鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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死後の世界と真紅のドラゴン

飛鳥とミサト

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家に着いた飛鳥は、シャワーを浴びてから夕食を食べもせずベットに潜り込んだ。
夕食を食べなかったのはたんに食欲が湧かなかったからだ。ダイエットをしているわけではない。
明日の学校の準備や宿題をやっとかなければいけないが、もうベットから出て勉強する気力は残ってはいなかった。
時刻はもう十時を過ぎていた。明日も学校があるから早く眠らなければいけないと心で思った。
しかし、眠れなかった。眼を閉じると目の前に息をしていない敦也が転がって、矢沢先輩が笑いながら敦也をさらに痛めつける。
そして、飛鳥は恐怖のあまり眼を開き身体から汗が出てるのに気づく。
飛鳥は鞄から、風邪薬のビンとペットボトルを取って、三粒口に入れると水で流し込んだ。
風邪薬にある副作用で、睡眠しやすくなると書いてあるのを思い出したので試してみた。
薬の効果が効いてきたのか、飛鳥はすぐに眠くなりベットに潜り込み眼を閉じた。
今度は恐怖映像を見ることなく、飛鳥の意識はとんでいった。敦也と会える夢の中へ。





眼を開くとそこは学校だった。目の前には黒板、下には机、座っているのは椅子、着ているのは制服。いつもと違うものが一つだけあった。
飛鳥は不思議と思って静かに、違うものの答えを呟いた。
「……わたし以外誰もいない」
「失礼だな、わたしがいるじゃないか」
言葉が言い終わるや否や、後ろから女の子のーー声が高いからたぶんそうだろうーー声が聞こえたので驚き振り返る。
しかし、そこには誰もいなかった。ただ、生徒用の棚が並んでいるだけだった。
飛鳥は夢でも見ているのかと思い、頬を強くつねってみる。
「……痛い」
「それはそうだよ。夢だからって痛くないって言うのが本当なわけあるか」
また飛鳥が言い終わるや否や、声が聞こえた。だけど、どこを振り向いても声の主はいない。
「どこにいるの!」
飛鳥は叫んでしまう。すると、声の主は謝辞を言いながら居場所を言った。
「ごめんねー、上を見てごらん」
飛鳥は声の主に言われた通りに首を上に動かす。そこには、天井に足をくっつけしゃがんでいる少女がいた。
少女の容姿を見てから、頭を回して言葉を見つけるのに時間はかからなかった。
「え……あなたは誰?」
「わたしは神だよ!」
神と言われて、「はい、そうですか」と頷く人間はどこを探してもいないだろう。
この少女に対して不気味に感じることしか飛鳥にはできなかった。
容姿からして違和感しか貰えなかった。
少女は背中の中心にとどく長さの一本に結ばれた髪を持ち。そして、Let's EnjoiとコピーされたブカブカののTシャツと赤色のスカート、Tシャツの上からはサイズが二回りも大きいブカブカのパーカーを着ている。ブカブカのパーカーは足の付け根にまでとどいている。身長は飛鳥より高く歳上だろうと思った。
まず、その長い髪と大きなパーカが逆さになっていないのが不思議で仕方なかった。あと、Let's Enjoiって何を言っているんだろうか。スペル違うし。Let's Enjoyだし。
「で、あなたは誰なんですか?」
「だから、わたしは神だよ!」
この少女は自分は神と言い通すつもりらしい。その年ーー見た目から推測ーーで中二病というやつとはかわいそうに。
飛鳥はとりあえず、この世界が夢であるということはこの自称神の少女が言っていたのでそれを信じよう。
その夢の中で願っていた敦也ではなく、知らない自称神の少女が表れるのはなぜだろうか。
「あなた名前は何て言うの?」
「わたしはミサト。飛鳥ちゃんと会うのは久しぶりだね、だよ!」
どうやら飛鳥はこの少女とむかし会ったことがあるらしかった。しかも、彼女を名前で呼んだのでかなり親密な関係だったのであろう。
飛鳥はこの少女のことを思い出せなかった。
「わたしはあなたを知っているの?」
「そりゃもちろん」
飛鳥は、この少女を見たときから思っていたことを訊くことにした。
「何であなたは上にいるの?」
「それは神だからさ!」
即答だった。ピースサイン付きで。神は何で天井に張り付く存在なんだよ、と思いながらミサトの言葉を理解した。
「ま、冗談だけど」
なんかミサトに弄ばれているようでイライラしてきてしまった。
「べつに下に下りてもいいけどさ。その前に飛鳥ちゃんに言っておきたいことがあるからね」
ミサトが飛鳥の夢に出てきた本題を語り始めようとする。
飛鳥は不安がりながらミサトが言いたいことを訊ねる。
「わたしに……言っておきたいこと?」
「そ、飛鳥ちゃんに言っておきたいこと……」
少し間をあけてからミサトは口を開いた。
「飛鳥ちゃん、下ばっか見ていても前には進めないよ。上見なけゃ、今みたいにさ。敦也くんが亡くなって絶望しているのは理解している。それでも飛鳥ちゃんは上を向いて生き続けなければいけない」
飛鳥はミサトが言った言葉に驚きの声を上げる。
「何であなたが敦也を知っているの!?」
「わたしが神だからだよ!」
両手でピースサインを作り、それを前に突きだしたミサトが即答えた。
「ま、冗談で。いや、冗談ではないけど……」
「どっちなんだよ!!」と飛鳥は叫びたかったが、抑えてミサトに集中する。
「敦也くんとは昨日会ったんだよね……もちろん夢の中でね」
飛鳥はまたしてもミサトの言葉に驚きを隠せなかった。
敦也は変な夢を見て寝坊したと言っていた。そして、いま目の前にいるミサトは昨日敦也と夢の中で会ったらしい。つまりは、敦也が見た変な夢はミサトと会ったこと。
「あなたは敦也に何をしたの!」
「わたしは何もしてないよ……ただ、敦也くんに君は明日死ぬって言っただけさ」
即答で言うミサトの顔を睨みながら飛鳥が叫ぶ。
「何で敦也にそんなこと言ったの!」
「敦也くんが死ぬからだよ!」
飛鳥は唇を強く噛み締めながら心で強く言い続けた。
あなたに何が解るの。何でアツヤにそんなことを言うの。
「敦也くんは死んで、そして生きているけどね」
「それってどういうことなの!?」
飛鳥は、ミサトと会ってから驚いてばっかだな、と思ったが今のは一番の驚きだった。
「単純な話さ、敦也くんは天国でも地獄でもない……別の世界に行ったんだからね」
即答でミサトはまた未知のワードを語った。
「別の世界って?」
「飛鳥ちゃんには教えたくはないかな、こっちに来てほしくはないしね」
こっちとはミサトが言う別の世界のことを指すのだろう。
「教えなさいよ、いま敦也はどこで何をしているのか!」
すると、ミサトは困ったように髪を数回いじってから口を開いた。
「仕方ない、少しだけ教えてあげるよ」
ミサトはそう言うと、パーカーのポケットから一本の鍵を取りだし手前に突きつける。すると、鍵の先端の回りに黒いモヤが集まり錠前の形に変わっていった。
「えっ……!?」
飛鳥は目の前の光景に驚き息を飲んだ。
ミサトは鍵を回して錠前を解いた。すると、黒い錠前から光が溢れ出し、暗かった世界は瞬く間にその光に飲み込まれた。
飛鳥はその光の眩しさに目を閉じた。



光が収まり目を開くと、飛鳥は学校からまったく違う場所いた。
回りを塞ぐ襖。床はすべて畳。中央には囲炉裏、床の間には行雲流水と達筆な字で書かれた掛け軸が飾られていた。
一言に言えば飛鳥は今和室のような部屋にいた。
「和室のようなではなく、和室なんだけどね」
不意に聞こえた声の方向に飛鳥は首を向ける。
そこには、畳に正座して茶を点てているミサトがいた。ミサトは着物を着ていて、それが非常に似合っていた。
「やっぱり、落ち着いて会話するなら和室ここだよね……あ、飛鳥ちゃん適当に座ってくれ」
飛鳥はどうやってこの場所に瞬間移動したか解らなかった。ミサトが何をしていたかの記憶がなくなっていた。
飛鳥はミサトと対面的な位置に正座で座った。
「さて、わたしは失敗を繰り返さない人、いや神なんだよ」
そう言ってミサトはまた鍵を使いモヤで今度は金庫的な形のものを作るとそれを開錠した。
「じゃじゃーん、よーうかーん!」
ミサトが金庫から取り出したの紫色をしたごくごく普通の羊羹だった。
「わたしが作ったんだよ、ねーねー感想教えて、美味しい?」
ミサトがわたしに迫りながら、手に持っている皿に乗せられた羊羹を渡しに来る。
「え…………では、いただきます」
飛鳥は羊羹を眺めてから、口に運んで半分を噛んだ。
すると、羊羹の甘さが口全体に広がり何とも言えぬ感情がうまれてきた。
「どうだい、飛鳥ちゃん?」
止まらず二口目を飛鳥は口にして、よく噛んでから飲み込んだ。
「すごい美味しい、こんな羊羹初めて食べたよ!」
心の底から飛鳥はこの羊羹の感想をミサトに伝えた。
羊羹をめったに食べないけど一番美味しかった。
「お茶もどうぞ。かなり美味しいよ」
飛鳥はミサトから作ったお茶を受けとり少し喉に通した。
「ほんとだ、お茶もかなり美味しい!」
「やった、敦也くんも褒めてくれたから、味には自信があったんだよね」
即答で返ってきたミサトの言葉は素直に笑って喜んでいた。
「敦也もこのお茶飲んだの!?」
敦也がこのお茶を褒めてくれたという言葉に、飛鳥は驚き尋ねずにはいられなかった。
「そうだよ、飛鳥ちゃんと会う少し前にね。ちょっとした説明ついでにプレゼントしたんだよ」
飛鳥と会う少し前ということは、少し前まではここに敦也がいたんだろう。
「それで敦也はいまどこにいるんですか?」
お茶の器を側に置いて、飛鳥はミサトに向いて話を切り出した。
「『閉ざされた世界』だよ」
「……『閉ざされた世界』?」
飛鳥は疑問を覚えることしかできなかった。
「名前はいいよ覚えなくても。ただの飾りだから」
名前が飾りだからとミサトは言うが、『閉ざされた世界』と言う名前に関しては説明をするらしい。
「『閉ざされた世界』、その意味はそのまんまさ。鍵を見つけなければ出られない、その世界から地球にね」
ミサトのいまの話を聞く限りでは、鍵を見つければ生き返れるということなのか。
「鍵ってどういうものなんですか?」
「鍵ね、それを教えたらつまらないじゃないか。読者にすべてのネタバレをするようなものじゃないか。閉ざされた世界にいる皆にはわたしに会うことと言ってあるけど、はたしてわたしに会うことだけで生き返れるのかな」
読者にネタバレをするようなものじゃないかってこの人はいったい何を見て話をしているんだろうか。
鍵の正体は不明、ミサトに会って生き返れるのだろうかと彼女自身が笑いながら言った。
「とりあえず難しい話を飛鳥ちゃんにしたくはないんだよね。だって、わたしは飛鳥ちゃんが好きだからさ」
「わたしが好きって!?」
女の子に面と向かって正直に好きと言われ、顔を赤くして焦ってしまった。
「勘違いしないでね。わたしは飛鳥ちゃんを好きって言っても百合的なアレではなくてね、人間性がね、人として飛鳥ちゃんが好きなんだよ。それに、飛鳥ちゃんが『閉ざされた世界』に来ると色々と面倒だからさ」
飛鳥はミサトが誤解を解くのを笑いながら受け止めて、自分が閉ざされた世界に行くと色々と面倒ということに疑問を抱く。
「いま言えることは、敦也くんは生き返る可能性がある、だね」
「生き返る……可能性がある」
敦也が生き返るかもしれないという事実を飛鳥は心のなかでとても喜んだ。
でも、飛鳥の喜びは一瞬にしてミサトの言葉で崩された。
「それと同時に生き返らない可能性もある、だよ」
「え、どういうことですか!?」
ミサトは「ん」と相づちを入れてから話し出した。
「『閉ざされた世界』は常に戦場なんだよ、争いがおこっているんだよ、殺しあいが行われているんだよ、人が……死ぬんだよ」
飛鳥はミサトの言葉をすべて聞くと絶望が彼女の心を襲った。
そんな危険な場所で敦也が生き残れるはずがないと思ったからだ。
死んだあとの世界でも、敦也は死ななきゃいけないなんて。死んだあとの世界で死ぬ?
「その世界で敦也は死んだらどうなるの?」
ミサトは即答はせず、数秒間を置いてから返事をした。
「存在が消えるんだよ。ただそれだけ。骨も肉も皮も残らず、神の情けでその人との記憶は残るようにするけど」
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