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青色の世界と黄金の鎧騎士
こんな風に起きれたらいいよな
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辺り一面に木々が広がる林の中に停まっている七両編成の列車の一室。窓辺から洩れ射す朝陽を浴びながら、桜井敦也は目を覚ました。
「先輩! 先輩ってば起きてください!」
目覚ましの代わりに耳元で鳴り響いているのは、凜の甲高い声だ。
とっくに着替えを済ました彼女が敦也を起こすために、部屋に入ってきたのだ。彼女は部屋のカーテンをこじ開けて、直射日光から逃げようとする敦也のタオルケットを奪い取る。
「朝ですよ、起きてください。もう皆さん食堂がある五両目に行ってますよ。今日からライさんたちからトレーニングを受けるんですよ、しっかり朝ご飯食べてエネルギーを補充してくださいね」
「ごめん、凜……あと一分ぐらいだけさ寝かせてくれ」
うつ伏せて枕に顔を埋めながら、敦也はかすれた声で頼りなくうめいた。
昨夜日付が変わる前までライと話していたのだ、敦也が眠れたのは深夜一時過ぎだ。戦闘で体力を消費して、さらにはライから話を聞いたあとでこれだけの睡眠量では、どう考えても寝不足だ。凜も一緒に話を聞いていたはずだが、何で朝から元気なのだろうか。
「先輩……さっきもそう言いましたよ。もう、知りませんよ先輩。ちゃんと起きてきてくださいね」
諦めたように溜め息を吐いて、凜が部屋を出ていく気配がした。
凜から取り返したタオルケットで頭を覆って、敦也は落ち着いて一息つく。遠ざかっていく仲間の足音を聞いていると、近づいてくる足音があることに気づいた。
敦也は半目で近づいてくる正体を確かめると、そこには一人の少女がいた。
氷道美崎だ。彼女は普段の学校の制服のような青と白のセーラー服に着替えていた。そして、右手にフライパンが握られていた。
「お寝坊さんの敦也くん、わたしが今から何をするかわかるかしら」
彼女は静かにそう訊きながらフライパンを高く持ち上げた。
敦也は次の瞬間に何が起きるのかを察して、すぐさまに身体を捻らせて攻撃を回避した。氷道はフライパンを敦也目掛けて振り下ろしたのだ。
「おい、氷道なにするんだよ!?」
「ごめんなさい、次はちゃんと当てるは……」
そして、また氷道は静かにフライパンを高く持ち上げる。
敦也は身体を高速で動かしてベッドの上に正座した。
「起きました、もう起きましたよ! だから、その危ないフライパンは下ろそうぜ!」
「あら、もう遅いわ」
かーん、と朝の列車内にフライパンと頭蓋骨がぶつかるハーモニーが広がった。列車内では、凜が息を吐き、ライが微笑み、幽輝と操介は騒がしくなったと呆れた。
頭に凶器フライパンが直撃して脳が揺れて完全に眠りから覚めながら、敦也が思い出していたのは、昨夜のライとの会話の内容だった。
「ーーその覚悟はいい……拙者も鍛えがいがあるで御座るな。そうだな、そっちに隠れている凜殿もこっちに来て話を聞いたらどうで御座るか?」
敦也の覚悟を聞いたライはうなずいてから、部屋の入口を細めた瞳で見て、身を潜めていた少女の名を呼んだ。
「……バレていたんですか……?」
凜は入口の影から身体を出す。気配を気づかせずに潜んでいたつもりだったのだろう、ハイディングが見抜かれて若干悔しそうな顔をしていた。
敦也は凜の気配に気づけなかった。やはり、ライとの差なのかと思いながら、彼女に訊いた。
「なんで隠れてたんだよ?」
「だって一回部屋から出たのに戻ってきたら入りにくいじゃん!」
凜が敦也に入口から噛みつきそうな勢いで言う。まぁ、たしかにその気持ちはわかる。
ライが無邪気な笑顔で、敦也と凜を眺めてから、
「まぁまぁ、凜殿も座ったらどうで御座るか?」
「あ、……はい」
見た目は敦也や凜よりも小さくて若そうに見える。咲夜は小さくてもしっかりとギルドマスターとしての威圧感がある。ライからもそれに似たものが感じられた。彼女は敦也や凜よりも年上なのか年下なのか判断ができなかった。年下だとしても、敦也と凜はライを尊敬することには変わりない。氷道を含めた三人の命はライに救われたのだから。
「さて、長話になりそうな気がするな……操介、茶と菓子を持ってくるで御座る」
「あいよ」
ライは運転席に座っていたライに指示をすると、んー、と伸びをした。
「あぁ、ちなみに拙者は高校三年生で御座るよ。だから、瀬尾殿や月影殿と同級生だ、だと言っても敬語とかはべつにいらないで御座るよ」
その発言に、敦也と凜は驚きを隠せなかった。ライの低い身長で高校三年生とは思えなかったのだ。咲夜とほぼ同じぐらいの身長なのに。
「マジで高三なのか?」
「マジで御座るよ」
「はぁ……」
敦也がライに聞き直し、彼女の返答に敦也の隣に座った凜は驚きが混じっている小さな息を吐いた。
「凜殿は何をしに来たで御座るか? トレーニングの詳しい内容は明日に話すで御座るよ……だから、今日は明日のために寝たほうがいいで御座るよ」
ライの問いかけに、凜は首を横に振った。
「いいえ、トレーニングの内容を聞きに来たんじゃありません。わたしはもっとこの世界……『閉ざされた世界』について知りたいと思って、ライさんに話を聞きに来ました」
凜の確かな意思を持った瞳を細めた瞳で眺めるライは、
「真面目だねぇ……」
と呟いて、瞳を開いて楽しげに笑いながら問う。
「それで、拙者は何を答えればいいで御座るか?」
「はい……まずは十つあったギルドについて詳しく教えてください」
「…………長くなるで御座るよ」
ん、と試すように敦也と凜に微笑むと、
「それがわかっていたから、操介、さんに茶と菓子を取りにいかせたんじゃないのか?」
敦也が、さっきライが操介に指示を出したことを思い出した。
「あれは拙者の腹がすいたからで御座るよ」
「長くなっても構いません、この世界の話を詳しく聞かなければ強くなったとしてもこのまま前に進めないかもしれませんから」
たしかに見据えた未来を考えて凜が告げる。彼女は頑張りすぎな気がするな、と思いながら、ライは頷いた。
「まぁ、遅かれ早かれ『閉ざされた世界』についての詳細や十つのギルドについては話さなければいけないで御座るからな……今話しておくで御座るか」
「ライの姉貴、テキトーに持ってきたぞ茶と菓子」
「ん、すまないな。操介も先に寝てていいで御座るよ」
テーブルにライと敦也と凜のぶんの茶と菓子を置いた操介は部屋から出ていった。
ライは湯飲みに注がれた茶を飲んで、満足そうな息を吐いた。
敦也と凜も茶を喉に通すと美味しさが脳内に刺激した。操介はかなり茶を点てるのがうまいらしかった。敦也が、ミサトの茶のほうがまだ美味しいかな、と吟味しているとライは口を開いた。
「さて、ではまず十つのギルドの名前は知っているで御座るか?」
「いえ、全部は知らないです」
「知ってるのはというか聞いたことがあるのは『生き返る道』と『青色の世界』と『No.S』だけだよな」
「あとは拙者たちが所属している『夢見る猫たち』に御座るな」
今は解散壊滅したギルド・『No.S』と自分たちのギルドを含めたとしても敦也と凜が知っているギルドは四つだけなのだ。あと六つも知らないギルドがあるのだ。
「とりあえず、敦也殿と凜殿が知らないギルドの名前から教えていくで御座るか……一つ目『死んだ世界冒険隊』、二つ目『地獄の門』、三つ目『天界の扉』、四つ目『七つの大罪』、五つ目『紅蓮の騎士帝国』、六つ目『黄金の星団』……二つ目と三つ目と四つ目のギルドはまだ覚えないでいいで御座るよ」
「え、何でですか?」
「……生存派ギルドのことを気にする必要はないってことか……」
敦也が前回咲夜に聞いたことから察して、ライの言葉に理由を付け加える。
「お、敦也殿察しがいいで御座るな、よく勉強している」
「生存派ギルドって?」
「凜も一緒に咲夜から話を聞いたよな」
ちょこんと隣で首を傾ける凜に、敦也は、はぁ、と息を吐いた。
「簡単に言えば、『閉ざされた世界』で生きていこうとしているギルドで御座るよ。何せこの世界では歳をとらないで御座るからな、モンスターに殺されない限りは死なない、つまりは不老不死に近い状態になっていると言っても過言ではないので御座りますよ、拙者らは」
「……お、思い出しましたよ」
「ほんとかよ」
ライが凜のために三つの生存派ギルドについて説明して、凜が強く頷く。
「先に話すなら『死んだ世界冒険隊』だな。『死んだ世界冒険隊』は拙者らや、『青色の世界』に似たゆっくり攻略派はギルドに御座る」
「時間をかけてじっくりこの世界を攻略して【鍵の在処】を目指す感じか」
「そうで御座る。『死んだ世界冒険隊』通称SSBTはまぁ夢猫よりは弱いで御座るな」
「え、じゃー『青色の世界』はどうなのですか?」
凜が訊くとまたしてもライは指を一本だけ立てて答える。
「『青色の世界』よりも拙者ら夢猫が強いで御座るな」
ライのそんな答えに当然敦也は疑問に思った。
「夢猫って強いほうだったのか!?」
「ん、なにを今さら……夢猫は強いギルドで御座るよ」
「だって戦力が少ないじゃないですか!?」
凜も敦也と同じ疑問を思っていたらしく、ライに反応する。
「それは敦也殿と凜殿が知っている夢猫が本気を出していないからで御座るよ。瀬尾殿が戦えれば一騎当千なんて言葉では片付かなくなる。それぐらいに瀬尾殿は強い……さらに、夢猫の最大最強戦力が基地にいつもにいないという理由もある。あ、ギルドマスターやサブマスターを抜いてで御座るが」
「つまり、ライさんや雲竜寺さんに夜鶴さん、祐希以上ってことか」
操介が持ってきてくれたみたらし団子を一気に二つくわえて敦也が訊ねる。
「そうで御座る……そいつとそいつの相棒二人は四年前から咲夜殿から頼まれた別の依頼をしているので御座るよ。簡潔に言おう、夢猫戦力は本気を出せば強いのだ」
「「……はぁ」」
敦也と凜はシンクロして息を吐くように呟いた。
「が、本気を出せないから『青色の世界』と同盟を結んで力を上げようとしたんで御座ろう」
「ところで、『死んだ世界冒険隊』とは同盟を組まないのか? 同じゆっくり攻略していく派なんだったら、そのSSBTとも同盟を組んで損じゃないだろ」
「ん、敦也殿の言うことは正しいで御座るが。SSBTの基地は夢猫の基地からかなり遠くて遠征や会談に行くには時間がかかってめんどうだから先送りにしてるので御座るよ……あと、SSBTのマスターはめんどくさいし」
「『死んだ世界冒険隊』と組まないにしても今後他のギルドと同盟を組む予定はあるのですか?」
凜が問うと、ライは首を縦に動かして肯定した。
「咲夜殿の考えによると、これから『紅蓮の騎士帝国』と『黄金の星団』と『死んだ世界冒険隊』とも同盟を組んで行きたい予定らしい御座る」
「……生存派ギルドと『生き返る道』以外ってわけか」
「生存派ギルドには怪しい噂があるし、『生き返る道』は強大な力を持つが影には何かがあって嫌だと咲夜殿が言ってたで御座る」
『生き返る道』はたしかに影に何かがありそうとは敦也も思っていた。『No.S』破壊案や一時的だが【鍵の在処】を目指さない条約、さらにギルド相互不可侵条約。それらを九天会議で提案したのは『生き返る道』のマスターだ。
一時的だが【鍵の在処】を目指さない条約とギルド相互不可侵条約はまだ理解ができる。だが、『No.S』破壊の提案は理解ができなかった。咲夜から詳しく聞いたところ、『No.S』破壊を実行したのは、『生き返る道』と『地獄の門』と『天界の扉』と『七つの大罪』らしい。つまり十つあるギルドのうち最強のギルドと生存派ギルドなのだ。
なぜ『No.S』を破壊したのかは『生き返る道』のマスターに聞かなければわからないだろうが、それでも『生き返る道』が『No.S』を破壊したのは違うと思う。
モンスターに抗って『閉ざされた世界』中心の塔の最上階にある【鍵の在処】を目指す。目的は生存派ギルド以外は皆同じだろう。だから、人間同士で争うのは違うと敦也は思っているのだ。
一つ疑問が浮かぶ。
「なんでギルド相互不可侵条約があって夢猫と『青色の世界』は同盟できた?」
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