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幼馴染みだからですよね?
しおりを挟む春
冬になんとか志望校に合格して、わたし・桜川花子は明瞭高校に今日から通うことになりました。
新しい制服。新しい通学路。新しい友達。それらの理想を描きながら朝食を食べて、新しい制服に着替えて家から出ると、家の前で爽やかなイケメンな男の子が待っていました。
「おっす、桜」
男の子は手をあげながら爽やかな笑顔で、わたしに挨拶してきました。
「おはようございます、俊助さん」
わたしはお辞儀をしながら挨拶を返しました。
彼の名前は風間俊介。わたしの幼馴染みです。イケメンでかっこよくて爽やかで運動も抜群だけどたまにドジな面がある男の子です。
家が隣なので小さいときから一緒に遊んでいました。
「一緒に学校いこうぜ」
「…………いいですよ」
俊助さんの言葉にわたしはわずかに動揺しながらうなずきました。いくら高校が同じだからといって、高校生の男女が朝から一緒に登校とは変な誤解をされてしまうのではないでしょうか。
俊助さんとは小学校のときから毎日一緒に登校しています。その習慣が抜けないのかもしれません。
登校中はずっと俊助さんが話してくれます。わたしは俊助さんの話しに時おり笑い、俊助さんも笑顔になります。
学校に着きました。そして、なんとわたしと俊助さんは偶然同じクラスになりました。俊助さんは笑顔で「よかったな」とわたしに言いました。
それから高校生の日々が始まりました。俊助さんは中学から続けているバスケ部に入り放課後は体育館で猛練習。わたしは図書委員に入り放課後は図書室で読書でした。
友達付き合いはそこそこ……いいえ、ダメでした。わたしは中学の時と同様にクラスに馴染めませんでした。クラスに友達が作れませんでした。地味で不器用で人と話すことが苦手なわたしには仕方がないと諦めました。一方、俊助さんはクラスの人気者でした。ルックスも運動も抜群のことからまわりには常にたくさんの男子と女子がいました。
ある日の放課後のことです。図書室のカウンター席に座りながら本を読んでいるときでした。ふと窓の外の下をわたしは見ました。そして、見てしまいました。
そこでは、俊助さんが一人の美しい髪の可愛らしい少女になにやら告白されているようでした。声はもちろん聞こえないので雰囲気で判断しました。
少女が告白すると、俊助さんは頭を掻きながらなにやら言います。すると、少女が両の瞳から涙を流しながら俊助さんを背にして走りだしました。どうやら俊助さんが少女を振ったらしいです。幼馴染みのわたしから言わせれば、俊助さんとお似合いの美少女だったんですけど。俊助さんの好みをわたしは今も知りません。
下校時刻になり、校門に行くといつも通り俊助さんが待っていました。そして笑顔で「一緒に帰ろうぜ」と言います。わたしは苦笑いで「仕方ありませんね」と返しました。
夏
夏休みです。さらに言えば夏休みの最終日です。
クラスに友達がいないわたしは誰からも誘われることなく、一人で扇風機の前に座り本を読む毎日でした。例外と言えば俊助さんの高校初試合を、俊助さんに「見に来いよ」と言われて行ったぐらいです。
夏休み最終日の今日も例外でした。いまわたしは俊助さんの部屋で、俊助さんに宿題を教えています。明日から二学期だというのにたっぷりと宿題が残っていたのです。
わたしは友達がいないので暇だから宿題は七月中には終わりました。ですから、後はすごいごろごろできました。素晴らしいです夏休み。
俊助さんは部活の合宿やクラスメイトとの遊びで忙しかったのでしょう。
わたしは幼馴染みのよしみというやつで宿題を手伝っていました。唐突に俊助さんが言ってきます。
「なぁ、桜って好きなやついるか?」
わたしは首を傾げました。なぜそんなことをわたしに訊くのだろうと思ったのです。
「いませんよ。わたしが恋なんてするわけありません。してはいけません」
事務仕事のように冷たい声で返します。正直このような話しはあまりしたくなかったのです。
「なんでしちゃダメなんだよ」
「地味で不器用で人と話すことが苦手なわたしは誰かと付き合うなんて無理です。わたしではその人を不幸にしてしまいます」
「…………そっか」
「はい」
俊助さんがうなずいたので、わたしもうなずき返します。これでこの話しはおしまいと思っていると。
「じゃあさ、不幸にならないやつならいいんだな」
俊助さんは笑顔でそう言ってきました。
わたしはシャーペンをルーズリーフに走らせて、計算を解きながら思いました。
そんな人は絶対にいない、と。
秋
俊助さんが美少女にコクられた回数は三十回を越えていました。毎度全敗していますが。やはり俊助さんの好みは幼馴染みのわたしにはわかりません。
今日は大きなデパートに一人で来ていました。
理由は俊助さんの誕生日プレゼントを買うためです。毎年あげていて、今年は高校になりバイトできるようになったので、バイトしてお金を揃えました。
毎年この時はわくわくします。何を渡したら俊助さんが喜んでくれるか。考えるのは楽しいです。
わたしは俊助さんにバスケ用の新しいシューズを買おうと考えましたが、足のサイズを知らないので詰みました。
悩み困っていると、小さい繁盛してなさそうな占い屋がありました。わたしはそこでプレゼントに何を渡したら喜んでもらえるかを訊ねました。
わたしはその占い屋の答えを参考にしてある商品を買いました。満足してデパートにある本屋に向かっているときでした。
クラスの美少女に出会いました。名前は鶴園さんです。たしか春に俊助さんに振られていた人です。
「話がしたいのだけど、時間いいかしら?」
わたしは断る理由がないのでうなずきました。
わたしは近くの喫茶店に案内されて、鶴園さんはコーヒーを飲むと喋りだしました。
「俊助くんと関わらるのやめてくれないかしら」
「どうしてですか?」
わたしはすぐにそう訊き返していました。
「あなたのような地味な女が俊助くんと一緒にいていいと思っているんですか? 一緒に登下校していいと思っているんですか? それともあなたは俊助くんの彼女なんですか?」
「いいえ」
一気に質問しますね、と思いながら最後の質問に対してすぐに否定した。わたしが俊助さんの彼女。それは俊助さんが可愛そうである。わたしなんかが彼女では俊助さんの沽券に関わる。そこまで考えてわたしは納得しました。
わたしが俊助さんと毎日登下校しているから、俊助さんの評判が落ちそうだからわたしに関わるなと言っているのだろう。
「なんで俊助くんの彼女じゃないのにいつも一緒にいるわけ! あなたみたいな人が俊助くんと一緒にいちゃダメなのよ! あなたが、一人じゃなにもできないあなたがいるから俊助くんは誰とも付き合わないという噂もあるわ。あなたが俊助くんを不幸にしているのよ!」
鶴園さんのその言葉は胸に突き刺さりました。
知らないうちにわたしは俊助さんを不幸にしていたと知り、とても辛い気持ちになりました。
「俊助くんとまだ関わるなら覚えておきなさい」
鶴園さんはそう言って去りました。……コーヒーのお代はわたし持ちなんですね。
冬
わたしは秋のあの日以降極力俊助さんと関わらないようにしました。故に、わたしは俊助さんにプレゼントを渡していません。
ある日、別ルートでの登校俊助さんに見つかり一緒に登校することになってしまいました。
その日の放課後のことです。人がまったく行き来しない校舎のトイレにクラスメイトの女子数人に呼び出され、わたしはそこで頭の上から水をかけられました。何度も。何度も。何度も。
冬で冷たくなっている水をバケツいっぱいに何度もかけられました。
かけられたのは水だけではありません。罵声もでした。「死になさい!」「もう来るな!」「あなた何様!」「俊助くんはあんたのじゃねぇよ!」「あんたのせいだ!」数々の罵詈雑言がわたしにかけられました。
かけられながらわたしは思いました。
悪いのはわたしだから仕方がないな、と。
俊助さんを不幸にしてしまったわたしが悪い。だからこれは報いだと受けとめ。一方的な攻撃を受け続けました。
攻撃が終わり家に帰り、部屋で暖房をつけて毛布にくるまり暖まっているとリビングに渡る窓をがんがん叩く音がしました。
わたしは怖がりながらカーテンを横にスライドさせました。窓の向こうにいた人を見てびっくりしました。
そこには俊助さんがいたのです。
「俊助さん」
わたしは思わず彼の名を呟きました。
「ごめん!」
彼はいきなり頭を下げて謝りました。
「どうしてですか?」
わたしは訊ねました。
俊助さんは話してくれました。鶴園さんを筆頭にしたわたしへの嫌がらせを今日のトイレでの事件を知っているということを。
「俺が桜を大変な目に遭わせちまった……ごめん」
いつもの明るい声ではなく弱々しい口調でした。
「謝るならなんで今までわたしなんかと一緒に登下校しようと思っていたんですか!」
わたしの隠していた俊助さんに対しての怒りが出てきてしまいました。今までの陰湿な嫌がらせはわたしのせいでもある。けれど俊助さんも悪い。そのことを隠していたのです。俊助さんにそのことを言って、クラスでの関係を崩させないために。
「そ、それは…………」
俊助さんは戸惑い始めました。いつも即決な俊助さんが迷いました。
わたしはそんな俊助さんに言葉を優しい口調でぶつけます。
「幼馴染みだからですよね? わたしなんかに構ってくれるのはわたしと俊助さんが幼馴染みだから仕方なくですよね。だったらもういいです。これ以上俊助さんに迷惑かくたくはないです。だから、これ以上地味なわたしに関わらないでください。わたしは大丈夫ですから」
わたしは笑顔で言いました。
すると、俊助さんはわたしの肩を掴んで顔を近づかせて叫ぶようにして言います。
「幼馴染みだからじゃねぇよ! お前が、桜が好きだからに決まってるだろうが! だから、俺は今まで女子にコクられてもお前が好きだから断ってきた。お前と一緒の高校行くために頑張って受験勉強したし、お前にかっこいいって言ってもらうためにバスケを始めたんだ…………地味なわたしに関わらないでくださいなんて頼むから言わないでくれ、俺は桜が好きだ。だから、一緒にいたいんだよ」
次の瞬間、俊助さんの顔がわたしの顔に近づいてきて唇が触れあった。俊助さんの腕がわたしの背中に回されて強く抱き締められる。わたしは涙を流しながら目を閉じた。
後日談。というか今回のわたしの物語のオチ。
俊助さんに告白された翌日、俊助さんはクラスで机をド派手に蹴り飛ばして怒号しました。それはわたしを守るための牽制でした。クラス中呆気になるなか、わたしは教室の外から俊助さんの奮闘を嬉しく眺めていました。
いつも爽やかでかっこいい俊助さんがわたしなんかのためにあんなに怒ってくれるなんて予想外だった、と後日言ったら、俊助さんは笑いながら彼女を馬鹿にされて怒らない男はくそだろ、と笑顔で言いました。わたしは「たしかに」と笑い返しました。
わたしは俊助さんの誕生日プレゼント用に用意した手編みのマフラーを渡しました。かなり経っていましたが俊助さんは喜んでくれました。
俊助さんが、わたしからプレゼントが今年はなくて寂しかったと言ってくれました。来年も頑張らなきゃとわたしは強く決意しました。
俊助さんの怒号事件から日が経ち、わたしと俊助さんが彼氏彼女という関係になれてきたクラスメイトたちはいつも通り俊助さんとは楽しそうに会話します。わたしには誰も来ません。そんなことはわかっています。けれどいいのです。わたしを思ってくれる相手がすぐ近くにいるから。
学年末テストも終わり、わたしは俊助さんといつものようにいつも通りの下校道を歩いていた。
俊助さんの首にはわたしが渡したマフラーが、わたしの髪には俊助さんが誕生日にくれたヘアピンが。わたしと俊助さんは手を繋ぎながら、楽しそうに話ながら歩いていく。
そんな二人を祝うかのように、冬が終わり春が来たことを告げる暖かい風が吹いた。春の風が二人の距離を縮め、前に踏み出す。
応援ありがとうございます!
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素敵なお話でした。一番大切な人が傍にいてくれるなら、後は何もいらないですよね。「ですます」調が、奥手で不器用な女の子を表現するのに効果的でした。
お読みいただきありがとうございます。この作品を書いたのは2月、友達にテーマ『春の風』で短編お願いと言われて書いたらこうなりました。そのテーマを最後に使いましたけど、効果があったのかわかりません。
作者は今年受験で書く時間があまりありません。夏を舞台にした作品の青春恋愛モノの長編を考えたのですが、書く時間がありません。来年の夏にそれは投稿したいと思います。楽しみに期待してカルトンの次回作をお待ち下さい。