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第1部 エド・ホード
第19話 ラベラーズ魔術大学へようこそ
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朝、ドアをノックされて出ていくと、カミラが紙袋を持って立っていた。
「……昨日はありがとう」
と少し恥ずかしそうに目をそらして言う。彼女はダークグレーのプリーツスカートに、夏物の白いラインニットを着ていた。左胸には、酒瓶に巻きつく龍の紋章が描かれてある。
「制服?」と尋ねると、
「普段は着なくていいんだけどね。今日は初日だから」
カミラはブイネックの胸元を、ひらひらとあおぎながら言った。
「へえ、そうなんだ」
「へえ、そうなんだーって、エドの体験入学だよ?」
カミラはおかしそうに笑うと、これに着替えて、と紙袋を押しつけてきた。一旦、扉を閉めて中身を覗く。透明なビニール袋に入った、新品の制服が入っていた。急いで着替えて出ていくと、
「似合うじゃん」
カミラは含み笑いを浮かべて言った。
「馬鹿にしてる?」
「ぜーんぜんっ!」
カミラは嬉しそうに僕の袖をつかむと、さあ、朝ごはん朝ごはん、とエレベーターホールへひっぱっていった。
朝食の会場は、昨日と同じ一階のレストランだった。オムレツや、クロワッサン、カリカリに焼いたベーコン……。好きなものを平皿に乗せて食べていると、
「わあ、かわいい!」
「カミィちゃん、制服デート?」
上級生の人たちが、次々と声をかけてきた。カミラはそのたびにふくれっ面で、
「ほっといてください」とこたえていた。
「なんだか人気者だね」
「この大学の人たちは、みんな私を子供あつかいするんだ」
カミラは顔をしかめてオレンジジュースをあおった。
「先輩たちからしたらそうだんだろうね」
「ラルフさんはそんなことしないもん」
「そう言えば、ラルフさんって学生なの? 何かと面倒をみてくれてるけど」
「監督生なんだ。すごく成績がよくてね、魔術のほうも抜群で、噂では十二体の精霊を扱えるって話だよ」
「そんなにいたら賑やかだろうね」
僕が言うと、カミラは口元を押さえて笑った。
「あのねエド、精霊って言っても、実際に姿が見えるわけじゃないんだ。声も聞こえないし、本とかに載ってるのは、擬人化されたキャラクターだよ」
「そうなの?」
僕は驚いて訊き返した。エルクがふわりと現れて、肩をすくめて苦笑いしていた。
「でも、ラルフさんとあんまり親しくしすぎないようにね」
「どうして?」
「あ、いや……、なんでもないの」
カミラはあわてた様子で口をつぐむと、あからさまに話題をかえた。
「ねえエド、お家の人に連絡とりたくない?」
「できるの?」
「普通は無理なんだけどね、奇竜の宅配便――って言ってもわからないか――それで送ってもらうんだ」
「頭が二つあるやつ?」
「よく知ってるね」
「僕あれに乗ってきたんだ」
「嘘でしょう?」
カミラはお腹を押さえて大笑いした。
「あれ宅配便だったんだ」
「基本的に人は行き来してないからね。もし手紙を出したかったら、私、切手をたくさん持ってるから、いつでも部屋に取りにきて」
ありがとう、とお礼を言うと、僕はいよいよカミラに連れられて大学へ向かった。
通学には電車を使った。がらんとした木造の列車。ベンチ式の長い椅子に座って、開け放された窓から流れる景色を見ていた。針葉樹の森を抜けて、湖のほとりを走っていく。さわやかな朝日に光るカミラの頬と、風に揺れる前髪を見ていた。
「昨日、襲われたばかりなのに、君に護衛がついたりはしないの?」
「護衛っていったい誰がするの? 相手はグングニルを手に入れた高位な魔術者で、私はフラガハラを所有するブラウン家の娘なんだよ?」
「そっか」
「だから君が守ってよね」
カミラはそう言うといたずらっぽく笑った。
僕らは歴史のありそうな煉瓦造りの駅で降りると、二人で並んで大学へ歩いた。やがて見えてきたキャンパスは、綺麗な芝生の広がった、大きな公園みたいな場所だった。古めかしい講義棟が建ち並び、小さな川のほとりには、パン屋や本屋などのお店もある。カミラは急に先を行ってくるりと振り返ると、
「ようこそ、ラベラーズ魔術大学へ」
とおどけるように言った。
「……昨日はありがとう」
と少し恥ずかしそうに目をそらして言う。彼女はダークグレーのプリーツスカートに、夏物の白いラインニットを着ていた。左胸には、酒瓶に巻きつく龍の紋章が描かれてある。
「制服?」と尋ねると、
「普段は着なくていいんだけどね。今日は初日だから」
カミラはブイネックの胸元を、ひらひらとあおぎながら言った。
「へえ、そうなんだ」
「へえ、そうなんだーって、エドの体験入学だよ?」
カミラはおかしそうに笑うと、これに着替えて、と紙袋を押しつけてきた。一旦、扉を閉めて中身を覗く。透明なビニール袋に入った、新品の制服が入っていた。急いで着替えて出ていくと、
「似合うじゃん」
カミラは含み笑いを浮かべて言った。
「馬鹿にしてる?」
「ぜーんぜんっ!」
カミラは嬉しそうに僕の袖をつかむと、さあ、朝ごはん朝ごはん、とエレベーターホールへひっぱっていった。
朝食の会場は、昨日と同じ一階のレストランだった。オムレツや、クロワッサン、カリカリに焼いたベーコン……。好きなものを平皿に乗せて食べていると、
「わあ、かわいい!」
「カミィちゃん、制服デート?」
上級生の人たちが、次々と声をかけてきた。カミラはそのたびにふくれっ面で、
「ほっといてください」とこたえていた。
「なんだか人気者だね」
「この大学の人たちは、みんな私を子供あつかいするんだ」
カミラは顔をしかめてオレンジジュースをあおった。
「先輩たちからしたらそうだんだろうね」
「ラルフさんはそんなことしないもん」
「そう言えば、ラルフさんって学生なの? 何かと面倒をみてくれてるけど」
「監督生なんだ。すごく成績がよくてね、魔術のほうも抜群で、噂では十二体の精霊を扱えるって話だよ」
「そんなにいたら賑やかだろうね」
僕が言うと、カミラは口元を押さえて笑った。
「あのねエド、精霊って言っても、実際に姿が見えるわけじゃないんだ。声も聞こえないし、本とかに載ってるのは、擬人化されたキャラクターだよ」
「そうなの?」
僕は驚いて訊き返した。エルクがふわりと現れて、肩をすくめて苦笑いしていた。
「でも、ラルフさんとあんまり親しくしすぎないようにね」
「どうして?」
「あ、いや……、なんでもないの」
カミラはあわてた様子で口をつぐむと、あからさまに話題をかえた。
「ねえエド、お家の人に連絡とりたくない?」
「できるの?」
「普通は無理なんだけどね、奇竜の宅配便――って言ってもわからないか――それで送ってもらうんだ」
「頭が二つあるやつ?」
「よく知ってるね」
「僕あれに乗ってきたんだ」
「嘘でしょう?」
カミラはお腹を押さえて大笑いした。
「あれ宅配便だったんだ」
「基本的に人は行き来してないからね。もし手紙を出したかったら、私、切手をたくさん持ってるから、いつでも部屋に取りにきて」
ありがとう、とお礼を言うと、僕はいよいよカミラに連れられて大学へ向かった。
通学には電車を使った。がらんとした木造の列車。ベンチ式の長い椅子に座って、開け放された窓から流れる景色を見ていた。針葉樹の森を抜けて、湖のほとりを走っていく。さわやかな朝日に光るカミラの頬と、風に揺れる前髪を見ていた。
「昨日、襲われたばかりなのに、君に護衛がついたりはしないの?」
「護衛っていったい誰がするの? 相手はグングニルを手に入れた高位な魔術者で、私はフラガハラを所有するブラウン家の娘なんだよ?」
「そっか」
「だから君が守ってよね」
カミラはそう言うといたずらっぽく笑った。
僕らは歴史のありそうな煉瓦造りの駅で降りると、二人で並んで大学へ歩いた。やがて見えてきたキャンパスは、綺麗な芝生の広がった、大きな公園みたいな場所だった。古めかしい講義棟が建ち並び、小さな川のほとりには、パン屋や本屋などのお店もある。カミラは急に先を行ってくるりと振り返ると、
「ようこそ、ラベラーズ魔術大学へ」
とおどけるように言った。
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