10 / 10
依頼
しおりを挟む
「少々お待ちください」
木下が座ると同時にそう言って、絵里奈は台所へ引っ込んだ。
絞首台に立つというのはこういう気持ちなのかもしれない。
不安のあまり、そんなことを考えていると、絵里奈はすぐに湯のみを盆の上に置いて持ってきた。
「粗茶ですが」
そう言って、木下の前にお茶の入った湯のみを置く。
「えっと……?」
それを見た木下は、困惑した表情で、満面の笑みで立っている絵里奈の顔を見上げた。
「どうかしましたか?」
やはり、その瞳は笑っていない。睨みつけるかのように、細い眼で木下を見返す。
どうもこうも。木下の目の前に置かれたお茶は、とても濁った緑色をしていた。
誰の眼にも茶葉の入れすぎな事は明白で、飲まずともしぶいことがわかる。
それはミスやドジのレベルではない。彼女はワザとやっていた。
木下を見つめる彼女の視線は、「これを飲まなかったらどうなるかわかってるわよね?」と物語っていた。
これは彼女の機嫌を損ねた罪だということを木下もようやく理解した。
何故かまでは彼にはわからなかったが、このお茶とも呼べない泥水を飲まなければ難癖つけて話も聞かないつもりだろう。
どうしたものかと少し考え、悩んだが、意を決したようにその濁り茶に口をつけた。
やはり苦いのか、木下が苦渋に満ちた表情をする。
それを見た絵里奈も少し溜飲が下がったのか、満面の笑みのままソファーに座った。
「……依頼の話だけど、このパソコン貸してもらっていいかな、ぐほっ……」
むせながら、木下は憐が開いていたノートパソコンを持ち上げて聞く。
「いいよ。どうするの?」
木下の向かい、絵里奈の横に燐が座りながら聞いた。
「ちょっと……ね。あるサイトに、っと……ここのサイトから飛んで……」
燐の問いに、木下はぶつぶつとつぶやきながら、色々なサイトを開いていく。
「会社の上司から……っと、相談をうけてさ……調べていくうちに、ちょっとヤバそうな話かなーと思ったから、相談に乗ってもらおう……って、おっし、ここだ」
隠しリンクを何度もクリックして、ようやくお目当てのサイトが開いたようだ。
トップ画像が完全に開くまでの間に、懐から定期ケースを取り出して中から一枚の写真を二人に見せる。
写真には、清楚な中学生くらいの学生服を着た女性が立っていた。
憐が興味深い表情で写真に顔を近づけ、じーっと見つめてからふと聞いてきた。
「彼女さん?」
「違うよっ!」
木下はあわてて否定する。
今年二十七歳になる木下が中学生とつきあっていたら犯罪だ。
「これは五年前の写真。今はすっかりとグレてしまい、写真からものすごいかけ離れた格好になってるようだ」
言いながら、もう一枚の写真を見せる。
「これが現在の写真」
髪の毛は女性なら誰もが染めるような金色とも茶色ともわからない脱色した色、顔はつけまつげやらファンデーションやらで人相まで変わってしまっている。
「同じようにチャラチャラした男と一緒にかけおちしてしまったようで、この子の親である僕の上司はずいぶん心配していてね……」
「だから、貴方が調べようとしたら自分の手にあまりそうだったから代わりに私達に依頼を頼もうと?まさか、自腹ではないんでしょう?」
人のために身銭をきるという事が嫌いな彼が、たとえ上司のためとはいえそこまでするとは思えなかった。
そもそも、出世にも興味はないはずだ。
心から気の毒だと思っての行動半分、損得半分。彼の行動を絵里奈はこう読んでいた。
「料金を聞いてから、値段次第では上司と相談……します……」
絵里奈に嘘をついたらどうなるかわからないという恐怖で、木下はしどろもどろになって答えた。
「すっごい納得。いくら割り増しして請求するつもりかしら」
「そんなことしないよ」
「これ……なに?」
パソコンを見ていた燐が、会話の途中で疑問の声をあげた。
ようやくダウンロードが終わり、サイトが開いたのか画面に映像が流れ出した。
背景も英語なので、最初絵里奈と憐は外国のサイトかと思った。
「日本の放送局が運営しているサイトだよ。音量は……ここ。それから、ここをの過去デモムービーってのをクリックして」
木下が画面の左上を指差しながら言う。
燐がパソコンに繋がっているイヤホンをはずすと、音声が部屋中に鳴り響いた。
<皆さん、こんにちわ。ニュース『犯人を裁くのは貴方だ!実況中継48時!』の時間が始まりました!前回の放送を観た方はご存知ですが、前回と同様、この部屋には犯罪を犯した容疑者が逮捕、監禁されています。ここには弁護士はいません。犯人が自分で弁護し、貴方がたに判決してもらうのを待っております。そう、彼らの罪は貴方がたが決めるのです!>
「……なによ。これ」
絵里奈が呆れたような、驚いたようなため息をつきながら言った。
映像の下には、日本語、英語を筆頭に十カ国ほどの翻訳された説明文が添えられていた。
『空前絶後、前代未聞のネットによる公開裁判!貴方しか知らない、極秘の裁判です!』
木下が座ると同時にそう言って、絵里奈は台所へ引っ込んだ。
絞首台に立つというのはこういう気持ちなのかもしれない。
不安のあまり、そんなことを考えていると、絵里奈はすぐに湯のみを盆の上に置いて持ってきた。
「粗茶ですが」
そう言って、木下の前にお茶の入った湯のみを置く。
「えっと……?」
それを見た木下は、困惑した表情で、満面の笑みで立っている絵里奈の顔を見上げた。
「どうかしましたか?」
やはり、その瞳は笑っていない。睨みつけるかのように、細い眼で木下を見返す。
どうもこうも。木下の目の前に置かれたお茶は、とても濁った緑色をしていた。
誰の眼にも茶葉の入れすぎな事は明白で、飲まずともしぶいことがわかる。
それはミスやドジのレベルではない。彼女はワザとやっていた。
木下を見つめる彼女の視線は、「これを飲まなかったらどうなるかわかってるわよね?」と物語っていた。
これは彼女の機嫌を損ねた罪だということを木下もようやく理解した。
何故かまでは彼にはわからなかったが、このお茶とも呼べない泥水を飲まなければ難癖つけて話も聞かないつもりだろう。
どうしたものかと少し考え、悩んだが、意を決したようにその濁り茶に口をつけた。
やはり苦いのか、木下が苦渋に満ちた表情をする。
それを見た絵里奈も少し溜飲が下がったのか、満面の笑みのままソファーに座った。
「……依頼の話だけど、このパソコン貸してもらっていいかな、ぐほっ……」
むせながら、木下は憐が開いていたノートパソコンを持ち上げて聞く。
「いいよ。どうするの?」
木下の向かい、絵里奈の横に燐が座りながら聞いた。
「ちょっと……ね。あるサイトに、っと……ここのサイトから飛んで……」
燐の問いに、木下はぶつぶつとつぶやきながら、色々なサイトを開いていく。
「会社の上司から……っと、相談をうけてさ……調べていくうちに、ちょっとヤバそうな話かなーと思ったから、相談に乗ってもらおう……って、おっし、ここだ」
隠しリンクを何度もクリックして、ようやくお目当てのサイトが開いたようだ。
トップ画像が完全に開くまでの間に、懐から定期ケースを取り出して中から一枚の写真を二人に見せる。
写真には、清楚な中学生くらいの学生服を着た女性が立っていた。
憐が興味深い表情で写真に顔を近づけ、じーっと見つめてからふと聞いてきた。
「彼女さん?」
「違うよっ!」
木下はあわてて否定する。
今年二十七歳になる木下が中学生とつきあっていたら犯罪だ。
「これは五年前の写真。今はすっかりとグレてしまい、写真からものすごいかけ離れた格好になってるようだ」
言いながら、もう一枚の写真を見せる。
「これが現在の写真」
髪の毛は女性なら誰もが染めるような金色とも茶色ともわからない脱色した色、顔はつけまつげやらファンデーションやらで人相まで変わってしまっている。
「同じようにチャラチャラした男と一緒にかけおちしてしまったようで、この子の親である僕の上司はずいぶん心配していてね……」
「だから、貴方が調べようとしたら自分の手にあまりそうだったから代わりに私達に依頼を頼もうと?まさか、自腹ではないんでしょう?」
人のために身銭をきるという事が嫌いな彼が、たとえ上司のためとはいえそこまでするとは思えなかった。
そもそも、出世にも興味はないはずだ。
心から気の毒だと思っての行動半分、損得半分。彼の行動を絵里奈はこう読んでいた。
「料金を聞いてから、値段次第では上司と相談……します……」
絵里奈に嘘をついたらどうなるかわからないという恐怖で、木下はしどろもどろになって答えた。
「すっごい納得。いくら割り増しして請求するつもりかしら」
「そんなことしないよ」
「これ……なに?」
パソコンを見ていた燐が、会話の途中で疑問の声をあげた。
ようやくダウンロードが終わり、サイトが開いたのか画面に映像が流れ出した。
背景も英語なので、最初絵里奈と憐は外国のサイトかと思った。
「日本の放送局が運営しているサイトだよ。音量は……ここ。それから、ここをの過去デモムービーってのをクリックして」
木下が画面の左上を指差しながら言う。
燐がパソコンに繋がっているイヤホンをはずすと、音声が部屋中に鳴り響いた。
<皆さん、こんにちわ。ニュース『犯人を裁くのは貴方だ!実況中継48時!』の時間が始まりました!前回の放送を観た方はご存知ですが、前回と同様、この部屋には犯罪を犯した容疑者が逮捕、監禁されています。ここには弁護士はいません。犯人が自分で弁護し、貴方がたに判決してもらうのを待っております。そう、彼らの罪は貴方がたが決めるのです!>
「……なによ。これ」
絵里奈が呆れたような、驚いたようなため息をつきながら言った。
映像の下には、日本語、英語を筆頭に十カ国ほどの翻訳された説明文が添えられていた。
『空前絶後、前代未聞のネットによる公開裁判!貴方しか知らない、極秘の裁判です!』
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【戦国時代小説】 甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助
蔵屋
歴史・時代
わたしは、以前、甲斐国を観光旅行したことがある。
何故、甲斐国なのか?
それは、日本を象徴する富士山があるからだ。
さて、今回のわたしが小説の題材にした『甲斐の虎•武田信玄と軍師•山本勘助』はこの甲斐国で殆どの戦国乱世の時代を生き抜いた。そして越後の雄•上杉謙信との死闘は武田信玄、山本勘助にとっては人生そのものであったことだろう。
そんな彼らにわたしはスポットライトを当て読者の皆さんに彼らの素顔を知って頂く為に物語として執筆したものである。
なお、この小説の執筆に当たり『甲陽軍鑑』を参考にしていることを申し述べておく。
それでは、わたしが執筆した小説を最後までお楽しみ下さい。
読者の皆さんの人生において、お役に立てれば幸いです。
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
後宮に棲むは、人か、あやかしか
由香
キャラ文芸
後宮で消える妃たち。
それは、あやかしの仕業か――人の罪か。
怪異の声を聞く下級女官・鈴華と、
怪異を否定する監察官・凌玄。
二人が辿り着いたのは、
“怪物”を必要とした人間たちの真実だった。
奪われた名、歪められた記録、
そして灯籠に宿るあやかしの沈黙。
――後宮に棲むのは、本当に人ならざるものなのか。
光と闇が交差する、哀切の後宮あやかし譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる