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はじまり
告白
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「……ごめんなさい」
放課後の校舎。屋上で一組の男女が立っている。
高校生ならではのイベント。告白と言ったら屋上だろうという一昔前のベタな展開。
背の低い、新入生の男の子が魅力的な背の高い物静かな上級生に告白して玉砕、断られるのもありきたりのパターンだ。
初恋は実らないと言うが、少年にとってもこの恋は紛れも無く初恋だった。
「ごめんなさい」
夕日を見ていた上級生。田中里奈という少女は、ようやく少年に振り返って再び謝る。
「気持ちは嬉しいわ。でも、駄目なの」
「どうしてですか。つきあっている人がいるとか?それとも他に好きな人が……」
自分を好きになってもらえる自信などなかったが、せめて理由が知りたかった。
興奮しているのか、怒っているつもりも怒鳴るつもりもなかったのに、自分でも驚くほど声が荒くなってしまう。
「ううん。そうじゃないの」
「じ、じゃあ、どうして……。あ、僕を好きになれないんですね」
頭がいいわけでもない。顔がいいわけでもない。身長だって低い。金を持っているわけでも、スポーツができるわけでもない。
言ってしまえば、どこにでもいる凡人よりも若干見劣りする物件だ。
減点要因をあげればきりがない。
でも、彼女に一目ぼれしてから、何度もこの屋上で夕日を眺め、話をするようになり、付きあうとかつりあいがとれるとかおこがましい事は言わないが、それなりに距離は近づいていたと勝手に思っていた。
それは少年、二宮太一のただの思い込みだったのだろうか。
あたふたと混乱している太一を哀れに思ったのか、里奈は重い口を開いた。
「……実はね。私、病気なんだ」
「びょうき?」
彼女の意外な言葉に、太一は復唱した。
「太一君は、<<空想病>>って知っているかな?」
「空想……病?」
「そう。まだ一般的には知られていないし、医学的には病気として認知されていないの。インターネットでは少し知られているんだけど、患者数が少ないから、病院でもまだ治療法どころか、原因さえわかっていない怖い病気なの。癌が肉体への最悪の病気だとしたら、<<空想病>>は精神に対して最強の病気」
最強って。
いつも物静かな先輩の口から物騒な言葉が出てきたことに驚かされた。
「<<空想病>>は精神にとり憑いて、あらゆる意味で最悪な病気。感染経路もわからず、発病のタイミングもわからない。ああ、<<空想病>>にかかった、と気づいた時にはもう手遅れ」
「…………」
太一はそんな病気があるなどとは信じられなかったが、彼女の表情は真剣で、とても嘘をついているようには思えなかった。
「脅迫概念って言葉は聞いたことあるよね?誰かが自分の噂をしているんじゃないかって言う。<<空想病>>はそれよりも思い込む内容も濃度も大きく違うの。例えば、この世界にいる自分は別の存在だとか、時が止まった世界で自分だけが動くことができた、とかね」
「でも、先輩には異常ないじゃないですか」
「ふふっ、そう思う?実はね、太一君の前だとしっかりしなきゃと思ってるからかな。症状は抑えられている方なの。でも、ほら」
里奈が自分の右腕を見せる。そこには白い包帯が巻かれていた。
「親が言うには、自分で自分の腕を傷つけていたんだって。自覚症状はまったくなかったわ。そう。この病気の怖いところは、自分が自分ではいられなくなることなの」
そう言って、彼女は哀しい笑みを浮かべる。
「私はもう治らない。好きになった人のことは忘れたくないし、好きだと言ってくれる人に病気で変わった私を見せたくない。だから……ごめんね」
「……先輩」
言いたい事がたくさんありすぎて声にならなかった。一歩前に出て、心にあるものすべてを吐き出したかったが、里奈はそれを許さなかった。何も言わず、自分から去るように里奈はただひたすらにじっと太一をみつめていた。屋上から出ていくまでいつまでも。
そして、田中里奈という少女は、その日を境に学校からいなくなったーー
放課後の校舎。屋上で一組の男女が立っている。
高校生ならではのイベント。告白と言ったら屋上だろうという一昔前のベタな展開。
背の低い、新入生の男の子が魅力的な背の高い物静かな上級生に告白して玉砕、断られるのもありきたりのパターンだ。
初恋は実らないと言うが、少年にとってもこの恋は紛れも無く初恋だった。
「ごめんなさい」
夕日を見ていた上級生。田中里奈という少女は、ようやく少年に振り返って再び謝る。
「気持ちは嬉しいわ。でも、駄目なの」
「どうしてですか。つきあっている人がいるとか?それとも他に好きな人が……」
自分を好きになってもらえる自信などなかったが、せめて理由が知りたかった。
興奮しているのか、怒っているつもりも怒鳴るつもりもなかったのに、自分でも驚くほど声が荒くなってしまう。
「ううん。そうじゃないの」
「じ、じゃあ、どうして……。あ、僕を好きになれないんですね」
頭がいいわけでもない。顔がいいわけでもない。身長だって低い。金を持っているわけでも、スポーツができるわけでもない。
言ってしまえば、どこにでもいる凡人よりも若干見劣りする物件だ。
減点要因をあげればきりがない。
でも、彼女に一目ぼれしてから、何度もこの屋上で夕日を眺め、話をするようになり、付きあうとかつりあいがとれるとかおこがましい事は言わないが、それなりに距離は近づいていたと勝手に思っていた。
それは少年、二宮太一のただの思い込みだったのだろうか。
あたふたと混乱している太一を哀れに思ったのか、里奈は重い口を開いた。
「……実はね。私、病気なんだ」
「びょうき?」
彼女の意外な言葉に、太一は復唱した。
「太一君は、<<空想病>>って知っているかな?」
「空想……病?」
「そう。まだ一般的には知られていないし、医学的には病気として認知されていないの。インターネットでは少し知られているんだけど、患者数が少ないから、病院でもまだ治療法どころか、原因さえわかっていない怖い病気なの。癌が肉体への最悪の病気だとしたら、<<空想病>>は精神に対して最強の病気」
最強って。
いつも物静かな先輩の口から物騒な言葉が出てきたことに驚かされた。
「<<空想病>>は精神にとり憑いて、あらゆる意味で最悪な病気。感染経路もわからず、発病のタイミングもわからない。ああ、<<空想病>>にかかった、と気づいた時にはもう手遅れ」
「…………」
太一はそんな病気があるなどとは信じられなかったが、彼女の表情は真剣で、とても嘘をついているようには思えなかった。
「脅迫概念って言葉は聞いたことあるよね?誰かが自分の噂をしているんじゃないかって言う。<<空想病>>はそれよりも思い込む内容も濃度も大きく違うの。例えば、この世界にいる自分は別の存在だとか、時が止まった世界で自分だけが動くことができた、とかね」
「でも、先輩には異常ないじゃないですか」
「ふふっ、そう思う?実はね、太一君の前だとしっかりしなきゃと思ってるからかな。症状は抑えられている方なの。でも、ほら」
里奈が自分の右腕を見せる。そこには白い包帯が巻かれていた。
「親が言うには、自分で自分の腕を傷つけていたんだって。自覚症状はまったくなかったわ。そう。この病気の怖いところは、自分が自分ではいられなくなることなの」
そう言って、彼女は哀しい笑みを浮かべる。
「私はもう治らない。好きになった人のことは忘れたくないし、好きだと言ってくれる人に病気で変わった私を見せたくない。だから……ごめんね」
「……先輩」
言いたい事がたくさんありすぎて声にならなかった。一歩前に出て、心にあるものすべてを吐き出したかったが、里奈はそれを許さなかった。何も言わず、自分から去るように里奈はただひたすらにじっと太一をみつめていた。屋上から出ていくまでいつまでも。
そして、田中里奈という少女は、その日を境に学校からいなくなったーー
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