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青色の世界と黄金の鎧騎士
そして夜が明ける
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『……あぁ』
と、広太は人狼女王に返すと脳裏に静寂が訪れた。広太はシークワーサーの缶ジュースをあおり、満天の星空を見上げた。
『閉ざされた世界』に来てもうかなりが経過して強くなったと思っていたと広太もまだまだ弱いのだ。能力を巧みに使えても、神器と共鳴して神器解放ができても仲間を大事な人を守れなければそれは力とは言わない。本当に必要な時に現れない力を無力と呼ぶのだ。
彼は、自分がまだまだいかに未熟で無力だということを思い出しながら、敦也や凜だけじゃないなぁ、と考えた。
「三ツ星ぐらい俺一人ですぐに倒せるようにならなくちゃな」
シークワーサージュースが入っていた缶を握りつぶして、決意を固める。すると背後から、
「あんま一人で行きすぎるなよ」
岩場に寄りかかっている空の声がした。寝言かと思ったが違った。続けて空は言う。
「僕の能力は戦闘には向かないよ。守ることにしか特化していない。それでも守りきれないものがあったんだ。だからさ、広太が一人ですべて背負い込む必要はないよ……僕も、僕たちも必ず強くなるからさ」
僕たちもというのには、敦也と凜も含まれているんだろう。広太よりも若くて幼い空が彼にそのような安心させることを言ったことを頼もしく思いながら、
「かっ、気にすんじゃねぇよ、馬鹿空が。今度あの鎧騎士と出会ったら俺が絶体にに倒してやるよ。だから、安心して俺に付いてこい!」
振り返って空の頭を掴んでわしゃわしゃした。不器用な広太からすればこれは感謝を示しているのだろう。
空も、なにするんだよ、と言いながら笑顔を浮かばせている。広太がいつも通りに戻ったことを嬉しく思ったのだろう。
「あと倒すのは俺じゃなくて、俺たちだからね。僕たちは仲間なんだからさ」
頭をわしゃわしゃされながら、空は広太にそう言った。
「あぁ、便りにしてるぞ……空も敦也も凜も……」
広太は空の頭から手を離して、笑顔を浮かばせた。それを見た空は穏やかな表情を作り息を吐くと、
「ねぇ、広太。このまま僕たちは『青色の世界』に行っていいんだよね。敦也兄や凜姉や氷道さんはいないけど……あとで必ず合流するんだよね」
「ん、あぁ、敦也たちなら後で合流するだろうよ。だから、俺たちはとっとと安全圏の『青色の世界』の領土内に行こうや」
広太はそう言うと立ち上がり、目に見えない向こうにある『青色の世界』の領土がある地点を見た。
※
『えーと? それでライが分断されてしまった敦也くんを助けてくれたってことなんだよね?』
リングの力で『夢見る猫たち』領土内にいるギルドマスター・根城咲夜の声が聞こえてくる。
「そうなんですよー。いや、たまたま拙者が通りかかったらピンチな状況が見えまして助けたので御座る。まさかそれが仲間だっとはなんたる偶然……」
ベッドの上に寝転んでいた来谷燈火は、笑いを含んだ声を上げてから、よいしょ、と跳ね起きた。
時間はもう午前零時を越えている。列車の四両目にある自分の部屋。タンクトップに下着だけという、あまり他人には見せられない格好だ。少なくとも男性には見せたくはない格好である。湿気の残っている明るいオレンジ色のミディアムロングの髪はまだ濡れている。首にはタオルがかけられている。
『いやー、ライは別件で忙しいはずなのに面倒なことに巻き込んじゃってごめんね』
「いや、こんな夜中に小学生に電話している拙者も悪いで御座るな」
長電話の相手である咲夜は年齢はまだ小学三年生なのだ。ギルド・『夢見る猫たち』のギルドマスターをしているが小さく幼く可愛い少女、いや幼女なのだ。それなのにこんな時間に長電話をしているなどと咲夜の保護者的なポジションにいる夢猫のアナウンサー・京子さんにライと咲夜酷くは怒られてしまうかもしれない。絶体怒られるだろうなぁ。
「眠くないで御座るか、咲夜殿」
ライは心配そうに咲夜に訊くが、
『ん、大丈夫だよ、眠くないよ……ふぁ~ぁ』
彼女は平気な様子で答えるが、最後にしたあくびが無理をしている証拠だった。ライはできれば手短に話を終わらせようと思いながら、また口を開いた。
「敦也殿と凜殿は拙者がしばらく預からせてもらうで御座る。いいですよね、咲夜殿。二人ともたしかに力には魅力を感じるが……発展途上。ちゃんと発展しなければこの先簡単に死ぬで御座るよ……それは嫌で御座ろう。だから、拙者がしっかりと二人を鍛え上げてみせるで御座る」
「ん、敦也くんと凜ちゃんに美崎ちゃんはライに預けておくよ。広太たちには先に『青色の世界』に行くよう連絡しておくよ」
さすがマスター、しっかりしてるで御座る、ライはそう思いながら、敦也と凜の状況を思考に浮かばせた。
「敦也殿のほうは拙者が鍛え上げさせてもらうが、それでいいか。拙者と同じ雷の能力者。拙者が持つ技をすべて叩き込もうと思うで御座る」
『ライは敦也くんを気に入ったの?』
「そうですね、拙者弱い男には興味がないで御座るが、弱いけど弱いなりにどうにか現状を打開しようと奮闘する男は好きで御座るよ」
『ふーん、たしかに敦也くんはかっこいいしね』
幼女らしく、女の子らしい恋ばなに話がずれていくなか、咲夜はうきうきとした心情でライト話していた。
「そうでござるか、かっこいいかと聞かれれば、現状はイマイチで御座るな。凜殿に守られていたようで御座るし、氷道殿と凜殿たち女の子を守れない男はまだまだに御座る」
んー、やっぱりライはなんかフツーとは感性がずれてるなー、と思いながら、ライに意外な言葉で咲夜は返した。
『でも、たしか敦也くんが生き返る目的は生前の幼馴染みの女の子との約束を果たすためらしいよ。わたしの勘だけど敦也くんはその幼馴染みの女の子のことが好きだって。うん、だから敦也くんを振り向かせるには結構な力が必要なんじゃないかな』
「ほう……」
『だってさ、その幼馴染みの女の子のことを死んでもなお一途に思っているんだよ。それなのに、この世界で他の女の子を好きになることは難しいんじゃないのかな』
小学三年生にしては倫理的な咲夜の発言に、ライは、そうで御座るな、と納得して頷く。
「……べつに拙者は敦也殿が好きというわけではないが、後学のために聞かせてくれぬか咲夜殿。どうすれば敦也殿が振り向くのかを」
若いくせに色々と知識のある咲夜にライは問う。恋愛感情の感性が他人とはかなりずれているライはしっかりせねばと思うことも多々あるのだ。
『そうだねー。じゃーさ、まず凜ちゃんと美崎ちゃんを見てごらんよ』
「凜殿と氷道殿に御座るか?」
今度はライは首を傾けた。咲夜の話した内容が理解できなかったのだ。
『凜ちゃんは敦也くんに着替えを二回も見られているんだよ』
「クソな男で御座ったか敦也殿は。まず更正させるために、本気で半殺しにするか」
『いやいや、落ち着いて話を聞いてよ。敦也くんはね悪気があったわけじゃない。不慮の事故だったんだよ、凜ちゃんの着替えを見てしまったのは』
「ほう、ならば仕方ないで御座るな。……それで」
『ライはさ着替えを誰かに見られたら恥ずかしいよね』
「それはもちろん……相手が男性だった場合は本気で殴るで御座る」
『だよね、フツーそうだよね。わたしもそうだし、凜ちゃんもそうだよ』
拙者はおかしくはないで御座るな、と謎の安心感を心を覚えながら、
「凜ちゃんは敦也殿と仲が良さそうで御座るな」
違和感を感じて、疑問を口にした。
『いいね、いいとこに気がついたね、さすがライだよ。何回も何十回も着替えを見られたら、フツーなら嫌いになるはずだよね。にも拘わらず、凜ちゃんはなぜかどんどん敦也くんに近づいていっている気がするんだよね』
「距離が近づいているで御座るか……つまり、着替えを覗けば仲良くなれるで御座るか?」
そうで御座ろうか? と少し不安げにライは内心で小首を傾ける。
『んー、かもしれないね。あと他にね、凜ちゃんはダンジョン攻略で死にかけたときにね敦也くんに助けられたんだ。まるでヒーローがヒロインを助けるかのごとく』
「ほう、やはり敦也殿は強い魂を持っているで御座るな」
うなずいて、むしろそっちのほうが凜殿が敦也殿に好意を寄せ始めた理由ではないのか、と思った。
『ライはさ、超強いじゃん』
「マスターに比べればまだまだ強くはないで御座るがな」
『敦也くんに今必要なのは、誰か敦也くんの心を支えてあげられる人って言うのもあるけどさ。強大な力を持った師匠の存在なんだよね。彼は努力するんだよ。夢を目標を目的を叶えるために。その突き進んだ先に何があろうと……』
「拙者たちが突き進んむ先にあるのは、【鍵の在処】に御座るが」
『はい、ライは一回口を閉じてねー』
ん、なぜで御座るか、と思いながらマスター命令に従い口を閉ざすと、咲夜が続きを話し出す。
『敦也くんはもとから運動や喧嘩が強い訳じゃない。優しくて弱い男の子だ。彼はこの世界に来て死ぬ恐怖と、死にたくはないという意思をしっかりと手に入れた。弱い彼がこのモンスターとの戦いがメインになる世界で生き返る道で戦い抜くためには強くなるしかない。だから、たぶんだけどね、凜ちゃんや美崎ちゃん、おまけにライが色仕掛けとかして敦也くんを誘惑しても完全に振り向きはしないと思うよ。そりゃー、思春期の男子高校生だから嬉しいだろうけどさ。彼にはもう心のそこから守りたい大事な人がいるんだよ。もちろん彼は凜ちゃんや美崎ちゃんに広太や空、ギルドの仲間のことも大事に思って守りたいって思っているさ』
ライは途中から瞳を閉じて咲夜の言葉を聞いていた。小学三年生の幼女なのにしっかりとまわりを見ていて、ギルドメンバーの心情を把握している。その素晴らしさに感銘を受けていた。さらに、敦也の覚悟にライは無意識に微笑みを浮かばせていた。
「咲夜殿、心配はいらないで御座るよ。敦也殿が強くなっても、拙者は敦也殿を好きにはならないで御座るから……あくまで関係は師弟。拙者はそれを望んでいたので御座るから」
『……そっか』
咲夜が、ライの気分の晴れた清々しいような口調に満足したように頷いた。
『そういえばさ、凜ちゃんはどうやって鍛える予定なの? ライって剣術は苦手なほうでしょ』
ライの武器は能力の雷と拳である。雷を色んな形に変形させたりもするが、最終的な奥義は全力で雷を乗せて力一杯殴るだけである。
「ん……拙者は凜殿のトレーニングには関与しない予定で御座るよ。拙者は敦也殿を全力で鍛え上げたいで御座るから」
『じゃー、誰が凜ちゃんを鍛え上げるのさ?』
リング越しでも咲夜が首を傾けて、むむむ、と唸っているのが伝わる。
ライには剣術を教えることはできない、さらに今回は敦也に付きっきりになりない。残された凜を鍛え上げる人材は、
「拙者がブラックゾーンで見つけた仲間である幽輝と操介を使うで御座るよ」
シルクハットにスーツの幽輝と七両編成のこの列車の操縦士である操介。彼らはライがギルドから出て見つけた人間なのだ。ライに付いていった彼らの力もそれなりに強いのだ。二人の能力が強いのもあるが、二人はさらに神器持ちなのだ。
「二人は神器を持っている、さらに神器解放までも使えます。拙者は凜殿に神器解放を教える予定で御座る」
『でも、神器解放は教えたからといってできるものじゃないよね……』
「凜殿の戦闘経験値や剣術のレベルはかなり低いし、神器との共鳴率も低い。しかし、彼女には強くなろうという意思と守りたいという意思はもう強くあるで御座るよ。モンスターに臆せずにそう思えているならすぐに神器解放が使えるようになるで御座るよ」
『うん、任せるよ……ライの言うことをわたしは信用しているからね』
咲夜殿はギルドメンバー全員を信用しているので御座ろう、と微笑むとリングから咲夜の小さな寝息が聞こえてきた。
もう睡魔に堪えるのが限界になったのだろう。今まで起きていてライにしっかりと実のある話をしていたことが凄いのだ。
「……ゆっくり休むで御座るよ、マスター」
ライは目を覚ましたら始めるトレーニングメニューを考えながら横になった。
と、広太は人狼女王に返すと脳裏に静寂が訪れた。広太はシークワーサーの缶ジュースをあおり、満天の星空を見上げた。
『閉ざされた世界』に来てもうかなりが経過して強くなったと思っていたと広太もまだまだ弱いのだ。能力を巧みに使えても、神器と共鳴して神器解放ができても仲間を大事な人を守れなければそれは力とは言わない。本当に必要な時に現れない力を無力と呼ぶのだ。
彼は、自分がまだまだいかに未熟で無力だということを思い出しながら、敦也や凜だけじゃないなぁ、と考えた。
「三ツ星ぐらい俺一人ですぐに倒せるようにならなくちゃな」
シークワーサージュースが入っていた缶を握りつぶして、決意を固める。すると背後から、
「あんま一人で行きすぎるなよ」
岩場に寄りかかっている空の声がした。寝言かと思ったが違った。続けて空は言う。
「僕の能力は戦闘には向かないよ。守ることにしか特化していない。それでも守りきれないものがあったんだ。だからさ、広太が一人ですべて背負い込む必要はないよ……僕も、僕たちも必ず強くなるからさ」
僕たちもというのには、敦也と凜も含まれているんだろう。広太よりも若くて幼い空が彼にそのような安心させることを言ったことを頼もしく思いながら、
「かっ、気にすんじゃねぇよ、馬鹿空が。今度あの鎧騎士と出会ったら俺が絶体にに倒してやるよ。だから、安心して俺に付いてこい!」
振り返って空の頭を掴んでわしゃわしゃした。不器用な広太からすればこれは感謝を示しているのだろう。
空も、なにするんだよ、と言いながら笑顔を浮かばせている。広太がいつも通りに戻ったことを嬉しく思ったのだろう。
「あと倒すのは俺じゃなくて、俺たちだからね。僕たちは仲間なんだからさ」
頭をわしゃわしゃされながら、空は広太にそう言った。
「あぁ、便りにしてるぞ……空も敦也も凜も……」
広太は空の頭から手を離して、笑顔を浮かばせた。それを見た空は穏やかな表情を作り息を吐くと、
「ねぇ、広太。このまま僕たちは『青色の世界』に行っていいんだよね。敦也兄や凜姉や氷道さんはいないけど……あとで必ず合流するんだよね」
「ん、あぁ、敦也たちなら後で合流するだろうよ。だから、俺たちはとっとと安全圏の『青色の世界』の領土内に行こうや」
広太はそう言うと立ち上がり、目に見えない向こうにある『青色の世界』の領土がある地点を見た。
※
『えーと? それでライが分断されてしまった敦也くんを助けてくれたってことなんだよね?』
リングの力で『夢見る猫たち』領土内にいるギルドマスター・根城咲夜の声が聞こえてくる。
「そうなんですよー。いや、たまたま拙者が通りかかったらピンチな状況が見えまして助けたので御座る。まさかそれが仲間だっとはなんたる偶然……」
ベッドの上に寝転んでいた来谷燈火は、笑いを含んだ声を上げてから、よいしょ、と跳ね起きた。
時間はもう午前零時を越えている。列車の四両目にある自分の部屋。タンクトップに下着だけという、あまり他人には見せられない格好だ。少なくとも男性には見せたくはない格好である。湿気の残っている明るいオレンジ色のミディアムロングの髪はまだ濡れている。首にはタオルがかけられている。
『いやー、ライは別件で忙しいはずなのに面倒なことに巻き込んじゃってごめんね』
「いや、こんな夜中に小学生に電話している拙者も悪いで御座るな」
長電話の相手である咲夜は年齢はまだ小学三年生なのだ。ギルド・『夢見る猫たち』のギルドマスターをしているが小さく幼く可愛い少女、いや幼女なのだ。それなのにこんな時間に長電話をしているなどと咲夜の保護者的なポジションにいる夢猫のアナウンサー・京子さんにライと咲夜酷くは怒られてしまうかもしれない。絶体怒られるだろうなぁ。
「眠くないで御座るか、咲夜殿」
ライは心配そうに咲夜に訊くが、
『ん、大丈夫だよ、眠くないよ……ふぁ~ぁ』
彼女は平気な様子で答えるが、最後にしたあくびが無理をしている証拠だった。ライはできれば手短に話を終わらせようと思いながら、また口を開いた。
「敦也殿と凜殿は拙者がしばらく預からせてもらうで御座る。いいですよね、咲夜殿。二人ともたしかに力には魅力を感じるが……発展途上。ちゃんと発展しなければこの先簡単に死ぬで御座るよ……それは嫌で御座ろう。だから、拙者がしっかりと二人を鍛え上げてみせるで御座る」
「ん、敦也くんと凜ちゃんに美崎ちゃんはライに預けておくよ。広太たちには先に『青色の世界』に行くよう連絡しておくよ」
さすがマスター、しっかりしてるで御座る、ライはそう思いながら、敦也と凜の状況を思考に浮かばせた。
「敦也殿のほうは拙者が鍛え上げさせてもらうが、それでいいか。拙者と同じ雷の能力者。拙者が持つ技をすべて叩き込もうと思うで御座る」
『ライは敦也くんを気に入ったの?』
「そうですね、拙者弱い男には興味がないで御座るが、弱いけど弱いなりにどうにか現状を打開しようと奮闘する男は好きで御座るよ」
『ふーん、たしかに敦也くんはかっこいいしね』
幼女らしく、女の子らしい恋ばなに話がずれていくなか、咲夜はうきうきとした心情でライト話していた。
「そうでござるか、かっこいいかと聞かれれば、現状はイマイチで御座るな。凜殿に守られていたようで御座るし、氷道殿と凜殿たち女の子を守れない男はまだまだに御座る」
んー、やっぱりライはなんかフツーとは感性がずれてるなー、と思いながら、ライに意外な言葉で咲夜は返した。
『でも、たしか敦也くんが生き返る目的は生前の幼馴染みの女の子との約束を果たすためらしいよ。わたしの勘だけど敦也くんはその幼馴染みの女の子のことが好きだって。うん、だから敦也くんを振り向かせるには結構な力が必要なんじゃないかな』
「ほう……」
『だってさ、その幼馴染みの女の子のことを死んでもなお一途に思っているんだよ。それなのに、この世界で他の女の子を好きになることは難しいんじゃないのかな』
小学三年生にしては倫理的な咲夜の発言に、ライは、そうで御座るな、と納得して頷く。
「……べつに拙者は敦也殿が好きというわけではないが、後学のために聞かせてくれぬか咲夜殿。どうすれば敦也殿が振り向くのかを」
若いくせに色々と知識のある咲夜にライは問う。恋愛感情の感性が他人とはかなりずれているライはしっかりせねばと思うことも多々あるのだ。
『そうだねー。じゃーさ、まず凜ちゃんと美崎ちゃんを見てごらんよ』
「凜殿と氷道殿に御座るか?」
今度はライは首を傾けた。咲夜の話した内容が理解できなかったのだ。
『凜ちゃんは敦也くんに着替えを二回も見られているんだよ』
「クソな男で御座ったか敦也殿は。まず更正させるために、本気で半殺しにするか」
『いやいや、落ち着いて話を聞いてよ。敦也くんはね悪気があったわけじゃない。不慮の事故だったんだよ、凜ちゃんの着替えを見てしまったのは』
「ほう、ならば仕方ないで御座るな。……それで」
『ライはさ着替えを誰かに見られたら恥ずかしいよね』
「それはもちろん……相手が男性だった場合は本気で殴るで御座る」
『だよね、フツーそうだよね。わたしもそうだし、凜ちゃんもそうだよ』
拙者はおかしくはないで御座るな、と謎の安心感を心を覚えながら、
「凜ちゃんは敦也殿と仲が良さそうで御座るな」
違和感を感じて、疑問を口にした。
『いいね、いいとこに気がついたね、さすがライだよ。何回も何十回も着替えを見られたら、フツーなら嫌いになるはずだよね。にも拘わらず、凜ちゃんはなぜかどんどん敦也くんに近づいていっている気がするんだよね』
「距離が近づいているで御座るか……つまり、着替えを覗けば仲良くなれるで御座るか?」
そうで御座ろうか? と少し不安げにライは内心で小首を傾ける。
『んー、かもしれないね。あと他にね、凜ちゃんはダンジョン攻略で死にかけたときにね敦也くんに助けられたんだ。まるでヒーローがヒロインを助けるかのごとく』
「ほう、やはり敦也殿は強い魂を持っているで御座るな」
うなずいて、むしろそっちのほうが凜殿が敦也殿に好意を寄せ始めた理由ではないのか、と思った。
『ライはさ、超強いじゃん』
「マスターに比べればまだまだ強くはないで御座るがな」
『敦也くんに今必要なのは、誰か敦也くんの心を支えてあげられる人って言うのもあるけどさ。強大な力を持った師匠の存在なんだよね。彼は努力するんだよ。夢を目標を目的を叶えるために。その突き進んだ先に何があろうと……』
「拙者たちが突き進んむ先にあるのは、【鍵の在処】に御座るが」
『はい、ライは一回口を閉じてねー』
ん、なぜで御座るか、と思いながらマスター命令に従い口を閉ざすと、咲夜が続きを話し出す。
『敦也くんはもとから運動や喧嘩が強い訳じゃない。優しくて弱い男の子だ。彼はこの世界に来て死ぬ恐怖と、死にたくはないという意思をしっかりと手に入れた。弱い彼がこのモンスターとの戦いがメインになる世界で生き返る道で戦い抜くためには強くなるしかない。だから、たぶんだけどね、凜ちゃんや美崎ちゃん、おまけにライが色仕掛けとかして敦也くんを誘惑しても完全に振り向きはしないと思うよ。そりゃー、思春期の男子高校生だから嬉しいだろうけどさ。彼にはもう心のそこから守りたい大事な人がいるんだよ。もちろん彼は凜ちゃんや美崎ちゃんに広太や空、ギルドの仲間のことも大事に思って守りたいって思っているさ』
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「咲夜殿、心配はいらないで御座るよ。敦也殿が強くなっても、拙者は敦也殿を好きにはならないで御座るから……あくまで関係は師弟。拙者はそれを望んでいたので御座るから」
『……そっか』
咲夜が、ライの気分の晴れた清々しいような口調に満足したように頷いた。
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「ん……拙者は凜殿のトレーニングには関与しない予定で御座るよ。拙者は敦也殿を全力で鍛え上げたいで御座るから」
『じゃー、誰が凜ちゃんを鍛え上げるのさ?』
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ライには剣術を教えることはできない、さらに今回は敦也に付きっきりになりない。残された凜を鍛え上げる人材は、
「拙者がブラックゾーンで見つけた仲間である幽輝と操介を使うで御座るよ」
シルクハットにスーツの幽輝と七両編成のこの列車の操縦士である操介。彼らはライがギルドから出て見つけた人間なのだ。ライに付いていった彼らの力もそれなりに強いのだ。二人の能力が強いのもあるが、二人はさらに神器持ちなのだ。
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『でも、神器解放は教えたからといってできるものじゃないよね……』
「凜殿の戦闘経験値や剣術のレベルはかなり低いし、神器との共鳴率も低い。しかし、彼女には強くなろうという意思と守りたいという意思はもう強くあるで御座るよ。モンスターに臆せずにそう思えているならすぐに神器解放が使えるようになるで御座るよ」
『うん、任せるよ……ライの言うことをわたしは信用しているからね』
咲夜殿はギルドメンバー全員を信用しているので御座ろう、と微笑むとリングから咲夜の小さな寝息が聞こえてきた。
もう睡魔に堪えるのが限界になったのだろう。今まで起きていてライにしっかりと実のある話をしていたことが凄いのだ。
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