あやかしと神様の子供たち

花咲マイコ

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桜姫と狐姫

1☆桜庭の屋敷にご訪問

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 黒御足威津那は橘と一緒に、帰国したばかりの季節を見舞いに、桜庭家の屋敷に訪れた。
 今日は十三夜で阿倍野家特製の栗饅頭を手土産だ。
「私も力作、作ったの!食べて!」
 橘は満面の笑みで手土産を咲羅子に渡す。
「うん…ありがとう」
 橘の外見ゲテモノ中身絶品料理を想像して戸惑う。
 そんな咲羅子の様子に威津那は後ろを向いてプッ!と吹き出した。
「いーつーなーさーん?何か?」
 橘は顔を真っ赤にして憤る。
「いや、意外な美味しい饅頭を見…、食べる咲羅子さんを想像したら楽しくてね」
(どんな外見ゲテモノなんだろう……)
 咲羅子は本気で不安だった。

 挨拶もそこそこに、世間話を始める。
 威津那も季節の南方の戦況の話を聞きたかったし、外見は年齢より少々老けている…いや貫禄があり、歳が近く頼れる兄貴というより隊長の雰囲気に親しみを込めて親しくなりたいと思ったので橘について来た。
 十年間の戦線を臨場感たっぷりに話す季節に息を呑みながら聞いた。
「……まぁ、詳しい話はおいおいな……ふぅ…」
 一気に話すのは疲れて、将棋盤を持ってきて威津那と楽しむ。
 将棋の勝負は長いことを知っている乙女たちは今年で十一歳の咲羅子の桃子を妹の好きな遊びに付き合ってあげていた。
 乙女たちの話は男の百倍はお喋りで話も尽きないみたいだ。

 季節と威津那は、将棋を楽しみつつ、乙女たちを…愛おしい女を見て微笑ましく思う。
 それは平和というものを噛み締めるような感覚だった。
 女、子供が幸せなことが日和男子の本懐なのだ。

「橘と咲羅子さんは仲良いよね、いつからなの?」
 威津那は、二人のいつもの仲睦まじさに羨ましい気持ちもありながら質問した。
 咲羅子の妹の桃子がみんなにお茶を持ってきて初対面の威津那を見て照れる。
 
「桃ちゃんの歳より幼くて……私が七歳で咲羅子姐さんが八歳の時ね」
「もう、十二年の付き合いになるわね」
「桃ちゃんが生まれる一年前ね」
「俺が十八の時だな。懐かしいな」
 ふっ、と笑い、妙齢になった二人をあの頃の子供の頃のように頭を撫でる。
「やめてよ!私を子供扱いしないでよ!」
 咲羅子は本気で憤慨する。
「すまんすまん、ついな。」
 むぅ!っと咲羅子は不服だ。
 いい加減女としてみて欲しい。
「隊長もその頃の橘と出会ったんですか?」
 威津那も驚きな表情から不服な顔をする。
(僕が橘に出会う前から知ってるなんて…もやもやする…)
 ついつい黒い呪詛が吹き出しそうになる胸の内を抑える。
「もしかして、威津那ったら季節さんにも、やきもちしてるの?」
 橘は威津那から微かに噴き出た瘴気に気づいて口元がにやける。
「威津那が唯一の私の王子様なのは変わりないし、季節さんは咲羅子姐さんの生まれた時からの婚約者なんだから、季節さんに、ときめいたこと一度もないから安心して!」
 そう言って威津那の肩に頭をすりすりする。
「それはそれで傷つくぞ……まぁ、ときめかれても困るが……」
「私ももっと橘のようにしたら、私を女と意識してくれたかしら?」
 幼い咲羅子は今よりも気高く生まれた頃からの許嫁だとしてもべたべたくっつく真似ははしたないと思いしなかった。
 今は橘の影響か手を握ったり腕に寄りかかったりはするが、少し遠慮がちにしてきてウブで気高い乙女らしく可愛く思う。
「十歳も満たない子供に変な気なんかするものかよ、いま、美しい女性に成長したからこそ意識するんだよ…」
 と、季節は照れを隠すために豪快に笑ったが、
(今、こんな未来を想像するために咲羅子の事を思って今の今まで生きてこれたんだよな…まぁ、真実、生きて帰る約束をした以前は妹にしか思っていなかったがな……)
 威津那は季節の言葉を聞いて、橘を見つめ思う。
(確かに幼女にそんなことは思わないけど、未来の橘の姿を重ねて欲情したことは黙っておこ……あ、高良くんがここにいなくてよかった…)
 威津那は橘から目を逸らして密かに反省する。
「まぁ、橘と出会ったのは七歳の頃……滝口家の道場の帰り道、お稲荷さんの神社で出会ったのよ……」
 咲羅子は昨日の出来事のように思い出すことが出来た。
 それほど橘との出会いはかけがえのないものだと確信している。
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