ニコラ・ロウの華麗なる悪役生活

天乃律

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幕間 俺とロウ家と主人公組

第2話 うちの婚約者天使か

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 親父殿に今にも飛び蹴りをかましそうなリディアと、それを不自由な脚で追いかけて羽交い絞めにしたアデル。
 いつか世界を救うはずの主人公コンビに向かって、俺はビシッと掌を向けた。

「人の家の事情に口出ししないでくれるかな、最下位さん」
「はああああっ!? あんたねぇ、自分のことなのよ、怒りなさいよ!」

 いや、俺が怒ったり言い返したりするより先におまえが爆発したんじゃねーか。

「やかましい。魔術もヘッポコの爆発魔が、父上に向かって無礼な口を利くな。今すぐその口を縫い上げて差し上げようか。杖を折られた今の僕では、魔法の加減も難しいだろうけどね!」

 ……あ?
 そうか、もしかしてアデルが陰口叩かれても黙ったままなのは、アデルが怒るより先にリディアが噴火しちまうからか?

 というか、もしかしてアロイシウス棟事件の際に「リディアに似てる」とか言ったのは、俺が兄貴のことに大爆発を起こしたことを指していたのか?

 遅ればせながら色んなことに思い至りつつ、可能な限りの悪役顔をして親父殿に向き直る。

「申し訳ありませんでした、父上。このニコラ、後期こそは只人如きの後塵を拝することのないよう精進致します」

 あー俺、ヤな言い方。
 只人如き、って。シリウスの前で一番したくない言い方なのに。
 実際シリウスは片眉を上げて「お? やるか?」と無言でケンカを売ってきている。ごめんて。ルフに帰ったらやろうな。

 親父殿は黙っていた。
 紅蓮色の双眸をぱちぱちと瞬かせて、なんとも微妙そうな表情になる。
 なんだよ、その「ニコラおまえ……」とでも言いたげな口元は。言っとくけどなー、リディアの言った通り、踏んだり蹴ったりで基本的に被害者な息子に向かって嫌味を吐いたのは親父殿が先なんだからな!

「……励めよ」

 俺の渾身の悪に対する親父殿の返事は、そんなものだった。




 出発した馬車の中の空気は最悪。
 相も変わらず何を考えてんのかわかんねぇ仏頂面の親父殿。呆れたように肩を竦めた兄貴。一番居心地が悪そうでかわいそうなエウ。そして表面上はキラキラお坊ちゃまモードに戻った、俺。

 王都郊外に居を構えるベックマン邸まで、喋っていたのは主に俺とエウだった。

「エウ、休み中のどこかでルフに遊びに来るかい?」
「あ、うん……。ロウ家のみなさまにご迷惑でなければ」

「迷惑だなんてそんなはずないよ。メイドたちも、休みにはすぐエウを連れてきてくれって言ってたから。ねえ、そうですよね、父上?」
「……うむ」

「ほら。久しぶりにゆっくり過ごそう。他に予定はあるのかな?」
「ミーナたちと、お休み中に一度遊ぼうって話はしたよ。日付は決まっていないけど。あとでお父さまたちにも予定を確認しておくね」

 ……といった具合で、見慣れた屋敷の門扉をくぐった。

「おかえり、エウフェーミア!」
「ただいま帰りました。お父さま」

 満面の笑顔で愛姪を迎えたベックマン氏が、美少女天使をギュッと抱きしめる。
 うちの親子には縁がない類いの愛情表現だな。

 ロウ家の男三人衆も歓待を受け、エウフェーミアが着替えている間、俺たちは応接室でお茶を頂いた。

 氏は王立病院に勤める腕のいい魔法医師だ。魔法教会からその功績を讃えて付与された称号は〈魔道医師〉。貴族でこそないものの、郊外に構える自宅はそれなりに広い。
 エウフェーミアと、ベックマン氏、それに住み込みの使用人が三人。全員が護衛を兼任しており、退役軍人で凄腕の元〈魔法騎士〉である。

「ニコラ、聞いたよ。城下町で横行していた麻薬の作り手を確保したんだって?」
「ご存じだったのですか」
「エウフェーミアから手紙をもらってね。うちの病院にもかなりの中毒患者が入院していたから、捕まったと聞いて一安心したよ。学院生が犯人だったことは嘆かわしいが……」

 複雑そうな表情で手を組んだベックマン氏は、次の瞬間子どもみたいに唇を尖らせた。

「エウフェーミアからの手紙、ニコラのことばっかりなんだよ……。危ないことにばっかり首を突っ込んでるって?」
「語弊がある……。火種のほうが僕に向かって突っ込んでくるんですよ」

 リディアやアデルという名の火種がな……!

「まあ、お友だちもできたみたいだし、学校生活は楽しんでいるみたいだ。あの子がニコラと出逢ってから何もかもがいいほうに転んでいくようだよ。引き取ったばかりの頃は、今にも家族の後を追いそうだったからね」

「本人の生きる気持ちがあればこそです。僕は引っ張り回して遊んで、たまーに吹っ飛ばされた程度ですよ」

「……ありがとうね、ニコラ。これからもよろしく頼むよ」

 俺が微笑んで返事を濁したと同時に、ドアが開いた。
 蒼いワンピースに身を包んだエウが顔を覗かせる。

「あのね、ニコ、ちょっといい?」
「ん。では、失礼します」

 帰ってきたばっかなのにエウフェーミアはニコラばっかりぃ、と今にもブーブー言いだしそうなベックマン氏の視線を背に、退室。
 ぴったりとドアを閉めると、エウは俺の手を引いて邸の外へ向かった。

「マリアさんにお茶を用意してもらったの。日向ぼっこ、しよ」
「…………」
「シリウスも一緒よ」
「……おう」

 なんか、盛大に気を遣われたような、気がする。
 フゥと肩を落として、一歩前を歩くエウの後頭部に頭突きをかました。

「痛いっ」
「ふ。油断してっからだ」

 玄関から外に出ると、庭の大きな樹の下にティーテーブルが設えてあった。
 木製の白いテーブルと椅子が二脚。すでにシリウスが準備に取り掛かっている。俺とエウが着席するのに合わせて、ティーカップが差し出された。

 半年ぶりの、シリウスの、茶!!

「ニコ、これあげる」

 エウが俺に手渡したのは、可愛らしいピンクの布に包まれた棒状のものだった。
 丁寧に開いていくと、やや年季の入った細身の杖が現れる。

「これ……、エウが昔使ってた杖か?」
「うん。バルバディアに入るから新しい杖を仕立ててもらったんだけど、捨てるのもなんだかなぁって取っておいたの」

 エウの反則的な魔力に耐えられるよう、頑丈なゴショウの樹でできたそれは、俺にも嫌というほど見覚えがある。

「杖、折れちゃったんでしょ」
「……そぉぉぉなんだよ、あのクソ高い杖……」
「ニコは意地張って新しい杖を仕立てなさそうだなぁ、って思って。せめて杖なしの魔法に慣れるまで、よかったら使ってあげて?」


 ……天使か?
 いや実はこの世界、天使という名称の存在はないのだが、やっぱりこいつは天使か?


 ──と内心荒れ狂いながらも無表情で打ち震える俺に、シリウスが盛大に噴き出した。
 俺の心の声、この従者には駄々洩れになっていたらしい。
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