あやかしと神様の恋愛成就

花咲マイコ

文字の大きさ
149 / 181
あやかしと神様の黄泉がえり

11☆逢いたくて逢えなくて

しおりを挟む
「葛葉子の望みをひとつ叶えてあげるよ。」
 父は困ったように、葛葉子を慰める。
 葛葉子は体育座りをして顔を腕と膝の中に閉じ込めて、しゃくりをしながら涙が止まらない。

「だから、泣かないでおくれ、お父さんも辛いよ…」
 背の高い父は膝を折りしゃがんで葛葉子の頭を優しく撫でる。

 もう何日こんな状態だろう。
 祖父のジジ様も心配して慰めるために胸を触る冗談したときは、九尾か、葛葉子かどちらの意志で殴り飛ばしたか、わからないが少しはストレス発散になった。

 ここは阿倍野の異界。
 威津那とジジ様の力で阿倍野屋敷を異界に移し現世から消した。
 もしもとの場所に戻るとしたら全てが終わってからだと威津那は言う。

 ジジ様はやはり黙って威津那の好きなようにさせている。
 ジジ様もかわいい孫が帰ってきてくれて傍近くにいることは嬉しいらしい。

「………学校に行きたい…」
 葛葉子はポツリと言った。
「それでいいのかい?」
「瑠香に…逢いたい…」
 それが本音だ。

 何日も逢えなくて触れ合えなくて限界でその望みが出た。

「でも、逢えない…人を殺した穢れたこの身で瑠香を穢せられない……」

 威津那の顔を見て涙で腫れぼったくなった顔を向ける。
 そんな葛葉子をぎゅっと胸に抱く。

「君が殺したわけではないよ…九尾のあやかしの身で敵を打ったんだ…君が殺したわけじゃない…」

「敵を打ったならもう陛下を恨まなくていいじゃないか……」

 何度この会話を繰り返したことか……父の答えは変わらないのに…

「すべての原因は皇にあるのだよ…
 愛するものを愛せないのは…
 房菊が死んだのも、葛葉子が苦しむのも…すべて…
皇のせいなんだよ……」

 もう、全てが祝皇が悪いと思い込んでいる。

 自ら暗示をかけるように……

「神聖な宮殿宮中、陛下のために穢を恐れて、君を愛せない男なんかそれまでの男だよ。」

 頭をなでて耳元で優しく言う。

 だけど、あの男は恐れもしないで触れそうだ…
 それも困る。

「なら、あの男自ら穢ればいいことだ…よ」
 フフフッとなにか企んでるように笑って葛葉子はハッとして父を見る。
「だめだよ!瑠香を穢させない。学校行かなくてもいいよ!」
 葛葉子は望みを必死に否定する。
「私は娘が一番かわいいからね…葛葉子のその望みを叶えてあげるよ…何も悩まなくていいんだよ…」
「父様……?」
 葛葉子の頬を挟んで見つめる。
 抗えない。
 狐の魂はイズナの力に抗えない…
 管狐の呪詛をかけられている。
 主人に逆らわない忠実なる狐になる呪詛らしい。
 しかも、九尾の狐を縛るほどの力だ。
 
「瑠香君の事を忘れて学校生活を楽しめばいい……」
「い、やだ……忘れたくない…」
 意識が遠くなるのを抗う…

「そして、瑠香君が君に触れた時、彼は、九尾とともに皇室を穢れ滅ぼす事になるだろう……」

 そう言うと葛葉子に口づけをし舌を絡ませて九尾の狐に命令する。

 これで、葛葉子の意識は一時的には閉じ込めた。朝になれば瑠香と恋愛していた事を忘れているだろう。

 唇を離すと、はぁっと甘い息を吐く。
 九尾を出し、瞳を艶っぽくして威津那を見る。
 
『悪い父親だな……まぁ良い……。やっと陛下を私の物にできるのだから……』
 九尾の狐は陰陽師に恋し愛されたことを忘れている。 
 

 ただ、清き神に祈りし者を黒に染めて自分の配下にしたい…
 そう思うだけのあやかしと化していた……

 威津那は少し残念に思う。
 妻の橘を感じることが桔梗をともに誅殺したとき以来消えた……

 再び逢えるのを楽しみにしていたのに……
 ほんとに残念だ…

 でも逢えるはずだ…

 この苦しい思いを瑠香くんはしているのかな…?

 理解してくれるかな……
 この苦しみと悲しみを…
 と思うと、威津那は苦笑した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

ワイルド・プロポーズ

藤谷 郁
恋愛
北見瑤子。もうすぐ30歳。 総合ショッピングセンター『ウイステリア』財務部経理課主任。 生真面目で細かくて、その上、女の魅力ゼロ。男いらずの独身主義者と噂される枯れ女に、ある日突然見合い話が舞い込んだ。 私は決して独身主義者ではない。ただ、怖いだけ―― 見合い写真を開くと、理想どおりの男性が微笑んでいた。 ドキドキしながら、紳士で穏やかで優しそうな彼、嶺倉京史に会いに行くが…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...