続/穂高市役所ストリートビュー年史

十二滝わたる

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自己保身のために部下を盾にする

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 ライフライン部局職員の、私生活における真相を見ない作為的なでっち上げの詐欺事件は、その些細な事実関係の整理をすることもないままに、警察組織の裏の事実を暴く大疑獄へと発展しそうになっていた。

 発端となった詐欺事件は、外部からの告発状により明るみに出た。内容は、ライフライン部局のある職員が保険金を詐欺したというものであった。

 告発状は、警察署と本所にそれぞれ送り付けられた。

 告発者は告発してある中身から絞り込んで、すぐに誰であるかは分かることとなった。

 告発状の一切の処理を任された僕は、警察にも同様の文書が届いていることを知り、警察と連繋して事実関係を調べていた。

 告発状を送り付ける前から、問題の北海道からの出稼ぎ男の枝松(ど田舎の穂高に出稼ぎに来るなどというのは冬のこの時期しかない)が交番にたれ込んでいたことも判明した。

 交番の警部補もその少しは込み入った話を聞いたものの、取るに足らない喧嘩の腹いせとして相手にしていなかったのだ。

 この男が、詐欺だと騒ぎだした事実は単純なものだ。

 スケート場で、あるスケート教師のスケート靴が盗まれた。スケート学校の乾燥室には関係者しか入られないように施錠管理がされていた。

 犯人はスケート学校内に居ることは明らかだった。スケート学校はまさか盗まれることなどは想定していないために、盗難保険には入っていない、スケート学校内に犯人が居ることは不名誉であり、信用を失うことは学校の経営にも係わるため警察沙汰は避けたかった。

 被疑者はスケート学校ではスケート靴を盗まれた教師と仲の良かったので、個人が加入していた盗難保険を利用して賠償してくれと頼んだ。

 保険会社には事情を正直に説明した。保険会社の担当は、そんなことはいくらでもあるからどうぞと返事した。合意の補償だった。所有権の移転など口頭でいくらでもできるのだから、盗まれる前に自分のスケート靴になっていたとされるなら問題はなかった。

 北海道から冬の間に出てきては、交番のある穂高の小さなスケート場で様々なトラブルを起こしていた。スケート学校は人手不足とはいえ、もう、この男をスキー教師として雇うことは止めようと考えていた矢先の出来事だった。

 警察署も交番から事情を聞いて、構成要件満たさないと判断していた。

 当該職員から事情を聞き、問題なしとの報告を上げた。警察も部局も問題なしと判断したのだ。

 これが面白くなかった枝松は、今度は同じ告発文をマスコミにばらまいた。マスコミは騒ぎだした。

 警察は静観していた。部局も動じなかった。

 そんなときに、マスコミは独自に取材を始めるところが出てきた。そこで問題となったのは保険金詐欺ではなかった。

 警察は静観を装いながら、裏で動いていたのだ。詐欺としての事件をきっかけにして、その職員に近づき別の内定捜査を始めていた。内部の汚職、談合の情報だ。

 マスコミはそれを問題視してはいたが、全面に出して報道するまでの確証を掴んではいなかった。

 マスコミが探りを入れていると知った警察は、辻褄合わせとして詐欺事件を立件する方向に舵を取った。職員と接触していた担当警察官は直ぐに不自然に別の部署に異動となった。

 警察は隠れ蓑としてライフラインの職員の取り調べに入り書類送検するとマスコミに発表した。

 部局内のでも警察に連動して詐欺としての聞き取りとして同調しようとしていた。僕はこの事件は詐欺事件ではないと主張した。マスコミと警察からはそれぞれ別ルートで裏も含めた状況は掴んでいた。

 「自分の自己保身のために、職員を生け贄とするんですか。」と僕は小早川に言った。

 事実、この職員と警察とは仲良く酒飲みするまでになっていた。マスコミもその捜査方法を問題にしようとしていた。

 「そもそもマスコミにリークしたのはお前だろう。」と小早川は言った。

 「何で事を大きくするためにマスコミにリークする必要が僕のどこにあるんですか。」

 「これを知っているのはそう多くはないからな。俺とお前だけた。」

 「なら、小早川、お前だろう。」と僕は怒鳴った。

 「おれに喧嘩売ってんのか。」と小早川も怒鳴り返す。

 「猜疑心の塊の臆病者が、誰に信用されたたいんだよ、誰を守ろうとしてるんだよ。あんたは。あんたが守ろうとしているのは自分じゃないか。自分のことしか考えていない最低の奴じゃないか。」

 かつて、僕は修学旅行の旅館での事件で、そこの神経が破れた或女将から、ある接触をきっかけに、彼女の高ぶった神経から勝手にロックオンされ、あらぬ濡れ衣を掛けられたことがあった。

 食堂の瓶が一つ無くなったが、その犯人は僕じゃないかと、その女将が騒ぎだしたのだ。

 修学旅行で醤油瓶を盗むとか隠すとか、あり得ない。恐らく、その女将は病んでいたための被害妄想癖があり、目がたまたまあった僕をロックオンしたようだ。この類いの人間のプロファイルは、ある程度そこで掴むことはできた。

 その時は、僕はなんとか先生達から守ってもらえた。ストーカーという言葉もなかった時代から、固執する病理は社会に普通にあったのだ。

 小早川は、その最強バージョンであり、経験したことのない異常猜疑心の権化だ。

 結局、小早川は職員を見放し、懲戒免職した。

 小早川は来て早々に痛みを感じるまでもなく3人の職員の前途を切り捨てた。

 小早川も警察の酒飲みによる口封じを受けていたのだ。

 小早川は自己の無傷を嬉しがった。

 この男は信用も信頼もできない、と小早川の近くで仕事をする者達は、その異常さに気がついた。

 小早川が精神の安定のために描いている仲間からは上手いと言われている腕前の絵には、ほとばしる潜血の赤が常に使われた。少しでも絵画と芸術の批評精神がある者ならば、そこに底無しの狂気を感じとることができるだろう。

 
 

 
 
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