鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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死後の世界と真紅のドラゴン

任命・広太

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敦也が必死に謝罪の言葉を並べると、
「敦也くんは死なないし、夜鶴は敦也くんを殺さないよ」
祐希は笑うように言った。仲間が仲間がを殺すなんてあってたまるものか。 祐希は敦也の背に回り込み、小さな衝撃が二回起こった。それは背中と頭がくっついたからだった。
「敦也くん見て。あれがオリオン座だよ!」
敦也も暗い夜空を眺める。祐希が指でなぞるのですぐに見つけることができた。
「で、あれもオリオン座。これもオリオン座。それもオリオン座。どれもオリオン座!」
祐希が指で夜空をなぞりながら、星座を紹介していく。
しかし、祐希が言っていく星座は全て同じ名前だった。敦也は不思議に思い夜空を祐希と同じようになぞる。
「全部一緒だ」
祐希が言っていった通り夜空で輝く星座全てがオリオン座だったのだ。
「この世界に四季はないんだ。だけどその場所場所によっては毎日台風の場所、毎日毎日大熱波の場所」 
「ん、何が言いたいんだ?」
「よーするに、夢猫アジトは気候は穏やかで夜空はオリオン座だけが見れる場所にあるんだよ」
祐希がまとめて言ったことを敦也は理解した。
「例えば、夜空が獅子座だけとか山羊座だけとかもあるよ。ちゃんとした星空なんてぼくは『閉ざされた世界』(このせかい)では知らないよ。まー、地球あっちでも星空は絵本でしか見たことは無いけどね」
「何でもありだな閉ざされた世界は」
敦也はこの世界の自由さにため息つき、オリオン座しかない星空を眺める。
「何でもありじゃなきゃつまらないよ。ルールがあったら、規則があったら、前に何もなかったら、ぼくだちは自由に動けない。何でもないよりは何でもあるほうがぼくは良いと思うけど」
「…………」
自由人の極意のようなものを語られ、敦也は何も言えなかった。
「アツヤってさー……」
唐突に祐希は振り返り敦也を下から覗き込んだ。
「どうした?」
「……好きな人とかいた?」
「……は?」
祐希のストレート且つ、衝撃的な質問に俺はすぐに質問の内容を理解することが出来なかった。
「だって敦也くんかっこいーじゃん、好きな人ぐらいいてもおかしくはないよー」
敦也をかっこいーという人を彼は久しぶりに聞いた気がしていた。数年前に飛鳥と何かがあって。何だっけ?
なぜ祐希が唐突にそんな質問をしたかは解らないが、俺の過去が気になるのだろうか。
「まー、好きな人がいたのかな……?」
自分自身なんか気恥ずかしく、意味もなく疑問系になってしまった。
でも、この思いに嘘はないと信じていたい。
「今はいるの?」
敦也が過去形みたいに言ったからか、祐希はさらに訊いてくる。
「いや、変わってないさ。俺は飛鳥そいつに会うために【鍵の在処】を目指すんだから」
「……ふーん……」
何故か少し残念そうに呟く祐希。
「もし、その人が死んでたら…………敦也くんはどうする?」
「そんなときはそんな時だな。飛鳥を待たせた俺が悪いんだ」
「じゃー、敦也くんはその人を諦めるの?」
「いや、神にでもなんでも頼んで生き返らせるさ。ミサト以外の神がいたらいいけどな」
ミサトに頼むのはなんか嫌だ。
「人任せなのアツヤは。いや、神任せか」
少し腕を組んで考える素振りをして答えをだす。
「人間の生き死になんて誰かが決めちゃ生けないと思う、それは同じ人間でも神でも。でも、俺は俺の好きな人がどこかで笑ってくれるなら何でもするよ。それがやってはいけないことでもな」
「ふーん、敦也くんは優しいんだね」
そう言うと祐希は敦也の身体に倒れ込んできた。
「お、おい祐希!?」
「少しだけ……こうさせて。ぼくは自由人だから良いでしょ」
弱々しい声をだす祐希にどきっとしたことは今は忘れよう。
忘れようとしても、顔は正直らしく敦也の顔は真っ赤に染まっていた。
「顔真っ赤だね敦也くん。大変だ熱でもあるんじゃない?」
祐希は敦也の額に手を伸ばし、身体の密着率がさらに上がってしまった。
てか、自由人だから良いでしょって。自由人って名乗れば何でも可能じゃないか。
女子とこんなに身体が密着する機会なんてあるわけもなく、こんな経験初めての敦也はかなり焦っていた。
そのため、両手はもう動きが凄い不安定でどうすればいいか解らなかった。
「………………すー、すー……ん、にゃー」
にゃー!?
敦也の身体に倒れかかっている、祐希に視線をやると無防備過ぎるだろと突っ込んでしまいたくなってしまった。
「にゃーにゃー。猫はにゃー。犬もにゃー……凜ちゃんもにゃー」
「うっ!」
初めわけのわからない寝言を言っていて面白かったが、凜ちゃんもにゃーって。想像しただけでふいてしまった。
「てか、また祐希運ぶのか俺は」
最近祐希を背負ってばっかの気がして、少しため息をつき祐希のにゃーと叫んでいる面白い寝顔を眺めてから、星空に視線を移した。
「もうちょっとゆっくりしてくか」





「ん…………!」
目を覚ました辰上広太は目の前の光景に驚いた。
広太がいた場所は夢猫の塔最上階の咲夜の部屋だったのだ。
さらにその部屋にいるのは咲夜だけではなく、京子さん、瀬尾先輩、雲竜寺さん、夜鶴さんとギルドのトップがいたのだ。
広太は落ち着いて目を覚ます前のことを思い出そうとする。
たしか銭湯でアツヤを巻き込んで、女湯を覗こうと知恵を振り絞りアツヤがもう少しで向こう側見えそうな時に夜鶴さんが表れ、俺はぶっ飛ばされたんだよな。敦也は無事だったのだろうか。巻き込んで悪いことをした。せめて向こう側が覗けていれば。
「ん……少年眼覚ましたか」
「夜鶴さん、俺今から説教でもされるんすか?」
覗き未遂の罪で夢猫トップから説教されるのかと、おどおどしてしまう。だとしたら、ここに敦也がいないので広太は少し腹が立ってきていた。
「ははは、説教されたいのかい少年は」
「いや、まったく。帰って寝たいです」
広太は断じてMではないので延々説教されて喜んだりはしない。なので、きっぱり言っておいた。
「そうかい、手間が減って助かるよ」
「夜鶴、広太おいで。始めるよー」
夢猫一番の権力の持ち主である咲夜が眠たそうに言った。
窓から外を見ると辺りはもう真っ暗なので、咲夜はもう眠たいのだろう。
「ところで夜鶴さんあれ何すか?」
広太は部屋の隅の赤に染まったカーペットに倒れている京子さんを一瞥し夜鶴さんを見る。
「ただの阿呆の極みだ。下手すると少年もあぁなるぞ」
一体何があったんだ。
広太は夜鶴さんに先導され椅子に座った。今思うとこの部屋では夢猫トップが重大な会議をしたりする場所でもある。なので、トップと同じ席に座ること事態に緊張してしまう。
「じゃ、雲竜寺話をどうぞ~」
咲夜は口に手を当ててあくびしながら、話のバトンを雲竜寺にパスした。
「では始めますよ。まず、今回の攻略の成果でギルド内にあるものが発見された」
雲竜寺がわざとらしくあるものと誤魔化して話を始める。
「そのあるものをいち早く攻略したいが、瀬尾と俺と月影は三日後に近いギルドとの会談があるため攻略に向かえない。そのため、他の誰かにあるものの攻略を任せたいんだ」
ギルドとの会談とはまた現実的な話だな。
「で、その代役は誰がやるんすか?」
「ん、広太だよ~」
咲夜のはっきりとした物言いに広太は少しリズムが崩された。
「やっぱ、そうすか」
こんな場所に強制的に連れてこられた時点で、なんかパシられるとは予感はしていた。
「で、あるものって」
「ん、ダンジョンだよ」
「ですよね……」
会議の流れが読め過ぎて広太は疲れてきていた。
「広太も夢猫に来て、というか閉ざされた世界に来て結構経つわけでしょ。だから、そろそろ広太も夢猫のトップに入ってもいいんじゃないかなぁと思い大役を依頼します。広太に白羽の矢が立ったわけです」
たしかに閉ざされた世界に来て広太はかなり経つから、そういった面白そうなことを楽しみにしていた。楽しみのあまり口がにやけてしまっている。
「少年、ダンジョン攻略はピクニックじゃないぞ。気が緩んでいたら死んでしまうかもしれないぞ。少年一人でダンジョン攻略にはいかせないがな」
広太の口がにやけたから夜鶴に小馬鹿にされてしまった。広太は夜鶴のことが少し苦手である。
何か上から目線+かなり背も高い。しかも戦闘も超強い。敵には回したくない人だ。じゃないと、さっきみたいにぶっ飛ばされてしまう。
「俺以外に誰が行くんすか」
広太は夜鶴さんから咲夜に視線を戻すと、腕を枕にして寝ているマスターがそこにはいた。
「…………」
メンバー全員の沈黙。
数秒後夜鶴さんが慣れた手つきで咲夜を抱え、ベットまで運んだ。起こすのは悪いからそっとしておくらしい。
「いくらお前が神器解放バーストが使えてもダンジョンじゃ、お前一人じゃ死ぬだろうな」
咲夜に代わってサブマスターの瀬尾が説明するらしい。
神器解放とは神器の力を使いこなしている人のみが使える、神器の力の解放である。それを行うと神器の形態が変わったり、防具の召喚、一撃必殺の技など様々な能力がある。
「ダンジョンなめてませんよ。でも、他に行ける戦闘員って軽音と空ぐらい……」
「軽音には行かせるがあまり戦闘には関わらせないようにするけどな。お前らの特訓のために」
ダンジョンを特訓の場にする人達のほうが、ダンジョンをなめてると思う、と広太は思ったが口にはしない。
「お前以外には軽音、岸谷、香月、桜井に行ってもらう予定だ」
広太は瀬尾先輩が言ったメンバーに驚きが隠せなかった。凜がいるのは神器を持っているから仕方ないが納得できる。しかし、敦也はまだ新人だ。ダンジョン攻略のメンバーに入れるには。
「敦也はまだ早いんじゃないか」
仲間を心配に思うのは当然だ。だから、敦也をまだ失うわけにはいかない。
「……何でだ?」
イライラした声の影に毅然とした声が瀬尾が発せられた。
広太は戸惑いながら瀬尾に抗議の声を上げる。
「敦也はたしかに月進日歩」
「日進月歩だね」
夜鶴さんから修正のお言葉。
「それ月歩しているけど、ダンジョン攻略にはまだ早いと思いうぜ!」
「……もし敦也が危なかったらお前が守れ。お前は今回ダンジョン攻略の隊長として任命してやるんだ、お前の部下ぐらいお前で守れ。もし、お前でも守りきれなければ祐希がいる。そんときは祐希を頼れ」
瀬尾の言葉に広太は何も言い返せなかった。すべて真実なのだから。
メンバーには空もいる、空の能力ならメンバー全員の壁になることは容易い。メインの攻撃は凜と敦也にさせて、広太が中距離から攻撃の二人をフォローしながら敵を崩せばいいんだ。広太は自身仲間を守れる力があるか不安だが、力で足りないならば無い知恵を絞ればいいんだ。
そう思えば思うほど身体は震える、武者震いというやつだろうか。広太は完全に笑顔だった。
「お前らの出発は今日から一週間後だ。それまでしっかり鍛えておけ。他のメンバーには後日寝てるガキが伝える」
ガキとは咲夜らしい。ギルドのマスターをガキと呼べるとは、サブマスターとマスターはどんな関係なのだろうか。 
「了解っすよ……雲竜寺さん今から組手しましょうよ、身体動かしたくてたまらねぇんだ」
「いいぞ、お前がボロボロになるまで付き合ってやるぞ」
広太と雲竜寺は部屋から走り去っていった。
「じゃー、大河。会談用の書類の準備しようか」
夜鶴の提案に瀬尾は去った雲竜寺に憤慨した。
「雲竜寺逃げやがったな!」
瀬尾の怒りの咆哮は夜空を走った。



「今日も平和だ……」
祐希の唐突な寝言に敦也は首を傾げた。
「…………?」
敦也は夜空を見上げ、この世界の希望を信じ、生前は手に入らなかったたくさんの仲間を守ることを改めて誓うのだった。



『閉ざされた世界』。
巨大な天まで貫く塔を中心に広がる世界。山、川、海、大地、森、空。
この世界には未練を持った人がやってくる。
人達は自分の意思を持っている、明日が楽しみで服を選ぶ少女、強くなろうと鍛える少年、自分の過去を強く引きずる少年、机仕事に追われる少年とそれを笑いながら楽しむ少女、強くなることを誓う少年。そして、笑いながらすべてを見通す神。

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