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青色の世界と黄金の鎧騎士
そんな楽なことはないよな
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敦也がなぜ目をそらしたのか知るために、氷道は自分を見た。すると、ワンピースの水をかけられた箇所が透けて、下着がうっすらと見えてしまっていたのだ。
それ気づいてからの氷道の行動は早かった。悲鳴にならない声を上げながら、そして顔を仄かに赤くしながら、透けている箇所を隠すようにしてしゃがみ、両手の二丁の水鉄砲を敦也に向けて連射した。
「ちょ、待て氷道! 俺のせいじゃないだろ!」
二丁の水鉄砲から噴射された水を身体に直撃されながら敦也は抗議するが、氷道は聞く耳持つ様子はなく、
「あなたが悪いに決まっているでしょ。さすが変態の敦也くんね……ずぶ濡れになって風邪でも引きなさい」
彼女は連射を続ける。
水鉄砲の中身が完全になくなり連射が止んだ頃には、敦也の身体はは頭から下までかなりずぶ濡れになっていた。
氷道は腕で濡れた箇所を隠しながら立ち上がり、侮蔑の目を向けて敦也を見る。
「かなりずぶ濡れね敦也くん……風邪引いちゃうわよ」
「誰のせいでこうなったんだよ!」
敦也が濡れた髪をいじりながら、やれやれ、と息を吐いた。その様子を見ていた氷道の表情は楽しげでこの一時を満足したようだった。そんな彼女の晴れやかな表情を敦也は見ることができなかった。
※
「で、なんでお前ら二人は濡れているんだ。とくに敦也なんかずぶ濡れじゃないか……いったいどこで何してきたんだよ」
「氷道が悪いんだよ!」
「敦也くんが変態だったからよ」
広太が呆れて息を吐くなか、敦也は氷道を力強く指差し、氷道は落ちついて責任をなすりつけた。その行為がまた広太を呆れさせる。
「まぁ、何をしていたのかは後で歩きながら訊くとするから、とりあえずお前ら着替えてこい。着替え終えたら出発するぞ」
敦也と氷道が小川ではしゃいだ事件から二日がたって、一行はトールの森を抜けた。モンスターが襲ってくることが一度もなかったため、すんなりと森を抜けることができた。
道中で氷道と敦也がずぶ濡れで帰ってきた原因を根掘り葉掘り訊かれ、ツインフローズンアイスの七海と真奈は、さすが氷道先輩、と呟き、凜は敦也と氷道をジーッと睨み、広太と空は何も気にしないでいた。
敦也は氷道でもあんな顔をしたり、あんなはしゃいだりするのか、いつもとは違った彼女が見れてそれなりには良かった。ずぶ濡れにされすぎたが。
その事件以降、氷道と敦也の距離は心なしか近づいたようで、歩くときの距離も近くになっていた。森の中で敦也の右側で氷道が歩き、左側では凜が何故か氷道をジーッと見つめながら歩いていた。
「こっから危ないから注意して進めよ」
広太から声がかかり、敦也は先頭を歩く広太に続いて次の通らなくてはいけない道筋である、トオンの峡谷に足を踏み入れた。
トオンの峡谷は簡単に言えば山のようになっていた。登っていく過程で右側に幅のわりに深くて長そうな谷が見えてきた。左側は断崖絶壁だった。人三人が横なって余裕で歩ける横幅はあるが、崖から下を覗けば森があり、自分たちが今かなりの高さにいることに気づき、かなり危険だと思った。
右側には深そうな谷、左側には崖となかなか恐怖な道を歩いている状況だった。もしこんな状況でモンスターが現れて戦闘なんてすることになったら、戦い馴れしていない敦也と凜に、戦えないツインフローズンアイスのメンバー、この不安定な足場といえる場所でまともに戦えるのは広太と空だけになるだろう。
朝早いうちにトオンの峡谷に入ったので、今日一日歩き続ければトオンの峡谷を抜けることができるだろう。だが、その計算もなんのアクシデントが起きない場合であるのだ。
今敦也たちがいる場所は、ブラックゾーンと呼ばれる未開拓の地。どのギルドの領土でもなくモンスターたちが普通にいる場所なのだ。少し前に夢猫の攻略組がモンスターを討伐しながら『青色の世界』に行っただろうが、また新しいモンスターがこの場所に来ているかもしれないし、攻略組が倒していないモンスターもいるかもしれないのだ。
「このままモンスターが来なければ、明日には『青色の世界』に着けるな……お前ら疲れてないか?」
「大丈夫よ、まだ歩けるわ」
「大丈夫でーす!」
広太が歩きながら振り向いて、後ろからついてきてるメンバーに声をかける。氷道が落ちついた様子で返事をして、七海が元気に返して、真奈がこくこくとうなずく。
「まだまだ行けるぜ」
「わたしも大丈夫です」
「……問題ないよ~」
敦也と凜も広太に返事をして、最後尾の空が背後を確認しながらあくび混じりで言った。空も歩き疲れているのだろうか。
「じゃー、もうちょっと歩いたら昼食にすっか」
と、広太は視線を前に戻しながら口にした。
このときの広太はけっして油断などしていなかった。だが、もう旅も半分に来たという気持ちが、わずかな油断を生んで、そいつの気配に気づくのを遅らせたのだ。
空が異変に気づいたのはあくび混じりの声を上げた直後だった。すぐに前に視線をやり、異変の正体を確認すると、広太と声を合わせて叫んだ。
「「モンスターだ!」」
そいつはちょうど山の曲がり角から突如として、身に纏っている鎧を鳴らしながら現れたのだ。そのモンスターとの距離が一番近かった、広太がすぐに動いた。
腰から二丁拳銃の神器・《群牙狼》を取り出して、そのモンスターに照準を合わせて二丁の銃に込めた魔力を弾丸のようにして数発放つ。
突如何が起きてもいいように、神器を身に付けていたのが良かった。リングの力で武器を召喚してからモンスターに襲いかかるのでは遅いのだ。武器を召喚して構えているうちに、モンスターのほうが攻めに来るであろうからだ。
放たれた弾丸はモンスターの鎧に当たり、身体をわずかに後ろにそらす。
敦也と凜は、その隙に氷道と七海と真奈の手を引いて背後に寄せる。そして一番後ろの空がツインフローズンアイスのメンバーを守るようにしてバリアを展開する。
「そいつの名前は鎧騎士! 三ツ星だ! その腰にある剣に注意しておけば広太なら問題ないと思うよ!」
空が先頭で鎧騎士と相見える広太に向かって告げる。広太はちっ、と舌打ちして、敦也はその告げた内容に恐怖を感じていた。
『閉ざされた世界』のモンスターの強さは星の数によってランク分けされている。つまりは星の数が多ければ多いほど強いモンスターということなのだ。今目の前にいる鎧騎士は三ツ星。敦也と凜からすればかなり強い方のモンスターなのだ。
以前イングの谷の底で戦った共食いゴブリンと同等の力なのだ。敦也は一ツ星の下っ端ゴブリン一体と戦い、休む間もなく三ツ星の共食いゴブリンと戦ってなんとか勝利を納めたのだ。
それが敦也にとって初めての戦闘だったのだ。それにしては一ツ星のモンスターを倒すだけでなく、三ツ星のモンスターまで倒したのだ。自分にはかなりの素質があるかもしれないという錯覚に陥った。祐希がそれを冷ましてくれて助かった。
あのときは必死で命がけで共食いゴブリンを倒した。そのときは一人だったからだ。今の敦也のとなりには一緒に戦ってくれる仲間がいる。となりに鞘に納めた剣の柄を握って構えている少女を見て、敦也はそれを再確認した。
「戦えるか、凜?」
「もちろんです、先輩。行きましょう、あのモンスターを倒しに」
凜の意思を確認した敦也は、ふぅ、と息を吐くと身体に魔力を集めて雷、電を身体に纏わせた。無意識に髪は逆巻き、身体からはビリビリと雷電が迸る。
「いきます!」
先に動いたのは凜だった。彼女は能力を発動して加速し、神のような速さで鎧騎士に剣を抜いて突進する。
凜の能力は神速。名の通り動作ががとつもなく速くなるというだけである。そのとつもない速さで凜は一気に鎧騎士との距離を詰める。
姿勢を低くして疾駆した彼女は、体長二メートルは簡単に越えていそうな鎧騎士の腹部目掛けて直剣の神器・《神威》を振り抜いた。
凜の神器・《神威》の特性はその切れ味にあった。どんなものでも一刀両断していくレベルだ。たとえ分厚い鉄板でも簡単に分断してしまうだろう。
鎧騎士の《神威》によって斬られた箇所はたしかに斬られていた。だが、それだけで鎧騎士本体にはダメージが通っていない様子だった。おそらく凜に斬られる直前にわずかに身体を後ろにそらしたのだろう。
凜は鎧騎士の顔に視線をやる。鎧騎士の兜の奥にある両の真紅の瞳が邪悪な感じを放ちながら、彼女だけを視線に捉えながら、腰にぶら下げている剣に手を触れる。
「凜!」
敦也が電光石火で疾走しながら彼女の名前を叫んだのは、鎧騎士が剣を抜いて上段に構えるのと同時だった。
凜は声に振り向かず、地面に手をついて後方へ跳ぶ、それと替わるように電光石火の勢いで突っ込んできた敦也が、鎧騎士の腹部に雷電を纏った拳を繰り出す。
「うおぉぉぉ!」
鎧に触れた拳に衝撃が伝わる。かなり固い鎧に敦也は力を込めた拳を叩き込む。
だが鎧騎士は悲鳴を上げるどころか、上段に構えた剣をそのまま振り下ろした。
「なっーー!」
敦也は迫り来る恐怖を感じながら、必至に身体を駆動させた。
後方から飛んできた広太の放った弾丸が、鎧騎士の籠手に当たり振り下ろす速度を鈍らせた。敦也は、その瞬間を見逃さず後方へと跳んで回避する。次の瞬間、一瞬前まで敦也がいた場所に剣が振り下ろされ地面にひびが入る。
鎧騎士の体躯は縦にも横にもでかく、この道の横幅に制限がある場所では鎧騎士の背後に回り込むことは不可能だと思えた。
ならばこの状態でできるのはーー
「正面突破だけだ!」
敦也は、剣を振り下ろしたままでいる鎧騎士に向かって疾走する。となりでは凜も敦也より速い速度で《神威》を下段に構えて鎧騎士に向かって疾駆する。そのとなりを、広太の放った弾丸が通りすぎていく。
「空くん……あなたは戦わないの」
空が展開したバリアに守られている氷道が、同じく一枚の壁のような透明なバリアの内側にいる空に訊ねた。
「ん……あぁ、僕の能力が戦闘向きじゃないし。広太から言われてるのはツインフローズンアイスを守れってだけだし。それに、僕が戦いに参加しなくたって広太たちだけで倒せると思うよ……僕は信用してるからさ」
「……そう」
氷道は空にそう言われて静かにうなずく。たった一回の攻防だったが氷道にはさっきの敦也たちの戦いに驚いていた。
いつも氷道に怯えている広太が仕切ってモンスターと戦いだして、可愛い笑顔を振り撒く凜がモンスターに斬りかかり、変態で阿呆な敦也がモンスターに拳を叩き込んだのだ。
いつもギルド基地の中で平和に暮らして、モンスターとは無縁の氷道だったが、自分が今いる世界がどこかを思いだしていた。
この世界はモンスターがもとから支配しているのだ。モンスターと戦って生きるか死ぬかの世界なのだ。氷道はその雰囲気を肌で感じて、今まで平和に基地の中で暮らせてきたことは、モンスターと戦ってくれている人たちがいるということを知り深く感謝した。
それと同時に戦ってくれている人たちのことが心配になった。今目の前で戦っている、敦也や凜や広太のことが。さっきだって広太のフォローがなければ、敦也は鎧騎士に斬られていたかもしれない。そう考えると彼女を恐怖と悲嘆が襲った。
「……心配そうな顔だね、氷道さん」
「え……?」
無意識にそんな顔をしていたらしい。自分の顔を触りながら、前で戦う敦也たちを見る。必死で戦い、一瞬判断が遅れれば死が来るかもしれない戦い。
「えぇ、心配だわ……あんな怖いモンスターとなんで戦えるの……」
何気なく呟いた言葉に、空は頭の後ろで腕を組みながら答える。
「んー……そうだね、それは目的があるからじゃないかな。敦也兄も凜姉も広太も目的があるから戦えるんだよ。それは【鍵の在処】にたどり着きたいとか、死にたくないとか、後ろにいる氷道さんたちを守りたいとか」
言うと氷道を見上げて空がはにかむ。
「あなたも目的があるの?」
「あるよ、【鍵の在処】に行きたい、死にたくない、氷道さんたちを守りたい……失うのは何よりも怖いことだからね」
それ気づいてからの氷道の行動は早かった。悲鳴にならない声を上げながら、そして顔を仄かに赤くしながら、透けている箇所を隠すようにしてしゃがみ、両手の二丁の水鉄砲を敦也に向けて連射した。
「ちょ、待て氷道! 俺のせいじゃないだろ!」
二丁の水鉄砲から噴射された水を身体に直撃されながら敦也は抗議するが、氷道は聞く耳持つ様子はなく、
「あなたが悪いに決まっているでしょ。さすが変態の敦也くんね……ずぶ濡れになって風邪でも引きなさい」
彼女は連射を続ける。
水鉄砲の中身が完全になくなり連射が止んだ頃には、敦也の身体はは頭から下までかなりずぶ濡れになっていた。
氷道は腕で濡れた箇所を隠しながら立ち上がり、侮蔑の目を向けて敦也を見る。
「かなりずぶ濡れね敦也くん……風邪引いちゃうわよ」
「誰のせいでこうなったんだよ!」
敦也が濡れた髪をいじりながら、やれやれ、と息を吐いた。その様子を見ていた氷道の表情は楽しげでこの一時を満足したようだった。そんな彼女の晴れやかな表情を敦也は見ることができなかった。
※
「で、なんでお前ら二人は濡れているんだ。とくに敦也なんかずぶ濡れじゃないか……いったいどこで何してきたんだよ」
「氷道が悪いんだよ!」
「敦也くんが変態だったからよ」
広太が呆れて息を吐くなか、敦也は氷道を力強く指差し、氷道は落ちついて責任をなすりつけた。その行為がまた広太を呆れさせる。
「まぁ、何をしていたのかは後で歩きながら訊くとするから、とりあえずお前ら着替えてこい。着替え終えたら出発するぞ」
敦也と氷道が小川ではしゃいだ事件から二日がたって、一行はトールの森を抜けた。モンスターが襲ってくることが一度もなかったため、すんなりと森を抜けることができた。
道中で氷道と敦也がずぶ濡れで帰ってきた原因を根掘り葉掘り訊かれ、ツインフローズンアイスの七海と真奈は、さすが氷道先輩、と呟き、凜は敦也と氷道をジーッと睨み、広太と空は何も気にしないでいた。
敦也は氷道でもあんな顔をしたり、あんなはしゃいだりするのか、いつもとは違った彼女が見れてそれなりには良かった。ずぶ濡れにされすぎたが。
その事件以降、氷道と敦也の距離は心なしか近づいたようで、歩くときの距離も近くになっていた。森の中で敦也の右側で氷道が歩き、左側では凜が何故か氷道をジーッと見つめながら歩いていた。
「こっから危ないから注意して進めよ」
広太から声がかかり、敦也は先頭を歩く広太に続いて次の通らなくてはいけない道筋である、トオンの峡谷に足を踏み入れた。
トオンの峡谷は簡単に言えば山のようになっていた。登っていく過程で右側に幅のわりに深くて長そうな谷が見えてきた。左側は断崖絶壁だった。人三人が横なって余裕で歩ける横幅はあるが、崖から下を覗けば森があり、自分たちが今かなりの高さにいることに気づき、かなり危険だと思った。
右側には深そうな谷、左側には崖となかなか恐怖な道を歩いている状況だった。もしこんな状況でモンスターが現れて戦闘なんてすることになったら、戦い馴れしていない敦也と凜に、戦えないツインフローズンアイスのメンバー、この不安定な足場といえる場所でまともに戦えるのは広太と空だけになるだろう。
朝早いうちにトオンの峡谷に入ったので、今日一日歩き続ければトオンの峡谷を抜けることができるだろう。だが、その計算もなんのアクシデントが起きない場合であるのだ。
今敦也たちがいる場所は、ブラックゾーンと呼ばれる未開拓の地。どのギルドの領土でもなくモンスターたちが普通にいる場所なのだ。少し前に夢猫の攻略組がモンスターを討伐しながら『青色の世界』に行っただろうが、また新しいモンスターがこの場所に来ているかもしれないし、攻略組が倒していないモンスターもいるかもしれないのだ。
「このままモンスターが来なければ、明日には『青色の世界』に着けるな……お前ら疲れてないか?」
「大丈夫よ、まだ歩けるわ」
「大丈夫でーす!」
広太が歩きながら振り向いて、後ろからついてきてるメンバーに声をかける。氷道が落ちついた様子で返事をして、七海が元気に返して、真奈がこくこくとうなずく。
「まだまだ行けるぜ」
「わたしも大丈夫です」
「……問題ないよ~」
敦也と凜も広太に返事をして、最後尾の空が背後を確認しながらあくび混じりで言った。空も歩き疲れているのだろうか。
「じゃー、もうちょっと歩いたら昼食にすっか」
と、広太は視線を前に戻しながら口にした。
このときの広太はけっして油断などしていなかった。だが、もう旅も半分に来たという気持ちが、わずかな油断を生んで、そいつの気配に気づくのを遅らせたのだ。
空が異変に気づいたのはあくび混じりの声を上げた直後だった。すぐに前に視線をやり、異変の正体を確認すると、広太と声を合わせて叫んだ。
「「モンスターだ!」」
そいつはちょうど山の曲がり角から突如として、身に纏っている鎧を鳴らしながら現れたのだ。そのモンスターとの距離が一番近かった、広太がすぐに動いた。
腰から二丁拳銃の神器・《群牙狼》を取り出して、そのモンスターに照準を合わせて二丁の銃に込めた魔力を弾丸のようにして数発放つ。
突如何が起きてもいいように、神器を身に付けていたのが良かった。リングの力で武器を召喚してからモンスターに襲いかかるのでは遅いのだ。武器を召喚して構えているうちに、モンスターのほうが攻めに来るであろうからだ。
放たれた弾丸はモンスターの鎧に当たり、身体をわずかに後ろにそらす。
敦也と凜は、その隙に氷道と七海と真奈の手を引いて背後に寄せる。そして一番後ろの空がツインフローズンアイスのメンバーを守るようにしてバリアを展開する。
「そいつの名前は鎧騎士! 三ツ星だ! その腰にある剣に注意しておけば広太なら問題ないと思うよ!」
空が先頭で鎧騎士と相見える広太に向かって告げる。広太はちっ、と舌打ちして、敦也はその告げた内容に恐怖を感じていた。
『閉ざされた世界』のモンスターの強さは星の数によってランク分けされている。つまりは星の数が多ければ多いほど強いモンスターということなのだ。今目の前にいる鎧騎士は三ツ星。敦也と凜からすればかなり強い方のモンスターなのだ。
以前イングの谷の底で戦った共食いゴブリンと同等の力なのだ。敦也は一ツ星の下っ端ゴブリン一体と戦い、休む間もなく三ツ星の共食いゴブリンと戦ってなんとか勝利を納めたのだ。
それが敦也にとって初めての戦闘だったのだ。それにしては一ツ星のモンスターを倒すだけでなく、三ツ星のモンスターまで倒したのだ。自分にはかなりの素質があるかもしれないという錯覚に陥った。祐希がそれを冷ましてくれて助かった。
あのときは必死で命がけで共食いゴブリンを倒した。そのときは一人だったからだ。今の敦也のとなりには一緒に戦ってくれる仲間がいる。となりに鞘に納めた剣の柄を握って構えている少女を見て、敦也はそれを再確認した。
「戦えるか、凜?」
「もちろんです、先輩。行きましょう、あのモンスターを倒しに」
凜の意思を確認した敦也は、ふぅ、と息を吐くと身体に魔力を集めて雷、電を身体に纏わせた。無意識に髪は逆巻き、身体からはビリビリと雷電が迸る。
「いきます!」
先に動いたのは凜だった。彼女は能力を発動して加速し、神のような速さで鎧騎士に剣を抜いて突進する。
凜の能力は神速。名の通り動作ががとつもなく速くなるというだけである。そのとつもない速さで凜は一気に鎧騎士との距離を詰める。
姿勢を低くして疾駆した彼女は、体長二メートルは簡単に越えていそうな鎧騎士の腹部目掛けて直剣の神器・《神威》を振り抜いた。
凜の神器・《神威》の特性はその切れ味にあった。どんなものでも一刀両断していくレベルだ。たとえ分厚い鉄板でも簡単に分断してしまうだろう。
鎧騎士の《神威》によって斬られた箇所はたしかに斬られていた。だが、それだけで鎧騎士本体にはダメージが通っていない様子だった。おそらく凜に斬られる直前にわずかに身体を後ろにそらしたのだろう。
凜は鎧騎士の顔に視線をやる。鎧騎士の兜の奥にある両の真紅の瞳が邪悪な感じを放ちながら、彼女だけを視線に捉えながら、腰にぶら下げている剣に手を触れる。
「凜!」
敦也が電光石火で疾走しながら彼女の名前を叫んだのは、鎧騎士が剣を抜いて上段に構えるのと同時だった。
凜は声に振り向かず、地面に手をついて後方へ跳ぶ、それと替わるように電光石火の勢いで突っ込んできた敦也が、鎧騎士の腹部に雷電を纏った拳を繰り出す。
「うおぉぉぉ!」
鎧に触れた拳に衝撃が伝わる。かなり固い鎧に敦也は力を込めた拳を叩き込む。
だが鎧騎士は悲鳴を上げるどころか、上段に構えた剣をそのまま振り下ろした。
「なっーー!」
敦也は迫り来る恐怖を感じながら、必至に身体を駆動させた。
後方から飛んできた広太の放った弾丸が、鎧騎士の籠手に当たり振り下ろす速度を鈍らせた。敦也は、その瞬間を見逃さず後方へと跳んで回避する。次の瞬間、一瞬前まで敦也がいた場所に剣が振り下ろされ地面にひびが入る。
鎧騎士の体躯は縦にも横にもでかく、この道の横幅に制限がある場所では鎧騎士の背後に回り込むことは不可能だと思えた。
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「正面突破だけだ!」
敦也は、剣を振り下ろしたままでいる鎧騎士に向かって疾走する。となりでは凜も敦也より速い速度で《神威》を下段に構えて鎧騎士に向かって疾駆する。そのとなりを、広太の放った弾丸が通りすぎていく。
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「ん……あぁ、僕の能力が戦闘向きじゃないし。広太から言われてるのはツインフローズンアイスを守れってだけだし。それに、僕が戦いに参加しなくたって広太たちだけで倒せると思うよ……僕は信用してるからさ」
「……そう」
氷道は空にそう言われて静かにうなずく。たった一回の攻防だったが氷道にはさっきの敦也たちの戦いに驚いていた。
いつも氷道に怯えている広太が仕切ってモンスターと戦いだして、可愛い笑顔を振り撒く凜がモンスターに斬りかかり、変態で阿呆な敦也がモンスターに拳を叩き込んだのだ。
いつもギルド基地の中で平和に暮らして、モンスターとは無縁の氷道だったが、自分が今いる世界がどこかを思いだしていた。
この世界はモンスターがもとから支配しているのだ。モンスターと戦って生きるか死ぬかの世界なのだ。氷道はその雰囲気を肌で感じて、今まで平和に基地の中で暮らせてきたことは、モンスターと戦ってくれている人たちがいるということを知り深く感謝した。
それと同時に戦ってくれている人たちのことが心配になった。今目の前で戦っている、敦也や凜や広太のことが。さっきだって広太のフォローがなければ、敦也は鎧騎士に斬られていたかもしれない。そう考えると彼女を恐怖と悲嘆が襲った。
「……心配そうな顔だね、氷道さん」
「え……?」
無意識にそんな顔をしていたらしい。自分の顔を触りながら、前で戦う敦也たちを見る。必死で戦い、一瞬判断が遅れれば死が来るかもしれない戦い。
「えぇ、心配だわ……あんな怖いモンスターとなんで戦えるの……」
何気なく呟いた言葉に、空は頭の後ろで腕を組みながら答える。
「んー……そうだね、それは目的があるからじゃないかな。敦也兄も凜姉も広太も目的があるから戦えるんだよ。それは【鍵の在処】にたどり着きたいとか、死にたくないとか、後ろにいる氷道さんたちを守りたいとか」
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