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青色の世界と黄金の鎧騎士
窮地と稲光
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さらに鎧騎士が剣を構えながら敦也に追撃を仕掛けようと疾走する。
立ち上がろうと敦也は身体に力を込めようとするが、身体に力が入らない。鎧騎士の回し蹴りが身体にかなりのダメージを与えたらしい。
鎧騎士が敦也に剣を振りかざす。敦也は電撃を飛ばそうと考えるが、腕から電撃の迸りは生まれない。まるで身体の中から魔力がなくなったようだった。彼は歯を強く噛んだ。
何で、何で出ないんだよ!?
敦也は白い光沢を放つ鎧騎士の剣に恐怖して、瞳を強く閉じた。まるで死から逃げるように。
ぶぉん、と鎧騎士が力強く剣を振り下ろす音が鳴り、敦也は死の間際を直感した。すると、新たな音が敦也の頭上から響いた。
その音の響きは、きぃぃん、としていてまるで刃と刃がぶつかり合ったような音だった。
敦也はそれを聞くと違和感を感じた。鎧騎士が、敦也目掛けて振り下ろしたであろう剣が彼を斬らないのだ。
鎧騎士の剣が何故来ないのか確かめるために瞳を開くと、同時に聞きなれた少女の声が敦也の耳に響いた。
「先輩、大丈夫ですか!? 今のうちに逃げてください!」
「り、凜!?」
敦也は、聞こえてきた声の主の名を叫びながら視界に広がっている光景に驚いた。
鎧騎士が振り下ろした剣が、敦也に襲いかかる前に凜が《神威》で鎧騎士の剣の勢いを止めたのだ。
「先輩はやく!」
辛そうな色を表情を浮かばせながら、凜が敦也に叫ぶ。敦也は身体に力を込めようとするが、やはり身体がいうことを聞かないのだ。
「すまん、凜。身体が動かねぇんだ」
「え!?」
敦也が正直に今の状況を伝えると、凜はさらに辛そうな表情を浮かばせた。三ツ星のモンスターの攻撃を、彼女一人で受け続けるのはやはり辛いのだろう。さらに敦也が動けなくなったいま戦力は彼女しかいないのだ。状況はかなり最悪だった。
わたしも広太みたい神器解放ができたら!
凜が愛剣の神器・《神威》を見ながら、そう思った。彼女の能力である神速はかなり強い能力だと言える。最高速度で迫られたら、彼女が通りすぎたのにも気づかずに斬られているかもしれない。
だが、それは斬れればの話なのである。
彼女の神器が切れ味に特化している神器だとしても、所有者の剣捌きや膂力のレベルによって斬れないものはある。
現に、彼女の膂力と剣術では鎧騎士の剣を弾き返せていないのだ。それは彼女の膂力と剣術が低いからである。
彼女はまだ未熟すぎただ。
神器解放ができるレベルにはまだ到達してはいないし、一人で三ツ星のモンスターを倒すことも不可能なのだ。
さらに今の彼女の状況に追い打ちをかけるように、彼女の右足が悲鳴を上げて、表情を歪ませて鎧騎士の剣に押される。
トオンの峡谷からこの森への不時着の際、右足を捻ってしまったのだ。初めは我慢できていたのだが、身体に力を込めて動くにつれて痛みがじょじょに増し始めていた。
凜は歯を食い縛り右足の痛みに堪えながら、《神威》を握る両手にさらに力を込めて鎧騎士の剣を押し返そうとする。
すると、鎧騎士は重そうな鎧を鳴らしながら後方へと跳んだ。やはり身に纏っている鎧は重いらしく着地の音は大きい。
凜は、鎧騎士が何で急に後方へ下がったのか不思議に思い、息を吐いて気を落ち着かせてから《神威》を構え直しながら鎧騎士を睨む。
彼女の睨みに対して、鎧騎士は兜の中の口を開いた。
「貴様はそこの少年よりは強いようだな。貴様をやるのはあとしておくとする……先にべつのから片付けるとさせてもらうよ!」
凜と敦也は、鎧騎士が一度であれ凜を狙うのを止めたのは喜んだが、鎧騎士が続けていった言葉に嫌な予感を感じて戦慄した。
「おいやめろ!」
「俺に命令するなよ!」
敦也の叫びに、律儀に鎧騎士は返して兜の中で歪んだ笑みを浮かばせながら、敦也と凜の嫌な予感通り、魔力も能力も使えない氷道が座っている場所へと疾走しはじめた。
「え……来ないで……来ないで……」
氷道が弱々しく鎧騎士に訴える。だが、モンスターの鎧騎士がそれを聞くはずもなく、さらに速度を上げる。
「凜、頼む!」
敦也はこんなときに動けない自分の身体に苛立ちながら、凜に氷道を任せた。彼女は、はい、と力強くうなずいて姿勢を低くして走る構えをとる。
そして、神速する。氷道と鎧騎士との距離はもうそんなにない。全力の最高速度で行けば間に合うはずである。
「はあぁぁぁーー!」
右足の痛みを遮断するように吠えながら凜は疾駆するが、彼女の右足は彼女の動きを鈍らせた。
「ーーきゃ、わ!」
氷道との距離が半分も縮まらないうちに、凜の右足がさっきよりも強い激痛で彼女を襲い、彼女の動きを鈍らせて勢いよく転倒させた。
神速で走っていたからか、その勢いが急に止んだせいで前に滑りながら転倒した。
凜が転倒したのにも目もくれずに、鎧騎士は氷道目掛けて疾走していた。
転倒した凜、鎧騎士に狙われている氷道。敦也はそれらを見ながら、背中を木に預けて座りながら右手を突きだしていた。
「出ろよ、雷ーー!」
敦也は叫ぶが、彼の右手からは雷は生まれない。
くそっ、誰か、誰か氷道を助けてくれ!
そう強く願いながら、敦也は不意に地面に暗い影がかかって、不思議に思い空を見上げた。
そこには七両編成の列車が走っていた。敦也は、その光景に目を剥いて驚いた。
「ふははははは、死ねぇーー!」
「敦也くん!」
剣を氷道の前で振りかざした鎧騎士のおぞましい叫び声と彼女が助けを求めて彼の名前を呼んだのは、ほぼ同時だった。敦也は空から視線をすぐに氷道に戻すと、目の前を氷道と鎧騎士を隠すようにさっきの七両編成の列車が通ってきて停車した。
「なんだよこれ……」
敦也は目の前に停まった列車に驚きの声を吐くと、列車の向こう側から雷鳴の轟きと稲光が溢れでて、次の瞬間、悲鳴がやって来た。
それはけたたましい悲鳴で、まるで鎧騎士が叫んだようだった。
「何が起こったの……」
凜が状況の変化についていけず、ただ列車を見ている。
列車の向こう側でいったい何が起きたのか、氷道は無事なのか、さっきの悲鳴はやはり鎧騎士のなのか、気になることは山ほどあるが、それを確かめるために動くことが今の敦也と凜にはできなかった。
しばらくすると、電車の扉が開き、明るいオレンジ色のミディアムロングの髪が特徴的な小さな少女と氷道が出てきた。
小さな少女は白のシャツにオレンジ色のジャケットを羽織り、両手には黒い指ぬきのグローブを嵌めている。右腕には黄色い腕輪。左腕には特別な力を持っていそうなオレンジ色の腕輪がされていた。右腕の腕輪には敦也と凜も見覚えがあった。黒と黄のスカートに茶色のニーソックス。見た目のわりにそれらの服がかなり似合っていて、威圧感があった。
「あんたは誰なんだ?」
敦也は、道のとなりに立っている知らない小さな少女おそるおそるにそう訊ねる。
今敦也たちがいる場所はブラックゾーンだ。そんな場所で列車に乗って人間が現れたら、誰しも警戒すると思う。それに、この小さな少女から感じる威圧感に彼は怯んでいたのだ。
小さな少女は、明るいオレンジ色の髪をくしくししながら、むー、と唸り、敦也と凜を見た。
「あなたたちは『夢見る猫たち』の新人なので御座るのですよね?」
「ご、御座る……」
「えーと、はい、そうです」
小さな少女の思わぬ口調に敦也は驚き、凜は冷静に答えた。
「なら、拙者の名前を一度は聞いたことがあるのではないのでしょうか?」
「はぁ……」
「え?」
小さな少女の思わぬ発言に敦也は息を吐いて、凜は首を傾けた。
夢猫のメンバーなら聞いたことがある名前。いったいこの小さな少女は誰なのだ。
「仕方ないわ、ライさん……あなたと会ったことがないのですもの」
氷道が小さな少女にそう言うと、仕方ないで御座るか、と口にして敦也と凜を見て、右腕につけてある黄色い腕輪を突き出して言う。
「拙者はギルド・『夢見る猫たち』メンバーの一人で、攻略組元隊長であり、夢猫のリング製作やその他機械の開発に貢献したで御座る。名前を来谷燈火。ギルドの仲間は拙者をライと呼ぶで御座る。他のギルドからは《雷神》と呼ばれているが……会いたかったで御座る、敦也殿」
「……はぁーー!」
「……えぇーー!」
敦也と凜はいきなりの自己紹介に驚いて、同時に叫んだ。
目の前に現れた小さな少女の正体が、夢猫の天才の問題児と言われていた少女だとは思わなかったのだ。なにぜその天才の問題児は家出中だから。
ライは、声を上げて驚いた敦也と凜に首を傾けて、もとに戻しながら、
「よろしくで御座る」
短くそう言った。
※
列車の中は、普通の列車とは違い座席やつり革や手すりなどはない空間が広がっていた。
簡単な応急処置を氷道にされた敦也と凜はライに案内され、一両目の机と椅子があり、操縦席がある部屋に入った。そこには、ライ以外の男性乗組員が二人もいた。
彼らも夢猫のメンバーなのかと敦也は思ったが、となりに立つ氷道がその可能性を打ち消した。
「ライさん、彼らは誰かしら?」
「乗組員Aと乗組員Bで御座る」
腕を組んでそう言うライに氷道は、そう、とうなずき、二人の乗組員の一人のうち操縦席に座らず立っているスーツ姿の男性が、乗組員Aでございます、とかしこまって言い、もう一人の操縦席に座っている男性が、乗組員Bでーす、と右手を上げてひらひらと振った。
「AとBでいいのかよ! 氷道はそれでいいのかよ!」
ライのテキトーな発言と、それにあっさりとうなずいた氷道に敦也は突っ込まずにはいられなかった。
「あら、敦也くんいきにら叫ばないでもらえるかしら……うるさいから」
「お、おう……すまん」
氷道に睨まれて敦也は口を閉じる。そんな彼の様子に凜は息を吐く。
凜は、氷道が敦也に応急処置をしているとき、何か話していたことを知っていて気になっているのだ。
敦也と凜と氷道は、ライと対面になるようにして椅子に座ると。ライは全員がちゃんと座ったことを確認すると、
「乗組員B、浮かせるで御座る」
「あいよ!」
乗組員Bに命令して、乗組員Bが操作して列車は宙に浮かんだ。
「すげーな、この列車は何なんだよ」
敦也が列車の感想を吐くと、ライはうなずき、
「敦也殿、凜殿、それに氷道殿……少し話を聞かせて欲しい。なんであなたたちがブラックゾーンにいるのか」
「そうね、それはわたしから説明させてもらうわ」
氷道が、敦也と凜の代わりに彼らがギルドから出てブラックゾーンにいる理由を話そうとする。
「その前に一ついいですか、ライさん」
「何で御座るか?」
「いつからそのリングの調子がおかしくなりましたか?」
「……一週間前に御座る。二年も整備しないでいたら、ついに故障してしまって」
氷道はそれを聞くと、こめかみに手を当てて、はぁ、と息を吐いた。
「ライさんとの連絡ができなくなって、マスターや和泉さんが心配していましたよ。たしか攻略組に捜索させるとかも言っていました。あとで無事だったと伝えておきますね」
氷道がにっこりと笑っていた。敦也はその笑みの意味を知っていた。ちょっと怒ってたりする怖いときの氷道の笑顔である。
「は、はい! ごめんなさい、頼むで御座る!」
ライも氷道のその笑顔の意味を知っているようで、もとから小さな身体がさらに小さく見えた。
「まぁ、とりあえず話してやれよ、俺らがブラックゾーンにいる訳を」
とりなすように敦也は言うが、氷道は彼を睨み付けて、
「阿呆の敦也くんに言われるまでもなく、今から説明するわよ」
と言った。
「わたしたちは二日前に広太と空くん、敦也くをと凜ちゃん、それとわたしを含めたツインフローズンアイスのメンバーで『青色の世界』を目指していたのよ」
「『青色の世界』……たしかこの前同盟に成功したギルドで御座ったな」
「えぇ、そうよ」
氷道がうなずくと、ライはかわいらしくちょこんと首を傾けた。
「だが、どうしてそのメンバーで『青色の世界』を目指していたので御座るか?」
「それは夢猫と『青色の世界』の親睦会に夢猫から代表で選ばれたわたしたちが出るから」
立ち上がろうと敦也は身体に力を込めようとするが、身体に力が入らない。鎧騎士の回し蹴りが身体にかなりのダメージを与えたらしい。
鎧騎士が敦也に剣を振りかざす。敦也は電撃を飛ばそうと考えるが、腕から電撃の迸りは生まれない。まるで身体の中から魔力がなくなったようだった。彼は歯を強く噛んだ。
何で、何で出ないんだよ!?
敦也は白い光沢を放つ鎧騎士の剣に恐怖して、瞳を強く閉じた。まるで死から逃げるように。
ぶぉん、と鎧騎士が力強く剣を振り下ろす音が鳴り、敦也は死の間際を直感した。すると、新たな音が敦也の頭上から響いた。
その音の響きは、きぃぃん、としていてまるで刃と刃がぶつかり合ったような音だった。
敦也はそれを聞くと違和感を感じた。鎧騎士が、敦也目掛けて振り下ろしたであろう剣が彼を斬らないのだ。
鎧騎士の剣が何故来ないのか確かめるために瞳を開くと、同時に聞きなれた少女の声が敦也の耳に響いた。
「先輩、大丈夫ですか!? 今のうちに逃げてください!」
「り、凜!?」
敦也は、聞こえてきた声の主の名を叫びながら視界に広がっている光景に驚いた。
鎧騎士が振り下ろした剣が、敦也に襲いかかる前に凜が《神威》で鎧騎士の剣の勢いを止めたのだ。
「先輩はやく!」
辛そうな色を表情を浮かばせながら、凜が敦也に叫ぶ。敦也は身体に力を込めようとするが、やはり身体がいうことを聞かないのだ。
「すまん、凜。身体が動かねぇんだ」
「え!?」
敦也が正直に今の状況を伝えると、凜はさらに辛そうな表情を浮かばせた。三ツ星のモンスターの攻撃を、彼女一人で受け続けるのはやはり辛いのだろう。さらに敦也が動けなくなったいま戦力は彼女しかいないのだ。状況はかなり最悪だった。
わたしも広太みたい神器解放ができたら!
凜が愛剣の神器・《神威》を見ながら、そう思った。彼女の能力である神速はかなり強い能力だと言える。最高速度で迫られたら、彼女が通りすぎたのにも気づかずに斬られているかもしれない。
だが、それは斬れればの話なのである。
彼女の神器が切れ味に特化している神器だとしても、所有者の剣捌きや膂力のレベルによって斬れないものはある。
現に、彼女の膂力と剣術では鎧騎士の剣を弾き返せていないのだ。それは彼女の膂力と剣術が低いからである。
彼女はまだ未熟すぎただ。
神器解放ができるレベルにはまだ到達してはいないし、一人で三ツ星のモンスターを倒すことも不可能なのだ。
さらに今の彼女の状況に追い打ちをかけるように、彼女の右足が悲鳴を上げて、表情を歪ませて鎧騎士の剣に押される。
トオンの峡谷からこの森への不時着の際、右足を捻ってしまったのだ。初めは我慢できていたのだが、身体に力を込めて動くにつれて痛みがじょじょに増し始めていた。
凜は歯を食い縛り右足の痛みに堪えながら、《神威》を握る両手にさらに力を込めて鎧騎士の剣を押し返そうとする。
すると、鎧騎士は重そうな鎧を鳴らしながら後方へと跳んだ。やはり身に纏っている鎧は重いらしく着地の音は大きい。
凜は、鎧騎士が何で急に後方へ下がったのか不思議に思い、息を吐いて気を落ち着かせてから《神威》を構え直しながら鎧騎士を睨む。
彼女の睨みに対して、鎧騎士は兜の中の口を開いた。
「貴様はそこの少年よりは強いようだな。貴様をやるのはあとしておくとする……先にべつのから片付けるとさせてもらうよ!」
凜と敦也は、鎧騎士が一度であれ凜を狙うのを止めたのは喜んだが、鎧騎士が続けていった言葉に嫌な予感を感じて戦慄した。
「おいやめろ!」
「俺に命令するなよ!」
敦也の叫びに、律儀に鎧騎士は返して兜の中で歪んだ笑みを浮かばせながら、敦也と凜の嫌な予感通り、魔力も能力も使えない氷道が座っている場所へと疾走しはじめた。
「え……来ないで……来ないで……」
氷道が弱々しく鎧騎士に訴える。だが、モンスターの鎧騎士がそれを聞くはずもなく、さらに速度を上げる。
「凜、頼む!」
敦也はこんなときに動けない自分の身体に苛立ちながら、凜に氷道を任せた。彼女は、はい、と力強くうなずいて姿勢を低くして走る構えをとる。
そして、神速する。氷道と鎧騎士との距離はもうそんなにない。全力の最高速度で行けば間に合うはずである。
「はあぁぁぁーー!」
右足の痛みを遮断するように吠えながら凜は疾駆するが、彼女の右足は彼女の動きを鈍らせた。
「ーーきゃ、わ!」
氷道との距離が半分も縮まらないうちに、凜の右足がさっきよりも強い激痛で彼女を襲い、彼女の動きを鈍らせて勢いよく転倒させた。
神速で走っていたからか、その勢いが急に止んだせいで前に滑りながら転倒した。
凜が転倒したのにも目もくれずに、鎧騎士は氷道目掛けて疾走していた。
転倒した凜、鎧騎士に狙われている氷道。敦也はそれらを見ながら、背中を木に預けて座りながら右手を突きだしていた。
「出ろよ、雷ーー!」
敦也は叫ぶが、彼の右手からは雷は生まれない。
くそっ、誰か、誰か氷道を助けてくれ!
そう強く願いながら、敦也は不意に地面に暗い影がかかって、不思議に思い空を見上げた。
そこには七両編成の列車が走っていた。敦也は、その光景に目を剥いて驚いた。
「ふははははは、死ねぇーー!」
「敦也くん!」
剣を氷道の前で振りかざした鎧騎士のおぞましい叫び声と彼女が助けを求めて彼の名前を呼んだのは、ほぼ同時だった。敦也は空から視線をすぐに氷道に戻すと、目の前を氷道と鎧騎士を隠すようにさっきの七両編成の列車が通ってきて停車した。
「なんだよこれ……」
敦也は目の前に停まった列車に驚きの声を吐くと、列車の向こう側から雷鳴の轟きと稲光が溢れでて、次の瞬間、悲鳴がやって来た。
それはけたたましい悲鳴で、まるで鎧騎士が叫んだようだった。
「何が起こったの……」
凜が状況の変化についていけず、ただ列車を見ている。
列車の向こう側でいったい何が起きたのか、氷道は無事なのか、さっきの悲鳴はやはり鎧騎士のなのか、気になることは山ほどあるが、それを確かめるために動くことが今の敦也と凜にはできなかった。
しばらくすると、電車の扉が開き、明るいオレンジ色のミディアムロングの髪が特徴的な小さな少女と氷道が出てきた。
小さな少女は白のシャツにオレンジ色のジャケットを羽織り、両手には黒い指ぬきのグローブを嵌めている。右腕には黄色い腕輪。左腕には特別な力を持っていそうなオレンジ色の腕輪がされていた。右腕の腕輪には敦也と凜も見覚えがあった。黒と黄のスカートに茶色のニーソックス。見た目のわりにそれらの服がかなり似合っていて、威圧感があった。
「あんたは誰なんだ?」
敦也は、道のとなりに立っている知らない小さな少女おそるおそるにそう訊ねる。
今敦也たちがいる場所はブラックゾーンだ。そんな場所で列車に乗って人間が現れたら、誰しも警戒すると思う。それに、この小さな少女から感じる威圧感に彼は怯んでいたのだ。
小さな少女は、明るいオレンジ色の髪をくしくししながら、むー、と唸り、敦也と凜を見た。
「あなたたちは『夢見る猫たち』の新人なので御座るのですよね?」
「ご、御座る……」
「えーと、はい、そうです」
小さな少女の思わぬ口調に敦也は驚き、凜は冷静に答えた。
「なら、拙者の名前を一度は聞いたことがあるのではないのでしょうか?」
「はぁ……」
「え?」
小さな少女の思わぬ発言に敦也は息を吐いて、凜は首を傾けた。
夢猫のメンバーなら聞いたことがある名前。いったいこの小さな少女は誰なのだ。
「仕方ないわ、ライさん……あなたと会ったことがないのですもの」
氷道が小さな少女にそう言うと、仕方ないで御座るか、と口にして敦也と凜を見て、右腕につけてある黄色い腕輪を突き出して言う。
「拙者はギルド・『夢見る猫たち』メンバーの一人で、攻略組元隊長であり、夢猫のリング製作やその他機械の開発に貢献したで御座る。名前を来谷燈火。ギルドの仲間は拙者をライと呼ぶで御座る。他のギルドからは《雷神》と呼ばれているが……会いたかったで御座る、敦也殿」
「……はぁーー!」
「……えぇーー!」
敦也と凜はいきなりの自己紹介に驚いて、同時に叫んだ。
目の前に現れた小さな少女の正体が、夢猫の天才の問題児と言われていた少女だとは思わなかったのだ。なにぜその天才の問題児は家出中だから。
ライは、声を上げて驚いた敦也と凜に首を傾けて、もとに戻しながら、
「よろしくで御座る」
短くそう言った。
※
列車の中は、普通の列車とは違い座席やつり革や手すりなどはない空間が広がっていた。
簡単な応急処置を氷道にされた敦也と凜はライに案内され、一両目の机と椅子があり、操縦席がある部屋に入った。そこには、ライ以外の男性乗組員が二人もいた。
彼らも夢猫のメンバーなのかと敦也は思ったが、となりに立つ氷道がその可能性を打ち消した。
「ライさん、彼らは誰かしら?」
「乗組員Aと乗組員Bで御座る」
腕を組んでそう言うライに氷道は、そう、とうなずき、二人の乗組員の一人のうち操縦席に座らず立っているスーツ姿の男性が、乗組員Aでございます、とかしこまって言い、もう一人の操縦席に座っている男性が、乗組員Bでーす、と右手を上げてひらひらと振った。
「AとBでいいのかよ! 氷道はそれでいいのかよ!」
ライのテキトーな発言と、それにあっさりとうなずいた氷道に敦也は突っ込まずにはいられなかった。
「あら、敦也くんいきにら叫ばないでもらえるかしら……うるさいから」
「お、おう……すまん」
氷道に睨まれて敦也は口を閉じる。そんな彼の様子に凜は息を吐く。
凜は、氷道が敦也に応急処置をしているとき、何か話していたことを知っていて気になっているのだ。
敦也と凜と氷道は、ライと対面になるようにして椅子に座ると。ライは全員がちゃんと座ったことを確認すると、
「乗組員B、浮かせるで御座る」
「あいよ!」
乗組員Bに命令して、乗組員Bが操作して列車は宙に浮かんだ。
「すげーな、この列車は何なんだよ」
敦也が列車の感想を吐くと、ライはうなずき、
「敦也殿、凜殿、それに氷道殿……少し話を聞かせて欲しい。なんであなたたちがブラックゾーンにいるのか」
「そうね、それはわたしから説明させてもらうわ」
氷道が、敦也と凜の代わりに彼らがギルドから出てブラックゾーンにいる理由を話そうとする。
「その前に一ついいですか、ライさん」
「何で御座るか?」
「いつからそのリングの調子がおかしくなりましたか?」
「……一週間前に御座る。二年も整備しないでいたら、ついに故障してしまって」
氷道はそれを聞くと、こめかみに手を当てて、はぁ、と息を吐いた。
「ライさんとの連絡ができなくなって、マスターや和泉さんが心配していましたよ。たしか攻略組に捜索させるとかも言っていました。あとで無事だったと伝えておきますね」
氷道がにっこりと笑っていた。敦也はその笑みの意味を知っていた。ちょっと怒ってたりする怖いときの氷道の笑顔である。
「は、はい! ごめんなさい、頼むで御座る!」
ライも氷道のその笑顔の意味を知っているようで、もとから小さな身体がさらに小さく見えた。
「まぁ、とりあえず話してやれよ、俺らがブラックゾーンにいる訳を」
とりなすように敦也は言うが、氷道は彼を睨み付けて、
「阿呆の敦也くんに言われるまでもなく、今から説明するわよ」
と言った。
「わたしたちは二日前に広太と空くん、敦也くをと凜ちゃん、それとわたしを含めたツインフローズンアイスのメンバーで『青色の世界』を目指していたのよ」
「『青色の世界』……たしかこの前同盟に成功したギルドで御座ったな」
「えぇ、そうよ」
氷道がうなずくと、ライはかわいらしくちょこんと首を傾けた。
「だが、どうしてそのメンバーで『青色の世界』を目指していたので御座るか?」
「それは夢猫と『青色の世界』の親睦会に夢猫から代表で選ばれたわたしたちが出るから」
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