黄金航路

夢物語草子

文字の大きさ
17 / 19
尾州編

第十七話 歓談

しおりを挟む
{食堂にて}

 人間、話し合うより殴り合った方が分かり合える事がある。体育会系。脳筋の理論だろうが、それは確かに証明された。
 殺し合い一歩手前のような空恐ろしい試合後、食堂に移動し、何故か宴会となった。用意された葡萄酒に果実を絞ったジュース。大皿に盛りつけられた野菜にハム、パンやチーズ。子供達もすっかり泣き止み、成長期の旺盛な食欲で食べ物を口に運んでいた。
 レイトン・ライデンと柳生宗不二は酒杯を交わし、先程の試合について議論を交わしている。とにかく、盛り上がっていた。

 「ライデンさんって何者なんですか?」
 「ん? せんせーはせんせーだよ」
 「騎士なんですか?」
 「違うけど、すっごく強いだろ!。この前も嫌な連中を簡単に吹っ飛ばしたんだぜ!。この辺じゃ、みんなに頼りにされてんだ」

 分かる気がする。まさに頼れる先生だ。
 時折、レイトン・ライデンは子供達に皿を持ってこさせると、そこにたんまりと野菜をのせて食べる様に促している。
 野菜嫌いな子は、涙目になっていた。それでも、必死に食べている。何か、健気だ。

 「食べないと、もっとたくさんのっけてくるんだよ」

 なるほど、容赦ない。好き嫌いに関しては厳格だ。

 「なるほど。それで家を探していたと」
 「おうよ。どこも気に入らなくてな。しかし、ここは大層気に入ったぞ」
 「それは良かった。部屋は用意しておくよ。今日にもここに移動するのかい?。掃除とか、色々と準備もあるんだけど」
 「うむ。そうさせてもらおう。なに、世話になるのだ。掃除ぐらい任せてもらおう。七夜のは料理の腕がいいからのう。炊事をやらせるといいぞ」
 「そうか。それは助かるよ」

 ちょっと、勝手に決めないで。よし、こうなったら一言言ってやろうか。

 「......俺はそれで構いません。色々と御迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

 きっぱりと抵抗は諦めた。本音と別の事を言ってしまう自分が、情けないが、気にしてもしょうがない。

 「いや、これからが楽しみだよ。なにしろ、本気で戦える相手がいなかったしね」
 「それなら柳生さんの事、よろしくお願いします。よかったですね、柳生さん。剣術友達ができましたよ」

 ちゃっかり、恩人にしてトラブルメーカーの柳生宗不二を押し付けようと企んだが、浅はかな企みなど、すぐに看破された。
 レイトン・ライデンには笑顔で首を横に振られ、拒否される。

 「七夜の。もしかして、馬鹿にしておるのか?」
 「そんな命知らずな真似、出来ませんよ」

 ただ、ちょっと自由が欲しいだけです。柳生宗不二という問題児から。
 この後は、打ち解けるとまではいかなかったものの、美味しい食事に舌鼓を打ち、好奇心旺盛な子供達に話をせがまれ、藤堂七夜は困惑し切った。
 柳生宗不二は酔っぱらった勢いで、自らの武勇伝を歌い始め、一部の子供達は目を輝かせて聞き入っていた。
 騒がしくも楽しい時間はあっという間に過ぎ、時刻はもう少しで深夜という時間となった。
 思い思いの格好で寝てしまった子供達を、レイトン・ライデンが寝室に運び、藤堂七夜は台所に食器を運び、洗って片付ける。柳生宗不二は大の字になって、イビキをかいて熟睡。
 貯蔵用の水瓶の水をすくって、桶の中に溜める。水は貴重だ。無駄に使うなどと、贅沢過ぎる事らしい。旅の途中、現代にいた感覚で水を使ったら、霧隠紫門が眉を吊り上げて、頭を殴られた。それ以来、水は大切に扱うようにしている。
 たわしでゴシゴシと皿の汚れを拭い、空の桶に放り込む。それが終わると、それらを水の入った桶にくぐらせて、皿洗いは完了だ。
 桶の水は、網目の細かいザルでろ過しておく。数日間は、この水で洗うのだ。現代の感覚でいえば、汚いのだろうが、意外と水は汚れていない。そういう工夫がなされているらしい。
 濡れた皿を、清潔な布で拭い、棚に戻していく。うん。綺麗になったものを見ると気分がいい。
 食堂に戻ると、レイトン・ライデンが一人、酒杯を傾けていた。まだ、飲み足りないようだ。

 「ご苦労様。悪かったね。片付けを任せてしまった」
 「いえ、これぐらいは」

 レイトン・ライデンに促され、藤堂七夜は椅子に座る。
 本当なら、食事が終わった後、宿に戻り、荷物を片づけ、今日中に越して来るはずだったのが、それを提案した張本人、柳生宗不二は満足そうな顔で酔い潰れた。
 彼を宿まで運ぶなどという、無謀な行為はしたくなかった。レイトン・ライデンに頼んで、今日は一泊させてもらい、明日は朝一で両福亭に戻るつもりだ。

 「ところで、君の流派は何処だい?」
 「......剣は、習った事はありません」
 「その割には、釣り合わない刀を腰に下げているね」

 あぁ。彼ぐらい凄い人だったら、気になるよな。
 レイトン・ライデンの指差した先には、歌仙伝・蜃。やっぱり、自分には相応しくないよな、と苦笑しながら、この刀を手にした経緯を話した。
 どうにも、レイトン・ライデンという人物には隠し事ができない。自然と話したくなってしまう、不思議な何かを持っている。そんな人物だ。

 「......そうか。刀が君を選んだんだね。それで、その刀をどうするんだい?。厄介な連中を引き寄せてしまうような、そんな気がするんだけど」
 「でしょうね。でも、手放すなんて事はできないし、結局、肌身離さず持っているだけです」
 「なら、戦い方を学んだ方がいい。その刀を欲しいと思う輩は、これから出てくるだろう。その時、誰かが助けてくれる訳じゃない。最初も最後も、必要なのは、【自分の力】だ。君は、力を身に着けるべきだ」
 「............そう、ですね。俺も、そう思います」

 これは本心だ。この世界は、俺が思っている以上に、ずっと危険な世界だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

兄貴のお嫁さんは異世界のセクシー・エルフ! 巨乳の兄嫁にひと目惚れ!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
ファンタジー
夏休み前、友朗は祖父の屋敷の留守を預かっていた。 その屋敷に兄貴と共に兄嫁が現れた。シェリーと言う名の巨乳の美少女エルフだった。 友朗はシェリーにひと目惚れしたが、もちろん兄嫁だ。好きだと告白する事は出来ない。 兄貴とシェリーが仲良くしているのを見ると友朗は嫉妬心が芽生えた。 そして兄貴が事故に遭い、両足を骨折し入院してしまった。 当分の間、友朗はセクシー・エルフのシェリーとふたりっきりで暮らすことになった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...