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第二章
Curry du père 其の二
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「ひゃあっ!!!!」
急に聞こえたバリトンボイス。
耳元に顔を近づけ囁かれたその声に、一瞬ゾクリと身体が震える。
(ち、近い近いっっ)
私は振り返り2、3歩下がる。
「こんな道端で一人、赤くなったり青くなったり、私が通り過ぎた事にも気づかなかっただろう?」
そう言って栄慶さんは面白そうに笑みを浮かべる。
(み、見られてた……)
恥ずかしすぎるっ
「そっ、そもそも誰のせいでこんな気持ちに……」
言いかけ、ハッと口を押さえる。
「ほう、私のせいなのか。で、私の事が何だと?」
彼は更に口角を上げ、私を凝視する。
(ううう……)
相変わらずの意地悪っぷり。
いや、ここ最近さらに拍車がかかってる気がする。
「栄慶さんには関係のない事ですっ、そもそも何でこんな所に居てるんですかっ!」
誤魔化すように早口で聞いた私に、淡々と法事の帰りだと彼は答えた。
ここは駅近くにある飲食店が並ぶ裏通り。
ここから徒歩30分ほどの場所に斎堂寺が建っており、そこからさらに10分くらい歩くと私の働く高羽出版がある。
出会う確率としては高い方かもしれないけれど……
(私がもう少し若かったら、こんな所で会うなんて運命的! なんて思ったかも)
断じて今、そう思って胸が高鳴ったりなんてしてないんだからっ!
片手で胸元を押さえつつ、そうじゃないと自分に言い聞かせる。
(……それにしても)
今は午後2時過ぎ……、こんな時間帯に斎堂寺以外で会うのは初めてかも。
雲ひとつない青空の中、降り注ぐ太陽の下で凛と立つ彼の姿は、いつにも増して輝いて見える。
………特に頭が。
「――――~っ‼」
思わず吹き出しそうになるのを必死にこらえる。
(だめ……笑っちゃ……っっ)
何とか耐えようと表情を強張らせる。
栄慶さんはそんな私を無言で見つめていたかと思うと、ふいに肩に手をかけてきた。
「ふぁ!?」
その行動に一瞬驚き、変な声が出てしまう。
「なっなん……ですか?」
「1体、連れて来てるぞ」
そう言って、パッパッと埃を払うようなしぐさをする。
「あ……ありがとうございます」
最近知った事だけど、彼は低級霊1、2体くらいならお経を唱えずとも祓う事ができるらしい。
簡単に祓うと有り難みが感じられないだろうと、御祓いに訪れる人には皆一様にお経を唱えるのだそうだ。
「布施の額も増えるしな」
そう言って口角を上げた時は、さすが守銭奴! なんて思ったけど、私に教えてくれたって事はそれだけ栄慶さんとの距離が近づいたのかな……とも思ってしまう。
(ちょっと嬉しいかも……)
思わず顔がほころぶ。
すると彼は目を細め、大きな手で私の頬をそっと包み込んだ。
「さて、祓ってやったんだ。キッチリと報酬分もらうぞ」
「え? これから斎堂寺の掃除で……」
言いかけ、彼の視線が唇に注がれている事に気が付く。
これって……もしかして。
「こっ、こんな所で……っ」
「心配するな、周りに誰もいない」
「でっ……でも……」
困惑する私を無視して、彼は顔を傾けながらゆっくり近づいてきた。
「――――っっ」
私はギュッと瞼を閉じ、その瞬間を待ち構える。
――――――
――――――
――――――
何、このデジャヴ感。
もしやっ! と目を開けると、クッと笑いをこらえる彼と目があった。
「周りに誰も居ないとはいえ、こんな往来でするわけがないだろう? 破廉恥な奴だな」
「は、はれっ……」
「馬鹿め、人の頭を笑うからだ」
(なぜバレた!?)
「見れば分かる」
「人の心読まないでくださいよ!」
「お前の行動が単純すぎるんだ」
むぅぅ~~~~っっ。
栄慶さんの方が一枚も二枚も上手だわ。
急に聞こえたバリトンボイス。
耳元に顔を近づけ囁かれたその声に、一瞬ゾクリと身体が震える。
(ち、近い近いっっ)
私は振り返り2、3歩下がる。
「こんな道端で一人、赤くなったり青くなったり、私が通り過ぎた事にも気づかなかっただろう?」
そう言って栄慶さんは面白そうに笑みを浮かべる。
(み、見られてた……)
恥ずかしすぎるっ
「そっ、そもそも誰のせいでこんな気持ちに……」
言いかけ、ハッと口を押さえる。
「ほう、私のせいなのか。で、私の事が何だと?」
彼は更に口角を上げ、私を凝視する。
(ううう……)
相変わらずの意地悪っぷり。
いや、ここ最近さらに拍車がかかってる気がする。
「栄慶さんには関係のない事ですっ、そもそも何でこんな所に居てるんですかっ!」
誤魔化すように早口で聞いた私に、淡々と法事の帰りだと彼は答えた。
ここは駅近くにある飲食店が並ぶ裏通り。
ここから徒歩30分ほどの場所に斎堂寺が建っており、そこからさらに10分くらい歩くと私の働く高羽出版がある。
出会う確率としては高い方かもしれないけれど……
(私がもう少し若かったら、こんな所で会うなんて運命的! なんて思ったかも)
断じて今、そう思って胸が高鳴ったりなんてしてないんだからっ!
片手で胸元を押さえつつ、そうじゃないと自分に言い聞かせる。
(……それにしても)
今は午後2時過ぎ……、こんな時間帯に斎堂寺以外で会うのは初めてかも。
雲ひとつない青空の中、降り注ぐ太陽の下で凛と立つ彼の姿は、いつにも増して輝いて見える。
………特に頭が。
「――――~っ‼」
思わず吹き出しそうになるのを必死にこらえる。
(だめ……笑っちゃ……っっ)
何とか耐えようと表情を強張らせる。
栄慶さんはそんな私を無言で見つめていたかと思うと、ふいに肩に手をかけてきた。
「ふぁ!?」
その行動に一瞬驚き、変な声が出てしまう。
「なっなん……ですか?」
「1体、連れて来てるぞ」
そう言って、パッパッと埃を払うようなしぐさをする。
「あ……ありがとうございます」
最近知った事だけど、彼は低級霊1、2体くらいならお経を唱えずとも祓う事ができるらしい。
簡単に祓うと有り難みが感じられないだろうと、御祓いに訪れる人には皆一様にお経を唱えるのだそうだ。
「布施の額も増えるしな」
そう言って口角を上げた時は、さすが守銭奴! なんて思ったけど、私に教えてくれたって事はそれだけ栄慶さんとの距離が近づいたのかな……とも思ってしまう。
(ちょっと嬉しいかも……)
思わず顔がほころぶ。
すると彼は目を細め、大きな手で私の頬をそっと包み込んだ。
「さて、祓ってやったんだ。キッチリと報酬分もらうぞ」
「え? これから斎堂寺の掃除で……」
言いかけ、彼の視線が唇に注がれている事に気が付く。
これって……もしかして。
「こっ、こんな所で……っ」
「心配するな、周りに誰もいない」
「でっ……でも……」
困惑する私を無視して、彼は顔を傾けながらゆっくり近づいてきた。
「――――っっ」
私はギュッと瞼を閉じ、その瞬間を待ち構える。
――――――
――――――
――――――
何、このデジャヴ感。
もしやっ! と目を開けると、クッと笑いをこらえる彼と目があった。
「周りに誰も居ないとはいえ、こんな往来でするわけがないだろう? 破廉恥な奴だな」
「は、はれっ……」
「馬鹿め、人の頭を笑うからだ」
(なぜバレた!?)
「見れば分かる」
「人の心読まないでくださいよ!」
「お前の行動が単純すぎるんだ」
むぅぅ~~~~っっ。
栄慶さんの方が一枚も二枚も上手だわ。
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