祈り姫

花咲マイコ

文字の大きさ
68 / 79
願いと妄想の夢違え

6☆夢見の吉凶

しおりを挟む
「どうしたのだ?李流?」
 几帳を挟んだ向かい側に陰陽寮長の晴房は李流のうなされ具合が気になって声をかけ、李流の近くによって様子を見る。
 晴房は陰陽寮の仕事が忙しく桜庭の家に帰らず宮中で過ごしている。
 李流も家に帰らず学校が終われば陰陽寮に泊り込みだった。
 神事と暦制作が重なる秋の季節の忙しい時期だった。
 年末、新年の行事にも備えねばならない。
 なるべく余裕を持って準備を整えて余った時間があれば妻と産まれたばかりの子供と李流と義祖父季節で家族団欒を晴房は楽しみに仕事をがんばっている。
 うなされるほどの仕事量を押し付けたかな?と晴房は内心申し訳なく思った。

「ハル様……」
 李流はまだ、胸がドキドキと、恐怖の鼓動が収まらず胸元を掴む手が震えている。
 明かりを付ければ李流の顔は真っ青になっていた。

「法子さまが……法子さまが助けを求める夢を見たのです……」
 怖い夢は直ぐに忘れてしまいたいものだが、今見た夢の記憶を忘れないように李流は反芻する。

「法子さまの夢がオレとリンクした感じで……法子さまになった夢を見た……のです。」
 夢というものは直ぐに記憶から霧散してしまうものなので晴房に記憶を覚えていて欲しくて言霊に出す。
 晴房は、黙って真剣に李流の瞳を見つめて耳を傾けていてくれる事に感謝をする。
 普段のほほんとしていても陰陽寮長、しっかりしていると尊敬の念がわく。

「現実と違うのは夢の世界のせいで……法子さまは皇子になっていらっしゃって、ただおひとりの皇子の法子さまを亡きものにしようと企んでいるものに命を狙われて、ご皇室の祖霊の神様にこの夢を実現させれば日和は亡びると言われました……そして、法子さまは捕まって怖くて目を覚めてしまったのです!」
 李流は、ハッとしてさらに青ざめて、晴房の狩衣をガシリと掴み、
「ハル様!今すぐ、オレを夢の中に法子さまの夢の中に送れませんか!?法子様が!法子さまの危機なんです!」
 そう必死に叫ぶように言って、神の化身でもある晴房の体を必死に激しくゆさぶった。

「ええぃ!落ち着けぇい!」
 晴房はいつも手に持っている檜扇を李流の脳天にバシン!と思いっきり落とした。
「ぐはっ!」
 一瞬気を失うほどの衝撃で、痛さを自覚するとハッキリと目が覚めてしまった。
 檜扇に微かに煙が見えているのは幻だろうか?

「落ち着け、夢は時をも支配する空間だ。多少の事なら平気だ……たぶん……」
 晴房も確信があまり持てないようだが、李流は冷静さを取り戻す。
 所詮は夢……現実ではない……と思ってしまうことだが、それは危険な事に感じて、やはり、胸のあたりを焦がすむず痒い感覚におそわれる。
 恐怖以外覚えてない……こんな怖い思いをする夢をもし法子さまが見ていらっしゃるなら助けたい……
 と、とても新底思う。
「法子殿下が男宮になって何者かに襲われる夢……しかも神がそう仰ったというのだな?」
「はい……」
 それだけでも不吉の予兆だと晴房は思う。
 ましてはここは、宮中を守護する二柱の化身が住まう陰陽寮の場所での悪夢だ。
 万が一陛下の魂が穢れに触れらたらと思うと一大事だ。
 李流が夢見るのみでよしと思う。
(李流の夢見の力を強化し引き出しておいて正解だな)
 晴房は李流の夢見の力を引き出しているために陛下に降りかかる悪夢も李流が観ることもある。
 今回は遠くに修行なさっていらっしゃる法子殿下に直接降りかかり李流が夢見の力で危機を察ししたなとひとり納得する。
「うむ、いつも、幸せそうな夢しか見てないお前が悪夢を見るか……
それは心配だな……」
 と心配そうに慰めるように今しがたぶっ叩いた頭を撫でて、夢のふと気配を感じた。
 晴房は神の化身そのものであるため現世にありながら異次元の世界を辿ることも出来た。
「しかも、一方的な神との誓約のようだな。」
 晴房はさらに気配を追ったが、正体をつかみづらいのか眉間に皺を寄せ、
「まだ、一方的ならいいのだが……」
 と晴房はポツリと呟いた。
 こういうことは、ルカの神の方が得意だ。
 ハルの神は現世に起こる最悪から守り容赦なく何事も消し去る物理的な力の方が得意だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

処理中です...