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死後の世界と真紅のドラゴン
飛鳥の1日
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何でだろ。さっきから嫌な予感がする。
こういうのを胸騒ぎと言うのだろうか。
放課後が始まって飛鳥は、毎日の習慣である図書室に行き本を借りようと向かっていた。
図書室は校舎内とは違う場所に建てられている。なので、図書室に行くには一度校舎から出なきゃいけない。校舎とは違う場所に建てられているぶん、図書室はかなり大きく本も充実している。なので、利用者は多く毎日混んでいる。
「敦也は今頃パシられてるのかな……」
敦也は飛鳥の幼馴染みで、幼小中高と同じ場所で過ごしてきた。切っても切れない縁らしい。いや、逆に切ったらプラナリアのように増えるかも知れない。
敦也とは違うクラスだから、会えるのは授業がない時間帯になる。昼休みに食堂で大量のパンを買って、見晴らしの良い屋上で食べようと考えていると、敦也が目の前で倒れているのを発見してしまった。
どうやら、敦也にしては珍しくお弁当を作ってくるのを忘れたらしい。敦也は現在一人暮らしをしているから、家事関連はそこそこできている。この前敦也に作ってもらった唐揚げがとても絶品だったから敦也の家事能力は飛鳥が保障する。
それでなんでお弁当を作るのを忘れたのか聞くと、変な夢を見て寝坊したらしかった。
そこからだ、妙な胸騒ぎが始まったのは。変な夢って何だったのだろうか。
敦也は四年前に両親と一人のお姉さんをなくした。死因を飛鳥は詳しく知らない。お姉さんとお母さんはたしか家にいるとき男にナイフで刺されたらしい。
敦也のお姉さんはとても優しかった。何でもできて、万能で尊敬してた。あとたまにドジなところが可愛かった。
敦也はそんな優しいお姉さんに毎日優しくしてもらっていた。飛鳥と遊ぶときはお姉さんの話ばかりしていた。
敦也のお姉さんは数々の賞をもらっていた。小説を書いたら大賞、数学漢字英語どれも検定で一級取得。運動もできて、バスケの大会で全国レベルまでいったらしい。あと危険物取扱いの試験とかエトセトラエトセトラ。
そんな優秀で優しいお姉さんと両親をなくした敦也は長く引き込もってしまった。
家が近い父方の祖父母の家に引き取られて、数ヶ月学校に行かず家で心の整理していたらしい。敦也曰くは。
飛鳥は敦也が引き込もり始めてから、毎日敦也の祖父母の家に敦也の様子を見に行ったが、敦也が飛鳥と会うのを拒んでいるらしく門前払いをくらってしまっていた。
敦也がまた学校に行き始めたのは中学一年の後期だった。そのクラスで敦也は親しい友人できて、バスケ部に入り、矢沢先輩と知り合ってしまった。
矢沢先輩はバスケが上手い方だと敦也から聞いていた。尊敬する先輩の一人らしかった。だからこそなのか、高校での矢沢先輩が信じられないのかもしれない。
敦也は高校に入ってから、矢沢先輩に目をつけられてから毎日パシリにされている。今日もそうなのだう。
飛鳥は、敦也にバスケなんて辞めて欲しいと思っている。
敦也が傷ついていくだけの部なんて抜けてしまえばいいんだ。でも、矢沢先輩は敦也がバスケ部を抜けてもパシリに使うだろう。いっそ敦也は学校を辞めてしまえばいいんだ。
「てか、もう少し敦也も矢沢達に逆らえよ!」
本を選びながらつい憤慨してしまった。図書室で叫んでしまったため、回りから視線が集まってしまって恥ずかしくなる。
「……すいません……すいません」
慌てながら叫んでしまったことを回りに謝罪する。やっと視線が飛鳥から去って、回りも書棚に視線を移す。
「……ふぅー」
落ち着いて一息吐いてから、今度はちゃんと心の中で叫ぶ。
敦也のせいだからね!
「急に叫んでどうしたんだい瀧川くん?」
「ふぇ!?」
わたしは後ろから呼ばれたのに驚き振り返ると苦手な人が立っていた。
「こんにちは傘山先輩」
飛鳥は早く本を見つけ出し、この場から立ち去りたいので視線をすぐさま書棚に戻す。
この人は傘山先輩。バスケ部の部長兼生徒会副会長。かなり優秀な人である。こいつはバスケ部部長のくせに、生徒会副会長という職に就いてあまりバスケ部には出れていない。飛鳥がこいつを苦手というか嫌いな理由は、部長のくせに敦也が矢沢先輩にいじめられているのを知らないからだ。
「何か嫌なことでもあったのかい、不機嫌そうな顔だね」
あなたと会ってしまったからです。てか、何でこいつはいま図書室にいるんだよ。
「いや、副会長なのにパシられて文化祭で使う資料を図書室に取りに来たんだよ。まったく僕も忙しいのに」
「忙しいなら早く資料を取って帰ったらどうですか。わたしなんかと喋ってないで」
「そうだけど、何か君が困ってるみたいな顔してるしね帰れないよ」
噂ではこいつは飛鳥に気があるとかないとかあるらしい。だが、飛鳥はこいつが苦手で嫌いだし、あまり関わりたくはないと思っている。
「べつに困ってなんかいませんよ」
少なくとも借りる本で悩んでいたかも。あとあなたが邪魔で困っていたのはある。
「……敦也くんのことかい?」
「え!!」
まさかこいつの口から敦也の名前が出るなんて予想外だった。何を考えているのだろうか。
「…………だから悩んでませんって」
「ははは、その間が怪しいよ飛鳥くん」
こいつがうるさくて、本を探すのに集中出来ない。今日はもう諦めてしまおうか。
「敦也くんならさっき体育館裏に行くのを見たよ。何かを決心したような顔つきだったね」
矢沢先輩に呼ばれでもしたのだろう。だとしたら、また敦也は矢沢先輩達に暴力を受けているのかもしれない。
「なんで止めなかったんですか?」
「え、何でだい。敦也くんは部活をしにいったんだよ、なぜ止める必要があるんだい?」
「だって敦也は……」
やっぱりこいつは嫌いだ。部長のくせに部員の面倒をしっかり見れていない。こいつがしっかりしていれば敦也は暴力を受けなかったかもしれない。飛鳥には俯き歯を強く噛むことしかできなかった。
「飛鳥君に暗い顔は似合わないよ、これはどうだい面白くて笑顔になれるよ」
傘山先輩が暗くなった飛鳥を励まそうと一冊の本を手渡そうとする。
飛鳥はその本を一瞥すると、傘山先輩を見上げて呆れたように言った。
「心肺してくれるのはありがとうございます。でも、この本は後半から急に話が暗くなるのでわたしは途中で読むの辞めました」
飛鳥はこの本のことを一度途中まで読んだから知っている。
この本が途中から暗くなることを話すと傘山先輩は、
「え、そうなの!?」
驚きの声をあげた。どうやらこの本を読んではいなかったらしい。おおかた誰かにわかにおすすめされたのを飛鳥におすすめしたのだろう。自分が読んではない本をおすすめするのは気に入らないな。
「あ、ごめんちょっと電話が」
傘山先輩は飛鳥に話が聞こえない程度の距離をとってから、耳にスマホを当て誰かと話し始めた。たぶん生徒会の誰かから遅いと怒られているのだろう。
あ、そうだ。お母さんに夕飯の買い出しを頼まれていたんだった。
傘山先輩から離れる言い分を運良く思い出した。ナイスお母さんと心で呟きたかった。
そうだ、敦也に荷物持ちさせよ。さっそく連絡だー。
敦也と一緒に街を歩く口実ができて嬉しくてテンションが上がってしまう。スカートのポケットからスマホを取りだし、電話帳から敦也を探しだし、通話ボタンを押す。
しかし、何回鳴っても敦也は電話に出ないのである。矢沢先輩達に暴力を受けているのか、普通にバスケしているのだろうか。
「よし……直接伝えに行くか」
意を決して体育館に向かおうとすると、後ろから傘山先輩が飛鳥を呼び止めた。
「飛鳥君大変だ。急いで付いてきてくれ!!」
「どうしたんですか?」
飛鳥の腕を傘山先輩は掴み引っ張り走り出した。
「どこに行くんですか!!」 傘山先輩の腕を力一杯腕を振って払い、傘山先輩を睨む。
「体育館裏だ、敦也くんがあぶない!!」
「…………敦也が」
飛鳥が傘山先輩が言ったことを理解するのに少しかかった。この人の口から敦也が出るのもそうだが、敦也があぶないっていう言葉に動揺したのだ。
「いいから走るよ!」
飛鳥は頭が真っ白になり、傘山先輩に引かれるがまま体育館裏に向かった。
体育館裏には矢沢先輩をはじめバスケの矢沢先輩の仲間、見たことのない人達が集まっていた。数は十人以上の大所帯だった。
その不良少年の中心に、身体中腫れまくった敦也が倒れていた。
「敦也!!」
飛鳥は叫び敦也に近づいてしゃがみ、敦也の胸に耳を当てる。
音がしなかった。
心臓が止まっていた。
敦也が死んでいた。
敦也が死んでいる状況を完全に頭で理解すると、両目から涙が流れ始めなにも聞こえなくなった。傘山先輩が矢沢先輩達に何か言っているようだけど、もう何も聞こえなかった。
止まらない涙。止まらない喘ぎ声。止まらない悲しみ。止まらない自分への怒り。そして、止まらない矢沢先輩達への憎悪。
「矢澤、敦也を殺したんだな…………お前わかっているよな」
「これでいいんですよね。これで俺の家族から手を引いてくれるんですよね」
矢沢先輩がなにやら弱々しく傘山先輩を見て言う。回りの不良達が矢沢先輩の言葉に笑う。
「あぁ、約束は守るが。お前には警察に捕まってもらう…………いいな」
「わかってます。俺は敦也を殺したんです。ちゃんと自分の罪は償います」
矢沢先輩が体育館裏から立ち去り、続いて矢沢先輩の仲間も去っていった。
矢沢先輩達が完全に去ってから傘山先輩はスマホを取りだし連絡を始めた。
「救急車は呼んだよ、五分で来るそうだ。僕も部長として救急車に乗っていくけど瀧川君はどうする?」
傘山先輩が優しそうな声で何かを言った気がするけど、頭が真っ白で何も聞き取れなかった。
でも、敦也をどこかに連れていこうとしているのは理解できたので、敦也の制服の裾を飛鳥は力強く握った。
「……解った。瀧川君も行こうか。僕は一度職員室に行ってくるから、敦也君を頼んだよ」
飛鳥が傘山先輩に向かず敦也をじっと見つめているのを、傘山先輩は恨めしそうな目で見てから職員室に向かって走っていった。
何で敦也が死ななきゃいけないの。何で敦也が暴力を受けなきゃいけないの。何で敦也が苦しめられなきゃいけないの。敦也は人間なんだよ。みんなと同じ人間なんだよ。敦也が何かしたの。敦也はただバスケを楽しみたかっただけ。敦也は生きていたいだけ。夢を叶えたいだけ。
どんどん悲しみの言葉が心の中で暴れる。心がとても痛かった。張り裂けそうだった。
「どっか行かないって約束したじゃん。嘘つき、嘘つき、嘘つき!」
昨日敦也と行ったデパートでの会話が頭に蘇る。
腫れ上がっている敦也の顔はとても痛々しかった。けれど目を背けないで、敦也の頭を膝に置いた。
「どう敦也気持ちいい? 男なんだから少しは嬉しそうにしたら」
敦也は目を閉じたまま起きない。
「敦也……誰が悪いのかな?」
もちろん敦也は答えてくれない。
「毎日敦也をぼこぼこにした矢沢先輩かな。それともそんな矢沢先輩を黙認してきていた学校かな。自分の部活がどうなっているかさえ知らずにいた傘山先輩かな」
敦也の肌を触ると冷たかった。
「それとも抵抗しなかった敦也かな」
泣きながら笑いを含んで言う。
飛鳥は敦也の顔に近づき、涙を敦也の頭に滴らせながら言った。
「……違う、悪いのはわたしだ。わたしが敦也を止めていればよかったんだ。昼休み敦也の背中を掴んでいれば。わたしが敦也を殺したんだ。ごめんね、敦也守ってあげられなくて。敦也は頑張っていたんだよね一人で両親とお姉さんを亡くした四年前からずっと。わたしが敦也をしっかり支えてあげられていたら」
ふと四年前の出来事が頭に蘇る。
『飛鳥ちゃん、わたしに何かあったら敦也を頼んだよ。敦也はまだまだガキだからさ。一人じゃ生きていけない。その前に一人で生きていける人なんていないんだ。敦也を支えてあげて』
『どういうことお姉ちゃん?』
『もしもの話さ』
わたしは膝の上で寝ている魂が抜けた敦也の顔に近づき、唇を強く触れ合わせた。
それから五分で救急車が学校に到着した。救急車には飛鳥と傘山先輩と敦也の担任が乗って、大きな病院へ向かう
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