Hearty Beat

いちる

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二人組ユニットバンドの『HEARTYBEAT』初披露の場となる、八月中旬の週末に行われる巨大なロックフェスティバルは合計四日間開催され約三十万人の観客を集める国内最大のロックフェスの一つだ。
 ステージは会場内に七つ準備され、開催中どこかのステージでライブが行われていて観客は一日中音楽に浸ることができる。
 一番大きなステージは五万人の観客を収容できると言われているが、HEARTYBEATが立つステージは一番小さく四千人収容の「NewStarステージ」と呼ばれるステージだ。
 主催者が「これから売れるだろう」と見込んだバンドが出演する。

「……え?」
 そろそろ準備をと、開演三十分前にステージ袖に行けばHEARTY BEATのメンバーはスタッフから「入場規制かかりそうなんですよね~」と呑気な声できかされた。
 確かに客席を見なくても沢山の人のざわめきが感じられる。
「野外なんでまあ入れなくても聴けますけど、通路を塞ぐ可能性があるんでなかなか難しいです。ここあんまり規制を想定してないからみんなちょっと焦ってます」
 焦っているようには見えないスタッフがヘラリと笑った。
「いやー、このロックフェスの歴史に刻まれる瞬間に立ち会えるかと思うとなんか、ゾクゾクしますよね。このステージ、この時間(マイナータイム)で規制ですよ?」
 楽しみっすねー、客の反応。
 スタッフはもちろん御堂七生の存在に気づいている。
 初披露の場に居合わせる事が嬉しくて仕方ないらしい。
「へえ?そんなに?」
 話をきいて矢作がスマホを操作する。
「ああ、本当だ」
 画面を覗き込みにやにや笑いを浮かべた。

『HEARTY BEAT やべえ。聴きたいやつ早く来た方がいいぜ。規制かかるかも #SRF』
『HEARTY BEAT混んでる!まじか~ #SRF』
『……やっぱあの噂、みんな信じてんのか? #HEARTYBEAT #SRF』
『ギターが御堂七生だってやつ? #HEARTYBEAT』
『違ったらみんな出てけよな。俺は残るけど #HEARTYBEAT』
『御堂なら最高だな。違っても楽しみだけど。#HEARTYBEAT』

「トレンド入りは…まだだね」
 矢作が残念そうにスマホを閉じる。
「……終わったら爆発するだろ?」
「多分ね~」
 タクとダイスケはにやにやしながらスマホの画面を眺め、HEARTYBEATの当の二人は片方は興味無さげに欠伸をして、片方は青い顔をしてぎゅっと譜面を握りしめていた。
「……別にライブはじめてじゃねえんだし?」
 三人のやり取りを目で追いながら七生が問う。
「日頃は三百人クラスですよ?しかもツーマンとか」
「そんなかわらねえよ」
 どんなサイズでも客はカボチャだ。
 涼しい顔で七生が言うのを「そりゃ大物と俺じゃ訳が違いますから」と隣でため息を付く。
「デビューが武道館の人に言われたくありません」
「あはは」
 しかたないなあ……そう呟くと、七生は圭と向き合いネクタイに手を伸ばした。
「曲がってるぞ」
 柔らかく結び直しながら圭にだけ聞こえるように囁く。
「……お前が落ち着くなら言ってやる」
 顔に似合わないハスキーボイスが圭にとって魔法の言葉を紡ぐ。それは初めて聞く言葉だが今一番圭が聞きたい言葉だった。
「この広いネットの大海原から俺が探しだしたんだ。大丈夫。俺たちならやれる」
 な?ときりっとした眼差しで見上げてくる。
『俺たち』
その言葉に圭は、はあ、と大きく深呼吸した。
『お前ならやれる』じゃなく『俺たちならやれる』
 なんて力強い言葉だろう。
 そうだ、いつもみたいに一人じゃない。
 自然と笑みがこぼれた。
「御堂さん…」
 圭が七生の肩に手を伸ばそうとした、その時。
「はいはい、イチャイチャしない。スタンバイしてね~」
 矢作がにやりと笑ってステージ幕を指差した。

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