鍵の在処ーカギノアリカ

カルトン

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青色の世界と黄金の鎧騎士

毎日起きれるって幸せだな

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「いいところに気づいたで御座るな敦也殿。ギルド相互不可侵条約があったら同盟なんて御法度……夢猫と『青色の世界ブルーワールド』の同盟は『生き返る道リビング・ロード』や生存派ギルドにバレぬよう秘密裏に行われたで御座るよ」
なるほど、と頷きながら『紅蓮の騎士帝国』、『黄金の星団』、『死んだ世界冒険隊』との同盟を結ぶときも『生き返る道』や生存派ギルドにバレぬよう秘密裏に行わなければいけないのを大変だと思った。
「そもそも同盟を結んで何がしたいんだ? さっきライは言ったよな、夢猫はかなり強いって。だったら何でたくさんのギルドと同盟を結ぶんだ」
ライは敦也の問いかけに一度目を丸くして、うむ、と頷いて彼を見つめた。
「その質問に対する答えは、『閉ざされた世界』はそんな簡単に攻略できないということに御座るよ……夢猫は強いで御座る。だけど、ブラックゾーン中心部にいるモンスターは最高レベルの十ツ星。まだどのギルドもブラックゾーン中心部には到達してないで御座るよ」
『閉ざされた世界』のモンスターの強さは、世界の中心、【鍵の在処】がある塔に近づくにつれて強くなっていく。十つのギルドがある場所は中心からは遠く出現するモンスターは四ツ星が最高レベルだろう。
最高レベルは十ツ星。だけど、敦也が倒したことのモンスターの最高レベルはまぐれで三ツ星。しかも昨日は凜と協力しても三ツ星を倒せなかった。
三ツ星だけでもまだまだ敦也には手に負えないのに、十ツ星モンスターがいるブラックゾーン中心部に行ったら敦也なんて瞬殺だろう。
「一つ一つのギルドが協力しなきゃモンスターが強すぎるから【鍵の在処】にはたどり着けないのか……なるほどな」
だったら何で十年前に十個のギルドの分断化がされたのだろうか。個の力では勝てないと十年前からわかっていたはずだ。どうして。
「けど、まだまだ敦也殿や凜殿がギルドの政略や『閉ざされた世界』の攻略を気にする必要はないで御座るよ。二人は今は強くなること、精進することだけを考えるに御座る」
微笑みながらライがそう言い、みたらし団子を串に刺さっていた団子をすべて一気に口にくわえた。
「そうだな、やっぱまずは強くならなきゃな」
敦也が椅子に深く腰かけて、列車の窓から見える星空を眺めた。
「あのー、ライさんは基地には帰ってこないのですか?」
口を開いたのは凜だ。たしかにライが帰ってくれば攻略組の攻略速度も速くなるだろう。ライが帰ってくることにはメリットしかない。
「たしかに二年ぐらい帰ってないが、拙者はまだやるべきことがあるので帰れないので御座るよ……だから二人とも拙者の代わりに今のギルドを守れるように強くなるで御座る」
愉しげに微笑むライに向かって、敦也と凜が静かに頷いてみせる。
それが昨夜のライとの会話の一部始終。雷の能力者同士と少女との対談は、こうして終わりを告げたのだった。
そしてーー

「敦也くん! 敦也くんってば!」

不意に耳元で聞こえてきた声に、敦也は驚いて目を覚ます。
決して不愉快ではない声だ。むしろ耳に馴染んできて心地良い響きだ。しかし静かで冷たい違和感がある。何で彼女の声がこんな近くから聞こえてくるんだーー?
「まさかわたしのフライパンで気絶するとか、そこまで強くやったかしら? 食器洗いたいから、早く起きてくれると助かるのだけど」
弱く優しく身体を揺すられて、敦也はゆっくりと瞼を開いた。
長い夢を見ていたせいなのか、意識がまだわずかに混乱している。視界に映る少女の姿に、実感がイマイチ湧いてこない。手入れの行き届いた青色の髪と、形の整った眉。どこからどう見ても華やかな顔立ち。柔らかな体温と仄かな石鹸と服についた芳香剤の香りに、敦也はぎょっとして起き上がり、
「ひ、氷道?」
「おはよう、やっと起きた二度寝の敦也くん。遅いわよ」
早朝の列車内にて借りた敦也の部屋。まだ慣れていない環境。寝起きの敦也を冷たい瞳で見下ろして、氷道美崎が静かに笑っていた。





敦也は最初この未体験の状況に驚いていた。しかし、最初だけであった。そこにいた人物が氷道であると頭で完全に理解すると、冷静にもうなっていた。
ライと凜との昨夜の対談を夢に見て決意を固めた直後に理解しがたい出来事に遭遇して、完全にライから聞いた話よりも衝撃がこちらのほうが上だった。
ベッドの端に座り、呆然としている敦也を見下ろすようにして、氷道が彼のシャツがめくれた腹に柔らかな手を伸ばして、腹をさらに伸ばした指でなぞる。
「敦也くん……。これ以上寝るんだったらお仕置きするわよ。例えば、死刑とか!」
「……落ち着けよ氷道。死刑とかもはやお仕置きってレベルじゃないから」
あまりにも可愛らしかった彼女の仕草に、敦也は不気味さと気味悪さを感じていた。
顔の造形は間違いなく文句なしに完璧な美人の範疇だ。だが、その美人の口から吐かれるのは甘い優しい誘惑の声ではなく、冷たい研ぎ澄まされた氷柱のような暴言がだいたいなのだ。だから敦也は氷道を美人とは思いつつ、怖いとさえ思っていた。しかし、そんな彼女がいきなり可愛く迫り甘い言葉? を囁いた、どう考えても警戒心しか湧いてこなかった。
当の氷道本人も、なんか違うと判断したのか、腹に伸ばした手を引っ込めてから、冷たい笑みを浮かばせた。
「たしかにそうね、死刑はダメよ。そんなことより、敦也くん、あなたまったく嬉しくなさそうね? あなたって本当に男なのかしら?」
「なんでいきなり性の確認してくるんだよ。俺は男だよ!」
「けど、氷道さんが今のことをやったら男だったら勢いよく立ち上がるって言ってたから……騙されたのね、わたしは」
やれやれ、と短く息を吐きながら、氷道が天井を仰ぐ。
そんな彼女の態度を見て、敦也はさらに違和感を感じた。
「なぁ、氷道……すまないな昨日は。ちゃんとお前を守れなくて。恐かっただろモンスターに迫られて……ごめん」
氷道は敦也の言葉を聞くと、少しだけを眉を上げて、次の瞬間またフライパンが敦也の頭に振り下ろされた。
が、その振り下ろしには一切の力が込もってなくて、頭とフライパンがただ触れ合ったようだった。
「バカね、敦也くんは」
「はぁ!?」
たしかにバカだけど、と思いながら敦也は驚声を上げた。
「たしかに恐かったわよ。あんな恐いモンスターに迫られて。わたしはずっとギルド基地の中にいた。それだけで良かった。他の皆が命懸けで戦ってるのに、わたしはギルド基地の中でギターを弾いたり歌ったりしてることしかしてなかった。そうしている間にも仲間が誰か死んじゃうかもしれないのに…………わたしは酷い人ね、モンスターの恐怖から逃げて。辛いことは他人に任せて、やりたいことだけをやっている。謝るのはわたしのほうよ」
顔にフライパン当てられて見えないが、氷道の声は酷く弱々しくいつもの冷たさは感じられなかった。その声の弱さはまるでわずかにだが泣いているようだった。
彼女の言葉を聞いて、敦也はたしかにこう思ったのだ。
「氷道、お前は間違っている」
「何を言うの敦也くん……何が間違ってるって言うのよ!」
氷道がフライパンを握る強さを強めながら言う。
身体を起こした敦也は顔に当てられているフライパンを奪い去り、氷道の頬に涙伝う表情を見て、フライパンで彼女の頭を力を込めずに叩いた。
「……敦也……くん?」
「あのな、氷道。お前は何もしてこなかったって言ったけどよ。それは違うよ。お前は自分のできることを精一杯やってたじゃないか」
「わたしの……できること……」
「そうだ、氷道にはそのギターと歌があるだろ。それを聴いて俺たちは力を蓄えてるのもあるんだよ。お前のスゴい歌が俺たちに元気を勇気をくれるんだよ。自分に自信を持てよ、氷道こそバカなんじゃないか」
敦也が言いたいことを言い終わると、氷道は腕で涙を拭い去り、氷柱のような冷たい視線を敦也に向けた。
「あなたにバカって言われるとか心外だわ。でも、ありがとう敦也くん……わたしを今度はちゃんと守ってね」
「……あぁ、そのために今から強くなるさ」
これは責任重大すぎるぜ、と思いながら敦也は息を吐いて、
「つか、早くどいてくれないか。着替えたいし」
「わかったわ、早くどきますよーーって、わっ!」
ベッドに手を着いて、よいしょ、と立ち上がろうとした氷道が足を滑らせて、敦也の腹部に頭からダイブした。
「痛っ! 何すんだよ氷道!」
「仕方ないでしょ、滑ったんだから。敦也くん以外にも失敗することはあるのよ」
「俺が失敗することは当たり前みたいに言わないでくれよ!」
氷道の反応に地味に傷つきながら、敦也も反論する。追撃てして降ってきた彼女の両腕が首と足に直撃する。ぐぇ、と思わず変な声を出してしまいながら、彼女にフライパンを突きつけてどかそうとする。
「ーー氷道さん、ごめんなさい先輩を押しつけてしまい。そろそろわたしたちは修行に行きたいのですけど、敦也くん、起こしてくれましたか?」
そのとき静かに部屋のドアを開けて、入り込んできたのは凜だった。
ベッドの上でもつれるような形に、絡まっている敦也たちを見て、彼女の笑顔が瞬く間に凍りついた。
敦也と氷道も、絡まったままの姿で硬直してしまった。部屋の中に息が苦しくなる静寂がやって来た。
「……先輩と氷道さんってやっぱりそういう関係だったのですね」
その静寂を破って、凜が静かに訊いてくる。
「り、凜……!? 違うんだこれは! 氷道が転んでだな!」
「そ、そうよ、わたしが何でこんな無知で無能な最低人間とそんな関係にならなくちゃいけないのよ、わたしは嫌よ」
敦也と氷道がこの状態が事故だと言うことを証明しようとするが、氷道のはもはや暴言でしかないだろ。そんな二人の言葉を聞くと、凜は少しだけ態度を変えて、
「だって氷道さんの右手の位置がとても怪しいんですよ! それを見たら疑うしかないじゃないですか! あと、先輩は最低な人間じゃないですよ、氷道さん!」
「疑うのかフォローするのかどっちかにしてくれよ。いや、だからぜんぶ事故なんだって!」
氷道は、凜に言われて足を滑らせて転んだ拍子に放り出された右腕の先にある右手の位置に気づいた。敦也の下腹部。
「何するの敦也くん!?」
氷道は驚きながら腕を引っ込めて、身を守るように腕で自分の身体を抱く。
「だから、俺のせいじゃないだろーー!!」
明らかな不可抗力の責任を氷道と凜から問われて、敦也はもう泣きながら逃げ出したい気分になる。そしてさらにダメ押しのように、びくびく身を震わせている凜の背後から、とても小柄な人影がひょこりと顔を出し、
「……敦也殿? 朝からどうしたで御座るか?」
「え、ライさんダメです! 今の先輩を見たら修行をする気がなくなっちゃうかもしれないから!」
「……ん?」
きょとんと目を瞬きながらライが部屋の中を覗き込み、その瞬間、彼女の瞳から色と感情が消えた。小柄なのに、顔立ちが並外れて整った美少女なだけに、その色と感情の消えた瞳で睨まれると恐怖しか湧かない。
「すまん、ライ。今から起きるから! 忘れてくださいこれは!」
ライは敦也の言葉を聞くと、短く息を吐いて、にこりと笑いながら言った。
「敦也殿、最初から厳しくいく予定だったけど、変更して最初から殺すつもり修行するから心しておくで御座るよ」
そう言い残して静かに部屋を出ていった。
殺すつもりっていきなりどんな修行をするつもりなんだよ、と敦也が青ざめた直後に、
ズドォン、という破壊音と、ゴロゴロゴロ、と轟雷の音が同時にして、地面に停まっていた列車はその衝撃で激しく揺れた。
まるで小さな天変地異が近くで起こったかのような衝撃だった。なぜかわからないが、背筋に冷たい感触を覚えながら、敦也は戦慄した。
氷道は、扉の前でびくびくしている凜と、短く言い残して静かに部屋を出ていったライを思考に浮かばせて、
「これって、やきもちの一種なのかしらね?」
「そんなわけないだろ。べつに付き合ってるんじゃないんだし」
「そうね、まず無知で無能な最低人間のあなたを好きになる人なんて現れてくれるのかしらね」
氷道がなぜか嬉しそうに敦也を見た。
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