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茨の魔女

8☆すれ違いのキス

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 茨の森は血なまぐさい匂いを漂わせていた。
 所々に聖職者の無残な死体が転がっていた。
 リネルは自分の身を守るためにやった事とはいえ心優しい人間のアーサーは複雑な気持ちになる。
 だけど、こういう結果をもたらしたのも己だ。
 リネルをこれ以上穢れさせてはいけない……
 リネルには、もとの可愛い女性に戻って欲しい…
 リネルの体は塔のような高い場所にある。
 そこまでの高さにしているのは大地に根ざした黒バラの薔薇のドレスのせいだ。
 そんな茨のドレスをまとったリネルを仰ぎ向き合う。
 
『あら、私から逃げたのに…また来たの?アーサー……』

 声は人の声ではない…精霊と魂を重ねている。
 魔女というよりこの地の恵の怒りにも感じる。
 血に穢れれば穢れるほど邪悪な者になっているとこのままではリネルは悪魔と同じになってしまう。
「うん……これ以上リネルが穢れない為に来たよ…」
『…ふん!それで?どうするの?聖職者ですら私を止められないのに……【魔女を裁く魔女】を連れてきたの?』
 リネルは大地に生える茨のドレスが体を曲げてアーサーと視線を合わせて睨む。
 憎々しげに顔を歪めている。
 そのような顔にさせたのはアーサー自身。
 「リネル…キスをしよう…」
「え……」
 アーサーは荒れ狂う姿をしたリネルを抱きしめた。
「アーサー…」
「僕は君を止めたい…君も苦しい過去を繰り返したくないはずだ…もう、終わりにしよう」
「…もう繰り返さなくていいの?」
「ああ…リネルが苦しいのは辛いよ…」

 唇を愛おしげに重ねる。
 二人とも感動に震える。
 だけど、目的は心をすれ違いさせる。

(ごめん、領主としてリネルを止める…
 これしか僕にはできる事はない……そして君が消えたならば僕もすぐに君の元に逝くよ)

(辛い思い出を繰り返さなくなる事は二度とアーサーと巡り逢えなくなるという事…その方が辛いから魔女になったのに…死にたくなんかないわ…寧ろ永遠を生きたいのに…)

 互いに愛おしいはずの二人の思いは重ならなかった…
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