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死後の世界と真紅のドラゴン
まやかしなんていらない
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歩きだしたはいいものの探すあてがなかった。学校は広いし、生徒もたくさんいる。そのなかから凜を探しだすのはかなり大変なことだ。
いっそ放送室でもジャックして凜を校内放送で呼び出そうと考えたが、触ったことのない機械なんて使えるはずがないのですぐに諦めた。
さて、どうしようか。
手当たり次第に走り回るのは最終手段として。
考えた末に職員室に行って、先生に調べてもらうのが得策という答えが出て職員室に向かった。
「あいつ、バドミントンなんてやってたのか」
職員室に行って調べてもらった結果、凜はバドミントン部に入っていて、いまは第一体育館にいるとのことだった。
関わりのない生徒が生徒を探しているのだから、先生から不審がられたが仕方のないことだ。
敦也は第一体育館に入ると、奥のほうでバドミントンを真剣に取り組んでいる集団を見つけた。
集団と言っても人数は少なくてなんとか部として成立しているような状態だった。
でも、そこに凜はいなかった。
「凜は、香月さんはどこにいるんだ?」
敦也は休憩しているバドミントン部の女子に凜の居場所を訊ねると、
「え……いまは部室にいると思います」
不審がりながら凜の居場所を教えてくれた。
「ありがと」
敦也は軽く礼を言ってから、第一体育館の隣にあるバドミントン部の部室に向かった。
鉄の扉の前にバドミントン部と書かれた木製の立て札が掛けられていた。
扉を二回ノックして凜がいるか確認した。
「はーい」
扉越しから聞き慣れた凜の声で返事が来た。扉を開けて中に入るとそこには凜がいた。
敦也も凜も口をぽかんと開け、頭の中が一瞬にして真っ白になった。
凜の格好に敦也はびっくりして頭が真っ白になった。なぜなら、凜は上は下着だけで、両手は今スカートを脱ごうとしているところだったのだ。
おそらく着替える途中だったのだろう。
凜が口をぽかんと開けているのは、部室に入ってくるのが部活仲間か顧問の先生だと思っていたのだろう。
少し顔を反らして敦也はやっと言葉を口にした。
「よ、久しぶり」
こんな場面を前にも体験した気が敦也にはした。
凜の顔が赤くしながら右手で近くにあるペットボトルを掴むのを見て、敦也は顔を反らして部室から急いで出た。
「きゃーーー!!」
凜の叫び声とともに投げられたペットボトルが閉められた扉にぶつかり衝突音を生んだ。
いまの凜には閉ざされた世界で過ごした記憶がないのだから、現状で凜の敦也に対する第一印象は最悪だと予想できた。
「はぁ、ついてねーな」
ため息をついて扉の横にしゃがみ、凜が着替え終え出てくるのを待つことにした。
×××
わたしはあの人に前もこんな感じであったことがある?
「どっかで会ったのかな?」
凜はは落ち着いてきた心臓に手を当てて考える。あの人は自分のことを知っているような感じだった。凜はかなり動揺していた。
わたしはあの人を知っている気がする。
ふと右手を見ると、手には剣が握られていた。
「え!?」
驚いてまばたきをすると、剣は姿を消していた。
凜は大好きな友達とバドミントン部に毎日全力を注いでるはずだ。だから、あの人と関わる時間なんてないはずだ。
あの人は誰……?
そう考えるとある映像が頭の中に浮かび上がる。
夜の広い庭にいるあの人と凜。仲良さそうに会話している。
『もちろん頼りにしてくれ! 仲間だろ!』
『…………頼りにしちゃいます!』
あの人に笑顔で返事をする凜。
「仲間……仲間って……?」
凜は気になって仕方がなかった。あの人の正体と、この思い出せない謎の記憶がなにか。
急いで着替えて部室から出ると、横にあの人が立っていた。
「迎えに来たぜ、凜」
いきなり着替え中を見られたあの人に多少苛つきがあったけれども、笑顔のあの人を見るとなぜか嬉しかった。
×××
「ちょっと時間いいか」
凜は頷き、敦也は自販機で買っておいたお茶を凜に手渡す。
「ありがとう、ございます」
敦也は何から話すべきか迷った。いきなりお前は死んだんだとか言ったら絶対に慌てるだろうし。
「まず、俺とお前は仲間だ」
「仲間って、どういう仲間なんですか?」
凜の問いに敦也は考えさせられた。
どういう仲間か。神と戦う仲間。いや、なんか違う。モンスターと戦う仲間。モンスターとか言って通じるのか。ゲーム仲間って思われるんじゃないか。じゃあ、酷い運命と戦う仲間。今の凜は別に酷い運命というわけじゃないからな。
「……同じ夢を叶える仲間、かな」
考えた末、一番妥当な答えがこれだと判断した。
「あなたもバドミントン大会優勝を狙ってるんですか!?」
驚きの声で凜は一歩前に出る。
これは大変だな。
「いや俺はそういうわけじゃないぞ。バドミントン大会優勝がお前の夢なのか?」
「はい、今は」
「前は違ったのか?」
「目を覚ましたら、夢を忘れて、わたしさっきまで学校ここにいなかった気がするんです」
なるほど、と心で納得した。凜の言う前の夢は『閉ざされた世界』での夢のことで、その記憶を隠されていま仮初めの夢を与えられてるんだ。
「どこにいたか思い出せないのか?」
「思い出そうとすると頭が痛くなるんです。あなたのことも知っていたような気がするんですけど思い出せないんです」
「思い出したいか?」
敦也の問いに凜は驚いた表情を見せた。
「え、思い出せるんですか。ぜひお願いします!」
「俺はそのために来たんだけどな」
敦也は伝える言葉を整理してから言葉を発した。
「俺もお前ももう死んでるんだよ」
「どういうこと……ですか?」
「言葉の通りだ。俺達は死んで違う世界で生きているんだ」
「わたしがもう死んでる……なら、玲奈はなんですか。なんで玲奈はここにいるんですか!?」
玲奈とはおそらく庭で凜が話してくれた大親友のことだろう。
「俺達はいま夢を見ているんだ。夢から帰らせないために俺達に良いように作られてるんだ」
「じゃあ、あの玲奈は偽物なんですか?」
「そうだ。そして、俺達以外のすべてこの夢の中では偽物だ」
敦也は不安だった。ちゃんと凜の記憶が甦るのか。でも、言葉を紡ぐしか方法はなかった。
「だから、」
「わたしは生きています!!」
言葉を紡ごうとしたとき、凜は敦也の腹を両手で叩き彼を見上げるようにして叫んだ。
「心臓が動いてる! 前が見える! 歩ける! 喋れる! わたしはここにいます!」
「凜……」
そうだ確かに凜の言う通りだった。
敦也たちはこの夢の世界で生きているんだ。俺達に良いように作られたこの夢の世界で。
なんの不満もない。なら、なぜこの夢の世界から出たいと思うのだろうか。
この夢の世界で生きていてもいいじゃないか。
でも、
「帰ろう、凜。みんなが俺達の帰りを待っている。祐希や京子さん、咲夜に夜鶴。それに本物の玲奈がお前が生き返るのを待っている」
敦也たちは戦わなきゃいけないんだ。神とモンスターと酷い運命と。
その先に待っているのが希望か絶望かなんて知らない。知らなくていい。だって、そのほうが楽しいだろ。
「本物の玲奈が待っている……」
静かに呟き両手を降ろしうつむく凜。
頭を掻いてから凜の右手を掴む。
「もし動けないなら俺が手を引く。言ったろ、頼れって。まだまだ俺は頼りないけどお前だけは守ってみせる」
「先輩いつの間にかっこよくなったんですか?」
凜からいつもの元気な声が届く。
「いつの間にって、そら昔からだよ」
「ゴブリンとの戦いで逃げようとしてたじゃないですか」
「あれは戦略的撤退ってやつだよ」
「そうなんですかー」
敦也の言葉を聞いた凜が笑うので、敦也も一緒に笑った。
「さっきの先輩は本当にかっこよかったですよ。びっくりして記憶が戻りました」
「それは良いことじゃないか!」
「そうですね」
敦也は凜に背を向けて、広太を探しにいった空を見つけるため歩き出す。
背後で凜が、
「先輩ってかっこいいですね」
と呟くが、敦也は聞こえない振りをして前を歩き続ける。
×××
敦也と別れたあと空は広太がいそうな場所をしらみ潰しに走り回った。誰かに聞いて回るのも有りと考えたが、初対面の人とうまく話せる自信は無いので走り回ったのだ。
走り回って疲れた時に、空は探していた広太をようやく見つけた。
広太は制服をだるそうに着て、だるそうに木製のベンチに座り雲一つ無い空をぼーっと眺めていた。
空はベンチの横に立ち、いつも通り広太に接しているみたいに話しかけた。
「やっほー、広太」
しかし広太から返事はなかった。
聞こえていないのかもしれないと思い、声のボリュームを上げてもう一回話しかけた。
「やっほー、広太!」
けれども広太から返事はなかった。
上から空を眺めている広太の顔を覗き込むと、広太は目を瞑り口からはよだれを垂らし眠っていた。
「ちょっと広太、起きてよ、みんな待ってるよ!」
広太の肩を掴んでゆっさゆっさ揺らしてみるがまったく起きる気配がなかった。漢字二文字で言って爆睡。
空は広太を起こすために色々と試してみることにした。
お湯をかけて三分間待ったり、壊れたテレビを直すみたいにチョップしたり、アンモニアを嗅がせたりなど。日頃の恨みを込めたようなものも十割あったと思う。
「なかなかやるな広太」
まったく動じない広太にもはやお手上げだった。広太死んでるんじゃないのか。
「困ったなー」
呟くと、背後から数人の笑い声が聞こえた。
振り向くとそこにはあからさま不良っぽい生徒達がベンチを囲っていた。
「おいチビそこをどけよ、俺達そこの奴に用があるんだよ」
「ご用件なら僕が聞いておくよ。僕も広太に用があるんだ」
空は薄く笑顔を浮かべて不良に返した。
不良の相手なんて慣れてる。制服の裾に入っているナイフを使う気はないから、もしものときは眠っている広太を担いで逃げようと思っていた。
はたして僕に広太を担いで走るほどの力はあるのだろうか。無いけどね力なんて。
「まじで、俺達の用をお前が受けてくれるのか?」
「はい、あとで広太に伝えておきますから」
空の薄笑いに不良達は笑った。
「だったら、存分にやらせてもらうぜ!」
不良達は拳を引いて僕に向かって来た。
あとで広太にちゃんと全部伝えてやるからな!
空は目を強く瞑り祈るように、痛みに堪える用意をした。
殴られるのには慣れてるわけではない。殴られるのは嫌だ。だから、空は信じた。
「うっ!」
不良達の声がした。そして、地面に落下する音が続く。
「ったく、チビがなに邪魔してんだよ!」
「邪魔してないよ、信じてるんだよ」
空は目を開き声をかけてきた人の背中の背後に回る。
「とっとと、終わらせて帰るぞ、空!」
「起きるの遅いよまったく。広太がはやく起きてくれればこんな目には」
空を襲ってきた不良を返り討ちにしたのは広太だった。広太は空が殴られる寸前に眼を覚まして不良達をぶっ飛ばしたのだ。
「祐希に迷惑かけたことを後悔してたんだよ。リーダー失格だ!」
「今まで爆睡してたじゃないか」
広太が不良達をどんどん殴り飛ばしていく。空はベンチで戦う広太を眺めていた。
「やっぱ広太も記憶残ってたんだね」
「あ、俺の場合は神器のお陰だな!」
広太が神器についてはいまだ謎がある。二丁拳銃ということは知っているがそれ以外は知られていない。なにやら秘密があるのだろう。
「てか、お前も戦いやがれ!」
広太が空を指で指して叫んだ。
「え、やだよ。広太ふぁいとー」
棒読みで空は広太を応援する。
「後で覚えてろよ!」
「難しい相談だね」
広太は空と喋りながらあっという間に不良達を蹴散らした。
「あ、いたいた」
敦也と凜が走り寄ってくる。
「よし、これで全員揃ったな!」
広太が両手を叩き合わせてから、空たちを一瞥する。
「休憩は終わりだ、とっととダンジョンクリアするぞ!」
「おー!!」
ぴったりの掛け声をすると空たちの意識は元に戻っていった。
※
夢から眼を冷ますと辺りは氷景色で、氷の中に閉じ込められたドワーフ達がツルハシを掲げている。
「お、敦也くん。やっと起きた!」
懐かしく感じる祐希の声が俺の耳に届く。
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