続/穂高市役所ストリートビュー年史

十二滝わたる

文字の大きさ
6 / 14

自己保身のために部下を盾にする

しおりを挟む
 ライフライン部局職員の、私生活における真相を見ない作為的なでっち上げの詐欺事件は、その些細な事実関係の整理をすることもないままに、警察組織の裏の事実を暴く大疑獄へと発展しそうになっていた。

 発端となった詐欺事件は、外部からの告発状により明るみに出た。内容は、ライフライン部局のある職員が保険金を詐欺したというものであった。

 告発状は、警察署と本所にそれぞれ送り付けられた。

 告発者は告発してある中身から絞り込んで、すぐに誰であるかは分かることとなった。

 告発状の一切の処理を任された僕は、警察にも同様の文書が届いていることを知り、警察と連繋して事実関係を調べていた。

 告発状を送り付ける前から、問題の北海道からの出稼ぎ男の枝松(ど田舎の穂高に出稼ぎに来るなどというのは冬のこの時期しかない)が交番にたれ込んでいたことも判明した。

 交番の警部補もその少しは込み入った話を聞いたものの、取るに足らない喧嘩の腹いせとして相手にしていなかったのだ。

 この男が、詐欺だと騒ぎだした事実は単純なものだ。

 スケート場で、あるスケート教師のスケート靴が盗まれた。スケート学校の乾燥室には関係者しか入られないように施錠管理がされていた。

 犯人はスケート学校内に居ることは明らかだった。スケート学校はまさか盗まれることなどは想定していないために、盗難保険には入っていない、スケート学校内に犯人が居ることは不名誉であり、信用を失うことは学校の経営にも係わるため警察沙汰は避けたかった。

 被疑者はスケート学校ではスケート靴を盗まれた教師と仲の良かったので、個人が加入していた盗難保険を利用して賠償してくれと頼んだ。

 保険会社には事情を正直に説明した。保険会社の担当は、そんなことはいくらでもあるからどうぞと返事した。合意の補償だった。所有権の移転など口頭でいくらでもできるのだから、盗まれる前に自分のスケート靴になっていたとされるなら問題はなかった。

 北海道から冬の間に出てきては、交番のある穂高の小さなスケート場で様々なトラブルを起こしていた。スケート学校は人手不足とはいえ、もう、この男をスキー教師として雇うことは止めようと考えていた矢先の出来事だった。

 警察署も交番から事情を聞いて、構成要件満たさないと判断していた。

 当該職員から事情を聞き、問題なしとの報告を上げた。警察も部局も問題なしと判断したのだ。

 これが面白くなかった枝松は、今度は同じ告発文をマスコミにばらまいた。マスコミは騒ぎだした。

 警察は静観していた。部局も動じなかった。

 そんなときに、マスコミは独自に取材を始めるところが出てきた。そこで問題となったのは保険金詐欺ではなかった。

 警察は静観を装いながら、裏で動いていたのだ。詐欺としての事件をきっかけにして、その職員に近づき別の内定捜査を始めていた。内部の汚職、談合の情報だ。

 マスコミはそれを問題視してはいたが、全面に出して報道するまでの確証を掴んではいなかった。

 マスコミが探りを入れていると知った警察は、辻褄合わせとして詐欺事件を立件する方向に舵を取った。職員と接触していた担当警察官は直ぐに不自然に別の部署に異動となった。

 警察は隠れ蓑としてライフラインの職員の取り調べに入り書類送検するとマスコミに発表した。

 部局内のでも警察に連動して詐欺としての聞き取りとして同調しようとしていた。僕はこの事件は詐欺事件ではないと主張した。マスコミと警察からはそれぞれ別ルートで裏も含めた状況は掴んでいた。

 「自分の自己保身のために、職員を生け贄とするんですか。」と僕は小早川に言った。

 事実、この職員と警察とは仲良く酒飲みするまでになっていた。マスコミもその捜査方法を問題にしようとしていた。

 「そもそもマスコミにリークしたのはお前だろう。」と小早川は言った。

 「何で事を大きくするためにマスコミにリークする必要が僕のどこにあるんですか。」

 「これを知っているのはそう多くはないからな。俺とお前だけた。」

 「なら、小早川、お前だろう。」と僕は怒鳴った。

 「おれに喧嘩売ってんのか。」と小早川も怒鳴り返す。

 「猜疑心の塊の臆病者が、誰に信用されたたいんだよ、誰を守ろうとしてるんだよ。あんたは。あんたが守ろうとしているのは自分じゃないか。自分のことしか考えていない最低の奴じゃないか。」

 かつて、僕は修学旅行の旅館での事件で、そこの神経が破れた或女将から、ある接触をきっかけに、彼女の高ぶった神経から勝手にロックオンされ、あらぬ濡れ衣を掛けられたことがあった。

 食堂の瓶が一つ無くなったが、その犯人は僕じゃないかと、その女将が騒ぎだしたのだ。

 修学旅行で醤油瓶を盗むとか隠すとか、あり得ない。恐らく、その女将は病んでいたための被害妄想癖があり、目がたまたまあった僕をロックオンしたようだ。この類いの人間のプロファイルは、ある程度そこで掴むことはできた。

 その時は、僕はなんとか先生達から守ってもらえた。ストーカーという言葉もなかった時代から、固執する病理は社会に普通にあったのだ。

 小早川は、その最強バージョンであり、経験したことのない異常猜疑心の権化だ。

 結局、小早川は職員を見放し、懲戒免職した。

 小早川は来て早々に痛みを感じるまでもなく3人の職員の前途を切り捨てた。

 小早川も警察の酒飲みによる口封じを受けていたのだ。

 小早川は自己の無傷を嬉しがった。

 この男は信用も信頼もできない、と小早川の近くで仕事をする者達は、その異常さに気がついた。

 小早川が精神の安定のために描いている仲間からは上手いと言われている腕前の絵には、ほとばしる潜血の赤が常に使われた。少しでも絵画と芸術の批評精神がある者ならば、そこに底無しの狂気を感じとることができるだろう。

 
 

 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...