あやかしと神様の子供たち

花咲マイコ

文字の大きさ
38 / 56
桜姫と狐姫

7☆親子

しおりを挟む
「……うそ、ついたの?橘………」
 咲羅子は般若の表情で橘をにらむ。
 橘はその恐ろしさに耳を伏せて瞳に涙をためて怯える。
 咲羅子は騙されたことと、もう橘と友達になれない事に般若の顔が泣き顔になる。
 けれど涙を堪えてそんなみっともない顔を見せたくなくて無言で神社から出ていこうとした。
(それから思いっきり泣けばいい……)
「行っちゃヤダ!」
 橘は咲羅子の手を必死で掴んで逃さない。
「ごめんなさい!嘘ついて!でも、この姿は生まれつきなの!夜になると狐耳と尻尾が出ちゃうのは、とーさまの血筋といえば呪いみたいなものだって、とーさまがいうからぁぁあ!わぁーんっ!」
 橘は早口で泣きながら謝り理由を言う。
「でも、こんな姿の私の事なんかみんな怖がるからぁっ!嘘ついたのーっ!だから、行かないで!咲羅子姐さんとずっと、ずっと、友達でいたいのぉ!だから、泣かせてごめんなさぁああいぃぃィー!」
 オンオン泣きながら橘は咲羅子の手を引っ張って抱きしめて泣き続ける。
「もう、嘘なんかつきません!だから友達やめないでっ!うわあぁーーん!」
 あまりの橘の泣きっぷりに咲羅子は涙も引っ込んで呆れて二人地面にしゃがみこむ。
 咲羅子は橘を宥めるために背中をポンポンと叩きながら、
「………もう、正直に言ってくれたから許してあげるわよ」
「ほんと!ありがとうーーー!うわーーーーーんっ!咲羅子姐さんだいすきー!わーん!」
「結局泣くのね…‥」
 咲羅子は呆れたのと、ホッとして、胸が暖かくなるのを感じた。
 
「ふーやれやれ、嘘をつくとこんな大ごとになる事わかったなら良いわ。」
 晴綛は橘の頭をゴシゴシと撫でる。
 
「橘のお父さんも、嘘つきましたよね?」
「わしのは演出だ。嘘なんかついておらんもん。あやかしの棟梁というのは本当だしの。」
 子供みたいに腰に手を当ててえばる。
 人を和ませ子供っぽいところは、やはり橘と父子だと確信する。
 狐耳と尻尾もお揃いである。
 どこをどう見ても親子だった。
 それに仲が良い雰囲気もあり、季節が言うような使役でもなかった。
(季節兄も紛らわしいこと言うから……もう)
 咲羅子は季節にも文句を言わなくちゃ気がすまないと思う。
 晴綛は橘の鼻水と涙で汚れている顔を優しく拭う。
 そして、拭いお終わるとおでこにキスをして、橘もお礼とばかりに晴綛の頬にキスをする。
 晴綛は蕩けそうなうれしい表情だ。
 そんな仲よい親子関係を見ると、
(私もお父様に会いたい…頭、なでてもらいたい…橘が、羨ましいなぁ…)
 引っ込んだはずの違う感情の涙が湧き出そうになる時、晴綛は橘と咲羅子を両腕に抱き上げた。
 そして、咲羅子に、
「借りにもわしを倒したお主に一つ願いを叶えてやろう。」
「えっ!叶えられるの?」
「曲がりなりにも、妖怪の棟梁であり、神の声を聞く審神者であり、神の仮の依代だ。できないと思うか?」
「橘のお父様はすごいあやかしなのね。」
「うん、かーさまのお尻に毎日しかれてるけど」 
 橘のお母さんのほうが強いのか…と咲羅子は考える。
 自分も刀に止められなかったら、晴綛に勝てたはずだが、上には上がいるようだ。
「そうだな、橘に弟か妹つくろうとがんばってるんだけどなぁと…ルカの神!今のは内緒だからな!」
 子供にはわからない冗談を言ったが、突然焦ったように顔を真っ赤にして頭上に向かって叫ぶ。
 橘も咲羅子も首を傾げる。
 コホンと咳ばらいして仕切り直し、
「桜姫よ遠慮なく何でも申してみよ、まぁ、何でもと言ってもとんでもないものは無理だけどな」
 晴綛は一応願い事の範囲の釘をさし、優しく安心させる笑顔で言う。
「な、何でも叶えてくれると言うなら、お父様に会いたい!どうしても!今すぐにっ!」
 咲羅子のねがいは迷いがなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...