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尾州編
第十六話 レイトン・ライデン 下
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{道場にて}
道場は建物の裏手にあった。こじんまりとした丸太小屋。土足のまま上がり込む。
レイトン・ライデンは隅に置かれていた木製の剣を二本、手に取ると、その一本を柳生宗不二に投げ渡す。
柳生宗不二は軽く素振りして、感触を確かめる。刀と違い、刀身は反っておらず、真っ直ぐだ。
「剣か」
「あぁ。それとも、刀のような形の方がいいかい? 多分、探せばあると思うんだけど」
「よい。これもこれで面白い」
「じゃ、始めようか」
どんどんと進む展開についていけず、立ち尽くす藤堂七夜は、子供達に促され、並んで大人しく座る。
レイトン・ライデンと柳生宗不二はある程度、距離を取ると、向き合って、剣を構えた。
正眼に構える柳生宗不二に対し、頭の左側に剣を上げ、切っ先を相手に向けた構えを取るレイトン・ライデン。
空気が、変化した。呼吸する空気が、重くなった。子供達も緊張した様子で、先生であるレイトン・ライデンを凝視している。
(......こいつは......面白すぎるわ)
(......これは、早まったかな?)
お互いの力量を見抜き合う。
二人の目には、すでに穏やかさなど無い。
「俺の名は、レイトン・ライデンだ。よろしく頼むよ」
「柳生宗不二である。見知りおけい」
一拍の深呼吸。
そして、二人は動く。先んじて仕掛けたのは、柳生宗不二の突進からの刺突。レイトン・ライデンは身体を回転させ、剣で受け流すと、そのままの勢いで、うなじを狙い反撃の一刀を繰り出す。
柳生宗不二は背中に背負うように剣を後ろに回し、それを防ぐと、間髪入れず、渾身の力で振り上げる。レイトン・ライデンの剣が宙に浮く。だが、手から離れた訳ではない。
身体を翻し、胴払いを放つ柳生宗不二。レイトン・ライデンはそれを柄で受け止めた。
「いや、すごいな。危なく剣を放り投げるとこだったよ」
「よく言うわ。衝撃を完全に流しておっただろう。見事の一言に尽きるわ」
「真剣ならやられてたよ」
「真剣なら躱しておっただろう?」
目がギラギラしてるよ。二人とも。
柳生宗不二は、僅かに剣を引く。次に繰り出したのは、<十八文>という技だ。言葉通り、十と八の形の斬撃を連続して振るう。柳生宗不二の師の一人、神取十郎から学んだ極意の一つだ。
神取十郎はこの技を極めて、多くの剣士を打ち倒したといわれる。木剣であれば、威力も速度も落ちる。それでも、柳生宗不二という大剣豪が振るえば、兇刃の一刀と化す。
レイトン・ライデンは、目を細めた。その技の脅威を理解した。クルンと剣が手の中で一回転する。時間にして一秒に満たない。
「鉄布《カーテンウォール》」
微かに響いたレイトン・ライデンの呟き。
激しく打ち合う音が四度、響いた。その交錯を見た藤堂七夜も、何が起こったのか、分からなかった。理解が追いつかなかった。
レイトン・ライデンが繰り出したのは、移民船団で継承される西方武芸と称される七つの戦闘技術、その一角である<マインゴーシュ>の剣技。
最も防御を重視した型であり、先読みと反射神経を最大限に応用した守護の剣。極めた者は、『人間要塞』と呼ばれるほど難攻不落の使い手となる。
鉄布《カーテンウォール》は、マインゴーシュの基本技であり、『相手の剣を防ぎ切る』技だ。
「......痛快だ。まったくもって痛快だのう」
「いたた......。久々に使ったよ。年は取りたくないね。特に腰にくる」
「西方武芸とやらか?。初めて見た型だ」
「マインゴーシュのことかい? それで、初めて戦った感想は?」
「満足よっ!」
柳生宗不二は、吼えた。
そして、二人の動きは一段と激しさを増し、木剣は衝突する度に甲高い悲鳴を上げた。
(す......すごい......)
縦横無尽に動き回り、剣を振るい続ける二人を目の当たりにした藤堂七夜は言葉を失って、魅入っていた。
(なんなんだよ、あの二人......。どっちも、化け物じみてる......)
横を見れば、子供達も震えていた。
柳生宗不二の強烈な気に中てられたようだ。気分が悪そうに真っ青になっている子供もいる。
(これは、驚いたな。強いとは思ったけど......想像以上だ。一見、剛剣のようだけど、直情的じゃない。柔軟性がある。次につなげる余裕も残している。なるほど、見た目以上に狡猾な剣だ)
(突き崩せんのう。なんとも堅い守りだ。しかもバネがある。重心をずらして衝撃を外に流しておるわ。何より、わしの動きを読んでおる。そのせいで、わしの剣が多少なりとも殺されている)
(長引かせるのも、俺の心に良くないな。ここは、勝負を仕掛けるか)
レイトン・ライデンの闘気が膨らんだ。
マインゴーシュは護るだけの剣ではない。護る為にも、攻撃は不可欠。攻撃も最大の防御だ。身を守ると同時に、反撃を行う。それが、マインゴーシュの攻めだ。
柳生宗不二の二の太刀を流れるような動作で受け流すと同時に、左右から挟み込むように剣戟を振るった。
同時に繰り出したわけではない。けれど、藤堂七夜にはそう見えた。剣の技が、まるで魔法の様に見えたのだ。
あんなの、防げるわけがない。常人だろうが、達人だろうが、無理だ。そう確信させる必殺の技を前に、柳生宗不二は正面から応じた。
彼の対処法は至極、単純。木剣を手前に引き、上段に構える。一度目で、左の剣戟を打ち払い、二度目で右の剣戟を打ち払ったのだ。一瞬の、剣筋。
それもまた、神業だった。数秒にも満たない攻防。魔法の様な剣技が繰り出され、瞬きすら許さない神速の剣技が防ぎ切った。
「......恐ろしいね」
「うむ。実に恐ろしいぞ。久々に背筋が寒くなったわ」
「そうだね。全く持って同意するよ。だから、ここまでだ」
「ん?」
剣を下し、構えを解いたレイトン・ライデン。
「決着はついとらんぞ」
「貴方の人となりはそれなりに知れたからね。充分だよ。それに、これは決闘じゃない。命を懸けるには及ばない。それに......」
そういってレイトン・ライデンが視線を動かし、子供達を見た。
次の瞬間、子供達は一斉に彼に向かって走り出し、突撃する。子供達はレイトン・ライデンに抱き付くと、泣いたり喚いたりと騒ぎ出す。
「「「センセ~ッ!」」」
「この子達をこれ以上、心配させたくないからね」
「......よく言うわ」
あ、何となく子供達を同席させた理由が分かった。
いつでも止められる理由としての役割。それ為に、子供達も連れて来たのだ。
「それで、結果はどうだった?」
「合格、かな」
「あやつは試さんでよいのか?」
「剣士じゃなさそうだし、それに見るからに弱い。いざ、悪事を働いたなら、その場で斬って捨てるさ」
誓います!。絶対に迷惑はかけません!。
「それじゃ、改めて。ようこそ、ライデン私塾へ」
子供達の頭を交互に撫でながら、レイトン・ライデンは藤堂七夜と柳生宗不二を歓迎したのだった。
道場は建物の裏手にあった。こじんまりとした丸太小屋。土足のまま上がり込む。
レイトン・ライデンは隅に置かれていた木製の剣を二本、手に取ると、その一本を柳生宗不二に投げ渡す。
柳生宗不二は軽く素振りして、感触を確かめる。刀と違い、刀身は反っておらず、真っ直ぐだ。
「剣か」
「あぁ。それとも、刀のような形の方がいいかい? 多分、探せばあると思うんだけど」
「よい。これもこれで面白い」
「じゃ、始めようか」
どんどんと進む展開についていけず、立ち尽くす藤堂七夜は、子供達に促され、並んで大人しく座る。
レイトン・ライデンと柳生宗不二はある程度、距離を取ると、向き合って、剣を構えた。
正眼に構える柳生宗不二に対し、頭の左側に剣を上げ、切っ先を相手に向けた構えを取るレイトン・ライデン。
空気が、変化した。呼吸する空気が、重くなった。子供達も緊張した様子で、先生であるレイトン・ライデンを凝視している。
(......こいつは......面白すぎるわ)
(......これは、早まったかな?)
お互いの力量を見抜き合う。
二人の目には、すでに穏やかさなど無い。
「俺の名は、レイトン・ライデンだ。よろしく頼むよ」
「柳生宗不二である。見知りおけい」
一拍の深呼吸。
そして、二人は動く。先んじて仕掛けたのは、柳生宗不二の突進からの刺突。レイトン・ライデンは身体を回転させ、剣で受け流すと、そのままの勢いで、うなじを狙い反撃の一刀を繰り出す。
柳生宗不二は背中に背負うように剣を後ろに回し、それを防ぐと、間髪入れず、渾身の力で振り上げる。レイトン・ライデンの剣が宙に浮く。だが、手から離れた訳ではない。
身体を翻し、胴払いを放つ柳生宗不二。レイトン・ライデンはそれを柄で受け止めた。
「いや、すごいな。危なく剣を放り投げるとこだったよ」
「よく言うわ。衝撃を完全に流しておっただろう。見事の一言に尽きるわ」
「真剣ならやられてたよ」
「真剣なら躱しておっただろう?」
目がギラギラしてるよ。二人とも。
柳生宗不二は、僅かに剣を引く。次に繰り出したのは、<十八文>という技だ。言葉通り、十と八の形の斬撃を連続して振るう。柳生宗不二の師の一人、神取十郎から学んだ極意の一つだ。
神取十郎はこの技を極めて、多くの剣士を打ち倒したといわれる。木剣であれば、威力も速度も落ちる。それでも、柳生宗不二という大剣豪が振るえば、兇刃の一刀と化す。
レイトン・ライデンは、目を細めた。その技の脅威を理解した。クルンと剣が手の中で一回転する。時間にして一秒に満たない。
「鉄布《カーテンウォール》」
微かに響いたレイトン・ライデンの呟き。
激しく打ち合う音が四度、響いた。その交錯を見た藤堂七夜も、何が起こったのか、分からなかった。理解が追いつかなかった。
レイトン・ライデンが繰り出したのは、移民船団で継承される西方武芸と称される七つの戦闘技術、その一角である<マインゴーシュ>の剣技。
最も防御を重視した型であり、先読みと反射神経を最大限に応用した守護の剣。極めた者は、『人間要塞』と呼ばれるほど難攻不落の使い手となる。
鉄布《カーテンウォール》は、マインゴーシュの基本技であり、『相手の剣を防ぎ切る』技だ。
「......痛快だ。まったくもって痛快だのう」
「いたた......。久々に使ったよ。年は取りたくないね。特に腰にくる」
「西方武芸とやらか?。初めて見た型だ」
「マインゴーシュのことかい? それで、初めて戦った感想は?」
「満足よっ!」
柳生宗不二は、吼えた。
そして、二人の動きは一段と激しさを増し、木剣は衝突する度に甲高い悲鳴を上げた。
(す......すごい......)
縦横無尽に動き回り、剣を振るい続ける二人を目の当たりにした藤堂七夜は言葉を失って、魅入っていた。
(なんなんだよ、あの二人......。どっちも、化け物じみてる......)
横を見れば、子供達も震えていた。
柳生宗不二の強烈な気に中てられたようだ。気分が悪そうに真っ青になっている子供もいる。
(これは、驚いたな。強いとは思ったけど......想像以上だ。一見、剛剣のようだけど、直情的じゃない。柔軟性がある。次につなげる余裕も残している。なるほど、見た目以上に狡猾な剣だ)
(突き崩せんのう。なんとも堅い守りだ。しかもバネがある。重心をずらして衝撃を外に流しておるわ。何より、わしの動きを読んでおる。そのせいで、わしの剣が多少なりとも殺されている)
(長引かせるのも、俺の心に良くないな。ここは、勝負を仕掛けるか)
レイトン・ライデンの闘気が膨らんだ。
マインゴーシュは護るだけの剣ではない。護る為にも、攻撃は不可欠。攻撃も最大の防御だ。身を守ると同時に、反撃を行う。それが、マインゴーシュの攻めだ。
柳生宗不二の二の太刀を流れるような動作で受け流すと同時に、左右から挟み込むように剣戟を振るった。
同時に繰り出したわけではない。けれど、藤堂七夜にはそう見えた。剣の技が、まるで魔法の様に見えたのだ。
あんなの、防げるわけがない。常人だろうが、達人だろうが、無理だ。そう確信させる必殺の技を前に、柳生宗不二は正面から応じた。
彼の対処法は至極、単純。木剣を手前に引き、上段に構える。一度目で、左の剣戟を打ち払い、二度目で右の剣戟を打ち払ったのだ。一瞬の、剣筋。
それもまた、神業だった。数秒にも満たない攻防。魔法の様な剣技が繰り出され、瞬きすら許さない神速の剣技が防ぎ切った。
「......恐ろしいね」
「うむ。実に恐ろしいぞ。久々に背筋が寒くなったわ」
「そうだね。全く持って同意するよ。だから、ここまでだ」
「ん?」
剣を下し、構えを解いたレイトン・ライデン。
「決着はついとらんぞ」
「貴方の人となりはそれなりに知れたからね。充分だよ。それに、これは決闘じゃない。命を懸けるには及ばない。それに......」
そういってレイトン・ライデンが視線を動かし、子供達を見た。
次の瞬間、子供達は一斉に彼に向かって走り出し、突撃する。子供達はレイトン・ライデンに抱き付くと、泣いたり喚いたりと騒ぎ出す。
「「「センセ~ッ!」」」
「この子達をこれ以上、心配させたくないからね」
「......よく言うわ」
あ、何となく子供達を同席させた理由が分かった。
いつでも止められる理由としての役割。それ為に、子供達も連れて来たのだ。
「それで、結果はどうだった?」
「合格、かな」
「あやつは試さんでよいのか?」
「剣士じゃなさそうだし、それに見るからに弱い。いざ、悪事を働いたなら、その場で斬って捨てるさ」
誓います!。絶対に迷惑はかけません!。
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