白昼夢

峰岸ゆう

文字の大きさ
10 / 10
白昼夢(感染)

「ループの世界」の終焉

しおりを挟む
目を覚ますと、ベットの中で天井を見上げていた。
午前七時前。
いつもならば五分は眠気を引きずっている太一だったが、この時ばかりは意識がはっきりとしていた。
「……思い出した」
驚愕の表情で、一人、部屋の中を見渡しながらつぶやいた。
“彼女”の説明と、取り戻した記憶で、誰がこの世界を創ったのかが理解できた。そして、その理由も。
推測だが、おそらく間違いないだろう。
記憶を思い出せば、“彼女”はこの世界から抜け出せると言っていたが、もうすでに“明日”になっているのだろうか。
カレンダーを見るがわからない。ニュースを見ればわかるが……。
思考を整理している間に、時計は七時半を回っていた。
もうそろそろ、いつものように、鈴女が迎えに来る時間だ。
玄関を開けた時、“今日”と違う挨拶なら繰り返しの世界から抜けられたという証拠だが。
淡い期待をしつつも、頭の中ではなんとなく予想はついていた。
ピンポーン
急いで食事を終わらせてから制服に着替え終わると、鈴女が迎えのチャイムを鳴らす。
「おはよう!太一くんっ、昨日の『スマートにスマッシュ!略して<<スマスマ!>>』見た?ラスト、感動しちゃったよっ」

で す よ ね
D・E・S・U・Y・O・N・E

やはり、今日も“今日”だった。
思い出さないといけないのは、僕ではなく、この世界を生んだ人間だ。
「いってきます」
「あ、太一、今日は夕方から雨が降るっていうから早く帰ってくるか、折りたたみ傘を持っていきなさいね」
「はーい」
母に挨拶をしてから、鞄を肩にかけると、覚悟を決めて駅まで歩き出した。
いつものように、鈴女の話に相槌をうち、いつも使う通学路でチンピラにぶつかって、ひたすら謝る。
風で舞う女子高生のスカートを目で追っていると、「エッチ!」と鈴女に鞄で殴られ、駅の改札口では定期券とゲーセンのカードを間違えて機械を止めてしまう。
うん。いままでは意識的に避けてきた“今日”の朝だ。
「なんか、今日はツイてないね」
鈴女がなぜか不安そうな顔で見つめる。
「よう。太一とすずちゃん」
いつもの電車には当然のように新谷直哉がいた。
「聞いたか?静矢が自分をストーカーしてた女と付き合うってさ」
「ええーっ、マジかよ!」
「ありえるか?」
「いや~、どうだろ。可愛いなら考えるけど」
「ストーカーする女がもしお前を好きになったらやべえぞ。いつもすずちゃんが側にいるから狙われちゃうかもな」
「おいおい、脅かすなよ」
いつものように、直哉と馬鹿話をする。
呼び戻した記憶を頼りに“今日”の会話をそっくりそのまま再現できた。
「…………」
「どうしたの?」
いつもより無口な鈴女を、直哉が心配そうに問いかけた。
「ううん」
否定するが、少し顔色が悪い。
無意識的に太一が何を考えているのか理解したのだろうか。
「あ、僕はコンビニ寄ってから行くよ」
「おう。俺は先行ってるな。すずちゃんはどうする?」
「う、うん。私も太一くんとコンビニ寄ってから行くよ」
「そうか」
二人でコンビニに入り、真っ先にジュースを買うと、今日発売の漫画雑誌を手にとる。
「太一くん。もう行かないと……」
「まだ大丈夫だよ。これだけ読ませてくれ」
「だめだよっ!」
いつもの鈴女らしくない、強い口調で言うと、返事も聞かずに太一の腕を掴んで学校へ連れて行こうとする。
「わかった。わかったから」
しぶしぶコンビニを出ると、近くに自転車が落ちているのに気づいた。
「さぁ、早く行こうっ」
鈴女はコンビニから出ても腕を離さず、太一に自転車を見せないように、急ぎ足で引っ張る。
それに気づいていたが、太一には覚醒させるために言うしかなかった。
「あ、あんな所に自転車が。あれに乗れば学校に早くつく……」
「だめっ!」
さらに腕を掴む手に力をいれ、ぎゅうっっと押さえ込み、自転車へ行かせないよう、激しく拒絶した。
「あ……あれに乗ったら……た、太一くんは……」
「やっぱりお前か。この世界を創ったのは」
「わからない……でも、あの自転車はだめ。怖いの。なんだかわからないけど……あれに乗ったら、太一くんがいなくなっちゃいそうで……」
電車からコンビニへ行き、自転車に乗るというキーワードで少しずつ、太一に起きる悲惨な場面を思い出したのだろう。
鈴女はつらい現実に戻されたかのように、身体を震わせていた。
かわいそうだと思ったが、太一はこれを狙っていた。
自分がトラックに撥ねられることで、この世界を創ったのは自分だと思い出してもらい、現実に戻るために。
落ちていた自転車に乗って、楽をして学校に行こうとした太一が悪いのだ。
太一のせいで、鈴女がこの世界にこもったままで、一生をおくるなどとあってはいけない。彼女が罪の意識に苛まれる必要などないのだ。
「これは……僕のせいだということはわかっている。責任はとる。だから現実の世界へ戻ってくれ」
「だめ……あれで生きているはずがないよ……。あんなにたくさん血が出てたのに……」
泣き崩れる鈴女に、太一は優しく首をふる。
「そんなことはない。救急車の中で意識はあったんだ。助かったはずだよ」
不安がないわけではない。なぜ、自分が鈴女の世界で記憶があるのか。もしかしたら、自分は死んで、魂だけが彼女の世界へきてしまったのではないかという懸念はある。だが、何をおいても、鈴女だけは現実に帰さないといけない。
「現実に戻っても、太一くんは私より先輩のほうがいいんでしょう?実は、太一くんに内緒で会ったことがあるの……」
なるほど。そこから感染したのか。
「いや、先輩にはフラれたし、心の整理はついた。もう二度と会うことはないよ」
涙を流す鈴女に、太一はキスをした。
「…………」
いきなりのキスに、鈴女は目を見開いて驚いたが、怒るわけでもなく、黙って応じた。
「……お前のことはずっと幼馴染としてしか見てこなかった。でも、これからは一人の女の子として、僕とつきあってほしい。だから一緒に現実で生きてくれないか?」
「うん。……わかった」
すると、鈴女の心が開放されたのか、2人の目の前に、空間にひずみが生じて、真っ白い、光を帯びた、扉のような穴が開いた。
「……行くぞ?」
鈴女の身体を支えるように起こし、光の中へと入って行った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...