あやかしと神様の子供たち

花咲マイコ

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運動会☆前編

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「運動会なんか潰れてしまえばいいのに…隕石落ちるとか……」
 十歳の桂はそう物騒な事を呟いて、盛大に溜め息を吐いた。

 桂は勉強は得意だが運動神経に恵まれてなかった。
 そんな桂は運動会のくじ引きでリレーのアンカーにさせられてしまった。
 足に自信があれば積極的に手を上げるクラスメイトがいるはずだが、誰もがアンカーなんかやりたくないほど自分も含め積極性のないクラスだった。

(楽なこととイジメは喜んでするくせに……)

 桂は体育以外のことは率先して手伝っていて、
「いい子ちゃんぶるな!」と、
 いじめっ子グループに目をつけられていた。
 そして、いじめっ子達はわざと桂を推薦した。
 桂が悩んでいるのはリレーのアンカーなんて、責任あることしたくないことだが、逆に良い事かもとも思っていた。

(かーさんのために、一度でいいから一等賞とりたい……かーさんと僕の思い出になるような運動会に……)
 という希望があった。
 それは母の寿命が少ないから……
 その事を考えると胸が痛いし、もっとずっとそばにいたい。
 独り占めしたいくらい……ずっとそばにいて触れ合いたい。
 切なく強く思う。
 だからこそ……

(もし、一位を取れたら、かーさんや、とーさんがとても喜んでくれる笑顔を見たい!)
 その時の映像が桂の脳裏にチラチラと過ぎってそれがやりたくないけどやらざる得ない希望になって複雑な思いをしている。

 一番手っ取り早い方法は一つある。

「とーさんに足が早くなる神呪かじきしてもらえたら……」
 神呪とは神様のおまじないという事。
 香茂家の人間として陰陽童子として、宮中の陰陽寮に夏に三日間だけ、幼なじみの野薔薇と一緒に体験出仕したときに神の化身で、副陰陽寮長の晴房に教わった。

 だけど、それはいじめっ子たちと同じずるい事だと思うとまた葛藤に悩まされる。

「神呪をやってやろうか?」
 瑠香は桂の顔を覗き込むように言った。
「テレパシーで……心、覗いた?」
 桂はむぅと訝しむ。
「子供が困っているなら助けるのが親だろ?」
 瑠香は悪びれない。当然だと思ってる。
「ただ、足の遅い僕がクラスの迷惑をかけたくないだけなんだ……」
 ビリになったら、なんて言われるかも想像すると嫌な気分になる。
 桂は色々想像してしまう。
 思慮深さと少し先の未来がわかってしまうために怖気づく癖がある。

「お前を迷惑とかほざいてる奴を連れてこい……奴らの性根を叩き直してやる……」
 瑠香は怒りオーラを大きく背後に揺らめかせる。
「遅いのわかってて、アンカーにするなんて信用されてるんじゃないかな?」
 母の葛葉子はクラスメイトや友達は大事だと思っているために素でそう優しいことを言う。

「いや、そんなことない。」
 父子は声を揃えて言った。
「断言することか⁉」
 ショックを受ける葛葉子。
「僕は勉強出来るけど、運動はからっきしなのを知って僕をバカにしたいって思ってる奴らなんか信用してるわけないじゃないか……」
「互いに信用してないんじゃどうしょうもないし、そんな運動会楽しくないな……」
 葛葉子はしょんぼりする。
「う…っ」
(そんな顔見たくないのに…悲しい顔させるのがやだったのに)
 桂は胸が痛くなる。
 ポンポンと小さな手が桂の背中を叩いて、
「にーたん……にーたんをいじめるやつオレがボコボコにしていい?」
 狐耳と尻尾を出した小学校一年生の弟の薫がヤル気になっていた。
 薫は正義感が強く、いじめっ子をよく成敗して問題になっていた。
「だ、だめだよ!暴力はいけません!」
 桂は慌てて注意をして止める。
「ちぇ、夜中忍んでボコボコにすればバレないから大丈夫だよ」
 末恐ろしい弟だと桂は思った。

 瑠香は桂と同じ複雑な表情をした妻の葛葉子を見て、
「いじめられっ子体質はかーさん譲りらしいな……」
 と言ってため息を吐いた。
「そ、そうかもね……でも大丈夫。その子と仲良くなれば!」
 母は仲良くなることを諦めていないようだ。
「なかよくなれたらね……」
 桂はバカにした暗い感じて言った。
 皮肉っぽい所はとうさん似だな……と葛葉子は思った。
「いつか、とーさんみたいな好きな人をとことん護ってくれる彼女が出来ればいいな。応援するぞ」
 葛葉子はとりあえずそういった。
「変ないじめっ子対策案になってるんだけど……」
 いじめっ子対策話が恋愛話に飛んでしまった。
 だが、後に葛葉子の言霊が本当になることを少し未来を見る事のできる桂にはその時は見えなかった。

「じゃぁ、桂、オレと誓約するか?神呪よりも確実な神との賭けを……神の誓約だ。」
 瑠香は瞳を青く光らせた。
 それは神がかっている証拠だ。
「桂が一位を取らなかったららとーさんと薫でいじめたヤツらに制裁」
「はあ!?」
 父と弟はヤル気満々だった。
「い、一位を取れたら?」
「かーさんが桂を一日独り占めしていい!」
 白狐神でもある母が先回りして宣言した。
「………ちっ!」
 瑠香は本当に嫌そうな顔をした。妻を子どもたちにも独占されたくないからだ。
「まぁ、いいだろう。これで桂の誓約は決定な!」
「なんだそりゃ……そんな僕、子供じゃないよぉ……」
 桂はそう言って照れて恥ずかしがる。
「嫌か?」
 しゅんとする母に、
「嫌じゃない……う、嬉しいし……でも、クラスのみんなの前ではダメ……家でして欲しい。
 とーさんと薫に焼きもち妬かせたい……」
 顔を赤くしてもじもじしている姿はとても愛くるしい。
「うん。いいぞ!桂はかわいいな!」
 葛葉子は思わず胸の中に抱きしめる。
 それをグイッ!と瑠香と桂で引き剥がして、
「じゃ、まずは特訓だな。」
「え?」
「誓約をしたからって桂が劇的に走れるわけじゃない。神呪じゃないしな。」
 意地悪顔をした瑠香はドヤ顔で言う。
「誓約には努力が必要なんだよ。かーさんとの誓約を成立させたいなら努力しろ、努力できないならオレと薫の誓約が成立するからな」
「桂が密かに頑張った成果を本番でみんなに見せたらかっこいいぞ!かーさんも嬉しいし!」
 と葛葉子は励ますと、
「うん!頑張ってみる!」
 素直にやる気になる桂だった。
「じゃ、かーさんと毎朝一緒に走ろう!狐姿がいいかな?犬の散歩みたいな感じで。」
「そ、そこまでしなくていいよ、一緒に走ってくれれば……」
「その練習自体で独り占めしているようなものだけどな…」
 と苦虫を噛みしめる表情で瑠香は我慢した。

 朝早く桂の練習がはじまった。
 子供にも嫉妬をする瑠香が薫と共に結局家族みんなで家の周りを周回する。
(こういうのも楽しい。母さんとの思い出になるから)
 と思うと桂はさらに頑張れるのだった。
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