鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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死後の世界と真紅のドラゴン

夢猫の話

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 「なんでこの塔って十階建てなんだ。空きフロアも在るしもっと小さくてもよかったんじゃないのか?」
 「わたしだって、解らないことあるんです。本来そういうことはマスターに訊いてください!」
 怒られた。そっぽを向いて凜は黙ってしまう。
 十階のフロアに着くと、ガコンと音をたて昇降床が止まった。
 ほー、ここが十階か、と辺りを見回そうとする前に正面から何かが敦也に抱きついてきた。
 「ようこそ、わたしの部屋へ!」
 抱きついてきた正体は、もちろんこのフロアの住人のギルドマスターの咲夜だった。
 十階はどうやらフロア全体が部屋になっているらしく、扉の類いは無かった。 塔の頂上なので部屋は狭くなっていた、奥にベット、その隣に大きな鏡とクローゼットが一個、あと点々とボールが転がり、中央の正面には大きな丸い机と十個椅子があった。
 「どうして京子さんがいるんですか?」
 凜は奥のベットに座っている京子さんを見て言った。
 「言ってなかったっけ。わたしはギルドの最年長だから、ギルド最年少の咲夜の面倒を見るため、咲夜がギルドにいるときはたいていこの部屋にいるよ」
 「知らなかったです」
 「だって、凜ちゃんはまだこの世界に着て一ヶ月しか経ってないじゃん。知らないのは当たり前だよ。まだ新人じゃん」
 「凜も新人だったのか」
 敦也は咲夜の一言に驚き凜を見て言う。
 「リンリンの神器は偶然倉庫に仕舞ってあったのが適合しただけだからね。まだ、戦闘経験はそんな無いよ」
 「先輩よりは強いはずです!」
 京子さんに反応して言う凜。
 「ちなみに、わたしはギルドのNo.3。塔の八階に部屋を持っているよ」
 「えっ、京子さんって放送室が部屋じゃないんだ」
 どんどん凜の知識が更新されていく。
 咲夜は敦也から離れると見上げ言った。
  「で、何しに来たの敦也くん?」
 普通に可愛い女の子に見られ少し顔が赤くなる。いやいや、小学生相手に緊張するなよ、と落ち着かせる。
 「凜が説明下手だったから、もう一度この世界のこと説明してくれないか?」
 「説明下手で悪かったですね!」
  ちょっと怒った凜をなだめる京子さん。
 「うん、いいよ敦也くん。椅子に座って」
 咲夜は一番奥に座り隣には京子さんが座った。敦也は咲夜の正面に座り、隣に凜が座った。
 「さて、わたしが……いや、わたしを含めた十人がこの世界に来たときから話そうか」
 敦也は話が長くなりそうなので楽に座り、話を聞く用意をした。
 「あれは十年前の話だったか……いや、それより前の話だったかぐらいの話。わたし根城咲夜は死んだ。そしてこの世界、つまりは『閉ざされた世界』に着いた。ちょうど同時にわたし以外に九人がやって来た。計十人が閉ざされた世界に初めて来た人間なんだよ」
 咲夜が曖昧にこの世界に来たときのことを語り始めた。
 「わたし達の目の前に女の子が浮かんで現れた……ミサトだよ。彼女はわたし達に閉ざされた世界に来た理由と能力と魔力、【鍵の在処】について教えた。最初は十人全員が戸惑い焦ったよ。だって、急に『死んだ選ばれた十人達よ』って言われたら普通はね」
 死んだ選ばれた十人達よ、ってミサトもかなり大胆で突拍子なことを言ったもんだ。
 「わたしは絶望した。死んでしまったことに対しても、こんな危ない世界に落とされたことも……」
 咲夜は暗い顔をしてから、円状のデスクをトントンと指で叩くとデスク上に立体的なホロ画面が浮かび上がった。どうやらホロ画面は閉ざされた世界の地図らしく、中心の塔に咲夜逹十人を示すであろう赤い点があった。
 「おぉ」
 敦也はホロ画面に驚き感嘆の声を漏らす。閉ざされた世界に来てから驚いてばかりだな。
 「わたし達はこの世界の中心でもあって、【鍵の在処】が最上階にある塔でもある最後の塔(ラストタワー)の一階でミサトから説明を受けたあと、ミサトが一本の鍵を突き出すと鍵の先端の周辺に黒いモヤが集まり錠前の形に変わり、鍵を回すと光が塔内に溢れわたし達は別の場所に移動していた。それから、瞬間移動した場所で十人で今後のことを話し合った」
 鍵を使った瞬間移動。敦也はそれを目の前で見たことがあるので驚くことがなかったが、隣の凜が「すごいですね!?」と驚嘆している様子だった。
 咲夜がトンと一度机を叩くと、ホロ画面の赤い点の位置が変わった。
 「話を切り出したのは確か、『生き返る道』のマスターだったかな。彼が『俺は【鍵の在処】を目指す。だからお前達も力を貸してくれないか』と言って、わたしを含んだ残りの九人は彼に賛同して共に行動することになった」
 生き返る道のマスター。昨日の話によると、かなり酷いマスターという印象を敦也は受けていた。
 先導して九人を纏める人が何故ギルド破壊なんて提案したんだろうか。
 「うん、敦也くんが言いたいことはわかるよ」 
 敦也が『生き返る道のマスター』について考えていることが顔に出てたらしく、咲夜は笑いを含んだ声で言った。
 「生き返る道のマスターは確かに優しい、そしてそれと同時に賢い。わたしがギルド情勢の三手先を考えているとしたら、彼は三十手先を考えているといった感じかな。だから、五年前のギルドNo.Sナンバーズ破壊作戦には必ず意味があり、その意味がこの先のこの世界を大きく変えてくると思っているよ。変えてくれなければ、No.Sの人達の死はなんだったんだってことになってしまうからね」
 『生き返る道』のマスターは賢い、その賢さは善行をするのか、悪行をするのか。敦也はそれがどちらかをもう勝手に結論を出していた。
 「誰かを犠牲にして手にいれた勝利なんて、その時点で勝利とは言えないよ」
 敦也はうっかり思考をそのまま口にしてしまったらしく注目が集まる。
 咲夜は驚いた顔を見せると、直ぐにニヤリと笑ってから言った。
 「敦也くん、それは無理な話だよ。確かに犠牲が無いほうがわたしとしても良い。でも、この世界はそんな甘くない。敦也くん自身それは解っているはずでしょ。三ツ星の共食いゴブリンと戦って敦也くんはどう感じた?」
 敦也は咲夜に問われ、共食いゴブリンと戦った日のことを思い出す。思い出すといってもそんな過去の話ではないのでまだ新しい記憶にあった。その過去の戦闘を頭で再生すると、身体が震え歯を強く噛んだ。
 「……凄い恐かった。あんなのに勝てた自分が信じられない」
 敦也の答えを聞くと咲夜は頷いた。
 「アツヤ君が三ツ星に勝てたのは偶然に近いだろうね。凜ちゃんは神器を持ってるけど勝てるかわからないからね」
 「わたしでも三ツ星くらいは倒せますよ」
 「閉ざされた世界には一ツ星から十ツ星までモンスターのランクがある。五ツ星まではモンスターの力は普通で、さして前の星(ランク)と変わらない。けど、六ツ星から力や能力が大幅に変化しすぎて一人での戦闘は神器を使わなければ死んでしまうと思う。あっ、凜は一人じゃ絶対無理だけど」
 咲夜はこう言いたいのだろう。三ツ星なんかより強いモンスターがまだたくさんいるから恐がらずに立ち向かえと。
 「今このギルドに敦也くんの師匠になってくれそうな人はいない。前の《攻略組》隊長の来谷橙火(くるやとうか)なら敦也くんの師匠を喜んでやってくれるだろうけど……」
 咲夜はそこまで言って口を閉じ、続きを言おうとしないので代わりに京子さんが口を開いた。
 「それが家出中なんだよね彼女」
 「「家出中!?」」
 凜と俺がシンクロして驚く。
 家出中ということはギルドの外にいるということであろう。だとすると、モンスターの群れに襲われてるとか。
 「ちょっと散歩する、って言ってギルドの外を出てから二年間帰ってきてないんだよ。たまに連絡をくれるから死んではいないんだろうけどさ」
 家出中に連絡とは。それは家出なのか。
 京子さんは思い出したような顔をすると、デスクに一つのリングを置いた。それは凜が着けているリングにそっくりだった。いや、それそのものだった。
 「このリングはわたしとライ、あぁ来谷のことだよ。二人で作成した連絡器具だ。これがあれば、リングを着けている仲間と連絡ができるし、武器の転送もできるよ。カラー十色から自分の好きなものを選べる……これでライとも連絡がとれているわけ」
 投げられたリングを受けとり、ボタン数回押して敦也気に入った黄色に設定した。
 「敦也くんは武器の登録をしてないから、リングの連絡ぐらいしか使えないけど。実際ギルド内にいたら、わたしがテレパシーで業務連絡は連絡するから、大規模遠征でしか使わないんだよね」
 敦也は未知のワードに対して反応する。
 「大規模遠征ってなんだ?」
 咲夜はデスクを三度指で叩きホロ画面を変える。
 今度は夢猫のギルドとそれを囲む樹の壁とブラックゾーンの森だった。
 「大規模遠征とは一言に言えば、モンスターのギルドへの大規模な攻撃のことです」
 咲夜の答えによると。モンスターに意志があるように感じられた。
 実際敦也はモンスターの意志的なものをもう見ている。
 共食いゴブリンが普通のゴブリンを守ろうとしていた光景を。
 「大規模遠征って言っても大河と《攻略組》メンバーで一掃しちゃうんですけどね。広太と空も頑張ってくれるし」
 咲夜が笑いを含んだ声で机をトンと叩きホロ画面を変える。今度は十個のイラストが描かれた画面だった。
 「広太ってそんな強いのか!?」
 「それは広太も神器持ちだし、能力が神器とマッチしてるからかなり強いよ」
 「と言っても、攻略組メンバーやサブマスよりは全然弱いけどね」
 京子さんが咲夜に付け加えて言うと、部屋に笑いが起こった。
 
 夢猫ギルド内の訓練所で雲竜寺と柔道をしていた広太が誰かに噂されたみたいにくしゃみをした。
 「うっ、くしゅ……………いてっ!」
 くしゃみをした隙に雲竜寺に背負い投げされてしまい、広太が畳みに叩きつけられた。
 「どうした広太、気が抜けてるぞ!」
 帯を絞め直しながら広太に一喝する雲竜寺。
 「誰かが噂してますよ」
 鼻を擦りながら雲竜寺を見上げる。
 「……休憩するか」
 空はもう赤くなりつつあった。
 
 「結構ズレてしまいましたね。えーと、それから十人はたくさんのダンジョンを攻略しそれぞれに適合した神器を手に入れていき、力をつけていきました。初めは戦いなど嫌でしたが、他の九人の頼もしさもありわたしも強くなっていったんだ」
 そこまで言って下を向いたが、首を横に振って前を向き続きを話し出した。
 「十人がこの世界に来て半年後、No.Sのマスターになる人がこう言ってわたし達の前から去りました。『俺はこの世界の全てを知ってしまった。だからもうお前達とはいられない』それをきっかけに他の八人も次々と去っていきました」
 「そのNo.Sのマスターは本当にこの世界の全てを知っているのか」
 だとしたら『生き返る道のマスター』に狙われた理由も納得がいく。
 「それは生存不明だから解らないけど。多分……知っているんだと思う。彼はつまらない嘘は吐かない人だったから」
 敦也は何でNo.Sのマスターがこの世界の全てを知ってしまったのか気になったが、それを咲夜に聞いても知らないであろうから、本人にもしあったら訊くことにした。
 「一人になり途方に暮れたわたしのところに現れたのが大河です。大河はわたしに優しく手をさしのべ、ギルドを造ることを決意したのです。誰もこの世界で孤独にならないように」
 「瀬尾先輩ってやっぱり強いのか?」
 敦也が咲夜に訊ねる。
 咲夜は答えが難しいような表情を少ししてからうなずいた。
 「大河は超強いよ。夢猫のサブマスターだし。だけど、いまは魔力と能力と神器が使えなくて、ただの人と同じ状態なんだけどね」
 「どういうことですか? 瀬尾先輩になにがあったんですか?」
 咲夜の答えに凜が驚きながら訊ねる。
 この世界にはたくさんのモンスターがいる。戦闘は免れない世界である。だから、戦うために魔力と能力と神器というものが存在する。
 しかし、瀬尾にそれがないということは戦うことができないことと同じである。
 サブマスターが戦えない状況ははたして大丈夫なのだろうか。
 「大河は、三年前にギルド『青色の世界ブルーワールド』のマスターによって魔力を封印されてしまったんだ。それ以来ずっと大河はモンスターと戦えないでいるんだ」
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