あやかしと神様の子供たち

花咲マイコ

文字の大きさ
36 / 56
桜姫と狐姫

5☆退魔の刀

しおりを挟む
 翌日の昼、橘は待っていた。
 今日の空は夏の空で白い雲が近く蒸し暑いが、神社の空気はそれを吹き気消すほど冷たく感じた。
 それは、橘の監視役をしている大狐が見張っているからだと咲羅子は確信する。
 なぜなら、季節はこの神社に入れなかった。
 咲羅子だけ入れるように術がかけられていると季節は今までの勘で言い、
「気をつけろよ?無理するな?」
 と心配していた。
 橘は社の階段で暗い表情で空を見上げていた。
「橘!」
「咲羅子姐さん!来てくれたの?」
 橘は、にぱぁーと表情を綻ばさせ駆け寄ってきた。
 その様子は子犬のようだと咲羅子は思う。
 それは狐のあやかしだと知ってしまった所以だろうか……
 ついつい頭をヨシヨシして、咲羅子も微笑む。
「当たり前じゃない!大丈夫?イジワルされなかった?」
 咲羅子は橘の心配をする。
 怪我とかしてないか確認もする。
 咲羅子の本当に心配する様子を見て橘は困惑しながら、
「ちょっと叱られたけど……夕方までなら遊べるよ!」
「……うん、私も…橘と遊びたいけど……」
 咲羅子は言い淀む。
「やっぱり…もうやだ?《あやかし》な私はいや?」
 今にも泣きそうに瞳を潤ませる橘を安心させるように手をぎゅっと握って真摯な瞳で見つめ合う。
「今日はあなたに狐の呪いをかけた、妖怪を倒したいのっ!」
 咲羅子は正直瞳を輝かせてとびっきりの笑顔だった。
「う………でも……」
 橘は咲羅子と真逆に青ざめて下を向く。
 季節の話だと下級のあやかしはご主人のあやかしに駒使いにされて逆らえないらしいと言う話を聞いた。
 なので一刻も早く橘を救いたい気持ちが強かった。
「大丈夫!安心して!私が必ず、あなたの呪いを解いてあげるから!」
 握る両手が強く、咲羅子の真摯な気持ちが橘に伝わってきた。
「う……うん…」
 伝わっても、橘は困惑するばかりだった……
 それは、大妖怪に、十歳にも満た無い咲羅子は勝つ事はでき無いと思っているのだと咲羅子は思われていることに、ふっと笑う。

「私、負ける気し無いから!安心してよ」
 咲羅子の表情には一片の曇りもなく自信に満ちていた。

「………ふふ、橘の呪いを解こうとは…粋な小娘じゃナァ!皆の衆⁉︎」
「⁉︎」
 森が急に暗くなり、瘴気が二人を囲む。
 周りから異形のものが現れる。
「な、何あれ!あんなにたくさん!」
 百鬼夜行のあやかしが二人を囲むように黒い影をゆらめかし不気味さを演出する。
 だが、橘に呪いをかけた大狐のあやかしは現れていない。
「妖怪ちゃんたちだよ…やっぱり、怖い?」
 異形な姿には怖いとは思うが負ける気は全くし無い。
「橘は怖くないの?」
「怖くないよ…怖いのは人間の方…私の姿を見ていつもいじめるの……怖いっていって、石を投げられたこともあるの……」
 橘はその時のことを思い出して泣きそうになる。
「橘……」
 その話を聞いて咲羅子も橘と同じ気持ちになる。
 橘は妖怪の方にタタっと駆け寄り咲羅子の方を向き直り泣きそうな笑顔で、
「咲羅子姐さんは私と仲良くしてくれた初めての家族以外の人間…ありがとう……楽しかったよ。」
 橘はあやかしの方に、人間をやめようとしていると咲羅子は思い素早く駆け寄り橘を引き止める。
「だめっ!橘は友達なんだから!ずっとこれからもっ!」
 だから!鞘のついた刀を向けて妖たちを威嚇する。
「あなたは私が守る!」
「咲羅子姐さん……」

 咲羅子は退魔の刀を抜くと眩しい光が刃に煌めく。
 その、光に容赦ない殺気を感じ、あやかしたちはどよめく。
《ふふ、ひさびさに腕を振るうかな……》
 咲羅子の口から出た言霊は幼女のものではなかった。
 そして、咲羅子の構える様は幼いながらも百戦錬磨の武士のようだった。
《そちらから、かかってこ無いならば我からいくぞ!》
 咲羅子は一歩踏み込んだと思ったら、極悪な顔をした鬼の首を瞬時に払い落とす。
 切られたあやかしや鬼は黒い霧となって消えた。
 久々の手応えに咲羅子はニヤリと笑うと刃に残る瘴気をひと祓いする。

 その様子を見た小鬼や小物の妖怪たちはゾッとしてのけぞり散り散りに霧散しながら

「ハルカセさまーっ!阿倍野殿!お助けください~!」
 と情けない声を出しながら神社の影の中に消えていった。
 消えていく影の代わりに金色の毛並みの耳と尻尾が生えた二メートル近くある橘に呪いをかけた大狐が不敵な笑みをわざとしながら現れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...