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死後の世界と真紅のドラゴン
アイスが食べたくなる名前だな
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聴いたことのあると言っても『閉ざされた世界』でじゃなく、生前の地球でだ。ギター、ベース、ドラム。それぞれの楽器が派手な音色を発生させて、敦也と凜の脳裏に刻み込む。
その美しい歌声、楽器の派手な音色。敦也はその音を聴いたことがある。
しかしなぜ『閉ざされた世界』で、いや体育館でロックバンドの曲が聴けるのだろう。
敦也は音を発生させている舞台のほうを見る。
そこには敦也が思っていた通り、ギター、ベース、ドラムを演奏する少女達がいた。楽器が勝手に演奏していたらホラーだな。
演奏しているのは四人だ。後ろにドラムが一人。右にベースが一人。真ん中にギターが一人。左にもう一人ギターがいた。
俺は左でギターを演奏している人物に驚いた。
祐希がそこにいたからだ。祐希がギターを弾き歌っているのだ。
どうやらこのバンドはツインボーカルらしく、真ん中の人と祐希が歌っている。
二人とも巧い。祐希が歌うのが上手とは知らなかった。生前は家から出れず、本や話の知識しかないはずなのに。
バンドメンバーを祐希以外で敦也は見たことがなかった。
曲が終わると祐希は舞台を飛び降りて、敦也たちのほうへ駆け寄ってきた。
祐希の服もいつもの紫陽花模様の浴衣じゃなくて、ブカブカのフード付きのTシャツから右の肩が出ていて、水玉模様の短いスカートを着ていた。Tシャツには何か文字が書かれていた。
「凜……知ってたか」
となりにいる凜に訪ねると、凜は首をふるふると横に振った。
「初めて聴きましたた。夢猫にこんな人達がいたんですね」
祐希は手に持つ落書き帳をめくり黒いマジックペンで何かを書き始めた。
書き終わるとそれを敦也たちに見せた。
落書き帳にはこう書いてあった、「どうすごいでしょ(ドヤッ)」と。
「しゃべれよ祐希」
敦也の言葉に答えようとしない祐希の代わりに、舞台から降りて歩きながら向かってくる少女が祐希のとなりに立つと答えた。
「祐希はバンドモード中は無口無表情キャラにになるのよ」
その少女は先程まで舞台の中心でギターを演奏しながら歌っていた人だ。
「キャラ変わるんですか!?」
凜が驚く。落書き帳をはらりとめくり、祐希はまた何かを書き敦也達に向けた。
「←氷道姉です」と書かれていた。
どうやら、この少女が昨日話に出てきた氷道美崎らしかった。
「わたしが氷道美崎よ。で、祐希この可愛らしいかもしれない少女と阿呆かもしれない少年は?」
氷道は冷たい瞳で敦也と凜を一瞥した。
「可愛らしいかもしれない!?」
「阿呆かもしれない!?」
凜は嬉しがり、敦也は少し傷ついた。
祐希は落書き帳をはらりとめくり、何かを書いて氷道に見せる。
「阿呆かもしれないのがアツヤ君」
「可愛らしいかもしれないではなく、可愛いのが凜ちゃん」
と、二枚に分けられ書かれていた。
「で、阿呆と凜ちゃんは何を何をしにきたの?」
氷道はこちらを見ないで、額についた汗を腕でこすり、Tシャツをひらひらとあおぎ風を身体に送り込んでいる。
「祐希に呼ばれて来たんだよ」
「そうなの祐希?」
「いや、わたしは知らないよ(嘘)」と祐希は落書き帳に書いた。
「知らないらしいけど。何しに来たのかしら?」
氷道が冷たい瞳で、俺達を睨み威圧する。
「おい、ちゃんと読んだか!?」
「なに。いきなり叫ばないでよ、あなたの唾が飛ぶでしょ。しゃべるなら静かにしゃべりなさいよ」
「あ、はい。ごめんなさい」
氷道の瞳は幾度かの死線を乗り越えてきた猛者のような感じだった。敦也は思わず謝罪してしまった。
「ま、阿呆は置いといて凜ちゃんどうだったぼくの姿は」と祐希は凜に落書き帳を見せる。
「そうですね。阿呆は置いときまして……」
凜まで阿呆言わないでくれよ。
「すっごいびっくりしました、祐希さんすごいかっこいいです、着物以外も似合っちゃうんですね、ギターも歌もすごいっす!」
感動のあまり凜の最後の語尾が変わってるぞ。
「ドヤッ!!」と大きな文字で書いた落書き帳を凜に見せる。
「ところで、ここで何してるんだ?」
敦也はおそるおそる氷道に話しかける。
「聞こえないわ?」
静かに言えってさっき言われたんだが。
「ここで何してるんだよ?」
「誰が?」
「お前らだよ!」
思わず大声で突っ込んでしまい、氷道はまた俺に氷柱のように冷たく尖った視線を向ける。
「あなた本当に阿呆なのね。わたしの話聞いてたかしら。唾が飛ぶからしゃべるなら五メートルは離れなさい」
こいつ耳いいのかよ。
「すいませんでした」
口を開けなくなった敦也の代わりに凜が氷道に訪ねる。
「氷道さん何してたんですか?」
「答えなければいけないの?」
酷い人だ氷道さん!
「ま、いいわ。わたし達はここで練習してたのよ」
氷道はめんどくさそうに答えた。
「練習ってバンドの?」
「そうよ」
「氷道さんも戦える人なのか?」
「阿呆な男が勝手にガールズトークに入ってこないでよ」
敦也が口を開いて会話の輪に入ろうすると、あっさりと追い出された。
酷すぎるよ氷道さん。
青色のミディアムの髪に黄色いカチューシャ。祐希と同じ柄のフード付きのTシャツに、黒白のスカート。
見た目はとても美少女なのだが、美少女から出てくる言葉は鋭利なナイフのようなもので、敦也の心をギタギタに刻む。
「祐希、何で凜ちゃんを呼んだの?」
もはや俺は空気ですかい。
「夢猫の仲間なんだから」 「ちゃんと紹介しなきゃ」と書かれた落書き帳を氷道に見せる。
「新人なの?」
「YES!」と大きな文字を見せる。
氷道は後ろの舞台にいる二人を指さし紹介する。
「あそこの金髪のドラムの子が七海」
ミディアムショートの金髪のドラムの七海さんが大きく手を振った。
「となりの銀髪のベースの子が真奈」
ロングの銀髪のベースの真奈さんが軽く会釈した。七海も真奈も服はほぼ同じで、違う部分はスカートの柄が七海は赤白。真奈が黄白だった。
「阿呆に救済のチャンスをあげるわ」
氷道が相変わらずの冷たい瞳で敦也を見る。
「答えられたら、名前で呼んであげるわ」
やった嬉しいな!と心で喜んでみる。が、あまり嬉しくない。
「で、何するんだ?」
「簡単よ。わたし達のバンド名を当てるの。さてわたし達は何でしょう?」
バンド名、四人組……。 まったく見当も着かなかった。
ノーヒントに近い状態で何ができる。
待て、全員の服に書かれている文字がバンド名なんじゃないか。
敦也はそう思い祐希の服を見やる。書いてある文字は見た感じ英語のようだった。
難しいな。
もとから勉強はできないほうだったが英語はとくにできなかった。なんで日本人が英語なんてやるのさ、母国語を勉強しようぜ。
「くーるおぶびゅーてぃー」
棒読みで氷道を見たまんまに言った。
「へぇ……。何で?」
氷道さんは興味ありげに問い返す。
「勘です」
「阿呆ね」
「違うよアツヤ君」落書き帳が氷道さんの代わりに答え合わせしてくれた。
まぁ、違うよな。
「じゃあ、何なんですか?」
敦也は苛立ち混じりの声だった。しかし、氷道さんは冷たい瞳で少し微笑んだ。
「いいの?あなたは一生阿呆のままよ」
すごいイライラする。
「そうね、阿呆のためにヒントをあげましょう。わたし達の服に答えは書かれているわ」
教えてくれたヒント。しかし、そのヒントに敦也はもう至っていたのだ。実際、氷道さんは答えを教えてくれたのだが、敦也には答えを読むことができなかった。
「凜はもう解ってるよな?」
敦也はとなりにいる凜になかば救済の手をくれと思うつもりで聞いてみる。
「もちろんです。こんなの小学生でも読めますよ」
凜が自信ありげに答えて、敦也はトドメを刺された。
小学生以下なのか。
「メロンパン食べたい」
敦也はもう適当に答え、氷道さんから阿呆は死ね、という蔑みの目で見られた。
「参りました。まったくわからない」
生前にもっと勉強しておけばよかった。俺はこんなバカだったのか。
「あなた阿呆なのね。死になさいよ」
はっきりと言われてしまった。心がズタボロになってしまう。
「阿呆なあなたに英語を教えてあげるわ」
凜はがっかりしたような目で敦也を見ている。やめてくれ、そんな目で見ないでくれ。
「わたし達はツインフローズンアイス。祐希がフローズンで、わたしが氷でアイスよ」
祐希の感じは違うけどな。
敦也は心で悪態を吐き捨てながら、頭に新しい英語をインストールする。
「まて、七海と真奈はどこにいったんだ?」
「割愛させていただいたのよ」
ほんと酷い人だこの人は。七海と真奈も可哀想にと敦也は思った。
完全にへこんでいるところにトドメを重ねにかかる。
「あなたは阿呆なのだから。生前に友達もいなかったんじゃないの?」
「ごもっともです」
氷道さんは近づき敦也の肩に手を置くと嫌そうに言った。
「そんなあなたのためにわたしがしかたなく友達になってあげるわ」
散々とこけにされ、敦也の怒りは頂点に達していた。あれだ、堪忍袋の尾が切れました。
「阿呆阿呆言うけどな、こう見えて俺は国語は得意なんだ、漢検準二なめんなよ!」
漢検準二級。すなわち、高校生の半分の感じなら完璧なのだ。英語はあれだけど。
「そう、わたしは漢検一級よ」
つまらなそうに氷道さんは敦也を眺めて言いました。漢検一級。敦也は唯一誇れる取り柄で完全に負けました。
美少女のくせに天才ってハイスペックすぎるだろ。神は不平等すぎる。ミサトに次会ったら殴りたい。
「いやいや数検はだなーー」
「数検なら一級よ」
持ってません。と、ボケを言おうと思ったが氷道さんに食い気味に答えられてしまった。数検も一級ってもう嫌だ。
「おまけに言うと英検も一級よ」
人生は残酷である。敦也は部屋に帰って寝たい気分になる。枕を濡らしたかった。
「普段は何してるんですか?」
敦也が隅で絶望し始めると凜が手を挙げる。
「……練習よ」
「ずっとですか?」
「えぇ、そうよ」
冷たい瞳で凜を眺めながら氷道さんは答える。
「おーい、氷道さん。そろそろ練習再開しよー!」
ドラムの七海がこちらを見て手を振る。となりのベースの真奈もベースを抱いて弾きたくてうずうずしていた。
「そうね、祐希行きましょうか。じゃあ、凜ちゃんまた今度ゆっくり話しましょうか」
「はい、楽しみにしています」
凜は嬉しそうな顔で氷道さんと約束した。
氷道さんと祐希が舞台に戻り準備を始める。
「先輩、わたしたちは訓練場に行きますよ」
凜が敦也を引っ張り絶望しかない体育館から出してくれた。
できれば敦也はもう氷道さんに会いたくないと思った。
なんで凜が氷道さんを気に入っているかわからなかった。あんな冷たい瞳で冷たい言葉を発してくる人間なんて。
なるほど、たしか女の子は少し悪い女の子のほうが好きになるんだっけ。それは男の場合か。
あれ、この場合は京子さんが好みそうな話ができそうな予感がした。
体育館を出た敦也と凜は訓練場に向かった。
凜の指導を月影が、広太の指導を雲竜寺が、スタミナ不足が否めない敦也は体力を身に付けるためのランニングやら身体作りのための筋トレを一人でひたすら行った。
特訓前に月影と広太に聞いた話によると、大きなイベントがある前と後にはツインフローズンを招いて宴会をするらしい。祐希や氷道はそのための練習で忙しいのであろう。
※
前夜祭当日。
ギルドの全員が体育館に集合していた。
京子さんや料理担当の非戦闘員がせっせと料理を運び、ほとんどを広太と瀬尾先輩が消化していく。
敦也は隅でコップに注がれたオレンジジュースをちびちびと飲み、凜や空が来るのを待っていた。
月影と凜はずっと斬り合いをしていたらしくかなりぼろぼろのはずだろう。一方的に。空はなに考えてるか解らないから行動パターンは読めないでいた。
不意に体育館の入口のほうへ視線が集まり静寂が生まれた。
理由は、鮮やかな装飾の施された黒色のワンピースタイプのドレスに身を包んでいる月影とオレンジ色のワンピースタイプのドレスに身を包んでいる凜が体育館に入ってきたからだ。月影のドレスは胸部が大きく解放されていた。凜はまだ控えめに作られているがそれもまた可愛かった。
その美しい歌声、楽器の派手な音色。敦也はその音を聴いたことがある。
しかしなぜ『閉ざされた世界』で、いや体育館でロックバンドの曲が聴けるのだろう。
敦也は音を発生させている舞台のほうを見る。
そこには敦也が思っていた通り、ギター、ベース、ドラムを演奏する少女達がいた。楽器が勝手に演奏していたらホラーだな。
演奏しているのは四人だ。後ろにドラムが一人。右にベースが一人。真ん中にギターが一人。左にもう一人ギターがいた。
俺は左でギターを演奏している人物に驚いた。
祐希がそこにいたからだ。祐希がギターを弾き歌っているのだ。
どうやらこのバンドはツインボーカルらしく、真ん中の人と祐希が歌っている。
二人とも巧い。祐希が歌うのが上手とは知らなかった。生前は家から出れず、本や話の知識しかないはずなのに。
バンドメンバーを祐希以外で敦也は見たことがなかった。
曲が終わると祐希は舞台を飛び降りて、敦也たちのほうへ駆け寄ってきた。
祐希の服もいつもの紫陽花模様の浴衣じゃなくて、ブカブカのフード付きのTシャツから右の肩が出ていて、水玉模様の短いスカートを着ていた。Tシャツには何か文字が書かれていた。
「凜……知ってたか」
となりにいる凜に訪ねると、凜は首をふるふると横に振った。
「初めて聴きましたた。夢猫にこんな人達がいたんですね」
祐希は手に持つ落書き帳をめくり黒いマジックペンで何かを書き始めた。
書き終わるとそれを敦也たちに見せた。
落書き帳にはこう書いてあった、「どうすごいでしょ(ドヤッ)」と。
「しゃべれよ祐希」
敦也の言葉に答えようとしない祐希の代わりに、舞台から降りて歩きながら向かってくる少女が祐希のとなりに立つと答えた。
「祐希はバンドモード中は無口無表情キャラにになるのよ」
その少女は先程まで舞台の中心でギターを演奏しながら歌っていた人だ。
「キャラ変わるんですか!?」
凜が驚く。落書き帳をはらりとめくり、祐希はまた何かを書き敦也達に向けた。
「←氷道姉です」と書かれていた。
どうやら、この少女が昨日話に出てきた氷道美崎らしかった。
「わたしが氷道美崎よ。で、祐希この可愛らしいかもしれない少女と阿呆かもしれない少年は?」
氷道は冷たい瞳で敦也と凜を一瞥した。
「可愛らしいかもしれない!?」
「阿呆かもしれない!?」
凜は嬉しがり、敦也は少し傷ついた。
祐希は落書き帳をはらりとめくり、何かを書いて氷道に見せる。
「阿呆かもしれないのがアツヤ君」
「可愛らしいかもしれないではなく、可愛いのが凜ちゃん」
と、二枚に分けられ書かれていた。
「で、阿呆と凜ちゃんは何を何をしにきたの?」
氷道はこちらを見ないで、額についた汗を腕でこすり、Tシャツをひらひらとあおぎ風を身体に送り込んでいる。
「祐希に呼ばれて来たんだよ」
「そうなの祐希?」
「いや、わたしは知らないよ(嘘)」と祐希は落書き帳に書いた。
「知らないらしいけど。何しに来たのかしら?」
氷道が冷たい瞳で、俺達を睨み威圧する。
「おい、ちゃんと読んだか!?」
「なに。いきなり叫ばないでよ、あなたの唾が飛ぶでしょ。しゃべるなら静かにしゃべりなさいよ」
「あ、はい。ごめんなさい」
氷道の瞳は幾度かの死線を乗り越えてきた猛者のような感じだった。敦也は思わず謝罪してしまった。
「ま、阿呆は置いといて凜ちゃんどうだったぼくの姿は」と祐希は凜に落書き帳を見せる。
「そうですね。阿呆は置いときまして……」
凜まで阿呆言わないでくれよ。
「すっごいびっくりしました、祐希さんすごいかっこいいです、着物以外も似合っちゃうんですね、ギターも歌もすごいっす!」
感動のあまり凜の最後の語尾が変わってるぞ。
「ドヤッ!!」と大きな文字で書いた落書き帳を凜に見せる。
「ところで、ここで何してるんだ?」
敦也はおそるおそる氷道に話しかける。
「聞こえないわ?」
静かに言えってさっき言われたんだが。
「ここで何してるんだよ?」
「誰が?」
「お前らだよ!」
思わず大声で突っ込んでしまい、氷道はまた俺に氷柱のように冷たく尖った視線を向ける。
「あなた本当に阿呆なのね。わたしの話聞いてたかしら。唾が飛ぶからしゃべるなら五メートルは離れなさい」
こいつ耳いいのかよ。
「すいませんでした」
口を開けなくなった敦也の代わりに凜が氷道に訪ねる。
「氷道さん何してたんですか?」
「答えなければいけないの?」
酷い人だ氷道さん!
「ま、いいわ。わたし達はここで練習してたのよ」
氷道はめんどくさそうに答えた。
「練習ってバンドの?」
「そうよ」
「氷道さんも戦える人なのか?」
「阿呆な男が勝手にガールズトークに入ってこないでよ」
敦也が口を開いて会話の輪に入ろうすると、あっさりと追い出された。
酷すぎるよ氷道さん。
青色のミディアムの髪に黄色いカチューシャ。祐希と同じ柄のフード付きのTシャツに、黒白のスカート。
見た目はとても美少女なのだが、美少女から出てくる言葉は鋭利なナイフのようなもので、敦也の心をギタギタに刻む。
「祐希、何で凜ちゃんを呼んだの?」
もはや俺は空気ですかい。
「夢猫の仲間なんだから」 「ちゃんと紹介しなきゃ」と書かれた落書き帳を氷道に見せる。
「新人なの?」
「YES!」と大きな文字を見せる。
氷道は後ろの舞台にいる二人を指さし紹介する。
「あそこの金髪のドラムの子が七海」
ミディアムショートの金髪のドラムの七海さんが大きく手を振った。
「となりの銀髪のベースの子が真奈」
ロングの銀髪のベースの真奈さんが軽く会釈した。七海も真奈も服はほぼ同じで、違う部分はスカートの柄が七海は赤白。真奈が黄白だった。
「阿呆に救済のチャンスをあげるわ」
氷道が相変わらずの冷たい瞳で敦也を見る。
「答えられたら、名前で呼んであげるわ」
やった嬉しいな!と心で喜んでみる。が、あまり嬉しくない。
「で、何するんだ?」
「簡単よ。わたし達のバンド名を当てるの。さてわたし達は何でしょう?」
バンド名、四人組……。 まったく見当も着かなかった。
ノーヒントに近い状態で何ができる。
待て、全員の服に書かれている文字がバンド名なんじゃないか。
敦也はそう思い祐希の服を見やる。書いてある文字は見た感じ英語のようだった。
難しいな。
もとから勉強はできないほうだったが英語はとくにできなかった。なんで日本人が英語なんてやるのさ、母国語を勉強しようぜ。
「くーるおぶびゅーてぃー」
棒読みで氷道を見たまんまに言った。
「へぇ……。何で?」
氷道さんは興味ありげに問い返す。
「勘です」
「阿呆ね」
「違うよアツヤ君」落書き帳が氷道さんの代わりに答え合わせしてくれた。
まぁ、違うよな。
「じゃあ、何なんですか?」
敦也は苛立ち混じりの声だった。しかし、氷道さんは冷たい瞳で少し微笑んだ。
「いいの?あなたは一生阿呆のままよ」
すごいイライラする。
「そうね、阿呆のためにヒントをあげましょう。わたし達の服に答えは書かれているわ」
教えてくれたヒント。しかし、そのヒントに敦也はもう至っていたのだ。実際、氷道さんは答えを教えてくれたのだが、敦也には答えを読むことができなかった。
「凜はもう解ってるよな?」
敦也はとなりにいる凜になかば救済の手をくれと思うつもりで聞いてみる。
「もちろんです。こんなの小学生でも読めますよ」
凜が自信ありげに答えて、敦也はトドメを刺された。
小学生以下なのか。
「メロンパン食べたい」
敦也はもう適当に答え、氷道さんから阿呆は死ね、という蔑みの目で見られた。
「参りました。まったくわからない」
生前にもっと勉強しておけばよかった。俺はこんなバカだったのか。
「あなた阿呆なのね。死になさいよ」
はっきりと言われてしまった。心がズタボロになってしまう。
「阿呆なあなたに英語を教えてあげるわ」
凜はがっかりしたような目で敦也を見ている。やめてくれ、そんな目で見ないでくれ。
「わたし達はツインフローズンアイス。祐希がフローズンで、わたしが氷でアイスよ」
祐希の感じは違うけどな。
敦也は心で悪態を吐き捨てながら、頭に新しい英語をインストールする。
「まて、七海と真奈はどこにいったんだ?」
「割愛させていただいたのよ」
ほんと酷い人だこの人は。七海と真奈も可哀想にと敦也は思った。
完全にへこんでいるところにトドメを重ねにかかる。
「あなたは阿呆なのだから。生前に友達もいなかったんじゃないの?」
「ごもっともです」
氷道さんは近づき敦也の肩に手を置くと嫌そうに言った。
「そんなあなたのためにわたしがしかたなく友達になってあげるわ」
散々とこけにされ、敦也の怒りは頂点に達していた。あれだ、堪忍袋の尾が切れました。
「阿呆阿呆言うけどな、こう見えて俺は国語は得意なんだ、漢検準二なめんなよ!」
漢検準二級。すなわち、高校生の半分の感じなら完璧なのだ。英語はあれだけど。
「そう、わたしは漢検一級よ」
つまらなそうに氷道さんは敦也を眺めて言いました。漢検一級。敦也は唯一誇れる取り柄で完全に負けました。
美少女のくせに天才ってハイスペックすぎるだろ。神は不平等すぎる。ミサトに次会ったら殴りたい。
「いやいや数検はだなーー」
「数検なら一級よ」
持ってません。と、ボケを言おうと思ったが氷道さんに食い気味に答えられてしまった。数検も一級ってもう嫌だ。
「おまけに言うと英検も一級よ」
人生は残酷である。敦也は部屋に帰って寝たい気分になる。枕を濡らしたかった。
「普段は何してるんですか?」
敦也が隅で絶望し始めると凜が手を挙げる。
「……練習よ」
「ずっとですか?」
「えぇ、そうよ」
冷たい瞳で凜を眺めながら氷道さんは答える。
「おーい、氷道さん。そろそろ練習再開しよー!」
ドラムの七海がこちらを見て手を振る。となりのベースの真奈もベースを抱いて弾きたくてうずうずしていた。
「そうね、祐希行きましょうか。じゃあ、凜ちゃんまた今度ゆっくり話しましょうか」
「はい、楽しみにしています」
凜は嬉しそうな顔で氷道さんと約束した。
氷道さんと祐希が舞台に戻り準備を始める。
「先輩、わたしたちは訓練場に行きますよ」
凜が敦也を引っ張り絶望しかない体育館から出してくれた。
できれば敦也はもう氷道さんに会いたくないと思った。
なんで凜が氷道さんを気に入っているかわからなかった。あんな冷たい瞳で冷たい言葉を発してくる人間なんて。
なるほど、たしか女の子は少し悪い女の子のほうが好きになるんだっけ。それは男の場合か。
あれ、この場合は京子さんが好みそうな話ができそうな予感がした。
体育館を出た敦也と凜は訓練場に向かった。
凜の指導を月影が、広太の指導を雲竜寺が、スタミナ不足が否めない敦也は体力を身に付けるためのランニングやら身体作りのための筋トレを一人でひたすら行った。
特訓前に月影と広太に聞いた話によると、大きなイベントがある前と後にはツインフローズンを招いて宴会をするらしい。祐希や氷道はそのための練習で忙しいのであろう。
※
前夜祭当日。
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京子さんや料理担当の非戦闘員がせっせと料理を運び、ほとんどを広太と瀬尾先輩が消化していく。
敦也は隅でコップに注がれたオレンジジュースをちびちびと飲み、凜や空が来るのを待っていた。
月影と凜はずっと斬り合いをしていたらしくかなりぼろぼろのはずだろう。一方的に。空はなに考えてるか解らないから行動パターンは読めないでいた。
不意に体育館の入口のほうへ視線が集まり静寂が生まれた。
理由は、鮮やかな装飾の施された黒色のワンピースタイプのドレスに身を包んでいる月影とオレンジ色のワンピースタイプのドレスに身を包んでいる凜が体育館に入ってきたからだ。月影のドレスは胸部が大きく解放されていた。凜はまだ控えめに作られているがそれもまた可愛かった。
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