鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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青色の世界と黄金の鎧騎士

雷神のライ

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マスターを睨むなよ。さすがに咲夜がびくっとしたぞ。それもそうだろう、現実ならば女子高生が女子小学生を睨んでいるという絵面なのだから。
氷道に睨まれてびくびくしている咲夜に代わって、京子さんが表情を緩ませながら彼女を見る。
「まぁまぁ、美崎ちゃん落ち着いて。たしかに美崎ちゃんだけでライブするのもかなりうまいと思うよ。けどね、祐希がいるとさらにうまくなると思うよ、わたしは」
「うん、氷道姉が『青色の世界ブルーワールド』に行く条件をいくつかつけさせてもらうよ!」
「条件ですか……」
咲夜の提案に、表情は息を吐く。ただギルドから外出するだけで条件をつけられるのがめんどくさく感じているのだろう。だけど、氷道だって夢猫の大事な仲間なのだ。ギルドの外にもし死んでしまうなんてことはしてほしくないのだろう。
「まず、氷道姉が『青色の世界』に行く目的を表向きは親睦会のためのツインフローズンアイスのツアーライブとすること。その二、祐希にもライブについて連絡すること、そして参加させること。その三、『青色の世界』に行くためにつける護衛は敦也くんと凜ちゃんのほかに、広太と空もつける。親睦会は人数が多いほうがいいしね。最後に、ちゃんとみんなで帰ってくること……OK?」
咲夜が提案した条件に氷道は、わかったわ、とうなずいて、
「でも、空くんはいいとして、広太はわたしについてくるかしら?」
唯一の不安に対して首を傾けた。
「あぁ、それならマスター命令で無理矢理連れていかせるから大丈夫だよ。広太はあれでもちゃんとしてるし、強いからね」
あれでもって言わないであげろよマスター。広太はあれじゃなくてもしっかりしてるはずさ、たぶん。
「そう、それなら安心だわ……じゃ、わたしは七海と真奈とそのツアーライブに向けて打ち合わせや練習をしておくわ」
「じゃー、俺らも帰るかな」
敦也は凜の表情を見て、凜がこくりとうなずいてから立ち上がろうとした。
「敦也くんと凜ちゃんはもうちょっとだけ残って。少しだけ話したいことがあるんだよ……大丈夫?」
「まぁ、大丈夫だけど」
「はい、わたしも大丈夫ですよ、マスター」
敦也と凜は咲夜に呼び止められて椅子に座り直した。
「わたしは先に帰ってるわね。凜ちゃんと敦也くん……そのよろしくね」
氷道は昇降床の上に立つと、敦也と凜を見て恥ずかしそうにうつむいた。
「あぁ、任せとけ!」
「わたしたちなら大丈夫ですよ。ちゃんとツインフローズンアイスを『青色の世界』まで送り届けてみせます!」
敦也と凜の意思を聞いた氷道はめずらしく明るい表情を作った。その明るい表情に敦也は少しだけどきっとしてしまった。
「ありがとう、凜ちゃん一緒に来てくれて。感謝してるわ」
そう言って昇降床は下へと下降し始めた。氷道の姿が完全に見えなくなってから数秒して、敦也は気づいたように叫んだ。
「俺は!?」
明るい表情をしても氷道は氷道のままだな、と敦也は苦笑いした。





「さて、敦也くんと凜ちゃんに残ってもらったのには理由があるんだよ」
理由もなしに呼び止められたらさすがにびっくりだぞ。
「二人とも今回がギルドの外へ出るのは初めてでしょ。だから、いくつか注意事項を言っておこうと思ってさ」
「やっぱり『青色の世界』に行く道にはモンスターがいるんだよな」
敦也が訊くと、咲夜は首を横に振った。
「いや、おそらくモンスターはいないと思うよ。『青色の世界』の同盟会議のときに攻略組のみんながモンスターを退治して安全な道を作ったから」
「さすが夜鶴さんたちですね」
攻略組すげーな、と思うなか敦也は咲夜の言葉の一ヶ所が気になった。
「なぁ、咲夜なんでおそらくなんだ? モンスターがいる可能性もあるのか」
咲夜は首を今度は縦に振った。今の彼女の表情は真剣な顔だった。
「同じ場所にずっととどまるモンスターのほうが数は多いんだけど。移動し続けるモンスターだっているんだよ。例えば、敦也くんが前回特訓で戦ったゴブリンとか」
「なるほどな、『青色の世界』まで行く道にいたモンスターはすべて倒したけど、また新しいモンスターが来ているかもしれないってことか」
「ん、理解が早くて助かるよ。だから、つねに警戒を怠らずに行ってほしい」
たしかにつねに警戒することは重要だな、敦也は朝凜の着替えを事故で覗いてしまったことを思い出しながらうなずいた。
「だけど、広太も空も大規模遠征でギルドの外へ出てモンスターと戦ったことがあるし、空は直感が鋭いし、広太は鼻がきくからモンスターがいたら気づいて対処してくれると思うよ」
リンゴを口でしゃりしゃり食べながら、京子さんが言う。敦也もいくつか当分に切られた欠片を食べたがかなり美味しかった。これも広太が育てたのだろうか。
やっぱり広太と空もかなりベテランなほうなのか、と敦也は思った。
「まぁ、問題があるとすればその広太と空とはぐれることだね」
「そんなはぐれるなんて子供じゃないんですし」
京子さんが笑いながら言うことに、凜は冗談ですよね、と返す。
「敦也くんと凜ちゃんは真面目なほうだから自分たちからはぐれたりはしないだろうね。でもね、モンスターの仕業ではぐれたりする可能性だってあるんだよ。そうなったらもう一大事だ」
ギルドの外は広太や空を含めて敦也や凜にとってはまったくの未知の場所だ。広太や空もギルドの外へ出たことがあるとしても数回だろう。
それに今回行く場所は広太や空にとっても初めてのはずだ。なにが待ち受けているかは予想も想像もできないだろう。
「もし広太や空とはぐれたてしまったらどうすればいいんだ?」
「その場合は……かなりピンチかな。わたしの千里眼とテレパシーが届く範囲内をオーバーしちゃうだろからわたしがサポートしてあげられないし。だから、腕輪でうまく通信して合流してとしか言えないな」
「……そうなのか」
もし一人でモンスターがいる場所にはぐれたらかなりピンチだ。仲間とはぐれないように注意しておかなければならない。
「まぁ、敦也くんも凜ちゃんもしっかりしてるから期待してるよ。では、出発は三日後ーー解散!」
咲夜にそう言われて、敦也と凜は彼女の部屋から出た。
敦也と凜が出ていった部屋にしばらく沈黙が訪れた。咲夜はむー、と背を伸ばしストレッチをして、京子さんは百合漫画をまた読み始めた。
リフレッシュのストレッチを終えた咲夜が机に広げられている大量の書類に目を落としてうんざりといった表情をすると、京子さんが百合漫画から視線を変えずに口にした。
「さっきはあぁ言ったけど、わたしは心配だよ敦也くんと凜ちゃんを外に行かせるのは。たしかに経験を積まなきゃ強くはなれない。でも、いきなり外は厳しくないか。二人とも『閉ざされた世界』に来てまだ日は浅いんだよ」
めずらしくマスターに意見をする京子さんに咲夜は驚きながら、京子さんに視線を向けた。
「んー、わたしだって心配だよ。広太と空がそれなりに強いとはいえ、今回は氷道姉を含めたツインフローズンアイスのメンバーを守りながら行かなきゃいけないんだ。いくら広太でも手が届かなくなる場合があるだろうな。モンスターがでないことが一番いいんだけどね」
「もし、広太や空と敦也くんや凜ちゃんがばらばらになってしまったらどうする。敦也くんと凜ちゃんだけじゃ勝てないモンスターが現れるかもしれないじゃないか!?」
敦也と凜の連携は前回のダンジョン攻略の際にすばらしいものだったらしい。打ち合わせなしの連携攻撃はまるで意思が通じあっているみたいだ、と広太が前に言っていた。
だが、もしその二人の連携が通用しなかったらどうする。さらにその二人さえもばらばらにされたらどうする。個々での力はまだ頼りない面が多いい。前回はそれを補うために連携が無意識に発動したのだろう。二人がはぐれたら絶体絶命だろう。
「わかってるよ、京子姉。わたしだって敦也くんと凜ちゃんにもしものときがないことを願うけど、そのもしものときが起こってしまったときのためにちゃんと用意はしておくつもりだよ」
「なにをするつもりなんだい?」
京子さんが問うと、咲夜は手を口に当ててにやにやと笑みを浮かばせた。
「えー、言わなきゃダメかなー」
「言わなきゃ、漫画で描くよ!」
京子さんが咲夜を脅すための言葉を口にする。咲夜は京子さんがどのような本を描いているかは詳しくは知らない。だが大河から、お前は見るなよ、と念を押して言われていてかなりヤバイものだと思っていた。 実際、彼女が描く百合漫画はゆる~いのもあれば、絶体にR15や18はいきそうなヤバイものもある。
だから、逆らえない咲夜は嫌そうな表情をしながら口にする。部屋に帰ったら咲夜で一つ描くつもりだけど。
「…………勝手に家出中の問題的な天才を使うんだよぉ」
京子さんは咲夜が言ったことをすぐに理解した。
夢猫で現在ギルドから出ている人で、家出中で、問題的で、天才な人は一人しかいないのだ。考える必要もなく誰だとわかった。
名前は来谷燈火。あだ名はライ。
ギルド・『夢見る猫たち』のかなり前からいるメンバーだ。彼女の実力はまわりのギルドからも恐れられていて《雷神ライジン》と呼ばれている。
リング製作は彼女の力がかなり大きい。その他夢猫の便利製品はすべて来谷が作ったのだ。彼女は生前機械のクリエイター志望だったらしく、物を作ったりするのが得意らしいが、彼女の能力とはまったく関係なくなっている。
彼女もリングを使ってよく、咲夜や京子さんに連絡をよこしたりするのだ。だから、リングで来谷に連絡して、もしもの場合助けてもらおうと考えているらしい。
「たしかにライが動いてくれればかなり助かるが、動いてくれるかな……」
京子さんが不安顔で咲夜に言う。
「まぁ、任せなさい!」
咲夜はそう言うと、リングでライに電話を掛けた。リングの上にはコールと文字が浮かんでいる。
数回コール音が鳴ると、リングは次のように京子さんの声で言った。
お掛けになった電話番号は、電波の届かないところにいるか、電源が入っていない恐れがあるか、死んでしまった可能性があります、生きていると信じて返信を待ちましょう。
リングがそう告げると、咲夜の部屋に再度沈黙が訪れた。
そして、数秒すると咲夜と京子さんは叫んで慌てだした。
「京子姉、ライが死んだの!? あのライだよ!? あのライが死ぬなんてありえないよ!? 嘘だ、嘘だと言ってよ!?」
「落ちつくんだ、まず落ちつくんだ、咲夜。あのライだよ。瞳に涙を浮かばせながら慌てる咲夜まじで天使だなぁ……じゃなくて、ライが死ぬはずないよ。電波が届かないとか、電源が入っていないとかだよ……きっと」
涙目の咲夜を京子さんは抱きしめて頭を優しく撫でながらながら、ぐへへへへ、とわずかに気味が悪い笑みを洩らした。だが、京子さんもライにとつぜん電話が届かなくなったのが不安に思い、ライを心配していた。
ライがギルドからいなくなったのは二年前の話である。彼女はギルドの外でも、月一で咲夜か京子さんに無事であることを連絡していた。今月も咲夜に連絡が着たらしい。
考えられるのは、ライが電波の届かないところにいるか、ライのリングの電源が入っていないか、リングを落としたか、ライが死んでしまって電話にでられないかだ。
まず、前の二つはありえない。リングの電話機能に電波は使っていないし、電源なんてそもそもない。二十四時間三百六十五日いつでも使える便利な道具をめざして、ライが作ったのだ。電池は無制限である。
だから、考えられるとすれば、ライがうっかりリングを落としたか、ライがしっかり死んでしまったのかのどちらかになる。
実際、どちらもありえないと思えるのだが、ライと連絡が繋がらない以上そう考えなければいけない。
そうなるとライが無事かどうかを探す部隊をブラックゾーンに派遣しなくてはいけない。しかし、今の夢猫は人員不足である。
攻略組のメンバーにライの探索も加えてもらおう、と京子さんは咲夜の頭を撫でながら考えた。
「まっ……たく! ほんとライは問題児なのか天才児なのかどっちなんだよ」
夢猫の二番目の問題児は彼女にため息を吐かせた。
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