいになれれば、這うように腕と足を動かして前に進める。這うように素早く前進する姿はトカゲを思い起こさせる。僕の目線はくるぶしを越えることはないままに、自由自在に自分の思ったところに這っていく。

 しかし、直ぐにいつの間にか、台所やスピーカーの前などにはバリケードがしかれた。

 ママがくれるおっぱいの味しか知らない僕も、この頃になると離乳食なる柔らかドロドロの食べ物が与えられた。家ではママが、トモちゃん家ではトモちゃんが、ジィージの家ではケイちゃんが、それぞれ違った離乳食を創ってくれた。誰の離乳食も美味しい。ちょっと、薄味だけど、まあ、いいかぁ。

 歯が生えてきたのはそれからしばらくしてからだ。ジィージの家で遊んでいる時、口を開けて笑ったら、偶然発見されてしまった。

 そういえば、去年の12月、お食初めなる儀式にも小ぢんまりと厳かに参加させられた。歯もない僕に、ただ食べる真似だけの箸が回ってくる。口を開いても何もない。変な儀式だけど料亭の女将が優しく話しかけてくれたのだけは覚えている。

 五月の節句の初祝にジィージからは三ヶ月の兜飾を貰った。嬉しいということはなかったが、兜の前で嬉しそうに笑っているように写真を撮らされた。

 いつもくるぶし目線はつまらない。そろそろ腹筋もついてきたし、腕の力もついてきた。以前は座らせられても顔は太腿なつくほどに経たりと曲がり、骨のない人形みたいだったけど、今はなんとか背筋は真っ直ぐになる。あとは、あのソファーの椅子の高さまで腕を伸ばして見ればなんとか視界も高くなる。

 腕の強さも足の強さも十分だけど、何故か、足の自由が上手く伝わらない。這って前進するには十分だけど、ここでは重力な逆らって立ち上がらなくてはいけないのに、膝を伸ばしていない曲がった左足の甲を右足で踏んだまま立ち上がろうとしては、手が外れて転げてしまう。何回、失敗して頭を打ったんだか数え切れない。「ヨイチョッ」と掛け声をかけて自分でソファーの椅子に立ち上がったのは、例年よりだんとつに早く来た夏の猛暑が襲ってくるころだ。

 夏になっても戦争は続いていた。被害は段々とと大きなものとなってくる。穀物の世界的な生産地での争いは、世界への食物の供給が疎かになった。石油や天然ガスの供給も、戦争の道具となり戦地から遥か遠い世界の国々の人々にも深刻な影響を与えている。

 
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