1 / 10
秘密
しおりを挟む
2100年、日本では犯罪者が爆発的に増えた。
警察だけでは手がまわらなくなり、そこで、警察より鼻が利き、足の早いTV局やマスメディアに一定の責任を条件に、犯罪者(容疑者)を逮捕してもよいという権利を与えた。
そのタイミングはまさに瞬間的で、事前に政治力の強い議員の利権が絡んでいるのではないかという早さだった。
この権利はインターネット番組や地方TVにはあまり好まれなかったが、全国放送のオーナーはとびついた。
権利を得た大手番組は急遽、「放送局がリアルタイムで犯人を捕まえる」ことをテーマにした新企画を続々と出した。
犯罪者との激しい争い、臨場感が視聴者のストレス解消に火をつけた。
視聴率は回を重ねるごとにみるみるあがっていった。
しかしそうなると、当然、他のテレビ局も真似をする。
より差別化をはかろうとしたディレクターはさらに過激な番組を考えた。
新企画書 : 『犯人を裁くのは貴方だ!実況中継48時!』
「つまりこういう内容です」
少し薄暗い、秘密の会議室で重役五人の前でディレクターが資料を手に持ちながら、語り始めた。
「番組が徹底的に調査、取材した容疑者数名をひとつの部屋に閉じ込め、ゆっくりとその模様を生放送で実況中継するのです。犯罪者たちの個人情報から、どんな罪を犯したのかを流し、視聴者による有罪判決が出たら、番組スタッフが視聴者の代わりに刑を執行するという企画です。番組時間はタイトルにありますように、48時間」
「そんなものいくら犯罪者を確保できる権利をうちが持っていたとしても、人道的問題でとても通常の番組では無理だな。もしかしてインターネットの番組か?」
資料を見つめながら、メガネを直す中年の男性が口を開いた。
「その通り。従来の放送では企業広告をCMして、その宣伝料で番組を製作してきました。ですが、この番組はお茶の間で家族と一緒に観る事はとてもできない、観たくても意識して観る事は恥のようなものを感じて、あえて観ないでしょう。ゆえに個室でゆっくりと自分のPCで観てもらうのに適しているインターネットで放送したいと思います。こちらの方が口コミの速さも世界中に一瞬ですし。視聴者もワンクリックで入金できます。有料版でも確実に固定客がつく事が予想され、回数をこなすごとに利益は倍増していくと考えられます」
「だがな……」
利益増大の言葉に心揺れた右端に座っている男性がしきりに髭を触りながら口を挟む。
「犯人にもプライバシーがある。それに、逮捕する権利はあっても、容疑者を犯人と断定し、裁く権利は当局にはない……」
利益は追求したいが、同時に人としての良心とも葛藤しているのか、それとも権利を多いに超えた行為に対する処罰に脅えているのか。
おそらく両方だろう。
髭の男性はディレクターと資料を互いに見比べている。
「問題は確かにあります。いま言われた不安、それから……犯人たちの動向です。打ち合わせもリハーサルもない他人同士の生放送。どんな予期せぬエラーがあるかわかりません」
そこでディレクターは深呼吸をする。
「しかし、視聴者はそのリアルさに興奮するのです。フォローはスタッフの中でも特に腕がよくて、企画に賛成の者でします。この企画のテーマは『秘密』です。我々の提供する情報を観て、神秘のベールを自分の手で開けているかのような錯覚に興奮し、自分の手で犯罪者の命運を握るとなれば、あたかも自分が悪人を裁いているように考えるはずです。推理小説を読むかのように、手ごろな娯楽の延長線上のように、人事と考えて観るでしょう。自分の手で犯人を裁くとしても……自分の手を汚さぬ、善意に酔うのです。「自分が悪を滅ぼした」と、ね。大衆は残酷で、安易な刺激を求めています。いまのように毎日、誰かが殺されていても平和はタダと思っている日本人には特に……」
じっと重役たちを見つめながら続ける。
「そして、そんな日本人はこの番組を知っているのだとネットで『自慢』、つまり宣伝をしてくれる。それが海外にも飛び火すれば、どれだけの利益がでるか。番組が爆発的に広まることで、ネット警察が番組を突き止める事についての心配ですが、こちらは複数の国のサーバーを使って見つかったと思った瞬間、次の回線に繋いで爆破させます。こうすればバレる不安はありません。それから、我々は容疑者を逮捕する権利と、警察に引き渡す前になんらかの事情があって渡せない可能性も考慮し、72時間容疑者を拘束する権利もあります。刑を執行するのは問題あっても、拘束してその模様を録画すること自体に重い罪はありません」
「……うむ」
それでも全員の不安が払拭されることはなかった。
しかし、過去の犯罪者を逮捕する番組がヒットしている事と、それによる予想利益を見せられてしまうと、却下するには惜しい企画だと重役達は考えた。
だから、まず実験をすることにした。
最初に選ばれたのは、若者たちに海外からのドラッグを売りさばいているピザ無しで五年以上在住しているアメリカ人のタイニー。そして、その恋人の宮田美千代。
この二人は、最初こそは協力して抜け出そうと言っていたが、少しずつ番組側からお互いの秘密が暴露されていくごとに仲たがいをし、罵り合う 二人に視聴者は飽きてしまったのか、48時間どころか12時間もたたないうちに二人の罪に対する判決が決定してしまった。
どちらも死刑どころか、三年から五年程で釈放されるような小者だったので、室長の意見は辛口だった。
警察だけでは手がまわらなくなり、そこで、警察より鼻が利き、足の早いTV局やマスメディアに一定の責任を条件に、犯罪者(容疑者)を逮捕してもよいという権利を与えた。
そのタイミングはまさに瞬間的で、事前に政治力の強い議員の利権が絡んでいるのではないかという早さだった。
この権利はインターネット番組や地方TVにはあまり好まれなかったが、全国放送のオーナーはとびついた。
権利を得た大手番組は急遽、「放送局がリアルタイムで犯人を捕まえる」ことをテーマにした新企画を続々と出した。
犯罪者との激しい争い、臨場感が視聴者のストレス解消に火をつけた。
視聴率は回を重ねるごとにみるみるあがっていった。
しかしそうなると、当然、他のテレビ局も真似をする。
より差別化をはかろうとしたディレクターはさらに過激な番組を考えた。
新企画書 : 『犯人を裁くのは貴方だ!実況中継48時!』
「つまりこういう内容です」
少し薄暗い、秘密の会議室で重役五人の前でディレクターが資料を手に持ちながら、語り始めた。
「番組が徹底的に調査、取材した容疑者数名をひとつの部屋に閉じ込め、ゆっくりとその模様を生放送で実況中継するのです。犯罪者たちの個人情報から、どんな罪を犯したのかを流し、視聴者による有罪判決が出たら、番組スタッフが視聴者の代わりに刑を執行するという企画です。番組時間はタイトルにありますように、48時間」
「そんなものいくら犯罪者を確保できる権利をうちが持っていたとしても、人道的問題でとても通常の番組では無理だな。もしかしてインターネットの番組か?」
資料を見つめながら、メガネを直す中年の男性が口を開いた。
「その通り。従来の放送では企業広告をCMして、その宣伝料で番組を製作してきました。ですが、この番組はお茶の間で家族と一緒に観る事はとてもできない、観たくても意識して観る事は恥のようなものを感じて、あえて観ないでしょう。ゆえに個室でゆっくりと自分のPCで観てもらうのに適しているインターネットで放送したいと思います。こちらの方が口コミの速さも世界中に一瞬ですし。視聴者もワンクリックで入金できます。有料版でも確実に固定客がつく事が予想され、回数をこなすごとに利益は倍増していくと考えられます」
「だがな……」
利益増大の言葉に心揺れた右端に座っている男性がしきりに髭を触りながら口を挟む。
「犯人にもプライバシーがある。それに、逮捕する権利はあっても、容疑者を犯人と断定し、裁く権利は当局にはない……」
利益は追求したいが、同時に人としての良心とも葛藤しているのか、それとも権利を多いに超えた行為に対する処罰に脅えているのか。
おそらく両方だろう。
髭の男性はディレクターと資料を互いに見比べている。
「問題は確かにあります。いま言われた不安、それから……犯人たちの動向です。打ち合わせもリハーサルもない他人同士の生放送。どんな予期せぬエラーがあるかわかりません」
そこでディレクターは深呼吸をする。
「しかし、視聴者はそのリアルさに興奮するのです。フォローはスタッフの中でも特に腕がよくて、企画に賛成の者でします。この企画のテーマは『秘密』です。我々の提供する情報を観て、神秘のベールを自分の手で開けているかのような錯覚に興奮し、自分の手で犯罪者の命運を握るとなれば、あたかも自分が悪人を裁いているように考えるはずです。推理小説を読むかのように、手ごろな娯楽の延長線上のように、人事と考えて観るでしょう。自分の手で犯人を裁くとしても……自分の手を汚さぬ、善意に酔うのです。「自分が悪を滅ぼした」と、ね。大衆は残酷で、安易な刺激を求めています。いまのように毎日、誰かが殺されていても平和はタダと思っている日本人には特に……」
じっと重役たちを見つめながら続ける。
「そして、そんな日本人はこの番組を知っているのだとネットで『自慢』、つまり宣伝をしてくれる。それが海外にも飛び火すれば、どれだけの利益がでるか。番組が爆発的に広まることで、ネット警察が番組を突き止める事についての心配ですが、こちらは複数の国のサーバーを使って見つかったと思った瞬間、次の回線に繋いで爆破させます。こうすればバレる不安はありません。それから、我々は容疑者を逮捕する権利と、警察に引き渡す前になんらかの事情があって渡せない可能性も考慮し、72時間容疑者を拘束する権利もあります。刑を執行するのは問題あっても、拘束してその模様を録画すること自体に重い罪はありません」
「……うむ」
それでも全員の不安が払拭されることはなかった。
しかし、過去の犯罪者を逮捕する番組がヒットしている事と、それによる予想利益を見せられてしまうと、却下するには惜しい企画だと重役達は考えた。
だから、まず実験をすることにした。
最初に選ばれたのは、若者たちに海外からのドラッグを売りさばいているピザ無しで五年以上在住しているアメリカ人のタイニー。そして、その恋人の宮田美千代。
この二人は、最初こそは協力して抜け出そうと言っていたが、少しずつ番組側からお互いの秘密が暴露されていくごとに仲たがいをし、罵り合う 二人に視聴者は飽きてしまったのか、48時間どころか12時間もたたないうちに二人の罪に対する判決が決定してしまった。
どちらも死刑どころか、三年から五年程で釈放されるような小者だったので、室長の意見は辛口だった。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【戦国時代小説】 甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助
蔵屋
歴史・時代
わたしは、以前、甲斐国を観光旅行したことがある。
何故、甲斐国なのか?
それは、日本を象徴する富士山があるからだ。
さて、今回のわたしが小説の題材にした『甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助』はこの甲斐国で殆どの戦国乱世の時代を生き抜いた。そして越後の雄•上杉謙信との死闘は武田信玄、山本勘助にとっては人生そのものであったことだろう。
そんな彼らにわたしはスポットライトを当て読者の皆さんに彼らの素顔を知って頂く為に物語として執筆したものである。
なお、この小説の執筆に当たり『甲陽軍鑑』を参考にしていることを申し述べておく。
それでは、わたしが執筆した小説を最後までお楽しみ下さい。
読者の皆さんの人生において、お役に立てれば幸いです。
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
後宮に棲むは、人か、あやかしか
由香
キャラ文芸
後宮で消える妃たち。
それは、あやかしの仕業か――人の罪か。
怪異の声を聞く下級女官・鈴華と、
怪異を否定する監察官・凌玄。
二人が辿り着いたのは、
“怪物”を必要とした人間たちの真実だった。
奪われた名、歪められた記録、
そして灯籠に宿るあやかしの沈黙。
――後宮に棲むのは、本当に人ならざるものなのか。
光と闇が交差する、哀切の後宮あやかし譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる