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第1部 エド・ホード

第21話 エクスカリバーのありか

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 ホテルに帰ると、エレンおばさんに手紙を書いて、オズ校長からもらったレジメを開いた。薄く黄ばんだ羊皮紙と、直筆のインクの匂いが鼻をかすめる。

〈四大霊剣の種類と特徴について〉
 
 四大霊剣とは、創造の力を受け継いだ四柱の天使が、神の怒りを買い、特殊な能力を持つ武器に変えられた姿である。それぞれ莫大なアートを有するが、自身の肉体を持たないがために、魔術者なしに世界に干渉することはできない。使用者に真名の啓示を授け、真の力の貸与をする友好的な霊剣がある一方、使用者の肉体を奪い、再び天使に返り咲こうとする邪悪な霊剣も存在する。以下にその種類と特徴を示す。

 
 グングニル
 
 心に念じるだけで、いかなる標的も射殺すことのできる邪槍。前身となった天使は友好的な性格ではなく、使用者の心をむしばみ肉体を奪おうとする。


 フラガハラ
 
 世界の風を司ると言われる片手剣。ブラウン家の魔術者が代々継承している。前身となった天使は友好的な性格で、ブラウン家の歴代の使用者に対し、真名を明かしたとされる記録が散見される。

 
 エクスカリバー
 
 現世には存在しない神の火を司る霊剣。人の情念や罪の意識を無限に燃やし、心的に破壊してしまう。四大霊剣のなかで唯一、武具以外の形態を持ち、自らが選んだ魔術者の前に、青龍の姿となって現れると言われる。現在の所在は不明。

 
 パラストラ
 
 四大霊剣で唯一、神から規定の力を奪われなかったとされる観念的な武器。物質的な形態を持たず、所在はおろか実在の有無さえ不明である。……


「エド、ごはん行こう」
 ノックのあとに、カミラの声が聞こえた。はっと顔をあげると、時刻は七時を回っていた。僕は返事をして部屋を出た。

「よかったら、このあと切手をもらいに行ってもいいかな」
 食堂でまたポテトばかり食べるカミラに僕は言った。
「私の部屋にあがりこんで何をする気?」
「嫌ならいいんだ」
「もう」
 カミラは眉をひそめてコーラのストローを噛んだ。「ちょっとからかっただけだよ」
 
 僕は昨晩のカミラの甘い匂いを思い出して、少しだけ顔が熱くなった。夕食を食べ終えると四階へ行って、テリーの力を借りて姿を消した。

「何も知らないくせに、そんな器用なことができたなんて」

 カミラは感心した様子で隣を歩いた。ついてきてるか不安だから、と言われて、廊下の途中で手を繋いだ。そのまま404号室へ入ると、僕は手を離して魔法を解いた。カミラは机の引き出しを開けて、僕に切手をわけてくれた。

「お茶でも飲んでく?」

 と尋ねられて、おかしな緊張を振り払いながら逡巡していると、外からコツコツと足音が近づいてきた。とっさに目配せをして、二人して息を殺す。足音は僕らのいる部屋の前で止まった。トン、トン、とノックの音がする。

「はい」
 とカミラは返事をした。僕はテリーの力を借りて姿を消す。

「僕だよ。開けてくれるかい?」
 聞こえてきたのは、ラルフさんの声だった。

 カミラは僕のほうを振り返ると――見えてはいないんだろうけど――人差し指を立てて、しー、と合図をした。扉の前に行き、そっと開ける。

「突然ごめんね」
 ラルフさんはそう言うと、部屋のなかに入ってきた。鍵を閉め、U字のロックまでかけてしまう。
「どうしたんですか?」
 カミラがどこか緊張した声で訊くと、
「エクスカリバーのありかがわかったんだ」
 ラルフさんは声をひそめて言った。
「……それで、どうするんですか?」
「もちろん探しにいくよ。君も来てくれるだろう?」

 カミラが一瞬、気まずそうにこちらを見た気がした。

「ええ、ぜひ」
「それじゃあ、詳細は追って伝えるよ」
 ラルフさんはカミラの頭をさっとなでると、そそくさと部屋を出ていってしまった。

「どういうこと?」
 僕は再び姿を現して言った。
「ラルフさんは、四大霊剣を集めようとしているの」

 カミラは少しの沈黙のあとで言った。

「どうして?」
「四大霊剣をすべて集めると、どんな願いも叶うと言われてるんだ」
「ラルフさんは何を叶えようとしてるの?」
「妹さんをね、蘇らせようとしてるんだ」
 
 カミラはうつむきがちに小さな声で言った。

「死んだ人も生き返せるの?」
「たぶん」
「僕も仲間に入れてくれないかな?」
「ダメだよ」
 
 カミラはハッキリと言った。

「どうして?」
「すごく危険だから」
「じゃあカミラは? ……もしかして脅されてるの?」

 カミラは首を横に振った。

「私は魔術の〝第三の術〟を知りたいんだ。私は……ブラウン家の落ちこぼれだから」
「僕はリテアと話したい」
 思わず大きな声を出していた。「……謝りたいんだ。僕が殺した幼馴染の女の子に」
 カミラは真剣な顔で僕を見つめた。
「お願い」
 と念を押すと、彼女は静かに頷いた。
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