鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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死後の世界と真紅のドラゴン

岸谷空は何者なのか

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ある日いつも通り友達と遊んで、いつも通りの時間に家に帰ると、フローリングに新しい靴跡があり不思議がりながら、リビングに入ると空は言葉を失った。目の前には真っ赤な水溜まりがあり、白い顔をした兄弟と両親が横になっていたからである。
家族の身体には無数の切り傷があり、なにかで斬り殺されたのは一目瞭然だった。
リビングには家族以外に顔を覆った黒いマスク、黒いコート、黒いズボン、黒いグローブを身に纏った全身黒男が三人いた。そして全身黒男三人の手にはコンバットナイフが握られていた。グローブには片翼の法衣を纏い、頭上に輪を乗せた神がイラストされていた。
どこからどうみてもこの三人が家族を殺したとすぐにわかった。
三人の一人が空も殺そうと近づいてくる。大きな身長、すさまじい威圧感。普通なら恐怖で動けなくなってしまいそうだった。
だけど、空は恐怖なんてしていなかった。ただ憎しみだけが空の隠れた才能を目覚めさせ動かした。
海に水が流れるように、空を雲が行くようように、火が次々と燃え移るように、ライオンがシマウマを狩るように、人が歩くように。ごく普通のように空は男に近づきナイフを奪い、男の首を切り裂いた。
空の動作は滑らかすぎた、殺気なんて一ミリも感じさせず、男は切り裂かれた首から血を勢いよく噴出し、そして倒れた。
他の二人の男も仲間を殺された怒りで、怒声をあげながらナイフを構え空に突進してきた。
けれど、男達の行動は死期を速めるか遅めるかの違いだった。動かなければこちらから行く。動いてくれたら時間が省け好都合。空はそうとしか考えていなかった。
突進してきた男達のナイフをしゃがんで避けると、男達の首めがけてナイフを横に流した。
男達は大量の血を勢いよく噴出し倒れた。床にあった真っ赤な水溜まりの量も増して、足は真っ赤に染まっていった。
後からわかったことだが、全身黒男達は最近巷で有名の殺人集団だったらしい。
やってきた警察は家の現状を見て、空が一番危険だと察したのか、空を保護することにした。
空は保護された先である男と出会った。名前は後藤だ。後藤は空にナイフの使い方や勉強などを細かく教えた。
空が保護された先は警察志望の孤児達を育成する機関だった。空という危険因子を国のために使おうとしたのだろう。
育成機関で空は孤児の友達と仲良くなった。毎日の厳しい練習と勉強。けれど、優しい後藤と仲間達のおかげで空の抱えている憎しみは徐々に薄くなっていった。
空は仲間達の誰よりも優しくなっていった。いつしか後藤は空の憧れになっていた。完璧なナイフ捌き、メリハリのある優しさと厳しさ。空はそんな風になりたいと思った。
空が中学生に上がる年に空と育成機関の仲間達は町を散歩していた。
その日はちょうど訓練も休みで、みんなで町で遊ぼうという話になった。
運が悪く通りにあった銀行で強盗が起きてしまった。
空達は警察の育成機関にいる人間だからという自信でか、銀行に乗り込んでいった。
だけど自分達は無力だった。
銀行強盗を実行した男達は拳銃を携えていて、一人また一人と育成機関の仲間を撃ち殺していった。
そして空はまた絶望した。そこから、空の自我は消えていた。
気がつくと、身体中には真っ赤な返り血が浸き、床も真っ赤に染まり、銀行強盗犯の死体がそこら辺に散らばっていた。そして、となりには空の腕を強く掴んだ後藤がいた。
もし後藤が止めてくれなかったら銀行にいた一般人も巻き込んでいたかもしれない。そう思うと空は自分に絶望して、死にたくなった。
育成機関の事務所に帰ると、空は後藤に教えられた。
「空、お前は強い。仲間のためにその力を使う。それはいいことだ。けれど、お前はその力を制御できていない。それでは、俺はお前を庇いきれなくなる。
だから、空……我慢を覚えろ。堪えることを覚えろ。やられてもやり返すな。お前はまだ子供なんだ。俺達大人を頼れよ」
空は後藤の教えを守るようにした。我慢を覚えた。堪えることを覚えた。自分の力を制御することを覚えた。
翌年。仲間の墓参りの帰り空が一人で町を歩いていると、空と同い年ぐらいの一人の少女が空の前で止まった。
どうやらこの少女は空のことをずっと探していたらしく、「やっと会えた!」と言ってとても明るい笑顔を作った。
「去年、お母さんとわたしを助けてくれてありがとうございます。あなたには感謝しています」
この少女は去年の銀行強盗のとき銀行にお母さんと一緒にいたらしかった。
空はこのときとても気分が高揚した。そして、自分に力があったことを嬉しく思えた瞬間だった。
少女と別れたあと、今度は集団の男達に絡まれた。男達の話曰くは去年の銀行強盗犯の仲間の残党だったらしかった。
空に恨みを晴らしに来たのだろうとすぐに察した。空はシャツの内側にしまっているナイフで斬ろうと考えたがその考えをすぐに捨てた。後藤の教えを守るためだった。
路地裏に連れていかれ、空は抵抗もせずに死んだ。岸谷空の生前の環境は友達がいなくて、使えない力に苦しめられた日々。未練は友達をたくさん作って平和に過ごすこと。
そんな殺人気だった人間が学校のすみで膝を抱え隠れていた。





「なんで僕はこんな場所にいるんだ……来るな、こっち来るな!」
空は近づいてくる生徒達を言葉で突き放そうとする。
彼は自分がなぜ学校なんかにいるのかわからず、ただうずくまることしかできなかった。
「敦也兄、凜姉、祐希姉、おまけに広太どこいったんだよ……助けて、助けてよ」
いまの仲間の名前を呟き、力なく空は震えていた。敦也、凜、空、広太はいまドワーフ達によって見せられた夢のなかにいた。その夢はそれぞれの閉ざされた世界での記憶を消して学校という隔離施設、青春を謳歌する場所に閉ざしたのだ。
だが空だけは記憶を失うことはなかった。それは空の能力によって防がれたのかもしれないが、おそらく空が学校にいた期間が短かったからかもしれない。他の三人は失った記憶に疑問を持ちながら、この夢のなかで生きるしかできない。ドワーフ達は夢を見ている間に殺そうという算段だったのだが、学校というものの知識がまったくと言っていいほどない祐希がすぐに目覚めてしまい、返り討ちに会ってしまった。
空の自分のナイフ術を使わないように、他人との間に距離を置くようにしていた。他人との間に壁を作るようにしていた。
だから、空は育成機関の仲間を失って以来友達を作らなかった。作らないようにしていた。
毎日を一人で過ごして、自分はこのまま一人で生きていくんだろうなと思っていた。
回りにいた親しい人は後藤しかいなかった気がする。後藤だけで十分だった。それ以外いらなかった。
後藤は友達を作らず、いつも一人でいる空を心配そうに思って、友達を作るように言ったが空は後藤の教えをそれだけは守ろうとしなかった。
他人と関わらずに他人を守る。
それが空のなりたかったものだった。そう信じたかった。
空の心は常に泣いていた。一人でいることの悲しみに。笑顔になれない自分が嫌いだった。友達を作ろうとしない自分が嫌いだった。でも、一人でいるしかないそう思っていた。
そして、空は暴行を受け死んだ。
閉ざされた世界に空はやって来て、初めは自分に未練なんてないはず。そう思っていた。
閉ざされた世界で自分がすることはないと思っていた。
空が閉ざされた世界で初めて出会った人間は一人の目つきの恐い少年だった。モンスターに襲われ逃げ回っているところを運よく通りかかった一人の少年に助けられたのだった。
「僕を殺してください」
気づけば空は少年にそう頼んでいた。
無論少年は断った。初対面の人間に殺してなんて頼まれたら断るに決まってる。親しい人間でも断るに決まってる。
「僕はこの世界ですることないんです」
「この世界に来た人間はみな未練を持ってる、そして心に悩みを抱えているって言ってた……うちのマスターが」
「一人で生きてきた僕に悩みなんてないです。未練なんてないです。だから……だから殺してください。一人にさせてください!」
空は力を込めて言葉を継いだ。少年は空の言葉を受けると頭を掻きながら言った。
「だったら……なんでお前は泣いてるんだ」
空は少年の言葉に驚き、瞳に指を当てた。たしかにそこからは冷たいものが流れていた。
「なんで……僕泣いてるの」
「そらぁ、嬉しいからだろ」
「なんで嬉しいの?」
「俺と喋れたからだな」
「僕は君なんて知らないよ」
「あぁ、俺もお前を知らない。お前言ったろ、今まで一人で生きてきたって」
空が頷くと少年は言葉を続けた。
「一人で生きてるなんて辛いことなんだよ。俺もそうだった。誰も俺に近づこうとしなかったんだ。俺って恐いらしくてさ、みんなからなんかちょっと嫌われてたんだよ。で、ずっと一人だった」
この人は僕と一緒なんだ。僕は誰も傷つけたくないから近づかないようにしていた、この人は誰も近づいてきてくれなかったんだ。あれ、よく考えると一緒じゃない気が。
「お前は一人でいるのが嫌だったんだ、友達が欲しかったんだよ。なわけで、俺がなってやるよ友達に。絶対にお前を笑顔にさせてやる」
目つきの恐い顔に似合わず少年は明るい笑顔だった。そして、空はそんな笑顔が羨ましかった。
「僕はあなたが嫌いです!」
「いきなり嫌われたのか俺!?」
空の未練はこの時にもう少年によって解決していた。
目つきの恐い少年とはいまだに仲が良いのか悪いのかわからない仲で、しょっちゅういざこざを起こしたりしている。
「今度は僕が助ける番だ!」
空は強く決意して、目つきの恐い少年、辰上広太を探すため走り出した。





男達の話を聞くと、学校に潜んでいるという噂の殺人鬼は優しい殺人鬼らしい。
悪だけを殺すらしいのだ。まるで、ヒーローのようだ。悪・即・斬。
だから一般人に手を出したりはしない。安心して、学校生活を送れているわけである。だからと言って人を殺していいわけではないが。
優しい殺人鬼はなぜ噂になっているのか。それは単純に殺し方が酷い。ただそれだけだった。
警察からしてみれば、優しい殺人鬼は悪を葬る悪みたいなものらしい。
現在、指名手配まで出されている噂の優しい殺人鬼。ただの殺人鬼ならば会いたくはないが、優しい人ならば会ってみたいと敦也は考えていた。
敦也は男達から噂の優しい殺人鬼の話を聞き終え、放課後の校舎裏を歩いていた。
いまだ失われた記憶を思い出そうとすると頭痛が頭を襲っていた。
何をするべきか。
変わってしまった知らない世界で敦也は何をするべきかわからなかった。不意に横から自分に走ってくる影が見えた。
敦也はその影を避けることができず、影とぶつかってしまった。
「うっ!」
「わ!」
腰から地面に落ちると、すぐさまぶつかってきた影が謝ってきた。
「ごめんなさい。急いでいて、すいません」
ぶつかってきた影の正体は小柄な少年だった。少年は小柄な身体からソプラノを発している。
敦也はこの少年を見たことがある気がした。
その少年の顔をじっくり眺めると今までとは比べ物にならない頭痛に襲われた。
「う!」
「大丈夫ですか……って、敦也兄!?」
「なんで、俺の名前を知っているんだ……?」
小柄な少年は笑顔で言った。
「仲間であり、友達ですから」
「……仲間であり……友達?」
「みんなを探してここから出よう。僕達にはやらなきゃいけないことがあるからね」
「ここから出る、やらなきゃいけないこと……?」
小柄な少年の言葉を聞くたびに断片的な記憶がよみがえる。
敦也が走っている横に笑顔で浮いている目の前にいる小柄な少年。一緒に食べたご飯。
「お前は誰なんだ?」
「なるほど、記憶を隠されているといった感じか。眠ったみんな学校にいる感じなのかな?」
目の前にいる小柄な少年が自問してから立ち上がる。
「まーいーや。敦也兄、僕の名前は岸谷空です。友達になってください。一緒に仲間を探しに行こ!」
少年の言葉を引き金によみがえる記憶の断片が繋がり合い、敦也の失っていた記憶が完全に返ってきた。
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